Parsing Guide for the Kainoki Treebank




Table of contents





Chapter 1
Basics


1.1   はじめに

このマニュアルでは,現代日本語の解析のためのアノテーションの枠組みについて詳しく解説する。 統語構造はタグ付き括弧によって表示されるが,そのやり方は Penn Treebank (Bies et al. 1995),とりわけ,Annotation manual for the Penn Historical Corpora and the Parsed Corpus of Early English Correspondence (PCEEC)(Santorini 2010) 等の,ペン通時統語解析コーパスのグループで提案された方式を採用する。この方式の特徴は次のとおりである:

    また,本コーパスのアノテーション方式は,構文分析の採用に関して, そしてとりわけ,複雑な表現を従属ないし等位接続によって表す方法に関して, SUSANNEスキーム(Sampson 1995) に多く着想を得ている。 一方で,本アノテーションは革新的な点も数多く含んでいる。 例えば,例外的なスコープに関する情報を明示的にアノテートしていたり, 文中および文間の両方における照応的依存関係を談話的に解決するための情報を含んでいたりする。

    本アノテーションはテキストファイルに対して,一般的なテキストエディタにより行われる。

    実際のアノテーションは第一に観察的妥当性を目指すものでなければならない。 その目的は,データにおける同定可能な関係・過程に一定の言語学的な分析を示すことである。 このような関係・過程は可能な限り均一に取り扱われる。 本マニュアルではそれらを詳述する。 アノテーションは,記述のシステムが理論的に正しいか否かという問題を別として,語彙的・機能的要素,品詞,様々なカテゴリーに属し様々な機能を持つ構成素,ある特徴を持つと捉えられる構造に対し,明瞭な方法で行われる。 本マニュアルはアノテーター(単位分割,タグ,構造における位置を指定する)とユーザー(要素のクラス,カテゴリー,要素間の関係を検索する)の両方に向けられたものである。 検索の条件には終端文字列,節点のタグ,付加的な拡張タグ,そしてこれらの間の構造関係の組み合わせを指定する。 解析されたデータを修正を加えることなしに検索できるツールとしては, CorpusSearch (Randall 2009), および Tregex (Levy, and Andrew 2006). が挙げられる。

    現行のアノテーションは,統語的な分析をベースに Treebank Semantics (Butler 2015). http://www.compling.jp/ts の方式を用いて,述語論理に基づく意味表示を生成することも目指しており,統語的な分析から意味的な分析を計算するために曖昧性解消情報が加えられている。 その1つは,節連結のタイプ(つまり,非終結節のタイプ)を特定するための拡張タグである。 従属的な節連結に対しては,拡張タグ SCON (subordinate conjunction) を認めている。 従属節はその節における空主語の配置,およびより上位の階層の項との照応関係に影響を与える(これは,「コントロール」と呼ばれる照応計算に従う)。 このタイプの従属節と区別されるのが,拡張タグ CONJ (coordinating conjunction) を与えられる等位的な節連結である。 等位節は他の節と共有される項の配置に影響を与える(これは,ATB (Across the Board) 抽出と呼ばれる照応計算に従う)。

    これらの拡張タグが適切に与えられ,それに基づいて計算が行われることにより,日本語の照応関係は多くの場合,明示的なインデクス付けをすることなしに適切に測定することができる。 この実践により,意味計算を行うための確固とした基盤を築くこと,記述として正しいアノテーション体系を単純化すること,そして,空要素の分布に関する制約のうち,例えばゼロ代名詞の配置などに関して興味深い帰結をもたらすようなものを把握することが可能になる。

    以下では,アノテーション体系の概要を示すことにし,次章からは特定のトピックに関する解説を行う。


1.2   タグ

タグには,品詞に対するもの(つまり,N=名詞,P=助詞,ADV=副詞,等), 句レベルのカテゴリーを表し,構成素の形式を最低限度表すもの(NP=名詞句,PP=助詞句,ADVP=副詞句,等), さらに,節レベルに対するもの(IP-MAT=主節,CP-FINAL=終助詞を伴う主節,等)がある。 タグはしばしば,ハイフンに後続して機能を示す拡張タグを伴う(P-ROLE=格助詞,NP-SBJ=主語名詞句,等)。 大多数の場合,拡張タグは1つだけであるが,2つ以上付加されることもありうる(CP-QUE-OB1=目的語として働く疑問文,IP-ADV-SCON-CND=条件節,等)。

    以下に,使用されるすべてのタグを一覧表として掲げる。

Table 1.1: 品詞タグ

ADJI-MDモーダルなイ形容詞 (modal イ-adjective)
ADJIイ形容詞 (イ-adjective)
ADJN-MDモーダルなナ形容詞 (modal ナ-adjective)
ADJNナ形容詞 (ナ-adjective)
ADV副詞 (adverb)
AXDテンス標識(助動詞の一部) (auxiliary verb, past tense),過去テンス
AX助動詞 (auxiliary verb (including copula))
CL助数詞 (classifier)
CONJ等位接続詞 (coordinating conjunction)
D限定詞 (determiner)
FN形式名詞 (formal noun)
FW他言語の要素 (foreign word)
INTJ間投詞 (interjection)
MDモーダル要素 (modal element)
NEG否定辞 (negation)
N-MENTION表現の言及的用法 (mentioned expression)
NPR固有名詞 (proper noun)
N名詞 (noun)
NUM数詞 (numeral)
PASS2間接受動助動詞 (indirect passive)
PASS受動助動詞 (direct passive)
P-COMP補文助詞 (complementizer)
P-CONN接続助詞 (conjunctional particle)
P-FINAL終助詞 (final particle)
P-INTJ間投助詞 (interjectional particle)
PNL連体詞 (prenominal)
P-OPTRとりたて助詞 (toritate particle)
P-ROLE格助詞 (role particle)
PRO代名詞 (pronoun)
PUL左括弧 (left bracket)
PUQ引用符 (quote)
PUR右括弧 (right bracket)
PU句読点 (punctuation)
Q量化詞 (quantifier)
SYM記号 (symbol)
VB0軽動詞 (light verb)
VB2補助動詞 (secondary verb)
VB動詞(語幹) (verb (or verb stem))
WADV疑問副詞 (indeterminate adverb)
WD疑問限定詞 (indeterminate determiner)
WNUM疑問数詞 (indeterminate numeral)
WPRO疑問代名詞 (indeterminate pronoun)

Table 1.2: 句タグ

ADVP副詞句 (adverb phrase)
CONJP接続詞句 (conjunction phrase)
INTJP間投詞句 (interjection phrase)
NML中間名詞句 (intermediate nominal layer)
NP名詞句 (noun phrase)
NUMCLP助数詞句 (numeral-classifier phrase)
PNLP連体句 (prenominal phrase)
PP助詞句 (particle phrase)
PRN括弧挿入句 (parenthetical)

Table 1.3: 節タグ

CP-EXL感嘆節 (exclamative)
CP-FINAL終助詞節 (projection for sentence final particle)projection for sentence final particle)
CP-IMP命令節 (imperative)
CP-QUE疑問節(直接または間接) (question (direct or indirect))
CP-THT補部節 (complementizer clause)
FRAG断片 (fragment)
IP-ADV副詞節 (adverbial clause)
IP-EMB空所なし名詞修飾節 (gapless noun-modifying clause)
IP-MAT主節 (matrix clause)
IP-NMZ名詞化節 (nominalized clause)
IP-REL関係節 (relative clause)
IP-SMC小節 (small clause)
IP-SUB準主節 (clause under CP layer)
multi-sentence多重文 (multiple sentence)

Table 1.4: 機能タグ

-ADV副詞的 (unspecified adverbial function)
-CMPL補語的 (used with complement function)
-CND条件 (used as conditional)
-CNT連用形 (used with continuative function)
-CONJ等位接続 (conjunct of coordination)
-CZZ被使役者 (used with causee function)
-DOB1派生された(繰り上がった)第一目的語 (used with derived primary object function)
-DSBJ派生された(繰り上がった)主語名詞句 (used with derived subject function)
-LGS論理的主語 (logical subject)
-LOC場所 (used with locational function)
-MSR数量 (used with measurement function)
-OB1第一目的語 (used as primary object)
-OB2第二目的語 (used as secondary object)
-POS所有 (used with possessive function)
-PRD述語 (used as predicate)
-PRP目的 (used with purposive function)
-SBJ主語 (used as subject)
-SBJ2第二主語 (used as secondary subject)
-SCON従属接続 (subordinate element of subordinate conjunction)
-TMP時間 (used with temporal function)
-TPC主題 (topic)
-VOC呼びかけ (vocative)

Table 1.5: その他のタグ

FS言い誤り (false start)
LSリスト項目 (list item)
LSTリスト (list)
METAメタデータ (metadata)

1.3   一般的な解析の原則

本アノテーション体系では,統語構造をタグ付きの括弧によって表示する。 すべての左括弧にタグが付加されるが,これは終端ノード以外の木構造のノードを示している。

1.3.1   解析されたデータのフォーマット

NPCMJの全てのファイルは,CorpusSearchプログラム (Randall 2009), http://corpussearch.sourceforge.net/CS-manual/YourCorpus.html に適合するよう整形されている。 より具体的には,解析済みファイル内の括弧に囲まれた木のそれぞれが「ラッパー」(wrapper)をもたなければならない。 ラッパーとは,タグのない括弧であり,それがツリーの内容と IDノードを囲む。 IDノードは,ファイル内でのツリーの番号と,アンダースコア(_)と,ファイル名(拡張子.psdを除く)から成る。 ファイル名の後には,セミコロン(;)を挟むことで上記以外の文字列を続けることができる。

1.3.2   終端ノード

すべての語には,品詞タグが付加される。 テキストに明示されていなくとも,構造を記述するための空要素(ゼロ代名詞,トレース,等)が終端ノードの要素として導入される。 空要素はすべて,その両端に「*」を伴う(詳しくは 1.5 and 1.4 節を参照)。 また,空要素は典型的には句レベルのノードの直下に置かれ, 品詞にあたるノードを投射しない。 「*」で囲まれた終端ノードは,例えば省略された助詞を補うといった理由で(section 2.14 節を参照),アノテーションの際に加えられたものである。

1.3.3   単位分割および品詞アノテーション

単位分割と品詞タグ付与は,純粋に語彙的な要素の中に機能的な要素を取り込むことを避けながら,終端ノードをできるだけ大きくとるという方針に従う。 これはおおむね,Corpus of Spontaneous Japanese (CSJ; Maekawa 2003) および Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese (BCCWJ; Maekawa et al. 2014) の長単位基準に従っている。 長単位は少なくとも1つの短単位から成るが,2つ以上の短単位から成る複合的なものが普通である。 短単位は UniDic (Den et al. 2008) のエントリーと一致するものである。

    長単位分析から得られるチャンキングは複合名詞や複合的述語に限らない。 文法化された様々な要素(例えば,形式名詞と助詞のペア,モーダルな表現,等)も1つにまとめられる。 複合的な長単位は通常,1つの単位として扱われる。 例えば,数詞は短単位としては1桁ずつ別々に分析されるが, 解析の際には長単位に従って,これらを1つの単位として扱う。

    BCCWJ と CSJによる長単位のチャンキングは統語的な分析のために定められた単位であるが, 妥当な統語論の記述を行おうとしながら,直接構成素のツリーを生成するためには情報が不十分な場合がある。 そのため,環境によっては短単位をさらに分割することがある (例えば,動詞の意志形は語幹と意志を表す形態素から成る (VB 結ぼ) (AX う) のように分析される)。 逆に,長単位の連続を1つにまとめることもある(例えば,複合的な固有名詞を構成する複数の長単位をまとめて1つにする)。 さらに,統語論に影響しないような形態論的な細かな分析は無視されることがある(例えば,人名と地名の区別)。 その一方で,重要と考えられるものについては独自の分析を与える(例えば,同音ではあるが,文法的な機能という観点から,2つ以上の品詞に分けられる要素)。 これらは,フラットで検索が容易であるという特徴を保持しながら言語の基本的な機能的構造を洗い出すという目的から行われるものである。

    チャンキングは自動解析で可能な限り大きな単位にまとめるという方針で行う。 これらはアノテーターがまず最初に目にする単位である。 しかし,そのような単位の中に明らかに構造として表現されるべきものが含まれる場合, あるいは,構造の意味的な影響を示す必要がある場合には,チャンキングがなされないこともある。 前者の例として,「中(ちゅう)」という形態素を考える。 これは「旅行」のような動作名詞に後続することがあり, UniDic では名詞化接尾辞として分析され,先行する動作名詞とともに長単位にまとめられる。 この分析は,「旅行」が名詞修飾要素を伴う場合には問題ない。

(1.1)

彼 は 旅行中 にして 、 病 に 倒れ た 。

IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP NP __N 旅行中 P-ROLE にして PU PP NP N P-ROLE VB 倒れ AXD PU
        [696_textbook_particles@10]

しかし,以下のように「旅行」が項をとったり,あるいは副詞を伴ったりして, 「中」を名詞として分析した方がよい場合もある。

(1.2)

佐藤さん は 海外 を 旅行 中 だ 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR 佐藤さん P-OPTR NP-PRD IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 海外 P-ROLE __VB 旅行 ___N AX PU
        [16_misc_EXAMPLE2@18,20]

    もうひとつは,通常は複合的な助詞とされるものを分割する場合である。 UniDIC は様々な動詞と助詞の組み合わせを複合助詞としてチャンキングしている。 以下のように,「にしたがって」では「従う」という動詞の意味が希薄である。

(1.3)

「 地 は 生き物 を 種類 にしたがって いだせ 。

CP-IMP PUL IP-SUB PP-SBJ NP N P-OPTR PP-OB1 NP N 生き物 P-ROLE PP NP N 種類 __P-ROLE にしたがって VB いだせ PU
        [49_bible_ot@21]

このように,UniDic の分析は正しいことが多いが, 以下のように「にしたがって」という複合助詞ではなく,「したがう」という動詞が用いられていると分析されるべき場合がある。

(1.4)

モーセ は 主 の 命 に したがっ て 、 パラン の 荒野 から 彼ら を つかわし た 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR モーセ P-OPTR IP-ADV-CONJ PP NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE __VB したがっ ___P-CONN PU PP NP PP NP NPR パラン P-ROLE N 荒野 P-ROLE から PP-OB1 NP;{LEADERS} PRO 彼ら P-ROLE VB つかわし AXD PU
        [418_bible_ot@21,23]

このような場合には,アノテーターが単位分割を行い,取り出された要素のそれぞれに適切なラベルを与える必要がある。

1.3.4   句構造のスキーマ

句構造は以下のように記述することができる。

(1.5)
  (XP (Y 単一の単語からなる修飾部)
      (YP 複数の単語からなる修飾部)
      (ZP 補部)
      (X 主要部))

    句を投射する語(N,P,ADV,等)は句の主要部である。句の主要部は句のノード(NP,PP,ADVP,等)に直接支配され,主要部に対する修飾部(modifier)と補部(complement)は,主要部の姉妹となる。 Xバー理論で用いられているような中間レベルの構造(N',ADV',等)が明示的に表示されることは原則としてない。

1.3.5   内心構造とその例外

主要部(N,P,ADV,等)は明示されるのが原則であり,それを直接支配する句レベルのカテゴリー(NP,PP,ADVP,等)と一致する。

(1.6)
  (PP (NP (N 街))
      (P-ROLE で))
(1.7)
  (ADVP (ADV とても))

    ただし,主要部となる語が明示的に存在しないか,あるいは存在してもそのカテゴリーのタグと句レベルのカテゴリーのタグが一致しないこともある。 単語レベルの構成素が,それ自身が投射する句のカテゴリーと一致しないものには,以下に述べるように様々なケースがある。:

(1.8)
  (NP (PRO 彼))   ← 主要部のタグが特殊

    主要部は省略されることがある(以下は「右方節点繰上げ構文」の例であるが,等位的な副詞節(IP-ADV-CONJ)の述語「迎える」が省略されている)。

(1.9)

仙台フィルハーモニー管弦楽団 の 第279 回 定期演奏会 は 、 指揮 に ヘンリク・シェーファー 、 ピアノ に 萩原麻未 を 迎え ます 。

IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-TPC NP PP NP;{ORG} NPR 仙台フィルハーモニー管弦楽団 P-ROLE NUMCLP NUM 第279 CL N 定期演奏会 P-OPTR PU __IP-ADV-CONJ PP NP N 指揮 P-ROLE NP-OB1;{PERSON} NPR ヘンリク・シェーファー PU PP NP N ピアノ P-ROLE PP-OB1 NP;{PERSON} NPR 萩原麻未 P-ROLE VB 迎え AX ます PU
        [99_news_KAHOKU_40@23]

1.3.6   基本的な節の構造

主節は IP-MAT とラベル付けされる。 主語(明示的に表されているか否かに関わらない)と述語の対が節を投射する。 典型的な場合,1つの節には1つの主たる述語がある。 例えば,動詞(VB),イ形容詞(ADJI),ナ形容詞(ADJN)+コピュラ(AX),述語名詞句(NP-PRD)+コピュラ(AX),である。 本コーパスでは VP のレベルを設定しない。 したがって,IP の構造は平坦で,節のレベルの構成素は動詞や助動詞等と同じレベルに表示される。

(1.10)

花子 が 泣い た 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 花子 P-ROLE __VB 泣い ___AXD PU
        [1823_misc_JSeM_beta_150530@8,10]
(1.11)

この 料理 は おいしい 。

IP-MAT PP-SBJ NP D この N 料理 P-OPTR __ADJI おいしい PU
        [1358_misc_JSeM_beta_150530@10]
(1.12)

キム は 有能 だ 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR キム P-OPTR __ADJN 有能 ___AX PU
        [1442_misc_JSeM_beta_150530@8,10]
(1.13)

メアリー は 女性 で ある 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR メアリー P-OPTR __NP-PRD N 女性 ___AX ___VB2 ある PU
        [1053_misc_JSeM_beta_150530@8,11,13]

    IP を構成するのは,原則として,述語と句レベルの構成素(語レベルの構成素ではない)であるが, 述語の核となる語(動詞, イ形容詞, ナ形容詞+コピュラ, 名詞句+コピュラ)の他にも, 少数の他の語レベルの構成素が IP の直下に置かれることが出来る。 これには,等位接続詞(CONJ),1語から成る間投詞(INTJ), 軽動詞・助動詞の類(VB0,VB2,PASS,AX,等),否定辞(NEG),モーダル助動詞(MD),いくつかの形式名詞(FN), 助詞(P)がある。

(1.14)

電話番号 を 聞き 違え た か 、 または もう この 電話 は 使わ れ て い ない の だろう 。

IP-MAT PP-CONJ IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP N 電話番号 P-ROLE VB 聞き VB2 違え AXD P-CONN PU NP-LGS *pro* CONJ または ADVP ADV もう PP-SBJ NP D この N 電話 P-OPTR __VB 使わ ___PASS ___P-CONN ___VB2 ___NEG ない ___FN ___MD だろう PU
        [165_textbook_djg_intermediate@37,39,41,43,45,47,49]

1.3.7   断片(FRAG)

1個またはそれ以上の句が連なっているが,全体で1つの IP を構成していない場合, そのような文は断片と呼ばれ,それを構成する句はFRAG の下に置かれる。

(1.15)

まったく 。

__FRAG ADVP ADV まったく PU
        [229_aozora_Harada-1960@1]
(1.16)

= 2011 年 4 月 、 遠野市

__FRAG SYM NP-TMP NUMCLP NUM 2011 CL NUMCLP NUM CL PU NP;{LOC} NPR 遠野市
        [52_news_KAHOKU_65@1]
(1.17)

おそらく 、 ある 観念 も 。

__FRAG ADVP ADV おそらく PU PP-SBJ NP D ある N 観念 P-OPTR PU
        [184_aozora_Hayashida-2015@1]

単一の名詞句や助詞句で感嘆節として用いられたものはこの文型に含まれる。

(1.18)

泥棒 !

__FRAG ___NP N 泥棒 PU
        [28_aozora_Kunieda-1925@1,2]

これは形式名詞「こと」を使った次のような命令文にも適用される。

(1.19)

この 第6 作 について は 『 仮面ライダー ( スカイライダー ) 』 を 参照 の こと 。

CP-IMP __FRAG NP PP IP-NMZ NP-SBJ *hearer* PP NP;{SKYRIDER_SERIES} D この NUMCLP NUM 第6 CL P-ROLE について P-OPTR PP-OB1 NP PUL NPR 仮面ライダー PRN PUL NP NPR スカイライダー PUR PUR P-ROLE VB 参照 P-ROLE ___N こと PU
        [11_wikipedia_Kamen_Rider@2,43]

FRAG は CP-THT や CP-QUE の下にも現れる。

(1.20)

糞坊主め と はがみ を し た 。

IP-MAT NP-SBJ *speaker* ___CP-THT-ADV __FRAG NP N 糞坊主め P-COMP PP-OB1 NP N はがみ P-ROLE VB AXD PU
        [116_aozora_Natsume-1908@5,4]
(1.21)

何 の ?

___CP-QUE __FRAG PP NP WPRO P-ROLE PU
        [30_spoken_JF6@2,1]

1.3.8   括弧挿入句(PRN)

PRN のラベルは括弧に入れられた要素に与えられる。 また,同格的(appositive)な関係にある2つの要素の一方にも与えられる。 括弧付けされた内容を区切るダッシュや括弧(PUL および PUR)は, PRN ノードの内に含まれる。

    PRN に入れられた要素の品詞は様々であり,機能は様々である。 その機能のうちのいくつかは,意味論的に大きな影響を及ぼしさえする。 具体的には,PRNの機能としては, 副次的な言及や詳細の追加をすることもあるし,また修飾先と同等の機能を果たすこともある。 さらに,修飾先を量化させる力を持つこともある。

(1.22)

○ 国務大臣 ( 三塚博君 )

FRAG SYM NP N 国務大臣 PRN PUL NP NPR 三塚博君 PUR
        [18_diet_kaigiroku-13]
(1.23)

津波 を 防御 し た 仙台東部道路 の 内陸側 に 立地 する = 仙台市 若林区 荒井東

IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP N 津波 P-ROLE VB 防御 VB0 AXD NPR 仙台東部道路 P-ROLE N 内陸側 P-ROLE VB 立地 VB0 する META SYM NP;{LOC} NPR 仙台市 NPR 若林区 NPR 荒井東
        [34_news_KAHOKU_78]

    同格的として PRN を与えられる要素には次のようなものがある。

(1.24)

東北 の 空 の 玄関口 ・ 仙台空港 は 、 16 年 3 月 の 民営化 方針 が 正式決定 し た 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{FAC} PRN NP PP NP PP NP;{NORP} NPR 東北 P-ROLE N P-ROLE N 玄関口 PU NPR 仙台空港 P-OPTR PU PP-SBJ2 NP NML PP NP NUMCLP NUM 16 CL NUMCLP NUM CL P-ROLE N 民営化 N 方針 P-ROLE VB 正式決定 VB0 AXD PU
        [86_news_KAHOKU_78]
(1.25)

我々 が ―― 我々 日本帝国人民 が 偉い か 、

CP-QUE IP-SUB FS PP NP PRO 我々 P-ROLE PU ―― PP-SBJ NP PRO 我々 PRN NP N 日本帝国人民 P-ROLE ADJI 偉い P-FINAL PU
        [190_aozora_Kobayashi-1929]
(1.26)

答える べき 質問 は -- もう 時間 です ね -- 毎日 の 生活 の 中 で どう すれ ば より 多く の 時間 を フロー の 状態 に できる か

IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL PP NP *T* P-ROLE *に* NP-SBJ *speaker+pro* VB 答える MD べき N 質問 P-OPTR PRN PU -- CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *exp* ADVP ADV もう NP-PRD N 時間 AX です P-FINAL PU -- CP-QUE-PRD IP-SUB NP-SBJ *arb* PP NP PP NP PP NP Q 毎日 P-ROLE N 生活 P-ROLE N P-ROLE IP-ADV-SCON-CND ADVP-CMPL WADV どう VB すれ P-CONN PP-OB1 NP IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD ADVP ADV より Q 多く AX N 時間 P-ROLE IP-SMC-CNT NP-PRD PP NP N フロー P-ROLE N 状態 AX VB できる P-FINAL AX *
        [136_ted_talk_3]
(1.27)

―― それ は 支配人 自身 だっ た 。

IP-MAT PU ―― PP-SBJ NP PRO それ P-OPTR NP-PRD;{MANAGER} N 支配人 PRN NP PRO 自身 AX だっ AXD PU
        [158_aozora_Harada-1960]
(1.28)

そして 私 は その 中 に 現実 の 私 自身 を 見失う の を 楽しん だ 。

IP-MAT CONJ そして PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP NP D その N P-ROLE PP-OB1 NP IP-EMB PP-OB1 NP PP NP N 現実 P-ROLE PRO PRN NP PRO 自身 P-ROLE VB 見失う N P-ROLE VB 楽しん AXD PU
        [27_aozora_Kajii-1925]
(1.29)

社員 全員 が 昇進 を 目指し て いる 。

IP-MAT PP-SBJ NP N 社員 PRN NP;* Q 全員 P-ROLE PP-OB1 NP N 昇進 P-ROLE VB 目指し P-CONN VB2 いる PU
        [71_misc_JSeM_beta_150530]
(1.30)

うち 多賀城市 は 対象 の 農地 97 ヘクタール の 工事 が 全て 完了 し た 。

IP-MAT NP-ADV N うち PP-SBJ NP NPR 多賀城市 P-OPTR PP-SBJ2 NP PP NP PP NP N 対象 P-ROLE N 農地 PRN NP;* NUMCLP NUM 97 CL ヘクタール P-ROLE N 工事 P-ROLE NP;*SBJ* Q 全て VB 完了 VB0 AXD PU
        [44_news_KAHOKU_84]
(6.58)

芸術界 で 今 何 が 起こっ て いる か 動向 が 分かる と さ れる もの でし た

IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-EMB NP-LGS *arb* CP-THT-SBJ IP-SUB NP-SBJ *pro* PRN-1 CP-QUE IP-SUB PP NP N 芸術界 P-ROLE NP-TMP N PP-SBJ NP WPRO P-ROLE VB 起こっ P-CONN VB2 いる P-FINAL PP-OB1 NP N 動向 PRN *ICH*-1 P-ROLE VB 分かる P-COMP VB PASS れる N もの AX でし AXD
        [20_ted_talk_10]
(1.32)

真宗 の 寺院建築 に は 他 に も 内陣 に比べて 外陣 が 広い など 、 他宗 に 見 られ ない 特徴 が ある 。

IP-MAT PP NP PP NP NPR 真宗 P-ROLE N 寺院建築 P-ROLE P-OPTR PP NP N P-ROLE P-OPTR PRN-1 CP-THT IP-SUB PP NP N 内陣 P-ROLE に比べて PP-SBJ NP N 外陣 P-ROLE ADJI 広い P-OPTR など PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-LGS *arb* PP NP N 他宗 P-ROLE VB PASS られ NEG ない N 特徴 PRN *ICH*-1 P-ROLE VB ある PU
        [31_wikipedia_KYOTO_3]

1.3.9   句読点

一般的規則として,multi-sentence を例外として,句読点は可能なかぎり高い位置に置かれる。

(1.33)

希望者 は 、 住所 、 氏名 、 および 、 電話番号 を 記入 し て 下さい 。

CP-IMP IP-SUB PP-SBJ NP N 希望者 P-OPTR PU PP-OB1 NP CONJP NP N 住所 PU CONJP NP N 氏名 PU CONJ および PU NP N 電話番号 P-ROLE VB 記入 VB0 P-CONN VB2 下さい PU
        [882_textbook_kisonihongo]

また,IP-ADV に対して明示的な等位接続詞(「かつ」等)が後続する場合,IP-ADV と等位接続詞の間に読点が挿入されうることに注意すること。

(1.34)

彼女 は 一流 の ピアニスト で 、 かつ 優れ た 随筆家 だ 。

IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR IP-ADV-CONJ NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 一流 AX N ピアニスト AX PU CONJ かつ NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* VB 優れ AX N 随筆家 AX PU
        [192_textbook_djg_advanced]

    1.3.8 節でも述べたように, PRNを区切るダッシュや括弧(PUL および PUR)は, 例外として,PRN ノードの内に含まれる。

1.3.10   メタデータ(META)

テクストには,舞台の指示や話題の人物の身元に関するメタデータが含まれることがある。 この種の情報は,META のラベルを付加して扱う。

(1.35)

週末 は 人並み が 絶え ない = 昨年 11 月

IP-MAT PP-TMP NP N 週末 P-OPTR PP-SBJ NP N 人並み P-ROLE VB 絶え NEG ない META SYM NP N 昨年 NUMCLP NUM 11 CL
        [22_news_KAHOKU_457]

1.4   いつでもインデクス付けされる空要素

前節で述べた空要素はすべてインデクス付けされないものであるが,インデクスの付加が必要な空要素も存在する。

Table 1.6: インデクス付けをともなう空要素

空要素意味
*ICH*この位置で構成素を解釈せよ

*ICH* ("Interpret Constituent Here (この位置で構成素を解釈せよ)"の省略形)は,不連続構造を表示するためのトレースとして使用される。 ここで不連続構造とは,文末への倒置(6.21.4 節を参照のこと),長距離スクランブリングおよび他の転置のうち, 句レベルの要素を横断するが,コントロール,ATB,関係節に関する計算によらず, またソート情報(1.5.6 節を参照のこと)によっても表されないものを指す。 インデクス付けは,インデクス番号を転置された構成素のラベルに付加し, またその構成素が解釈されるべき位置に同カテゴリーのダミーの構成素を作り, その子ノードとして *ICH* を付け加えることで機能する。 以下の例文では外置されたPPはインデクス付きの*ICH*に対応している。 文法役割を表す拡張タグ(下の例の -SBJ)は,外置された要素のノードでなく,*ICH* の親ノードに付加されることに注意すること。

(6.106)

美しい 街 です よ 、 神戸 は 。

CP-FINAL IP-SUB ___PP-SBJ __*ICH*-1 NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 美しい N AX です P-FINAL PU PP-1 NP NPR 神戸 P-OPTR PU
        [989_textbook_kisonihongo@4,3]

    下の例のように,単一の要素が複数個の *ICH* と同一のインデックスを付けられることがある。

(1.37)

2012 年 末 の 男性平均寿命 80.18 歳 、 女性平均寿命 84.67 歳 、 戸籍人口平均寿命 82.41 歳 。

IP-MAT __PP-1 NP NUMCLP NUM 2012 CL N P-ROLE IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ NP-SBJ PP ___*ICH*-1 N 男性平均寿命 NP-PRD NUMCLP NUM 80.18 CL AX * PU NP-SBJ PP ___*ICH*-1 N 女性平均寿命 NP-PRD NUMCLP NUM 84.67 CL AX * PU NP-SBJ PP ___*ICH*-1 N 戸籍人口平均寿命 NP-PRD NUMCLP NUM 82.41 CL AX * PU
        [53_wikipedia_Shanghai@2,17,32,47]
(1.38)

訪問診療 の 患者 は 月 20 人 程度 おり 、 定期的 な 巡回診療 は 町外 の 仮設住宅 で 月 3 回 __、 離島 ___の 出島 で 月 2 回 、 江島 で 月 1 回 を それぞれ こなす 。

IP-MAT IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP PP NP N 訪問診療 P-ROLE N 患者 P-OPTR NP;*SBJ* N NUMCLP NUM 20 CL N 程度 VB おり PU NP-SBJ *pro* PP-TPC NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 定期的 AX N 巡回診療 P-OPTR PP-LOC NP PP NP N 町外 P-ROLE N 仮設住宅 P-ROLE NP-OB1 N NUMCLP NUM CL PU __、 NP-SBJ *pro* PP-LOC NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 離島 AX ___の NPR 出島 P-ROLE NP-OB1 N NUMCLP NUM CL PU NP-SBJ *pro* PP-LOC ___NP NPR 江島 P-ROLE PP-OB1 NP N NUMCLP NUM CL P-ROLE NP;*LOC* Q それぞれ VB こなす PU
        [46_news_KAHOKU_93@67,79,97]

    構成素が左側に移動しているが同一の節のレベルにとどまっている場合(例えば,主題化や近距離スクランブリング等)は,*ICH* を用いたインデクス付けは行われないことに注意すること。

(1.39)

この 服 は 太っ た 人 でも 着 られ ます 。

IP-MAT PP-OB1 NP;{CLOTHES_859} D この N P-OPTR PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ __*T* VB 太っ AX N P-OPTR でも VB VB2 られ AX ます PU
        [859_textbook_kisonihongo@14]

    これに対して右方への外置が行われる場合,主節述語は節の中で最右方の位置を占めなければならないため,外置された句は当該の節とは異なる節に属することになり,したがって *ICH* を用いたインデクス付けが行われる。

(1.40)

「 見よ 、 神 の 小羊 」 。

CP-IMP PUL ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP-OB1 __*ICH*-1 VB 見よ PU ___NP-1 PP NP N P-ROLE N 小羊 PUR PU
        [64_bible_nt@8,4,13]

    *ICH*に関連する特別なアノテーションとして,遊離した名詞の補部節がある。 ある名詞の補部節が遊離し,主節に付加されている場合, PRN 投射を加えた上で,そのPRN投射に対して*ICH*分析を行う (1.3.8 節, 6.18.3 節,および 6.17.2 節を参照)。

(1.41)

先生 は また 玄関 の 前 に 戻っ て 、 「 前 へ なら え 。 」 と 号令 を かけ まし た 。

IP-MAT PP-SBJ NP N 先生 P-OPTR IP-ADV-CONJ ADVP ADV また PP NP PP NP N 玄関 P-ROLE N P-ROLE VB 戻っ P-CONN PU ___PRN-1 CP-THT CP-IMP IP-SUB PUL NP-SBJ *hearer* PP NP N P-ROLE VB なら VB2 PU PUR P-COMP PP-OB1 NP N 号令 PRN __*ICH*-1 P-ROLE VB かけ AX まし AXD PU
        [100_aozora_Miyazawa-1934@59,30]

1.5   インデクスを使用しない空要素

この節では,ノードを割り当てられる空要素について説明する。 インデクスを使用しない空要素には,関係節のトレース,虚辞(expletive),および様々な種類のゼロ代名詞がある。 インデクスを与えられない空要素のリストをその用法の説明とともに表1.7に示す。

Table 1.7: インデクスを使用しない空要素のリスト

空要素意味
*ゼロ要素
*exp*虚辞
*arb*一般的非人称指示に用いるゼロ代名詞
*pro*定の指示に用いるゼロ代名詞(small pro)
*hearer*聞き手を指示するゼロ代名詞
*hearer+pro*聞き手および定の個体を指示するゼロ代名詞
*speaker*話し手を指示するゼロ代名詞
*speaker+hearer*話し手および聞き手を指示するゼロ代名詞
*speaker+pro*話し手および定の個体を指示するゼロ代名詞
*T*関係節のトレース

    なお,コントロールを受ける主語位置の空要素(5.3 節を参照)および ATB 抽出による空要素(5.4 節を参照)がノードを割り当てられることはない。

1.5.1   ゼロ要素

ゼロ要素が用いられるのは,構成素の投射を支えるために何かしらの要素の存在が要求されるものの,その内容については言及したくない場合である。 注目すべき事例としては受動文の論理的主語 (NP-LGS *) が挙げられる。 これは受動文の要求を満たすだけのために存在しており,論理的主語が何であるのかについては何も表していない。

(1.42)

財政 は 借金まみれ で 不利益 の 分配 を 迫ら れる 。

IP-MAT PP-SBJ NP N 財政 P-OPTR IP-ADV-CONJ NP-PRD N 借金まみれ AX __NP-LGS * PP-OB1 NP PP NP N 不利益 P-ROLE N 分配 P-ROLE VB 迫ら PASS れる PU
        [31_news_KAHOKU_706@14]

1.5.2   虚辞

主語を持たないように見える文は,空要素の主語 (NP-SBJ *exp*) を加える。 これには,以下のような文が含まれる。

(1.43)

明日 は 寒く ない だろう 、

IP-MAT __NP-SBJ *exp* PP-TMP NP N 明日 P-OPTR ADJI 寒く NEG ない MD だろう PU
        [450_textbook_purple_intermediate@2]
(1.44)

非常 に 落胆 し た 石森 だっ た が 、 50 枚 以上 の デザイン画 を 描い た 。

IP-MAT PP-CONJ IP-ADV __NP-SBJ *exp* NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN 非常 AX VB 落胆 VB0 AXD NPR 石森 AX だっ AXD P-CONN PU NP-SBJ;{ISHINOMORI} *pro* PP-OB1 NP IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM 50 CL N 以上 AX N デザイン画 P-ROLE VB 描い AXD PU
        [56_wikipedia_Kamen_Rider@4]
(1.45)

「 火事 だ ! 」

IP-MAT PUL __NP-SBJ *exp* NP-PRD N 火事 AX PU PUR
        [632_aozora_Doyle-1905@4]

1.5.3   一般的非人称指示のゼロ代名詞

以下の例に見るように,*arb* は一般的な非人称指示に用いられる。

(1.46)

論文 を 書く の は とても たいへん です 。

IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB __NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP N 論文 P-ROLE VB 書く N P-OPTR ADVP ADV とても ADJN たいへん AX です PU
        [2_misc_EXAMPLE@5]

1.5.4   その他のゼロ代名詞

代名詞と同様に,*pro* は談話コンテクスト中の実体を指示するか,または同一の文中の要素を先行詞として取る。 *hearer**hearer+pro**speaker**speaker+hearer*,および *speaker+pro* は *pro* の特殊な場合であり, 条件が満たされる場合には *pro* に優先して使用される。

(1.47)

何 を 買っ て あげ よう か 。

CP-QUE IP-SUB __NP-SBJ *speaker* ___NP-OB2 *hearer* PP-OB1 NP WPRO P-ROLE VB 買っ P-CONN VB2 あげ AX よう P-FINAL PU
        [694_textbook_purple_basic@3,5]
(3.2)

___「 先生 、 もう お忘れ です か ? 」

CP-QUE PUL ___「 IP-SUB NP-VOC;{ADDRESSEE} N 先生 NP-SBJ;{ADDRESSEE} ___*hearer* PU __NP-OB1 *pro* ADVP ADV もう VB お忘れ AX です P-FINAL PU PUR
        [92_aozora_Hayashida-2015@12,3,9]

    (1.47) と (3.2) に見るように, ゼロ代名詞は,コントロールを受けず,かつ明示的に表現されていない主要文法役割(NP-SBJ,NP-OB1,NP-OB2), すなわち節内の述語の解釈にとって必須だが省略されている項(argument)を表示する。 ただし,コントロール関係(5.3節を参照)や ATB 抽出に起因する束縛関係(5.4節を参照)から復元可能な項については,ゼロ代名詞は用いられない。

1.5.5   関係節におけるトレース

トレースは,主名詞を修飾する関係節(IP-REL)の内部に空の位置が存在し,その位置に主名詞が対応づけられることを示す。 詳しくは,3.2.6.1 節を参照。 以下の例 (1.49) では,トレース (NP-SBJ *T*) によって 主名詞「人」が関係節中の主語の役割に関係付けられている。

(1.49)

わかっ た 人 は 手 を あげ て ごらん なさい 。 」

CP-IMP IP-SUB PP-SBJ NP __IP-REL ___NP-SBJ *T* NP-OB1 *pro* VB わかっ ___AXD N P-OPTR PP-OB1 NP N P-ROLE VB あげ P-CONN VB2 ごらん VB2 なさい PU PUR
        [140_aozora_Miyazawa-1934@5,6,12]

    トレースは,主要文法役割だけでなく,任意の文法役割や付加句(adjunct)の「ギャップ」も表すことができる。 この意味でトレースは,(NP-SBJ *pro*) のようなゼロ代名詞が項に対応するものに限定されるのと対照をなしている。 詳しくは,1.7.3 節を参照のこと。

    関係節(IP-REL)が等位節を含まない場合,修飾を受ける主名詞に対応するローカルなトレースはひとつしかない。 関係節が等位節を含む場合, それらの各々が最大でひとつのトレースを持つが, トレースの文法役割については制約が無いし, またすべての等位節がトレースを持たねばならないという制約も無い。 以下の例 (1.50) では, 最初の IP-ADV-CONJ の下のトレースは主名詞を第一目的語役割に関係付け, ふたつ目の IP-REL に直接支配されるトレースは主語役割に関係付けている。

(1.50)

彼女 は 皆 が 愛し そして 皆 を 愛する 人 です 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{WOMAN_28} PRO 彼女 P-OPTR NP-PRD __IP-REL IP-ADV-CONJ ___NP-OB1 *T* PP-SBJ NP Q P-ROLE VB 愛し CONJ そして ___NP-SBJ *T* PP-OB1 NP Q P-ROLE VB 愛する N AX です PU
        [28_misc_EXAMPLE@9,11,23]

(1.50) において,2つ目のトレースは等位接続された最初の節の後に置かれている。 もしもこれを前に置くと,ATB(Accross the Board)抽出となって, 両方の等位節において指示対象も文法役割も同じくする位置が生じてしまうからである。

    なお,関係節に含まれる明示的な代名詞あるいは *pro*がトレースと同一指示である場合, この関係はトレースへのソート情報ではなく,修飾される名詞が投射する NP に付与される。 ソート情報については,1.8節を参照されたい。

(3.33)

有間皇子 が どう し て も そこ から 逃れる こと の でき なかっ た 悲運

FRAG __NP;{MISFORTUNE} IP-REL PP-SBJ NP NPR 有間皇子 P-ROLE PP-SCON-CND IP-ADV ADVP-CMPL WADV どう VB P-CONN P-OPTR PP-OB1 NP IP-EMB PP NP ___*T* P-ROLE *** PP NP;{MISFORTUNE} ___PRO そこ P-ROLE から VB 逃れる N こと P-ROLE VB でき NEG なかっ AXD N 悲運
        [7_misc_EXAMPLE2@2,26,31]

1.5.6   空要素の位置

空要素は目に見えないために,どこにそれを置くかという点で迷うことが少なくない。 これは以下のような方針で行う。

ただし,本節で後述するように,照応関係の計算の影響により *arb**exp*, *pro**speaker**hearer*, *speaker+hearer* がさらに別の場所に置かれることがあることに注意。

(1.52)

よそ から 、 もらっ た お酒 が 二 升 あっ た 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{DAZAI_LIQUOR_2_SHO} __IP-REL ___NP-OB1 *T* ___NP-SBJ;{DAZAI} *speaker* PP-OB2 NP N よそ P-ROLE から PU VB もらっ AXD N お酒 P-ROLE NP;*SBJ* NUMCLP NUM CL VB あっ AXD PU
        [66_aozora_Dazai-1-1940@4,5,7]
(1.53)

この ビル は 、 現在 の 耐震基準 に 照らし合わせる と 、 強度 が 不足 し て いる .

IP-MAT PP-SBJ NP;{BUILDING_1818} D この N ビル P-OPTR PU PP-SCON __IP-ADV ___NP-SBJ *exp* ___NP-OB1;{BUILDING_1818} *pro* PP NP PP NP N 現在 P-ROLE N 耐震基準 P-ROLE VB 照らし合わせる P-CONN PU PP-SBJ2 NP N 強度 P-ROLE VB 不足 VB0 P-CONN VB2 いる PU
        [1818_dict_vv-lexicon@13,14,16]

    空要素と先行詞の照応計算はゼロ代名詞の位置に影響を与える。 例えば,照応計算は等位節における同一指示を保持するために, Across the Board extraction(ATB)と呼ばれるルールに従う。 より具体的には,IPn における,任意の明示的なカテゴリー x は, 以下の条件を満たす場合に, その文法的な機能を保持しながら,拡張タグ -CONJ の付いた節 IP1, 2...n-1 における空要素の先行詞となる: x が IPn-1の姉妹であり,かつそれに先行し, IPn-2 が IPn-1 の先頭要素となり, IPn-3 が IPn-2 の先頭要素となり,等々。 つまりこのとき,IPn における IP1, 2...n-1 のそれぞれが IPn 中の カテゴリー x を先行詞として「継承」することが要求される (下図参照)。 以下の例に見るように,IPn におけるゼロ代名詞の位置は, ゼロ代名詞が最後(主節)を除くすべての等位節の先行詞になるかどうかによって左右され,もしそうであれば最も先頭に置かれる。

Figure 1.1: ‘Across the Board’ extraction (ATB).

‘Across the Board’ extraction (ATB)
(1.54)

「 和国 の 教主 」 として 尊敬 し 、 観音菩薩 の 化身 として 崇拝 し た 。

IP-MAT ___NP-SBJ *pro* ___NP-OB1 *pro* __IP-ADV-CONJ PP NP PUL PP NP NPR 和国 P-ROLE N 教主 PUR P-ROLE として VB 尊敬 VB0 PU PP NP PP NP NPR 観音菩薩 P-ROLE N 化身 P-ROLE として VB 崇拝 VB0 AXD PU
        [15_wikipedia_KYOTO_7@6,2,4]

    以下の例では終結節(主節)の主語のゼロ代名詞は非終結節(等位節の前項)の空要素の先行詞である。 非終結節の先頭には第一目的語のゼロ代名詞が置かれ,一方,終結節はそれ自身の明示された第一目的語を持っている。

(1.55)

火鉢 に かざし て 、 文字 を あぶり出し た .

__IP-MAT ___NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ ___NP-OB1 *pro* PP NP N 火鉢 P-ROLE VB かざし P-CONN PU PP-OB1 NP N 文字 P-ROLE VB あぶり出し AXD PU
        [34_dict_vv-lexicon@1,2,5]

    以下の例でも,終結節(主節)の主語のゼロ代名詞は非終結節(等位節の前項)の空要素の先行詞であるが,第一目的語のゼロ代名詞はそうではない。 つまり,非終結節にはそれ自身の第一目的語が明示されている。 この場合,終結節の第一目的語のゼロ代名詞は,ゼロ代名詞を節の先頭に置くというデフォールトに従わず,非終結節の後に置かれる。

(1.56)

「 私たち の 話 を 聞い て 、 監視 し て いる の よ 」

CP-FINAL PUL __IP-SUB ___NP-SBJ *pro* IP-ADV-SCON PP-OB1 NP PP NP PRO 私たち P-ROLE N P-ROLE VB 聞い P-CONN PU ___NP-OB1 *speaker+hearer* VB 監視 VB0 P-CONN VB2 いる FN P-FINAL PUR
        [360_fiction_DICK-1952@4,5,26]

    ゼロ代名詞を節の最初の位置に置くというデフォールト的処理によって, コントロール関係(詳細は 5.3 節を参照)が確立することもあるが, これが望ましくないこともある。 そのような状況は,同一指示関係を持つ先行詞を計算するに当たって, 目的語先行詞の方が主語先行詞よりもアクセス可能性が強いことを規定する「先行詞アクセス可能性の階層」に起因する。 この階層によれば,主語先行詞が従属節をコントロールするためには,その従属節の左側に目的語が存在してはならないことになる。 以下の例では,主節の述語は他動詞であって明示的な目的語を含まず,従属節と NP-SBJ を共有しているが,NP-OB1 を共有していない。 よりアクセス可能性の強い NP-OB1 が従属節の左側に出現することは, その内部を束縛してしまう(つまり前者が後者の主語として解釈される)ために許されない。 したがって,NP-OB1 は従属節の後に置かれる。

(1.57)

急い で 食べ ない で 。

CP-IMP __IP-SUB ___NP-SBJ *hearer* IP-ADV-SCON VB 急い P-CONN ___NP-OB1 *pro* VB 食べ NEG ない P-CONN PU
        [568_textbook_purple_basic@2,3,10]

    他の環境については,同一指示関係を引き出すための条件はより緩やかである。 下の例で,接続助詞「たら」が導く節は明示的な第一目的語を含み,その指示対象は上位の節の主語ゼロ代名詞と同一である。 ここで同一指示関係が可能だと推論するには,従属節の第一目的語(PP-OB1)が,上位の節における主語(NP-SBJ)のゼロ代名詞に先行することが十分条件となる。 よって,主語ゼロ代名詞は節の先頭ではなく,従属節の後に置かれる。 このようにすると,従属節の第一目的語が上位の節における主語のゼロ代名詞の先行詞として解釈されることが可能になる。 とは言え,他に情報が与えられないかぎり,同一指示は単に可能性にとどまり,決定的なものとはならない。 下の例について言えば,従属節中の動詞「あげ(る)」の第一目的語「それ」と主節の動詞「なくなった」の主語とが「ソート情報」を共有している。

(1.58)

それ を 三 つ 彼 に あげ たら なくなっ た 。

IP-MAT __IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ;{SPEAKER_35} *speaker* ___PP-OB1 NP;{MIKAN} PRO それ P-ROLE NP;*OB1* NUMCLP NUM CL PP-OB2 NP;{MAN_35} PRO P-ROLE VB あげ P-CONN たら ___NP-SBJ;{MIKAN} *pro* VB なくなっ AXD PU
        [35_misc_EXAMPLE@2,5,27]

    以下の例では,従属節と上位の節は主語と第一目的語の両方を共有している。 しかし,このような場合,ゼロ代名詞の目的語を主節の先頭に置くことはできない。 第一目的語のゼロ代名詞がコントロール計算によって,従属節の主語と解釈されてしまうからである。 したがって,従属節と上位の節の両方に第一目的語のゼロ代名詞を置くことになるが,上位の節のそれが従属節の後に置かれる。 また,両者にはソート情報が必要になる。

(5.68)

ダウンロード し て 印刷 すれ ば 、 学校 や 家庭 で 手軽 に 取り組める 。

__IP-MAT ___NP-SBJ *pro* IP-ADV-SCON-CND NP-OB1;{FILE} *pro* IP-ADV-CONJ VB ダウンロード VB0 P-CONN VB 印刷 VB0 すれ P-CONN PU ___NP-OB1;{FILE} *pro* PP NP CONJP NP N 学校 P-CONN NP N 家庭 P-ROLE ADVP ADJN 手軽 AX VB 取り組める PU
        [55_news_KAHOKU_97@1,2,22]

1.6   主要文法役割のアノテーション

この節では,様々な環境において文法役割およびそれらを表示する助詞のアノテーションをどのように行うべきかについて説明する。 まず主要文法役割について説明し,次に任意文法役割について述べる。

    まず,単文において明示的な名詞句が主要文法役割を持つ場合について論じる。 主要文法役割とは,名詞句によって表される項(argument)が,それを選択する述語に対して持つ文法的な役割である。 項は原則としては,述語の完全な解釈のために不可欠な構成素である。 しかし、与えられた述語と共起する構成素が必須要素なのか、任意要素なのか判断に苦しむ場合も多くある。 そのような例のひとつとして、移動動詞に対する経路を示す表現が挙げられる。 また,認知動詞や伝達動詞に対する補部節のステータスも曖昧である。 前者に関しては,明示した形で現われる経路を項(OB1)とするが、経路を伴わない移動動詞の場合はゼロ代名詞を補わない。 後者に関しては,現在のコーパスでは述語が「言う」であろうと「話す」であろうと、補部節に同じ分析(つまり、CP-THT-OB1)を与える。 ただし,命題的内容を必要としない述語と共起した補部節は副詞的なもの(CP-THT-ADV)として扱う(6.18.5 を参照)。

    主要文法役割は,-SBJ(主語),-SBJ2(第二主語),-LGS(論理的主語),-OB1(第一目的語),-OB2(第二目的語),-CMPL(補語),および -CZZ(被使役者)というラベルが拡張タグとして与えられる。 これらは典型的には,「が」「に」「を」「の」等の助詞(P-ROLE)によって表示される(2.3 節を参照)。 また,これらは「は」や「も」のようなとりたて助詞(P-OPTR)によって表示されることもあれば, 助詞を全く伴わずに現れることもある。 つまり,助詞の形だけではその項がどの主要文法役割を持つか判断することはできない。

1.6.1   明示的な文法役割表示を伴う項

主要文法役割を担う構成素のノード・ラベルに対しては,文法役割を示すための拡張タグが付加される。 下の例では,3つの助詞句 (PP 漁夫が)(PP その女房に)(PP 金を) に, それぞれ -SBJ(主語),-OB2(第二目的語),-OB1(第一目的語)という拡張タグが付いている。

(1.60)

漁夫 が その 女房 に 金 を 渡し て いる ところ だっ た 。

__IP-MAT ___PP-SBJ NP N 漁夫 P-ROLE ___PP-OB2 NP D その N 女房 P-ROLE ___PP-OB1 NP N P-ROLE VB 渡し P-CONN VB2 いる FN ところ AX だっ AXD PU
        [88_aozora_Kobayashi-1929@1,2,8,16]

IP を投射するすべての述語は必ず主語の文法役割を担う構成素を持つと想定される。 したがって,一項述語は項として主語のみをとることになる。 一般に主語は再帰代名詞「自分」の先行詞となり,述語の尊敬語化を認可する。 意味的に見ると,典型的な主語というのは,他動詞および非能格動詞の動作主,非対格述語の対象,および状態述語の経験者,所有者,または属性保持者である。

    1.3.6節で述べたように,一般原則として,すべての IP は主語を持ち,すべての主語/述語の対は IP を投射する。 主語を持たないように見える文は,空要素としての主語 (NP-SBJ *exp*) を与えられる(1.5 節を参照)。 すべての IP が主語(句カテゴリーとして表現されるか,あるいはコントロールによって決定される主語)を持つという原則は, 日本語の節の構造一般に関して何らかの主張をしようとするものではない。 常に完全に満たされた項構造を要求することは,モデルを単純化し,アノテーションの正確さをチェックするために役立つ。 (NP-SBJ *exp*) のラベル付けのためにはネイティブのアノテーターの判断が必要である。 また,これによってコントロールを受ける要素と区別できるので,「主語のない文」の検索が容易になり,アクセスしやすくなる。 以上のことから,コントロール環境とはなりえない IP(すなわち,IP-MAT,IP-SUB,IP-REL)には常に主語のアノテーションがなされる。 コントロール環境になることのできる IP(すなわち,IP-ADV,IP-SMC,IP-EMB)において主語が上位の節の項によりコントロールされる場合は,そのアノテーションはなされない。 具体例については,5.3 節,5.4 節を参照のこと。

    本コーパスでは,主語以外の文法役割を指すのに伝統的な意味論的表現を避けることにする。 二項述語の主語でない項は,形式的に OB1(第一目的語)として扱われることに注意されたい。 このため,例えば「に」によって示される非主語項は,伝統的には「直接目的語」とはみなされないが,NPCMJ では OB1 の拡張タグを与えられる。

(1.61)

散歩 を し て いる うち に 、 来る とも なく 駅 まで 来 て しまっ た 。

IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP NP IP-EMB PP-OB1 NP N 散歩 P-ROLE VB ___P-CONN __VB2 いる N うち P-ROLE PU IP-ADV-SCON VB 来る P-OPTR とも ADJI なく PP NP N P-ROLE まで VB P-CONN VB2 しまっ AXD PU
        [565_textbook_djg_advanced@17,15]

    三項述語が「を」によって表示された(あるいは表示されうる)項を伴う場合,それは規則的に OB1(第一目的語)とされる。 代表的な三項動詞である授与動詞の「に」によって表示された受益者格名詞句は, OB2(第二目的語)の文法的役割を与えられる。

(1.62)

叔父 は 花子 に 小遣い を 与え た 。

IP-MAT PP-SBJ NP N 叔父 P-OPTR ___PP-OB2 NP;{HANAKO_204} NPR 花子 ___P-ROLE __PP-OB1 NP N 小遣い ___P-ROLE VB 与え AXD PU
        [204_textbook_kisonihongo@14,8,12,18]

    「二重主語文」における二番目の主語(述語に近い方)は,しばしば「が」によって示される。 第二主語のノード・ラベルには -SBJ2 という拡張タグが用いられる。

(1.63)

太郎 は 背 が 高い 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 太郎 P-OPTR __PP-SBJ2 NP N ___P-ROLE ADJI 高い PU
        [1609_misc_JSeM_beta_150530@8,12]

注意が必要なのは,-SBJ と表示されているからといって,それらが実際にすべてローカルな述語の主語とは限らないということである。 SBJ が -SBJ2 の姉妹であり,かつそれに先行するとき,-SBJ2 の方が実際の主語だと解釈される。 そのため,主語をすべて検索しようという場合には,二重主語文については -SBJ2 の姉妹である -SBJ を除外し,その代わりに -SBJ2 を含めなければならない。

    受動文では「に」等の助詞が論理的主語を表示する。これは意味的には,主動詞が表す行為の動作主(agent)に対応する。 論理的主語には -LGS の拡張タグが用いられる。

(2.27)

ジョン は 先生 に しから れ た 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR ジョン P-OPTR __PP-LGS NP N 先生 ___P-ROLE VB しから PASS AXD PU
        [22_misc_BUFFALO@8,12]

1.6.2   明示的な文法役割表示を伴わない項

主要文法役割を持つ名詞句であっても,述語との文法役割関係を表示する助詞をつねに伴うとは限らない。 まず,「は」や「も」のようなとりたて助詞だけを伴う場合がある。 このような場合にも,適切な拡張タグを付ける必要がある。 以下の例では,とりたて助詞「は」の投射する PP に拡張タグ -SBJ が付加されている。

(1.65)

花子 は まだ 学生 に 見える 。

IP-MAT __NP-SBJ *pro* PP-DOB1 NP;{HANAKO_374} ___NPR 花子 P-OPTR IP-SMC-OB1 ADVP ADV まだ NP-PRD N 学生 AX VB 見える PU
        [374_textbook_kisonihongo@2,6]

格助詞が省略されている場合,どのような助詞が省略されているかについての情報提供は行われない。 また,文法役割を示す拡張タグは,NP-SBJ, NP-OB1 のように,NP に直接付加される。

(1.66)

君 、 あの 本 読ん だ 。

CP-QUE __IP-SUB ___NP-SBJ;{HEARER_952} PRO PU ___NP-OB1;{BOOK_952} D あの N VB 読ん AXD PU
        [952_textbook_kisonihongo@2,3,8]

1.6.3   NPとPP以外の項

NP と PP 以外の句カテゴリーをもち,述語の項となりうる句で重要なものには CP-THT と IP-SMC がある。 これらの項は,拡張タグ(-OB1,-SBJ 等)によって付加句(adjunct)とは区別される (付加句については,1.7 節を参照)。 詳しくは,CP-THT については4.6節を, IP-SMC については4.6節, 6.10節,6.12節を参照のこと。

    さらに,動詞「する・なる」と共起する擬態語・擬声語的な,あるいは指示的な副詞句(ADVP)については, 補部としての働きを示すCMPL(complement)という拡張タグを与える。

(1.67)

ナシャ が イライラ し て 言っ た 。

IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP NPR ナシャ P-ROLE IP-ADV-SCON __ADVP-CMPL ADV イライラ VB P-CONN VB 言っ AXD PU
        [449_fiction_DICK-1952@11]
(1.68)

こう なっ た 以上 、 もう どう し よう も ない 。

__IP-MAT NP-ADV IP-EMB NP-SBJ;{SITUATION_1190} *pro* ___ADVP-CMPL ADV こう VB なっ AXD N 以上 PU ADVP ADV もう PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ;{MAN_1190} *pro* ___ADVP-CMPL WADV どう VB N よう P-OPTR ADJI ない PU
        [1190_textbook_kisonihongo@1,6,25]

1.6.4   項の省略

主要文法役割を担う名詞句が文中で明示されない場合でも,従属節の主語が上位の節の項によりコントロールされている場合や ATB 抽出が働く場合は,空要素の位置を表すノードを付与しない。 関係節内部のトレースの場合は,空要素を終端ノード *T* により表示する。 その他の空要素は虚辞 *exp*,あるいはゼロ代名詞 *arb**pro**hearer**speaker**hearer+speaker* 等で示される。 空要素を示すために用いるこれらの終端ノードは,NP-SBJ,NP-OB1,NP-OB2,NP-SBJ2,NP-LGS のような文法役割を示す句ノードの直下に置かれる。 詳細に関しては,1.5 節を参照。

(1.69)

けれども 、 いつ 来る か 、 わから ない 。

IP-MAT ___NP-SBJ;{DAZAI} __*speaker* CONJ けれども PU CP-QUE-OB1 IP-SUB ___NP-SBJ;{DAZAI_FRIENDS_DRINKING} ___*pro* NP-TMP WPRO いつ VB 来る P-FINAL PU VB わから NEG ない PU
        [80_aozora_Dazai-1-1940@3,2,10,11]

    従属節の主語は,それが明示されていなくても,上位の節の項によりコントロールされていることから理解が可能な場合が多い。 このような場合,それを空要素としてアノテーションする必要はない。 以下の例では,接続助詞「て/で」によって導かれた従属節の主語が明示されていない。 しかし,主節の主語「わたし」からのコントロールによって,従属節の主語も「わたし」であるということが理解される。

(1.70)

急い で わたし は 出かけ まし た 。

IP-MAT IP-ADV-SCON VB 急い __P-CONN ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_25} PRO わたし P-OPTR VB 出かけ AX まし AXD PU
        [25_misc_EXAMPLE@5,7]

1.7   任意文法役割

任意文法役割は付加句(様々な助詞句,副詞句,副詞節)によって担われる。付加句は任意的な構成素であり,述語の解釈に際して本質的なものではない。

1.7.1   格助詞を伴う付加句

名詞句に「に」「へ」「で」「から」「まで」「と」等の格助詞が後続して作られた助詞句(PP)が付加詞として用いられた場合には,その意味的な性質に応じて,PP に,LOC(場所),TMP(時間),MSR(時間軸上の範囲または頻度),ADV(その他の副詞的意味)のような拡張タグを加えることが望まれる。 以下にその例を示す。

(1.71)

あそこ の ベンチ で 食べ ましょ う 。

CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *speaker+hearer* NP-OB1 *pro* __PP-LOC NP PP NP PRO あそこ P-ROLE N ベンチ ___P-ROLE VB 食べ AX ましょ AX PU
        [172_textbook_purple_basic@7,17]
(1.72)

つぎ の 汽車 は 七 時 に 出る 。

IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N つぎ P-ROLE N 汽車 P-OPTR __PP-TMP NP NUMCLP NUM CL ___P-ROLE VB 出る PU
        [59_aozora_Harada-1960@14,21]
(1.73)

この 手 の 話 は 何 回 も 聞き まし た

IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP PP NP D この N P-ROLE N P-OPTR __PP-MSR NP NUMCLP WNUM CL ___P-OPTR VB 聞き AX まし AXD
        [36_ted_talk_8@18,25]
(1.74)

太郎 は 500 メートル も 泳げ た 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{TARO_445} NPR 太郎 P-OPTR __PP-ADV NP NUMCLP NUM 500 CL メートル ___P-OPTR VB 泳げ AXD PU
        [445_textbook_kisonihongo@8,15]

    ただし,現行のアノテーションでは,このような助詞句に対しては,項として用いられた助詞句と異なり,拡張タグによる文法役割情報の付加が常になされているわけではない。例えば,次の例における格助詞「で」や「に」の投射する PP のように,拡張タグのない PP は数多く存在する。

(1.75)

ビル は 列車 で パリ に 行っ た 。

IP-MAT PP-SBJ NP NPR ビル P-OPTR __PP NP N 列車 ___P-ROLE ___PP NP NPR パリ ___P-ROLE VB 行っ AXD PU
        [1181_misc_JSeM_beta_150530@8,12,14,18]

    「に」のように,主要文法役割と任意文法役割双方の表示に使用される格助詞もあることに注意されたい。 主要文法役割を表示する「に」については,1.6.1 節を参照。

1.7.2   格助詞を伴わない付加詞

格助詞の後続しない名詞句やとりたて助詞のみが後続した助詞句が付加詞として用いられた場合は,その意味的な性質に応じて,LOC(場所),TMP(時間),MSR(時間軸上の範囲または頻度),ADV(その他の副詞的意味)の拡張タグが NP あるいはPP に加えられる。

    以下の例の「あちこち」と「この町は」は,場所を表している。

(1.76)

両親 は 子供 を ___あちこち 連れ回し た .

IP-MAT PP-SBJ NP Q 両親 P-OPTR PP-OB1 NP N 子供 P-ROLE __NP-LOC PRO ___あちこち VB 連れ回し AXD PU
        [1801_dict_vv-lexicon@14,16]
(1.77)

この 町 は いい レストラン が 少ない です 。

IP-MAT __PP-LOC NP D この N ___P-OPTR PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI いい N レストラン P-ROLE ADJI 少ない AX です PU
        [285_textbook_djg_basic@2,8]

    以下の例の「先週の土曜日」と「きのうは」は,事態の生じた時間を表している。

(1.78)

先週 の 土曜日 、 街 で 昔 の 友人 に 会っ た 。

IP-MAT NP-SBJ;{MAN_270} *pro* __NP-TMP PP NP N 先週 P-ROLE N 土曜日 PU PP NP N P-ROLE PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N 友人 P-ROLE VB 会っ AXD PU
        [270_textbook_kisonihongo@4]
(1.79)

きのう は かぜ を ひき まし た 。

IP-MAT NP-SBJ *speaker* __PP-TMP NP N きのう P-OPTR PP-OB1 NP N かぜ P-ROLE VB ひき AX まし AXD PU
        [268_textbook_djg_basic@4]

    以下の例の「5年間」と「食事中は」は,事態や状態の続く時間軸上の長さ(範囲)を表している。 3つ目の例における「一度」は,出来事の頻度(分布)を表している。

(1.80)

また 5 年間 使い 続ける ぞい !

CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* ADVP ADV また __NP-MSR NUMCLP NUM CL 年間 VB 使い VB2 続ける P-FINAL ぞい PU
        [100_blog_KNB@10]
(1.81)

食事中 は テレビ を 見 ませ ん 。

IP-MAT NP-SBJ *speaker* __PP-MSR NP N 食事中 P-OPTR PP-OB1 NP N テレビ P-ROLE VB AX ませ NEG PU
        [351_textbook_purple_basic@4]
(1.82)

私 は 、 途中 で 一 度 、 悪い 夢 を 見 た 。

IP-MAT PP-SBJ NP;{MELOS} PRO P-OPTR PU PP NP N 途中 P-ROLE __NP-MSR NUMCLP NUM CL PU PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 悪い N P-ROLE VB AXD PU
        [423_aozora_Dazai-2-1940@16]

否定文や状態述語文では,事態の生じた時間(TMP)と事態の継続時間(MSR)の区別は時として困難なことがある。 区別のための手懸かりとして,MSR が意味する継続期間の終端が状態の変化や出来事の終了を含意するのに対し, TMP についてはこのことは当てはまらないことに留意しておくと役立つだろう。

(1.83)

今日 は 、 誰 に も 会わ ない 。

IP-MAT NP-SBJ;{MAN_95} *pro* __PP-TMP NP N 今日 P-OPTR PU PP-OB1 NP WPRO P-ROLE P-OPTR VB 会わ ___NEG ない PU
        [95_textbook_kisonihongo@4,22]

また,表現の組み合わせによって出来事の継続時間が示されている場合, その表現は MSRとして扱われる。

  • 息を(NP-MSR 2分間) 止めてから、さらに(NP-MSR 30秒) 粘ってみせた.
  •     以下の例の「予定通り」と「本当は」は,上記のいずれにも該当しない副詞的な意味を表している。

    (1.84)

    会議 は 、 予定通り 3 時 に 始まっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 会議 P-OPTR PU __NP-ADV N 予定通り PP-TMP NP NUMCLP NUM 3 CL P-ROLE VB 始まっ AXD PU
            [788_textbook_kisonihongo@10]
    (1.85)

    本当 は 叔母 の アイリーン です が

    FRAG PP-CONJ IP-ADV NP-SBJ *pro* __PP-ADV NP N 本当 P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 叔母 AX NPR アイリーン AX です P-CONN
            [161_ted_talk_10@6]

        任意文法役割を表示する格助詞が省略された名詞句の場合は,助詞句(PP)の投射が作られ,省略された助詞が終端ノード「*に*」等の形で補われる。

    (1.86)

    それ 、 おれ 行く ん だ けど さー

    CP-FINAL FRAG PP-SCON IP-ADV ___PP NP PRO それ P-ROLE __*に* PU NP-SBJ PRO おれ VB 行く FN AX P-CONN けど P-FINAL さー
            [93_spoken_JM1@10,5]

    終端ノードを補完する場合の詳細については,2.14 節を参照されたい。

    1.7.3   関係節における付加句のトレース

    インデクスの付かない空要素が任意文法役割と結びつけられるのは,ATB 環境の空所以外は,関係節中のトレースしかない。 任意文法役割を持つゼロ代名詞やコントロール等というものは存在しない。 付加詞が時間や場所を表す場合には,その情報はラベルの拡張として付け加えることができる。 例えば,(1.87) には (NP-LOC *T*) のトレースが現れる。

    (1.87)

    ここ が 高津さん が 講演 し た ところ だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{CURRENT_PLACE_1198} PRO ここ P-ROLE NP-PRD IP-REL __NP-LOC *T* PP-SBJ NP;{TAKATSU_1198} NPR 高津さん P-ROLE VB 講演 VB0 AXD N ところ AX PU
            [1198_textbook_kisonihongo@10]

        修飾される主名詞の文法役割が時間や場所以外であって, さらにそれ表示するために格助詞を使用するのが通常である場合, その格助詞を * で囲み,NP のトレースと共に PP の下に示してもよい。 次の例のトレースは (PP (NP *T*) (P *に*)) のように,*に* を主要部とする PP の下に置かれている。

    (1.88)

    早朝 、 彼 は 住み慣れ た 町 を 出で立っ た .

    IP-MAT NP-TMP N 早朝 PU PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-OB1 NP IP-REL __PP NP *T* P-ROLE *に* NP-SBJ *pro* VB 住み慣れ AXD N P-ROLE VB 出で立っ AXD PU
            [163_dict_vv-lexicon@16]

    1.8   照応関係

    ソート情報(sort information)は,代名詞の照応関係の解決に用いられる。 「これ」「あいつ」「そこ」等の代名詞,あるいは空の代名詞*pro*が, アクセス可能な先行詞と結びつけられるためには,束縛関係が必要である。

        名詞句 X(名詞でも代名詞でもいい)が,代名詞 Y を c-commandし,かつ同じソート情報を持ち, かつ,同じソート情報を持つ,より近い先行詞候補が存在しないとき,X と Y との間に 照応関係が意味計算において計算される。

        また,名詞句Xが談話において代名詞Yに先行し,かつ,同じソート情報を持ち, かつ,同じソート情報を持つ,より近い先行詞の候補が存在しないとき, 構造上の位置関係にかかわらず,照応関係が成立し,意味計算において計算される。

        ただし,否定辞やモダリティ要素のスコープといった「閉塞操作」の内側にある, 不定(indefinite)の先行詞については例外である。そのような環境下では, 定(definite)の要素のみが先行詞たりうる。

        但し書きとして,2つの名詞句の間で生じる(指示対照の)同一性関係は, ソート情報によっては計算されない。(すなわち,2つの異なる名詞句の指示対照が同一であったとき, その2つの名詞句に同じソート情報をアノテートしても,それが計算されてその同一性が意味表示に反映されることはない) もちろん,そのような情報をあえてアノテートすることには不都合はなく, その情報は言語学の研究にとって,また,テクストの意味表示を完全なものにすることにとって,役に立つ可能性は十分にある。 しかし,このことは,Scope Control Theoryの守備範囲の外にあるのである。 後方照応(cataphoric relation)もまた,上記の意味で(意味計算において)除外されるが, 面白い現象ではあり,アノテートする価値はある。

    1.8.1   ソート情報

    本節ではソート情報が必要な場合について詳述する。

    1.8.1.1   c-command関係にない照応関係

    (1.89)

    しかし 、 その 内容 は 『 タイガーマスク 』 に 言及 し 、 「 自分 も 仮面 を 被れ ば ヒーロー に なれる 」 という 児童 の 願望 を 指摘 し て いる こと 、 主人公・九条剛 が 普通 の 体育教師 で 鍛錬 によって ヒーロー の 力 を 得 て いる など 、 当時 流行 し て い た スポーツ根性もの の 影響 が 強い 内容 で あっ た 。

    IP-MAT CONJ しかし PU PP-SBJ NP D;{MASKMAN} その N 内容 P-OPTR NP-PRD PRN PP NP CONJP NP IP-EMB NP-SBJ;{HIRAYAMA} *pro* IP-ADV-SCON PP NP PUL NPR タイガーマスク PUR P-ROLE VB 言及 VB0 PU PP-OB1 NP CP-THT IP-SUB PUL PP-SBJ NP;{CHILD} PRO 自分 P-OPTR IP-ADV-SCON-CND PP-OB1 NP N 仮面 P-ROLE VB 被れ P-CONN IP-SMC-OB1 NP-PRD N ヒーロー AX VB なれる PUR P-COMP という PP NP;{CHILD} N 児童 P-ROLE N 願望 P-ROLE VB 指摘 VB0 P-CONN VB2 いる N こと PU IP-NMZ PP-SBJ NP NPR 主人公・九条剛 P-ROLE IP-ADV-CONJ NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 普通 AX N 体育教師 AX PP NP N 鍛錬 P-ROLE によって PP-OB1 NP PP NP N ヒーロー P-ROLE N P-ROLE VB P-CONN VB2 いる P-OPTR など PU IP-EMB PP-SBJ NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-TMP N 当時 VB 流行 VB0 P-CONN VB2 AXD N スポーツ根性もの P-ROLE N 影響 P-ROLE ADJI 強い N 内容 AX VB2 あっ AXD PU
            [26_wikipedia_Kamen_Rider]

    1.8.1.2   島

    CP-THTの直下にあるIP-SMCは,すぐ上のIP(しかも,その2つのIPの間にはCP-THTが挟まれることもある)に コントロールされることを許す。しかし一方で,CP-THTの直下にあるIP-SUBは,外からのコントロールに対して島をなす。 以下の(1.90)では, 代名詞「彼」が,ソート情報のおかげで, それがc-commandする先の,補部節の内側にある代名詞「私」の先行詞たりえるのである。

    (1.90)

    彼 は たびたび 僕 に 「 私 は もう 長く は ない 」 と 言い 、 僕 は それ を 戯言 と 思っ て い た 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP;{FLYNN} PRO P-OPTR ADVP ADV たびたび PP-OB2 NP;{SPEAKER} PRO P-ROLE CP-THT-OB1;{PREDICTION} IP-SUB PUL PP-SBJ NP;{FLYNN} PRO P-OPTR ADVP ADV もう ADJI 長く P-OPTR NEG ない PUR P-COMP VB 言い PU PP-SBJ NP;{SPEAKER} PRO P-OPTR PP-DOB1 NP;{PREDICTION} PRO それ P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SMC NP-PRD N 戯言 AX * P-COMP VB 思っ P-CONN VB2 AXD PU
            [9_aozora_Joyce-1914]

    (1.91)では,関係節のトレース*T*が,(関係節の先行詞である大きなNPのソート情報を通して), 補部節の中にある*pro*と同じソート情報を共有し,照応関係をなす。

    (1.91)

    そして もう 1 つ 欲しい と 思っ た の は もっと 精巧 な 技巧 と 手法 でし た

    IP-MAT CONJ そして NP;*SBJ* ADVP ADV もう NUMCLP NUM CL PP-SBJ NP;{SKILL} IP-REL NP-SBJ *speaker* CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *T* ADJI 欲しい P-COMP VB 思っ AXD N P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADV もっと ADJN 精巧 AX NML CONJP NP N 技巧 P-CONN NP N 手法 AX でし AXD
            [25_ted_talk_10]

    (1.92)では,IP-EMBの上にNPの層が余分にひとつついているため, 上の節の主語項からのコントロールが阻害されている。 この例においては,主節とIP-EMB節の主語同士の照応関係,それに加えて, IP-EMB節の目的語と,PPに修飾されている大きなNPとの間の照応関係が, ソート情報によって成立している。

    (1.92)

    「 確か に 私たち は できる 限り の こと を し た わ 、

    CP-FINAL PUL IP-SUB ADVP ADJN 確か AX PP-SBJ NP;{ELIZA+NANNIE} PRO 私たち P-OPTR PP-OB1 NP;{CARING} PP NP IP-EMB NP-SBJ;{ELIZA+NANNIE} *pro* NP-OB1;{CARING} *pro* VB できる N 限り P-ROLE N こと P-ROLE VB AXD P-FINAL PU
            [163_aozora_Joyce-1914]

    1.8.1.3   後方照応の関係

    後方照応(代名詞がその指示対象を共有する要素に先行している場合)は多くなく, しかも,典型的には文境界をまたぐ。 このような照応関係は,実際,ビジュアライゼーションにおいては表示されないことになっている。 以下の談話 (1.93) (1.94) では,空の代名詞が,後続する引用と指示対象を共有する。

    (1.93)

    叔母 は イライザ が ため息 を つく まで 待ち 、 それから 言っ た 。

    IP-MAT NP-OB1;{CLICHE} *pro* PP-SBJ NP;{AUNT} N 叔母 P-OPTR IP-ADV-CONJ PP-SCON IP-ADV;{SIGHING} PP-SBJ NP;{ELIZA} NPR イライザ P-ROLE PP-OB1 NP N ため息 P-ROLE VB つく P-CONN まで VB 待ち PU CONJ それから VB 言っ AXD PU
            [140_aozora_Joyce-1914]
    (1.94)

    「 ああ 、 それでは 、 あの 方 は より よい 世界 へ 行っ て しまっ た の ね 。 」

    CP-FINAL PUL IP-SUB;{CLICHE} INTJ ああ PU CONJ それでは PU PP-SBJ NP;{FLYNN} D あの N P-OPTR PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADV より ADJI よい N 世界 P-ROLE VB 行っ P-CONN VB2 しまっ AXD FN P-FINAL PU PUR
            [141_aozora_Joyce-1914]

    音形を持つ代名詞の後方照応の例もある:

    (1.95)

    あれ が 一 つ 手に入っ たら ね 、

    CP-FINAL FRAG IP-ADV-SCON-CND PP-SBJ NP;{NOISELESS_CARRIAGE} PRO あれ P-ROLE NP;*SBJ* NUMCLP NUM CL VB 手に入っ P-CONN たら P-FINAL PU
            [199_aozora_Joyce-1914]
    (1.96)

    最新式 の 馬車 で オルーク神父 が 言う に は 騒音 が ない ん です って 、

    FRAG CP-THT IP-SUB NP-SBJ;{NOISELESS_CARRIAGE} *pro* IP-ADV-CONJ NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 最新式 AX N 馬車 AX PP IP-NMZ NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP NPR オルーク神父 P-ROLE VB 言う P-ROLE P-OPTR PP-OB1 NP N 騒音 P-ROLE ADJI ない FN AX です P-COMP って PU
            [200_aozora_Joyce-1914]

    aozora_Natsume-1908.psd も後続する談話への後方照応から始まるが,現在の枠組ではマークアップは不可能である。

    1.8.1.4   再述代名詞

    再述代名詞は,連体修飾表現の中に現れるのが一般的であり,例はあまり多くない。 このような場合,代名詞と先行詞たる名詞の間をソート情報で結びつけることにしておく。

    さらに,ソート情報の補助として,トレースとダミーの助詞を置く。

    (PP (NP *T*) (P-ROLE ***))

    (P-ROLE ***) は,修飾された NP の指示対象を談話の範囲に置き,代名詞の先行詞となるようにする機能をもつ。

    (3.33)

    有間皇子 が どう し て も そこ から 逃れる こと の でき なかっ た 悲運

    FRAG NP;{MISFORTUNE} IP-REL PP-SBJ NP NPR 有間皇子 P-ROLE PP-SCON-CND IP-ADV ADVP-CMPL WADV どう VB P-CONN P-OPTR PP-OB1 NP IP-EMB PP NP *T* P-ROLE *** PP NP;{MISFORTUNE} PRO そこ P-ROLE から VB 逃れる N こと P-ROLE VB でき NEG なかっ AXD N 悲運
            [7_misc_EXAMPLE2]

    1.8.1.5   所有代名詞

    「この」「その」「あの」等の指示詞は,所有代名詞と決定詞(determiner)の両方の働きをしうる。 所有代名詞の用法においては,適当なソート情報を付けることが必要である。 それらの指示詞の統語的な分布のため,ソート情報は品詞タグDに直接付ける必要がある。 所有代名詞用法は,「その他」「その後」「その残り」のように, 関係的名詞(relational noun)に付加されたときに最もはっきりと見いだすことができるが, それ以外の例も見つかる:

    (1.98)

    義姫 が 実家 の 山形城 へ 突如 出奔 し た の は この 4 年 後 で ある こと が 一 次 史料 から すでに 明らか に なっ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP IP-REL NP-TMP *T* PP-SBJ NP NPR 義姫 P-ROLE PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 実家 AX NPR 山形城 P-ROLE ADVP ADV 突如 VB 出奔 VB0 AXD N P-OPTR NP-PRD D;{JAPAN_KOREA_INVASION} この NUMCLP NUM 4 CL N AX VB2 ある N こと P-ROLE PP NP NUMCLP NUM CL N 史料 P-ROLE から ADVP ADV すでに IP-SMC-OB1 ADJN 明らか AX VB なっ P-CONN VB2 いる PU
            [45_wikipedia_Datemasamune]
    (1.99)

    家康晩年 の 1616 年 ( 元和 2 年 ) 1 月 23 日 の イギリス商館長 ・ リチャード・コックス の 日記 で は 、 「 風評 によれば 、 戦争 は 今や 皇帝 ( 家康 ) と その 子 カルサ様 ( 松平上総介忠輝 ) と の 間 で 起こら ん と し 、 義父 政宗殿 は 、 カルサ殿 の 後援 を なす べし 云々 」 と 記さ れ て いる 。

    IP-MAT PP NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 家康晩年 AX NUMCLP NUM 1616 CL PRN PUL NP NPR 元和 NUMCLP NUM 2 CL PUR NUMCLP NUM 1 CL NUMCLP NUM 23 CL P-ROLE PP NP PRN NP N イギリス商館長 PU NPR リチャード・コックス P-ROLE N 日記 P-ROLE P-OPTR PU NP-LGS *pro* CP-THT-SBJ NP PUL IP-EMB PP NP N 風評 P-ROLE によれば PU IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP N 戦争 P-OPTR ADVP ADV 今や PP NP PP NP CONJP NP N 皇帝 PRN PUL NP;{IEYASU} NPR 家康 PUR P-CONN NP;{KAZUSA} PRN NP D;{IEYASU} その N NPR カルサ様 PRN PUL NP NPR 松平上総介忠輝 PUR P-CONN P-ROLE N P-ROLE VB 起こら AX P-CONN VB2 PU PP-SBJ NP;{MASAMUNE} PRN NP N 義父 NPR 政宗殿 P-OPTR PU PP-OB1 NP PP NP;{KAZUSA} NPR カルサ殿 P-ROLE N 後援 P-ROLE VB なす MD べし N 云々 PUR P-COMP VB 記さ PASS P-CONN VB2 いる PU
            [187_wikipedia_Datemasamune]

    1.8.1.6   部分量化構文(の一部)

    話題化された全体集合と,量化的な指示表現の間には部分量化の関係が成立するが, これは,次のようにしてアノテートされる: 話題化されたNPに,ダミー助詞(P-ROLE ***)を置き, 指示表現にはダミー属格助詞(PP (NP *pro*) (P *の*))を置く。

    (3.99)

    自分たち は ほとんど が 次男坊 ばかり です から 」

    FRAG PP-SCON IP-ADV PP-TPC NP;{WHOLE} PRO 自分たち P-OPTR P-ROLE *** PP-SBJ NP PP NP;{WHOLE} *pro* P-ROLE *の* Q ほとんど P-ROLE PP-PRD NP N 次男坊 P-OPTR ばかり AX です P-CONN から PUR
            [247_aozora_Hayashida-2015]

    1.8.2   談話上の先行詞

    テクストにおいて,代名詞の先行詞が明に現れていないことがある。 (言語外の)先行詞と照応関係をつくるためには,談話上の先行詞のダミーを設けなければならない。

    (1.101)


            [1_aozora_Joyce-1914]

    これらのダミー先行詞は,後続する代名詞の先行詞として働く。

    (1.102)

    今度 は 彼 に 望み は なかっ た 。

    IP-MAT PP-TMP NP N 今度 P-OPTR PP-SBJ NP;{FLYNN} PRO P-ROLE PP-OB1 NP N 望み P-OPTR ADJI なかっ AXD PU
            [2_aozora_Joyce-1914]

    1.8.3   統語的な曖昧性

    関係する統語構造によっては, ソート情報を利用することで,複数の依存関係の可能性を同時にアノテートする道が開かれる。 例えば,文 「関連産業の集積や教育レベルの向上など波及効果は計り知れず,東日本大震災からの復興にも貢献できると期待される。」 のアノテーションは, (必要な依存関係が正しく計算されることを考慮に入れれば) 少なくとも2通りの可能性がある。 (in progress)

    (1.103)

    関連産業 の 集積 や 教育レベル の 向上 など 波及効果 は 計り知れ ず 、 東日本大震災 から の 復興 に も 貢献 できる と 期待 さ れる 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP;{EFFECTS} PRN PP NP CONJP NP PP NP N 関連産業 P-ROLE N 集積 P-CONN NP PP NP N 教育レベル P-ROLE N 向上 P-OPTR など N 波及効果 P-OPTR VB 計り知れ NEG PU NP-DSBJ;{EFFECTS} *pro* NP-LGS *arb* CP-THT-SBJ IP-SMC PP NP PP NP NPR 東日本大震災 P-ROLE から P-ROLE N 復興 P-ROLE P-OPTR VB 貢献 VB0 できる P-COMP VB 期待 VB0 PASS れる PU
            [41_news_KAHOKU_89]
    (1.104)

    関連産業 の 集積 や 教育レベル の 向上 など 波及効果 は 計り知れ ず 、 東日本大震災 から の 復興 に も 貢献 できる と 期待 さ れる 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP;{EFFECTS_42} PRN PP NP CONJP NP PP NP N 関連産業 P-ROLE N 集積 P-CONN NP PP NP N 教育レベル P-ROLE N 向上 P-OPTR など N 波及効果 P-OPTR VB 計り知れ NEG PU NP-SBJ *pro* CP-THT-ADV IP-SUB NP-SBJ;{EFFECTS_42} *pro* PP NP PP NP NPR 東日本大震災 P-ROLE から P-ROLE N 復興 P-ROLE P-OPTR VB 貢献 VB0 できる P-COMP VB 期待 VB0 VB2 れる PU
            [5_misc_EXAMPLE2]

    1.8.4   複数の指示対象を持つ空代名詞の分裂した先行詞たち(ANT)

    空代名詞が,分裂した複数の先行詞AとBをもって,複数の指示対象を持つような例は少ない。 このような場合,先行詞それぞれにソート情報を付加し(例:(NP;{aaa} (N A)); (NP;{bbb} (N B)),等), 代名詞のソート情報のところで,それらのソート情報を+を用いて結合し, (例:e.g., (NP;{aaa+bbb} *pro*)) 代名詞に先行して,以下のダミー先行詞を代名詞の直前に新たに設けることにする:

      (ANT;{aaa+bbb} *)
    (1.105)

    仙台市 に 拠点 を 置く チーム の 担当記者 が 「 見 た スポーツ の 力 」 、 福島県 から 宮城 、 岩手 両県 の 沿岸支局 に 転勤 し た 記者 が 「 福島 と 津波被災地 と 」 を テーマ に 思い を つづっ た 。

    IP-MAT IP-ADV-SCON IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP;{REPORTER1} PP NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP NPR 仙台市 P-ROLE PP-OB1 NP N 拠点 P-ROLE VB 置く N チーム P-ROLE N 担当記者 P-ROLE NP-OB1 PUL IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ;{REPORTER1} *pro* VB AXD PP NP N スポーツ P-ROLE N PUR PU PP-SBJ NP;{REPORTER2} IP-REL NP-SBJ *T* PP NP NPR 福島県 P-ROLE から PP NP PP NP NML CONJP NP NPR 宮城 PU NP NPR 岩手 PRN NP;* Q 両県 P-ROLE N 沿岸支局 P-ROLE VB 転勤 VB0 AXD N 記者 P-ROLE PP-DOB1 NP PUL CONJP NP NPR 福島 P-CONN NP N 津波被災地 P-CONN PUR P-ROLE IP-SMC-OB1 NP-PRD N テーマ AX ANT;{REPORTER1+REPORTER2} * NP-SBJ;{REPORTER1+REPORTER2} *pro* PP-OB1 NP N 思い P-ROLE VB つづっ AXD PU
            [9_misc_EXAMPLE2]

    1.8.5   複数の指示対象を持つ先行詞とその下位集合を指す空代名詞

    複数の指示対象持つ先行詞(例:(NP;{TWINS} 双子))は, その一部を指示するような,音型のない照応表現を照応関係を持つことがあるが, これは,2つのダミー構成素を,先行詞の隣に導入することでアノテートされる。 ひとつ目は,*pro*であり,先行詞たるNPと同じソート情報を持たされる。

      (PP (NP;{TWINS} *pro*)
          (P *e.*))

    2つ目は,指示対象を分裂させるような操作を表す,ダミー構成素である。

      (PP (NP (CONJP (NP;{JOHN} (D *)))
              (NP;{MARY} (D *)))
          (P-ROLE ***))

    以上の2つののダミー構成素は,一緒になって, 先行詞(NP;{TWINS} 双子)と, 空の照応表現(例えば,(NP;{JOHN} *pro*))とを 結びつける役割を果たす。

        以下の例は,同じテクニックを持って,主要部内在型関係節のアノテーションを 行っている。先行詞「二人」の指示対象が分割され, その一部が指示表現と関連付けれられている。

    (1.106)

    警官 が 泥棒 を 追いかけ て い た の が 二人 共 川 に 落ち た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL PP NP *T* P-ROLE *.e* PP NP CONJP NP;{POLICEMAN} D * NP;{THIEF} D * P-ROLE *** PP NP;{POLICEMAN} *pro* P-ROLE *.e* PP-SBJ NP N 警官 P-ROLE PP NP;{THIEF} *pro* P-ROLE *.e* PP-OB1 NP N 泥棒 P-ROLE VB 追いかけ P-CONN VB2 AXD N P-ROLE NP;*SBJ* NUMCLP NUM 二人 Q PP NP N P-ROLE VB 落ち AXD PU
            [40_misc_BUFFALO]

    1.8.6   橋渡し推論

    橋渡し推論とは,談話中に現れる2つの言語表現の指示対象について, 談話に陽に現れていない関係性を推論するものである(Asher and Lascarides 2003)。 例えば,談話「太郎はあるレストランに行った。ウェイターの態度に不満を抱いた」において, 「ウェイター」の指示対象は,「レストラン」の指示対象であるところのレストランの従業員である, という読みが自然である。この読みにおいて,従業員関係は談話に陽に現れていないが, 我々はそれを普通,読み取るのである。 こういった,情報状態がかかっているような場合を記述するためのアノテーションがある。

        以下の二つの例文は橋渡し推論が生じる談話を形作る。 つまり「代表的な例」の照応が 前の文の「童話など」に依存する。 こうした橋渡し推論が生じた場合,後ろのNPを,空の前置詞節(PP (NP *pro*) (P *の*))で修飾する。 さらに,その空の代用表現と先行詞を,適当なソート情報で束縛しておく。

    (1.107)

    童話 など に も 数多く 登場 し 、 多く は 主人公 に 倒さ れる 。

    IP-MAT NP-SBJ;{ONI} *pro* IP-ADV-CONJ PP NP;{ONI_FAIRY_TALES} N 童話 P-OPTR など P-ROLE P-OPTR NP;*SBJ* Q 数多く VB 登場 VB0 PU PP;*SBJ* NP Q 多く P-OPTR PP-LGS NP N 主人公 P-ROLE VB 倒さ PASS れる PU
            [61_wikipedia_KYOTO_13]
    (1.108)

    代表的 な 例 として は 、 一寸法師 、 桃太郎 など が あげ られる 。

    IP-MAT NP-LGS *arb* PP NP PP NP;{ONI_FAIRY_TALES} *pro* P-ROLE *の* IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 代表的 AX N P-ROLE として P-OPTR PU PP-SBJ NP;{ONI_EXTERMINATION} CONJP NP NPR 一寸法師 PU NP NPR 桃太郎 P-OPTR など P-ROLE VB あげ PASS られる PU
            [62_wikipedia_KYOTO_13]



    Chapter 2
    助詞(P)


    2.1   はじめに

    本章では助詞(後置詞とも)のふるまいを記述するためのアノテーションについて詳述する。 助詞には P というタグが与えられ、それに何らかの拡張タグ(-ROLE, -CONN, -COMP, -FINAL, -OPTR)が必ず付く。 助詞は,典型的には名詞句や節に付加され,さまざまな機能を果たす。 アノテーションのために助詞は次のようなタイプに分類することができる。

    同一の音形を持つ助詞が同一のグループの中で複数の機能または役割を果たすことがある。 例えば,主要文法役割を表示する助詞の中では,「に」は主語(-SBJ),第二主語(-SBJ2),論理的主語(-LGS),第一目的語(-OB1),および第二目的語(-OB2)を示すことができる。 また,同一の音形を持つ助詞が複数のグループに現れることがある。 例えば,「と」は主要文法役割を示す格助詞(P-ROLE),任意文法役割を示す格助詞(P-ROLE),条件節を作る接続助詞(P-CONN),および補部節を導く助詞(P-COMP)のいずれのグループにも現れる。 逆に,同じグループで同じ機能をもつ助詞が複数の音形をもつこともある。

        なお,「格助詞」という用語は,主要文法役割か任意文法役割を担う助詞という意味で用いることにする。 本アノテーションではこの二つのグループはいずれも P-ROLE のタグを取る。


    2.2   複合助詞

    いくつかの語が連語となって助詞としての機能を果たす場合,それは単一の独立した助詞 P としてラベル付けされる。 このような複合助詞の多くは,BCCWJ および CSJ の解析に従ってチャンキングを行ったものである。 むろん,それらの中には1つまたはそれ以上の構成要素が語彙素として機能していることがありうる。 そのような場合,単位分割の修正は手で行う必要がある。

        コーパスは,60以上の数の複合助詞が認められる。 以下に,そのうちの比較的頻度の高いものを示す。

  • との, という, というより, といった, と同時に, において, におきまして, における, にかけて, にして, にしても, について, につきまして, につれて, にとって, にむけて, にむけた, にもかかわらず, によって, によると, によれば, にわたって, に係る, に向けて, に対し, に対して, に対する, に関して, に関する, をもって, を以て, を通して, を通じて までも, ものの
  •     例えば,複合助詞「によって」は,受動文における論理的主語 -LGS を示すのに用いられる。

    (2.1)

    この デザイン画 は 平山 によって 渡邊専務 に もたらさ れ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{DESIGN} D この N デザイン画 P-OPTR PP-LGS NP NPR 平山 __P-ROLE によって PP-OB2 NP NPR 渡邊専務 P-ROLE VB もたらさ PASS AXD PU
            [60_wikipedia_Kamen_Rider@14]

        次の例では,複合助詞「について」が任意文法役割を示している。

    (2.2)

    モーセ は 、 わたし について 書い た の で ある 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP NPR モーセ P-OPTR PU PP NP;{JESUS} PRO わたし __P-ROLE について VB 書い AXD FN AX VB2 ある PU
            [390_bible_nt@16]

    しかし,次の例では,「について」は複合助詞ではなく,動詞を含む語列として分析される。

    (2.3)

    彼 は 新しい 仕事 に つい て 、 まるで 生き返っ た よう だ .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR IP-ADV-SCON PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 新しい N 仕事 ___P-ROLE __VB つい ___P-CONN PU ADVP ADV まるで NP-PRD IP-EMB VB 生き返っ AXD N よう AX PU
            [134_dict_vv-lexicon@20,18,22]

    上記の2つの例における「について」の違いは,「つく」という語の表す意味が全く異なっているという点で明らかである。

        「につれて」は (2.4) では複合助詞として,(2.5) では助詞と動詞の連続として分析される。 複合助詞の「につれて」はほぼすべての場合に述語に後続するため,この違いの判断も難しくはない。

    (2.4)

    経済 が 発展 する につれて 、 社会 の 矛盾 も 拡大 し て き た 。

    IP-MAT PP-SCON IP-ADV PP-SBJ NP N 経済 P-ROLE VB 発展 VB0 する __P-CONN につれて PU PP-SBJ NP PP NP N 社会 P-ROLE N 矛盾 P-OPTR VB 拡大 VB0 P-CONN VB2 AXD PU
            [1196_textbook_kisonihongo@14]
    (2.5)

    ディズニーランド に 連れ て 行か れ まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MAN_43} *pro* PP NP N ディズニーランド ___P-ROLE __VB 連れ ___P-CONN VB2 行か VB2 AX まし AXD PU
            [6_misc_EXAMPLE2@10,8,12]

        複合助詞「にむけて・にむけた」についてはより難しい判断が必要である。 例えば (2.6) では, 「むけ(向け)」が,項として主語と目的語と着点を表す項を取るかどうかという点が判断の基準になる。 述語として完全な項構造を持たなければ複合助詞「にむけて・にむけた」とする。

    (2.6)

    「 国際交渉 に向け 日本政府 の 意思表示 が 必要 だ 」 と 国 が 早期 に 誘致 を 決断 する よう 訴え た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{EVANS} *pro* CP-THT-OB1 IP-SUB PUL NP-SBJ;{CORPORATION} *pro* PP NP N 国際交渉 __P-ROLE に向け PP-OB1 NP PP NP N 日本政府 P-ROLE N 意思表示 P-ROLE ADJN 必要 AX PUR P-COMP NP-ADV IP-EMB PP-SBJ NP N P-ROLE PP NP N 早期 P-ROLE PP-OB1 NP N 誘致 P-ROLE VB 決断 VB0 する N よう VB 訴え AXD PU
            [19_news_KAHOKU_89@14]

    2.3   主要文法役割を示す格助詞(P-ROLE):が,を,に,と,の,等

    主要文法役割を表示する格助詞(P-ROLE)は述語の項となる助詞句(PP)を投射する。 主要文法役割と助詞の間に一対一の対応関係があるわけではない。 そのため,アノテーションの際には基本ラベル PP に項の文法役割を示すための拡張ラベルを付加した, PP-SBJ,PP-OB1,PP-OB2,PP-CMPL,PP-SBJ2,PP-LGS,PP-CZZ のいずれかが使われる。例えば,「が」を伴う助詞句が PP-SBJ とラベルを与えられていれば,それは主語の文法役割を持つことを示す。

        以下の例では,「が」が主語(-SBJ)を,「を」が第一目的語(-OB1)を,「に」が第二目的語(-OB2)を示している。

    (2.7)

    それ が 私 に 何とやら 奇妙 な 感じ を 与え た の で ある 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP PRO それ __P-ROLE ___PP-OB2 NP PRO ___P-ROLE ADVP ADV 何とやら ___PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 奇妙 AX N 感じ ___P-ROLE VB 与え AXD FN AX VB2 ある PU
            [39_aozora_Edogawa-1929@6,2,12,8,28,17]

    2.3.1   「が」

    格助詞「が」は多く場合,主語(-SBJ)を表示する。 ただし,「に」等,他の格助詞によって主語が表示されることもある(2.3.3 節,2.3.9 節を参照)。 とりわけ,名詞修飾節では主語が「の」によって表示されることがある(2.3.5 節を参照)。

        一方で,格助詞「が」は主語以外の文法役割を表示する際にも用いられる。 以下に挙げるような述語では,第一目的語(-OB1)を表示する。 ただし,同じ述語であっても当該の文法役割が他の格助詞によって表示されることがしばしばありうる。 例えば,能力を表す述語の第一目的語が「が」ではなく,「を」を伴うこともある。

    (2.8)

    太郎 は 財産 が ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{TARO_282} NPR 太郎 P-OPTR PP-OB1 NP N 財産 __P-ROLE ___VB ある PU
            [282_textbook_kisonihongo@12,14]
    (2.9)

    スミスさん は 中国語 が 分かる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR スミスさん P-OPTR PP-OB1 NP N 中国語 __P-ROLE ___VB 分かる PU
            [64_textbook_djg_gram_terms@12,14]
    (2.10)

    救急車 が 必要 です か 。

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-OB1 NP N 救急車 __P-ROLE ___ADJN 必要 ___AX です P-FINAL PU
            [740_textbook_TANAKA@9,11,13]
    (2.11)

    私 は 虫 が 嫌い です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-OB1 NP N __P-ROLE ___ADJN 嫌い AX です PU
            [31_textbook_purple_basic@12,14]
    (2.12)

    おしぼり が 欲しい の です 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N おしぼり __P-ROLE ___ADJI 欲しい FN AX です PU
            [363_textbook_TANAKA@8,10]

        格助詞「が」は,「二重主語文」における第二主語(-SBJ2)を表示することもある。

    (2.13)

    象 は 鼻 が 長い 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N P-OPTR ___PP-SBJ2 NP N __P-ROLE ___ADJI 長い PU
            [3_misc_EXAMPLE@12,8,14]

    2.3.2   「を」

    格助詞「を」は主要文法役割としては第一目的語(-OB1)を表示する。 本アノテーションでは,いわゆる対象項だけでなく,「出る,降りる,発つ,出発する,離れる,やめる,卒業する」等の出離を表す動詞の起点を表す項,「歩く,走る,ジョギングする,旅行する,飛ぶ,通る,渡る,行く,来る」等の移動動詞の経路を表す項,「過ごす,明かす,暮らす」等の時間的経過を表す動詞に対する期間を表す項も,第一目的語(-OB1)として分析することにする。

    (2.14)

    午前 6 時 に 家 を 出 まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-TMP NP N 午前 NUMCLP NUM 6 CL P-ROLE ___PP-OB1 NP N __P-ROLE ___VB ___AX まし ___AXD PU
            [71_textbook_purple_intermediate@19,15,21,23,25]
    (2.15)

    私たち は ショッピングセンター を ぶらぶら 歩い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 私たち P-OPTR ___PP-OB1 NP N ショッピングセンター __P-ROLE ADVP ADV ぶらぶら ___VB 歩い ___AXD PU
            [188_textbook_TANAKA@12,8,17,19]
    (2.16)

    私たち は トランプ を し ながら 楽しい 時間 を 過ごし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 私たち P-OPTR IP-ADV-SCON ___PP-OB1 NP N トランプ __P-ROLE VB P-CONN ながら ___PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 楽しい N 時間 ___P-ROLE ___VB 過ごし ___AXD PU
            [534_textbook_TANAKA@13,9,19,28,30,32]

        ただし,移動動詞が経路の助詞句と共起していない場合, それにあたる第一目的語をゼロ代名詞としてアノテーションすることは, 文脈が必要としない限り, 必要ではない。

    (2.17)

    ビル は ベルリン に 車 で 行っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ビル P-OPTR PP NP NPR ベルリン __P-ROLE PP NP N ___P-ROLE ___VB 行っ ___AXD PU
            [1185_misc_JSeM_beta_150530@12,18,20,22]

        また,時間的経過を表す動詞に対する期間を表す名詞句は,「を」を伴わずに裸で現れることがある。 この場合には,期間を表す名詞句は,NP-OB1 とラベルを付ける積極的な理由がなければ,NP-MSR とラベル付けすることとなる(拡張タグ -MSR については,1.7.2 節を参照)。

    (2.18)

    何 を する か と 言う と 誰 か の 家 で 1 週間 過ごし ます

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *exp* CP-THT-OB1 CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP WPRO P-ROLE VB する P-FINAL P-COMP VB 言う P-CONN PP NP PP NP WPRO P-OPTR P-ROLE N P-ROLE __NP-MSR NUMCLP NUM CL 週間 VB 過ごし AX ます
            [96_ted_talk_10@43]

        格助詞「を」は稀に,ひとつの節の中に二度現れることがある。 このような構文(二重ヲ格構文)における「を」のアノテーションについては 6.8 節で取り上げる。

    2.3.3   「に」

    格助詞「に」は授受動詞を代表例とする多くの三項述語(やる,あげる,もらう,くれる,与える,貸す,借りる,渡す,届ける,贈る,提出する,聞く,教える,伝える,たずねる,報告する,命じる,相談する,紹介する,等)の第二目的語(-OB2)を表示する((2.7) を参照)。 次の例では,第二目的語が「に」によって示されており,第一目的語はゼロ代名詞 *pro* によって表されている。

    (2.19)

    そこで 彼ら は 、 もう 一 度 この 盲人 に 聞い た 、

    IP-MAT ___NP-OB1 *pro* CONJ そこで PP-SBJ NP;{PHARISEES} PRO 彼ら P-OPTR PU NP-MSR ADVP ADV もう NUMCLP NUM CL ___PP-OB2 NP;{MAN_BLIND} D この N 盲人 __P-ROLE ___VB 聞い ___AXD PU
            [786_bible_nt@29,2,23,31,33]

        所有(ある,いる,ない,等),能力・知覚(できる,分かる,見える,聞こえる,等),必要(必要だ,不要だ,要る,等),感情(うれしい,悲しい,等)を表す述語では,主語(-SBJ)は格助詞「に」によって表示されうる。 このような述語は,第一目的語を「が」で表示するものと重なっている(2.3.1 節を参照)。

    (2.20)

    実 を いう と 、 私 に も その 理由 は わから ない 。

    IP-MAT PP-SCON-CND IP-ADV PP-OB1 NP N P-ROLE VB いう P-CONN PU PP-SBJ NP;{SPEAKER_129} PRO __P-ROLE P-OPTR PP-OB1 NP;{REASON_129} D その N 理由 P-OPTR ___VB わから ___NEG ない PU
            [129_textbook_kisonihongo@20,32,34]

        二項述語において主語以外の項は原則として第一目的語(-OB1)とする。 したがって,第一目的語が「に」で表示されることもある。 以下にいくつかの典型的な場合を挙げる。

    (2.21)

    その 手 に さわっ た 革財布 。

    FRAG NP-ADV;{ELDER_WALLET} IP-REL NP-SBJ *T* ___PP-OB1 NP D;{ELDER} その N __P-ROLE ___VB さわっ ___AXD N 革財布 PU
            [47_aozora_Kunieda-1925@12,6,14,16]
    (2.22)

    犬 が 飼い主 に 甘える

    IP-MAT PP-SBJ NP N P-ROLE ___PP-OB1 NP N 飼い主 __P-ROLE ___VB 甘える
            [202_dict_pth_i@12,8,14]
    (2.23)

    私 は ハタと ある 事 に 気がつい た の です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR ADVP ADV ハタと ___PP-OB1 NP D ある N __P-ROLE ___VB 気がつい ___AXD FN AX です PU
            [268_aozora_Edogawa-1929@17,11,19,21]
    (2.24)

    彼女 は 経営者 に ふさわしい

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR ___PP-OB1 NP N 経営者 __P-ROLE ___ADJI ふさわしい
            [768_dict_pth_u@12,8,14]

        「(て)もらう」構文や「(て)ほしい」構文における動作主は「に」によって表示されるが, このような「に」の投射する助詞句は PP-DOB1 (派生された第一目的語)とラベル付けされる。 これらの構文では,述語に先行する小節(IP-SMC-OB1)が「に」の付加された第一目的語(-DOB1)によってコントロールされる (「(て)ほしい」構文については 4.8 節を参照のこと)。

    (2.25)

    文章 に する とき は さ 、 ワトスン 、 兎 に 働い て もらう ん だ ね 」

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ;{WATSON} *hearer* PP NP IP-EMB NP-OB1;{INCIDENT} *pro* IP-SMC-CNT NP-PRD N 文章 AX VB する N とき P-OPTR P-INTJ PU NP-VOC;{WATSON} NPR ワトスン PU ___PP-DOB1 NP N __P-ROLE ___IP-SMC-OB1 VB 働い P-CONN ___VB もらう FN AX P-FINAL PUR
            [784_aozora_Doyle-1905@35,31,37,42]
    (2.26)

    みなさん に は 、 限りある 時間 で 助け 合い 、 命 を 守る すべ を さまざま な 視点 で 考え て ほしい 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* ___PP-DOB1 NP Q みなさん __P-ROLE P-OPTR PU ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP IP-EMB NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ PP NP PNL 限りある N 時間 P-ROLE VB 助け VB2 合い PU PP-OB1 NP N P-ROLE VB 守る N すべ P-ROLE PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN さまざま AX N 視点 P-ROLE VB 考え ___P-CONN ___ADJI ほしい PU
            [78_news_KAHOKU_112@8,4,14,62,64]

        また,「に」は受動文の論理的主語を表示することもある。その場合,「に」の投射する助詞句は PP-LGS とラベル付けされる。

    (2.27)

    ジョン は 先生 に しから れ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ジョン P-OPTR ___PP-LGS NP N 先生 __P-ROLE VB しから PASS AXD PU
            [22_misc_BUFFALO@12,8]

        「に」の投射する助詞句が動詞「する・なる」の項となり, かつその助詞句が他の項の述語と見なせない場合, PP-CMPLとラベル付けされる。 (助詞句が述語と見なせるケースについては4.6 節を参照)。

    (2.28)

    日本人 が 働き者 だ という こと を 我々 は よく 耳 に する 。

    IP-MAT PP-OB1 NP CP-THT IP-SUB PP-SBJ NP N 日本人 P-ROLE NP-PRD N 働き者 AX P-COMP という N こと P-ROLE PP-SBJ NP PRO 我々 P-OPTR ADVP ADV よく ___PP-CMPL NP N __P-ROLE ___VB する PU
            [111_textbook_TANAKA@36,32,38]
    (2.29)

    - 過去 の 大災害 で の 支援活動 を通して 、 参考 に なる 事例 は 。

    CP-QUE SYM IP-SUB PP NP PP NP PP NP N 過去 P-ROLE N 大災害 P-ROLE P-ROLE N 支援活動 P-ROLE を通して PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ___PP-CMPL NP N 参考 __P-ROLE ___VB なる N 事例 P-OPTR PU
            [90_news_KAHOKU_65@36,32,38]

    さらに,格助詞「に」は任意文法役割の表示に用いられることもある(2.4 節で取り上げる)。 ただし,「に」の表示する主要文法役割と任意文法役割の違い,言い換えれば -OB1 や -OB2 としての機能と付加詞としての機能とは区別しがたいことがある。 また,同一の動詞であっても,「当たる」のように「に」によって表示された -OB1 を伴うこと(例:役目に当たった)もあるし,伴わないこと(例:宝くじが当たった)もある。

    2.3.4   「と」

    格助詞「と」は「似る」「会う」「喧嘩する」「デートする」「いちゃつく」といった述語の第一目的語(-OB1)を表示する。

    (2.30)

    彼女 と は 、 去年 会っ た きり 、 手紙 も 出し て い ない 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-SCON IP-ADV ___PP-OB1 NP PRO 彼女 __P-ROLE P-OPTR PU NP-TMP N 去年 ___VB 会っ ___AXD P-OPTR きり PU PP-OB1 NP N 手紙 P-OPTR VB 出し P-CONN VB2 NEG ない PU
            [369_textbook_particles@10,6,19,21]
    (2.31)

    だって 彼女 は いつも 風 と いちゃつい てる ん だ から 」

    FRAG PP-SCON IP-ADV CONJ だって PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR ADVP-MSR ADV いつも ___PP-OB1 NP N __P-ROLE ___VB いちゃつい ___VB2 てる FN AX P-CONN から PUR
            [37_aozora_Yuki-1-2000@19,15,21,23]

        こういった述語の多くは相互性を持ち,主語要素が複数性を示すときには項構造が飽和される。

    (2.32)

    ヘプバーン は 「 私 と ユベール は よく 似 て い ます 。 好み が 同じ な の です 」 と 語っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ヘプバーン P-OPTR ___CP-THT-OB1 multi-sentence PUL IP-MAT PP-SBJ NP CONJP NP PRO ___P-CONN NP NPR ユベール P-OPTR ADVP ADJI よく VB P-CONN VB2 AX ます PU IP-MAT PP-SBJ NP N 好み P-ROLE ADJN 同じ AX FN AX です PUR __P-COMP VB 語っ P-CONN VB2 いる PU
            [362_wikipedia_Audrey_Hepburn@56,8,19]

        「と」はまた,相互性を表す三項述語の第二目的語(-OB2)を表示する。

    (2.33)

    彼 は 、 弟 と 一 等 賞 を 競り 合っ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PU ___PP-OB2 NP N __P-ROLE PP-OB1 NP NUMCLP NUM CL N P-ROLE VB 競り VB2 合っ AXD PU
            [1431_dict_vv-lexicon@14,10]

        「と」の投射する助詞句が動詞「する・なる」等の項となり, かつその助詞句が他の項の述語と見なせない場合, PP-CMPLとラベル付けされる。 (助詞句が述語と見なせるケースについては4.6 節を参照)。

    (2.34)

    英雄 を 襲う の は 、 黒々 と し た 死 の 闇 で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP N 英雄 P-ROLE VB 襲う N P-OPTR PU NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ___ADVP-CMPL ADV 黒々 __AX ___VB ___AX PP NP N P-ROLE N AX VB2 ある PU
            [19_book_excerpt-52@28,25,30,32]
    (2.35)

    一体 支那人 は いざ と なる と 、 覚悟 が 好い 。

    IP-MAT ADVP ADV 一体 PP-SBJ NP N 支那人 P-OPTR PP-SCON-CND IP-ADV ___PP-CMPL ADVP ADV いざ __P-ROLE ___VB なる P-CONN PU PP-SBJ2 NP N 覚悟 P-ROLE ADJI 好い PU
            [179_aozora_Mori-1912@17,13,19]

        「名付ける」や「呼ぶ」といった命名の動詞と共に用いられる助詞「と」は,補文助詞(P-COMP)として扱われることに注意されたい( 2.7.3 節を参照)。

    2.3.5   「の」

    名詞修飾節の主語(-SBJ)は多くの場合「が」によって表示されるが,「の」がその代わりに使われることがある。

    (2.36)

    これ は 、 わが 社 の 開発 し た 最新型 の ワープロ です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{STUFF_898} PRO これ P-OPTR PU NP-PRD IP-REL NP-OB1 *T* ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_899} NP-POS PRO わが N __P-ROLE VB 開発 VB0 AXD PP NP N 最新型 P-ROLE N ワープロ AX です PU
            [899_textbook_kisonihongo@21,14]
    (2.37)

    私 の 知ら ぬ お名前 で あっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{INDUSTRY_POST_SAMPLE_SENDER} *pro* NP-PRD IP-REL NP-OB1 *T* ___PP-SBJ NP;{DAZAI} PRO __P-ROLE VB 知ら NEG N お名前 AX VB2 あっ AXD PU
            [17_aozora_Dazai-1-1940@12,8]

        先に述べたとおり,「が」は第一目的語(-OB1)の表示にも用いられる(2.3.1 節を参照)。 名詞修飾節では,このような第一目的語を表示する「が」に代わって,「の」が使われることもある。

    (2.38)

    高価 な 物品 を 購う こと の でき ない 者たち は 、 草鞋 を 作っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ___PP-OB1 NP IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 高価 AX N 物品 P-ROLE VB 購う N こと __P-ROLE VB でき NEG ない N 者たち P-OPTR PU PP-OB1 NP N 草鞋 P-ROLE VB 作っ P-CONN VB2 いる PU
            [44_aozora_Hayashida-2015@29,7]

    2.3.6   論理的主語(-LGS)を表示する格助詞

    直接受動文における論理的主語(-LGS)を表示する最も一般的な格助詞は「に」である(例 (2.27) を参照)。 コーパスには他にも,格助詞「によって」「により」「から」「より」「で」等の助詞によって論理的主語が表示された例が見られる。

    (2.39)

    東大寺 は 745 年 に 聖武天皇 によって 建て られ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 東大寺 P-OPTR PP NP NUMCLP NUM 745 CL P-ROLE ___PP-LGS NP NPR 聖武天皇 __P-ROLE によって VB 建て PASS られ AXD PU
            [138_textbook_purple_intermediate@21,17]
    (2.40)

    本山 は 、 足利義満 により 建立 さ れ た 京都 の 相国寺 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 本山 P-OPTR PU NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ___PP-LGS NP NPR 足利義満 __P-ROLE により VB 建立 VB0 PASS AXD PP NP NPR 京都 P-ROLE NPR 相国寺 AX * PU
            [113_wikipedia_KYOTO_2@18,14]
    (2.41)

    ワシントン の 桜 は 、 1912 年 に 日本 から 贈ら れ まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP NPR ワシントン P-ROLE N P-OPTR PU PP NP NUMCLP NUM 1912 CL P-ROLE ___PP-LGS NP NPR 日本 __P-ROLE から VB 贈ら PASS AX まし AXD PU
            [142_textbook_purple_intermediate@29,25]
    (2.42)

    質疑 を 終わり まし た ところ 、 日本共産党 を 代表 し て 西山委員 より 修正案 が 提出 さ れ まし た 。

    IP-MAT NP-ADV IP-EMB NP-SBJ *speaker+pro* PP-OB1 NP N 質疑 P-ROLE VB 終わり AX まし AXD N ところ PU IP-ADV-SCON PP-OB1 NP NPR 日本共産党 P-ROLE VB 代表 VB0 P-CONN ___PP-LGS NP N 西山委員 __P-ROLE より PP-SBJ NP N 修正案 P-ROLE VB 提出 VB0 PASS AX まし AXD PU
            [149_diet_kaigiroku-17@39,35]
    (2.43)

    ああ 、 この 土地 の 南 も 北 も 、 皆 敵 で 埋め 尽くさ れ て いる

    IP-MAT INTJ ああ PU NP-SBJ PP NP D この N 土地 P-ROLE NML CONJP NP N P-CONN NP N P-CONN PU NP;*SBJ* Q ___PP-LGS NP N __P-ROLE VB 埋め VB2 尽くさ PASS P-CONN VB2 いる
            [356_aozora_Hayashida-2015@36,32]

    2.3.7   被使役者(-CZZ)を表示する格助詞

    使役文における被使役者(-CZZ)を表示する最も一般的な格助詞は「に」および「を」である (例 (2.44) および (2.45) を参照)。 コーパスには他にも,格助詞「から」「において」「に対し」「に対して」「について」「へ」「をして」等の 助詞によって被使役者が表示された例が見られる。

    (2.44)

    これ は 神 の 子たち が 人 の 娘たち の ところ に はいっ て 、 娘たち に 産ま せ た もの で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO これ P-OPTR NP-PRD IP-REL PP-SBJ NP PP NP N P-ROLE N 子たち P-ROLE IP-ADV-CONJ PP NP PP NP PP NP N P-ROLE N 娘たち P-ROLE N ところ P-ROLE VB はいっ P-CONN PU ___PP-CZZ NP N 娘たち __P-ROLE NP-OB1 *T* VB 産ま VB2 AXD N もの AX VB2 ある PU
            [163_bible_ot@51,47]
    (2.45)

    わたし は 、 その 人々 を 終り の 日 に よみがえら せる であろう 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO わたし P-OPTR PU ___PP-CZZ NP;{PEOPLE} D その N 人々 __P-ROLE PP NP PP NP N 終り P-ROLE N P-ROLE VB よみがえら VB2 せる MD であろう PU
            [468_bible_nt@16,10]
    (2.46)

    独裁者 が 部族 に対し その 降伏条件 に 無理矢理 同意 さ せ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 独裁者 P-ROLE ___PP-CZZ NP N 部族 __P-ROLE に対し PP-OB1 NP D その N 降伏条件 P-ROLE ADVP ADV 無理矢理 VB 同意 VB0 VB2 AXD PU
            [298_textbook_TANAKA@12,8]
    (2.47)

    しかるに 女子解放運動 は 、 女子 を して その 母性 を 失わ しめる から 宜《よろし》く ない 。

    IP-MAT;{CRITICISING_WOMENS_EMANCIPATION_MOVEMENT_2} CONJ しかるに PP-SBJ NP;{WOMENS_EMANCIPATION_MOVEMENT} N 女子解放運動 P-OPTR PU PP-SCON IP-ADV ___PP-CZZ NP;{WOMEN} N 女子 __P-ROLE ___P-ROLE して PP-OB1 NP;{MATERNITY} D;{WOMEN} その N 母性 P-ROLE VB 失わ VB2 しめる P-CONN から ADJI 宜《よろし》く NEG ない PU
            [66_aozora_Yosano-1921@18,14,20]

    2.3.8   第二目的語(-OB2)を表示する格助詞

    授受動詞等多くの三項述語で,第二目的語は格助詞「に」によって示される(2.3.3 を参照)。 加えて,第二目的語を表示するために用いられている格助詞として,本コーパスでは現在のところ,「から」「に対し」「に対して」が見つかっている。

    (2.48)

    その 家 は 我々 から 光 を 奪っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D その N P-OPTR ___PP-OB2 NP PRO 我々 __P-ROLE から PP-OB1 NP N P-ROLE VB 奪っ AXD PU
            [756_textbook_TANAKA@14,10]
    (2.49)

    なお 、 本件 に対し 附帯決議 が 付さ れ て おり ます 。

    IP-MAT CONJ なお PU NP-LGS *pro* ___PP-OB2 NP N 本件 __P-ROLE に対し PP-SBJ NP N 附帯決議 P-ROLE VB 付さ PASS P-CONN VB2 おり AX ます PU
            [36_diet_kaigiroku-17@12,8]

    2.3.9   主語(-SBJ)および第一目的語(-OB1)を表示するその他の格助詞

    主語や第一目的語の表示には,「が」や「を」のような典型的なもの以外の格助詞が用いられることがある。 以下に,主語を表示する格助詞,第一目的語を表示する格助詞の順に現在のコーパスから得られるリストを挙げておく。

        以下は「から」および「で」が主語(-SBJ)を表示した例である。

    (2.50)

    鈴木さん に は あなた から 伝え て 下さい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-OB1;{MATTER_218} *pro* PP-OB2 NP;{SUZUKI_218} NPR 鈴木さん P-ROLE P-OPTR ___PP-SBJ NP;{HEARER} PRO あなた __P-ROLE から VB 伝え P-CONN VB2 下さい PU
            [218_textbook_kisonihongo@17,13]
    (2.51)

    後 は 私達 で やり ます 。

    IP-MAT PP-TMP NP N P-OPTR ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_MEN_237} PRO 私達 __P-ROLE VB やり AX ます PU
            [237_textbook_kisonihongo@12,8]

        以下は「で」および「について」が第一目的語(-OB1)を表示した例である。

    (2.52)

    彼 の 人生 は 困難 で いっぱい です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP PRO P-ROLE N 人生 P-OPTR ___PP-OB1 NP N 困難 __P-ROLE ADJN いっぱい AX です PU
            [814_textbook_TANAKA@18,14]
    (2.53)

    私 は その 問題 について じっくり 考え た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR ___PP-OB1 NP D その N 問題 __P-ROLE について ADVP ADV じっくり VB 考え AXD PU
            [170_textbook_TANAKA@14,8]

    2.4   任意文法役割を示す格助詞(P-ROLE):の,に,へ,で,から,まで,と,等

    助詞句の中の何を任意的なものとするかという判断は助詞を根拠にして行うだけではなく,述語との関係を見なければならない。 方向を表す「まで」(あるいは文脈によっては「に」)は移動を表す基本的な動詞である「行く」にとっては任意的であるかもしれない。 しかし,「到着する」や「来る」のような動詞については,終点が解釈上必須で,そのためにアノテータは「在来線がとうとう村まで来た」における「まで」を PP-OB1 を投射するものして扱う,といったこともありうる。 また,「へ」も「行く」にとっては任意的かもしれない(以下の (2.56) のように)。 しかし,「向かう」のような述語にとっては主要文法役割をもつ項をマークするものと扱えるかもしれない。 基本動詞の項構造を取り決めたリストがあれば,このような細かな点の多くを解決することができるであろうが,そのようなものが存在しないため,アノテータはこのような問題について細やかに対応することが求められる。

        格助詞(P-ROLE)はそれ自身が文法役割に関する情報を明らかにすることがあるかもしれないが, その役割をより詳しくアノテートすることは,とりわけ助詞が「に」のように多義的なものである場合に役に立つ。 例えば以下の (2.54) には「に」を伴う助詞句が2つあり, 一方は時間的な位置を,もう一方は空間的な位置を示している。 これらの情報は拡張タグ -TMP と -LOC を付加することによって特定することができる。

    (2.54)

    1997 年 に は 仙台市泉区 に ホームスタジアム で ある 仙台スタジアム が 建設 さ れ た 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* ___PP-TMP NP NUMCLP NUM 1997 CL __P-ROLE P-OPTR ___PP-LOC NP NPR 仙台市泉区 ___P-ROLE PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N ホームスタジアム AX VB2 ある NPR 仙台スタジアム P-ROLE VB 建設 VB0 PASS AXD PU
            [194_wikipedia_Sendai_City@11,4,19,15]

    「に」は上記のような時や場所を表示するほかに,移動の着点(例:山に登る),変化の結果(例:日本語に翻訳する),移動の目的(例:釣りに出かける),原因(例:酒に酔う,合格に喜ぶ),割合(例:一日に三度ご飯を食べる),等がある(以上,益岡・田窪 1992,日本語記述文法研究会 2009 を参考にした)。 このうち,移動の目的を示す例については,以下のように,助詞句のラベルとして PP-PRP を与えるものとする。 移動の目的は「に」を伴う節によって示されることも多いが,この場合のアノテーションについては,6.16 節を参照されたい。

    (6.46)

    彼女 の お母さん は 買い物 に 行き まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP PRO 彼女 P-ROLE N お母さん P-OPTR ___PP-PRP NP N 買い物 __P-ROLE VB 行き AX まし AXD PU
            [237_textbook_TANAKA@18,14]

        以上のような拡張タグの付与は,アノテータが個別に判断して行う必要があり,非常な労力を伴うため,現在のコーパスでは網羅的にはなされていない。 以下の任意文法役割を表示する助詞句の例では,このような拡張タグはアノテーションされていない。

    (2.56)

    次 の 日 、 ツバメ は 波止場 へ 行き まし た 。

    IP-MAT NP-TMP PP NP N P-ROLE N PU PP-SBJ NP N ツバメ P-OPTR PP NP N 波止場 __P-ROLE VB 行き AX まし AXD PU
            [205_aozora_Yuki-1-2000@23]
    (2.57)

    爺さん は 酒 の 加減 で なかなか 赤く なっ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 爺さん P-OPTR PP NP PP NP N P-ROLE N 加減 __P-ROLE IP-SMC-OB1 ADVP ADV なかなか ADJI 赤く VB なっ P-CONN VB2 いる PU
            [234_aozora_Natsume-1908@18]
    (2.58)

    ITEL は 1988 年 から 1992 年 まで APCOM を 所有 し て い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{ORG} NPR ITEL P-OPTR PP-MSR NP NUMCLP NUM 1988 CL P-ROLE から __PP-MSR NP NUMCLP NUM 1992 CL P-ROLE まで ___PP-OB1 NP;{ORG} NPR APCOM P-ROLE VB 所有 VB0 P-CONN VB2 AXD PU
            [1778_misc_JSeM_beta_150530@17,26]
    (2.59)

    私 は アンディー と 一緒 に パーティー に 行き まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP NP NPR アンディー __P-ROLE ADVP ADJN 一緒 AX PP NP N パーティー P-ROLE VB 行き AX まし AXD PU
            [329_textbook_djg_basic@12]

    共同動作者を示す「と」は,共起する述語によっては,第一または第二目的語として扱われることに注意されたい(2.3.4 節を参照)。

        助詞「の」の例で最も多く見られるのは「属格」,つまり, ある名詞句ともうひとつの名詞句(主要部)を関係(所有者・所有物,全体・部分,集合・要素,等)づける用法である。

    (2.60)

    私 の 心 は 、 不安 と 期待 に 掻き乱れ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP PRO __P-ROLE N P-OPTR PU PP NP CONJP NP N 不安 P-CONN NP N 期待 P-ROLE VB 掻き乱れ AXD PU
            [710_dict_vv-lexicon@8]
    (2.61)

    日本語 の 勉強 の 時間

    FRAG NP PP NP PP NP N 日本語 __P-ROLE N 勉強 ___P-ROLE N 時間
            [4_misc_EXAMPLE@9,13]

    主要部名詞句が動作を表すとき,「の」の投射する助詞句が上記の例の主語や目的語と同じ意味役割を表すことがある。 例えば,以下の (2.62) と (2.63) において, 「の」でマークされた助詞句はそれぞれ,「決定」の対象(theme)および動作主(agent)を表す。 しかし,これらは述語の項ではないので,文法役割の情報が与えられることはない。

    (2.62)

    どれ を 優先 する か の 決定 は 、 今後 の 課題 だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP CP-QUE IP-SUB NP-SBJ;{MAN_1214} *pro* PP-OB1 NP WPRO どれ P-ROLE VB 優先 VB0 する P-FINAL __P-ROLE N 決定 P-OPTR PU NP-PRD PP NP N 今後 ___P-ROLE N 課題 AX PU
            [1214_textbook_kisonihongo@21,34]
    (2.63)

    4 内閣総理大臣 は 、 ___前項 の 規定 による __閣議 の 決定 が あっ た とき は 、 遅滞 なく 、 基本方針 を 公表 し なけれ ば なら ない 。

    IP-MAT LST NUMCLP NUM PP-SBJ NP N 内閣総理大臣 P-OPTR PU PP-TMP NP IP-EMB PP-SBJ NP PP NP PP NP N ___前項 P-ROLE N 規定 P-ROLE による PP NP N __閣議 P-ROLE N 決定 P-ROLE VB あっ AXD N とき P-OPTR PU IP-ADV-SCON NP-SBJ N 遅滞 ADJI なく PU PP-OB1 NP N 基本方針 P-ROLE VB 公表 VB0 NEG なけれ P-CONN VB2 なら NEG ない PU
            [49_law_h15A119@34,24]

    「の」という形式は,コピュラの連体形として現れることもあるので注意が必要である(4.13.1 節を参照)。

        任意文法役割を表示する格助詞は上記以外にも多くのものがある。 その多くは,いくつかの語が連語となって単一の助詞を作る「複合助詞」である(複合助詞については 2.2 節を参照)。


    2.5   非節的要素の等位接続に現れる接続助詞(P-CONN)

    2つ以上の名詞句(NP)や助詞句(PP),副詞句(ADVP),補部節(CP-THT)等を接続することで形成された 等位接続構造では,要素間に助詞(接続助詞 -- P-CONN)が現れることが多い。 このような接続助詞は接続詞句(CONJP)を投射するものとしてアノテートされる。 このタイプの等位接続を,(CP は節ではあるが)非節的要素の等位接続と呼ぶことにする。

    (2.64)

    鈴木さん と 高津さん が 協議 し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP ___CONJP ___NP;{SUZUKI_317} NPR 鈴木さん __P-CONN ___NP;{SUZUKI_317} NPR 高津さん P-ROLE VB 協議 VB0 AXD PU
            [317_textbook_kisonihongo@8,4,5,10]
    (2.65)

    スミス か ジョーンズ か アンダーソン が 契約書 に サイン し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP CONJP ___NP NPR スミス __P-CONN CONJP ___NP NPR ジョーンズ ___P-CONN ___NP NPR アンダーソン P-ROLE PP NP N 契約書 P-ROLE VB サイン VB0 AXD PU
            [964_misc_JSeM_beta_150530@8,5,11,14,16]
    (2.66)

    机 や 椅子 を 並べ て 下さい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-OB1 NP CONJP ___NP N __P-CONN ___NP N 椅子 P-ROLE VB 並べ P-CONN VB2 下さい PU
            [894_textbook_kisonihongo@11,8,13]
    (3.127)

    捕り方衆 の 叫び声 が あっち から も こっち から も 聞こえ て 来る 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N 捕り方衆 P-ROLE N 叫び声 P-ROLE PP CONJP ___PP NP PRO あっち P-ROLE から __P-CONN ___PP NP PRO こっち P-ROLE から ___P-CONN VB 聞こえ P-CONN VB2 来る PU
            [5_aozora_Kunieda-1925@22,16,24,30]
    (2.68)

    しかし 運慶 の 方 で は 不思議 と も 奇体 と も とんと 感じ 得 ない 様子 で 一生懸命 に 彫っ て いる 。

    IP-MAT CONJ しかし PP-SBJ NP PP NP NPR 運慶 P-ROLE N P-ROLE P-OPTR IP-ADV-SCON NP-PRD IP-EMB CP-THT-OB1 CONJP CP-THT IP-SUB NP-SBJ *pro* ADJN 不思議 P-COMP __P-CONN ___CP-THT IP-SUB NP-SBJ *pro* ADJN 奇体 P-COMP ___P-CONN ADVP ADV とんと VB 感じ VB2 NEG ない N 様子 AX NP-OB1 *pro* ADVP ADJN 一生懸命 AX VB 彫っ P-CONN VB2 いる PU
            [372_aozora_Natsume-1908@31,33,41]

        また,上記の接続助詞と同じ位置にはさまざまな接続詞(CONJ)が現れうる。

    (2.69)

    近代以降 は 女子 あるいは 成人女性 が 舞う 場合 も 多い 。

    IP-MAT PP-TMP NP N 近代以降 P-OPTR PP-SBJ NP IP-EMB NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP CONJP ___NP N 女子 __CONJ あるいは ___NP N 成人女性 P-ROLE VB 舞う N 場合 P-OPTR ADJI 多い PU
            [78_wikipedia_KYOTO_12@19,16,21]
    (2.70)

    外国語 は 、 楽しく 、 かつ 効果的 に 勉強 し たい 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP N 外国語 P-OPTR PU ADVP CONJP ___ADVP ADJI 楽しく PU __CONJ かつ ___ADVP ADJN 効果的 AX VB 勉強 VB0 AX たい PU
            [193_textbook_djg_advanced@19,14,21]

        非節的要素の等位接続構造のアノテーション方法の詳細は,3.5節を参照されたい。


    2.6   節連結に現れる接続助詞(P-CONN)

    同一(あるいは類似した)タイプの節を連結することで,さまざまな種類の構造が生じうる。 副詞節に関しては従属接続あるいは等位接続という接続があり, 主名詞を共有する複数の名詞修飾節に関しては単純な並列となる (後者については3.2.6.1 節を参照)。

        節連結の環境における接続助詞(P-CONN)には副詞節(IP-ADV)を補部とし,助詞句(PP)を投射するものと, 副詞節の述部に後続する形で副詞節(IP-ADV)の下に置かれるものがある。 前者の場合は,IP-ADV が従属節であれば SCON が,等位節であれば CONJ が PP に拡張タグとして加えられ,PP-SCON,PP-CONJ のようになる(PP-SCON には,従属節が条件を表す場合,拡張タグ CND がさらに加えられ,PP-SCON-CND のようになる)。 後者の場合,拡張タグは IP-ADV に加えられ,IP-ADV-SCON,IP-ADV-CONJ のようになる(従属節が条件を表す場合,拡張タグ CND がさらに加えられ,IP-ADV-SCON-CND のようになる)。 以下では,このような節連結に現れる接続助詞について述べる。 なお,副詞節に付随するコントロール関係に関する議論については 5.3.1 節を,従属節と等位節の区別については 5.1.5.3 節を参照されたい。

    2.6.1   条件を表す従属節に現れる接続助詞(P-CONN)

    接続助詞(P-CONN)によって導かれる副詞節(IP-ADV)が従属節であり,また条件を表すとき,接続助詞の投射する助詞句は,PP-SCON-CND とラベル付けされる。

    (2.71)

    試験 が あまり 難しい と 、 合格者 は 出 ない だろう 。

    IP-MAT ___PP-SCON-CND IP-ADV PP-SBJ NP N 試験 P-ROLE ADVP ADV あまり ADJI 難しい __P-CONN PU PP-SBJ NP N 合格者 P-OPTR VB NEG ない MD だろう PU
            [100_textbook_kisonihongo@15,2]

    ただし,上記の接続助詞が常に条件節を導くわけではないので注意が必要である。 例えば,次の例における「と」は従属節を導いているが,それが条件を表しているわけではない。

    (2.72)

    太郎 が ギター を 弾く と 春子 が 歌っ た 。

    IP-MAT PP-SCON IP-ADV PP-SBJ NP NPR 太郎 P-ROLE PP-OB1 NP N ギター P-ROLE VB 弾く __P-CONN PP-SBJ NP NPR 春子 P-ROLE VB 歌っ AXD PU
            [3_misc_TOPTEN@18]

    また,以下のように,(P-CONN と) が等位節を導く例もある。

    (2.73)

    英語 が 上手 だろう と 下手 だろう と そういう こと は 関係 ない 。

    IP-MAT PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 英語 ___P-ROLE ADJN 上手 AX * MD だろう P-CONN PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *pro* __NP-OB1 *pro* ADJN 下手 AX * ___MD だろう P-CONN PP-SBJ NP D そういう N こと P-OPTR NP-OB1 N 関係 ADJI ない PU
            [639_textbook_djg_advanced@24,10,30]

    「と」はまた,非節的要素の等位接続に現れる接続助詞(P-CONN)として用いられたり,文法役割を表示する格助詞(P-ROLE)として用いられたり,補部節を導く補文助詞(P-COMP)として用いられたりもする。

        「接続助詞(P-CONN)」は,実際の形態的な特性として接尾辞に相当すると考えられる場合には,副詞節(IP-ADV)の終末部に置かれる。その際,拡張タグは IP-ADV に加えられる。この種の接続助詞のうち,条件を表すものとして以下が挙げられる。

    (2.74)

    だって 携帯 の 会社 変え たら アドレス とか 全部 変わる もん ね 。

    CP-FINAL IP-SUB CONJ だって ___IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ *arb* NP-OB1 PP NP N 携帯 P-ROLE N 会社 VB 変え __P-CONN たら PP-SBJ NP N アドレス P-OPTR とか NP;*SBJ* Q 全部 VB 変わる P-FINAL もん P-FINAL PU
            [89_blog_KNB@19,5]
    (2.75)

    まっすぐ に 王城 に 行き着け ば 、 それ で よい の だ 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MELOS} *speaker* ___IP-ADV-SCON-CND;{IP_GOING_STRAIGHT} ADVP ADJN まっすぐ AX PP NP;{CASTLE} N 王城 P-ROLE VB 行き着け __P-CONN PU PP NP;{IP_GOING_STRAIGHT} PRO それ P-ROLE ADJI よい FN AX PU
            [198_aozora_Dazai-2-1940@18,4]
    (5.52)

    ビール は よく 冷え て い て も 飲み たく ない 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_26} *speaker* PP-OB1 NP N ビール P-OPTR ___PP-SCON-CND IP-ADV ADVP ADJI よく VB 冷え P-CONN VB2 ___P-CONN __P-OPTR VB 飲み AX たく NEG ない PU
            [26_misc_EXAMPLE@23,10,21]

        上記のリストに挙げた接続助詞には,条件節を作る用法のほかに,条件節ではない従属節用法(拡張タグ -SCON のみが付加される),さらに接続助詞ではない助詞としての用法もあることに注意されたい。 例えば, (2.77) の「たら」の導く節は従属節ではあるが,条件を表しているわけではない。

    (2.77)

    奇体 だ と 思っ て い まし たら 、 また 腹かけ から 何 か 出し まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* ___IP-ADV-SCON __NP-SBJ *pro* CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ *pro* ADJN 奇体 AX P-COMP VB 思っ P-CONN VB2 AX まし P-CONN たら PU ADVP ADV また PP NP N 腹かけ P-ROLE から NP;*OB1* WPRO P-OPTR VB 出し AX まし AXD PU
            [773_aozora_Miyazawa-1934@7,6]

    接続助詞「ば」も条件を表さない場合がある。 以下は「ば」の導く節が等位節の例である。

    (2.78)

    漆 も 塗っ て なけれ ば 磨き も かけ て ない 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* NP-OB2 *pro* ___IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N P-OPTR VB 塗っ VB2 NEG なけれ __P-CONN PP-OB1 NP N 磨き P-OPTR VB かけ VB2 NEG ない PU
            [292_aozora_Natsume-1908@19,6]

    2.6.2   条件以外の意味を持つ従属節に現れる接続助詞 (P-CONN)

    条件を表す従属節以外にも,従属節は譲歩,逆説,目的,原因,根拠,理由,付加,選択肢,同時や先行といった時間的関係等多様な意味を表す。 接尾辞とされない助詞を伴う場合,このような従属節(IP-ADV)は,拡張タグ -SCON をもつ助詞句(PP)における補部となる。

    (2.79)

    この 論文 は 2 度 読ん で み た けれども 、 理解 でき なかっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP;{PAPER_1171} D この N 論文 P-OPTR ___PP-SCON __IP-ADV NP-SBJ *speaker* NP-OB1;{PAPER_1171} *pro* NP-MSR NUMCLP NUM 2 CL VB 読ん P-CONN VB2 AXD ___P-CONN けれども PU VB 理解 VB0 でき NEG なかっ AXD PU
            [1171_textbook_kisonihongo@13,12,32]
    (2.80)

    用事 が あり ます から 、 失礼 し ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* ___PP-SCON __IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP N 用事 P-ROLE VB あり AX ます ___P-CONN から PU VB 失礼 VB0 AX ます PU
            [1134_textbook_kisonihongo@5,4,18]
    (2.81)

    毎朝 ご飯 を 食べ て から , コーヒー を 飲み ます 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_5} *speaker* NP-TMP Q 毎朝 ___PP-SCON __IP-ADV PP-OB1 NP N ご飯 P-ROLE VB 食べ ___P-CONN ___P-CONN から PU PP-OB1 NP N コーヒー P-ROLE VB 飲み AX ます PU
            [5_misc_EXAMPLE@8,7,17,19]
    (2.82)

    この 薬 は にがく ない ので , 飲み やすい です 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MAN_6} *pro* ___PP-SCON __IP-ADV PP-SBJ NP;{DRUG_6} D この N P-OPTR ADJI にがく NEG ない ___P-CONN ので PU NP-OB1;{DRUG_6} *pro* VB 飲み AX やすい AX です PU
            [6_misc_EXAMPLE@5,4,18]

    「ながら」,「たら/だら」,「て/で」は時間的関係(同時や先行)や原因・根拠・理由を表す副詞節を形成することがある。 これらの接続助詞は IP-ADV の外(直後)ではなくその下に置かれる。 その場合,拡張タグ -SCON は IP-ADV に加えられる。 以下は同時性を表す接続助詞「ながら」の例である。

    (2.83)

    太郎 が ギター を 弾き ながら 歌っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 太郎 P-ROLE __IP-ADV-SCON PP-OB1 NP N ギター P-ROLE VB 弾き ___P-CONN ながら VB 歌っ AXD PU
            [22_misc_TOPTEN@8,17]

    2.6.3   IP の等位接続に現れる接続助詞(P-CONN)

    節連結のもう1つのタイプに, IP の等位接続がある。 IP の等位接続では,前件となる PP(接続助詞が IP-ADV の下に置かれる場合は,IP-ADV)に拡張タグ CONJ を付ける。 等位節が2つ以上あるときには,従属節のときとは異なり, 等位節はそれぞれ直後の節の下に置かれるものとする。 しかしながら,意味解釈においては等位節はすべて同一の構造的レベルに存在するものとして扱われる。 この構文における,空所と同一指示となる先行詞に課される条件については 5.4 節を参照のこと。

        等位節を導く接続助詞には次のようなものがある。

        等位節を導く助詞と従属節を導く助詞には重複がある。 等位節にしか使われない接続助詞はわずかしかない。 ある節が後続の節から独立し,埋め込まれていないかどうかということは, 文全体の意味および,節と節がどんなパターンで項を共有しうるか,という2つの点で決定する。 詳しくは 5.1.5.3 節を参照。 下の例では,最初の節に接続助詞「が」続いている。 両方の節の主語項が同一の先行詞(ここでは,最左端のATB位置のゼロ代名詞)を取ることに注意。

    (2.84)

    前回 は 民主党 の 推薦 を 受け 大勝 し た が 、 今回 は 市民党 の 立場 で 戦う 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-CONJ IP-ADV PP-TMP NP N 前回 P-OPTR ___IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP PP NP;{ORG} NPR 民主党 P-ROLE N 推薦 P-ROLE VB 受け VB 大勝 VB0 AXD __P-CONN PU PP-TMP NP N 今回 P-OPTR PP NP PP NP N 市民党 P-ROLE N 立場 P-ROLE VB 戦う PU
            [135_news_KAHOKU_28@33,12]

        等位接続の前件末尾の「て/で」,「たり/だり」,「たら/だら」,「ば」,「たって」は IP-ADV の外ではなく,その下に置かれる。 拡張タグ -CONJ は IP-ADV に加えられる。 以下の例では,等位節の間にゼロ代名詞の主語の他に三つの構成素が共有されている。

    (2.85)

    公園 で は 肩掛け送風機 で 落ち葉 を 吹き寄せ て 一 箇所 に 集め て いる .

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP N 公園 P-ROLE P-OPTR PP NP N 肩掛け送風機 P-ROLE PP-OB1 NP N 落ち葉 P-ROLE __IP-ADV-CONJ VB 吹き寄せ ___P-CONN PP NP NUMCLP NUM CL 箇所 P-ROLE VB 集め ___P-CONN VB2 いる PU
            [2724_dict_vv-lexicon@24,27,40]

    2.7   補文助詞(P-COMP):と,という,等

    「と」や「という」のような補文助詞(P-COMP)は典型的には,発話,思考,表現,および感覚の内容を述語や名詞の補部として節の形で導入する。 補文助詞は,準主節(IP-SUB),疑問節(CP-QUE),命令節(IP-IMP),終助詞節(CP-FINAL),感嘆節(CP-EXL),間投詞句(INTJP),多重文(multi-sentence),小節(IP-SMC),等,様々な句カテゴリーをその姉妹としてとり, 補部節(CP-THT)を投射する(補部節に対するアノテーションの詳細は 6.18 節を参照されたい)。 また、「と」は名詞句(NP)を姉妹としてとり,命名の動詞のとる補部を投射する。

    2.7.1   述語に対する補部節を導く補文助詞(P-COMP)

    述語に対する補部節を導く動詞には次のようなものがある。

    (2.86)

    ジョン は 、 ビル が 自分 を 傷つけ た と 言っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ジョン P-OPTR PU CP-THT-OB1 IP-SUB PP-SBJ NP NPR ビル P-ROLE PP-OB1 NP PRO 自分 P-ROLE VB 傷つけ AXD __P-COMP ___VB 言っ ___AXD PU
            [1151_misc_JSeM_beta_150530@28,30,32]

    2.7.2   名詞に対する補部節を導く補文助詞(P-COMP)

    名詞に対する補部節を導く助詞には次のようなものがある。

    (2.87)

    ギリシャ語 の 忘我 ( エクスタシー ) は 何 か の 横 に 立つ という 意味 です

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N ギリシャ語 P-ROLE N 忘我 PRN PUL NP N エクスタシー PUR P-OPTR NP-PRD CP-THT IP-SUB NP-SBJ *arb* PP NP PP NP WPRO P-OPTR P-ROLE N P-ROLE VB 立つ __P-COMP という ___N 意味 AX です
            [35_ted_talk_3@43,45]

        上記のような助詞が疑問節を名詞修飾節として導くこともある。

    (2.88)

    こんな こと を 続け て も いい の か という 疑問 が 絶えず 私 を 苦しめ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP CP-THT CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP;{ACTIVITY_1211} D こんな N こと P-ROLE VB 続け P-CONN P-OPTR ADJI-MD いい FN P-FINAL __P-COMP という ___N 疑問 P-ROLE ADVP ADV 絶えず PP-OB1 NP;{SPEAKER_1211} PRO P-ROLE VB 苦しめ AXD PU
            [1211_textbook_kisonihongo@29,31]

        補文助詞「という」や「って」と同形の助詞が節ではなく名詞句につき,名詞を修飾する場合,その助詞は P-ROLE とラベル付けされ,助詞句(PP)を投射することに注意されたい。

    (2.89)

    晩年 の 政宗 は 、 『 酔余口号 』 という 漢詩 を 残し て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{MASAMUNE} PP NP N 晩年 P-ROLE NPR 政宗 P-OPTR PU PP-OB1 NP ___PP NP PUL NPR 酔余口号 PUR __P-ROLE という ___N 漢詩 P-ROLE VB 残し P-CONN VB2 いる PU
            [194_wikipedia_Datemasamune@26,18,28]

    2.7.3   命名動詞と共に用いられる補文助詞(P-COMP)「と」

    「名付ける」や「呼ぶ」といった命名動詞を述語とする構文では,「固有名詞(あるいは言及(mention)用法の語)+P-COMP「と」」に対して -CMPL という拡張タグを与える。

    (2.90)

    オンラインコミュニティー の 中 に 、 「 伊達fan 」 と 名付け た 特設ページ を 設ける 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP PP NP N オンラインコミュニティー P-ROLE N P-ROLE PU PP-OB1 NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *pro* ___PP-CMPL NP PUL ___NPR 伊達fan PUR __P-COMP ___VB 名付け ___AXD N 特設ページ P-ROLE VB 設ける PU
            [49_news_KAHOKU_87@33,25,29,35,37]
    (2.91)

    あらゆる 自然災害 に 備え 、 暮らし の 安全安心 を 生み出す 事業活動 を 「 減災産業 」 と 呼ぶ 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP IP-EMB NP-SBJ *arb* IP-ADV-SCON PP NP D あらゆる N 自然災害 P-ROLE VB 備え PU PP-OB1 NP PP NP N 暮らし P-ROLE N 安全安心 P-ROLE VB 生み出す N 事業活動 P-ROLE ___PP-CMPL NP PUL ___N 減災産業 PUR __P-COMP ___VB 呼ぶ PU
            [5_news_KAHOKU_82@48,40,44,50]

    2.8   終助詞(P-FINAL):か,ね,よ,等

    主節の終末部には次のような助詞が現れる。 これらは,叙述よりも発話行為に関係するものである。

    このような終助詞を,準主節(IP-SUB)を補部として取る CP 投射の主要部としてラベル付けする。 CP のタイプは,終助詞と共起する IP-SUB の組み合わせに応じて, CP-QUE(疑問節),CP-EXL(感嘆節),または CP-FINAL(終助詞節 -- 疑問節でも感嘆節でもないもの)のいずれかとされる。

    (2.92)

    「 この 船 は 西 へ 行く ん です か 」

    ___CP-QUE PUL IP-SUB PP-SBJ NP D この N P-OPTR PP NP N 西 P-ROLE VB 行く FN AX です __P-FINAL PUR
            [404_aozora_Natsume-1908@25,1]
    (5.27)

    「 ああ 、 なんと 彼 を 愛し て おら れ た こと か 」 。

    ___CP-EXL PUL IP-SUB NP-SBJ *pro* INTJ ああ PU ADVP WADV なんと PP-OB1 NP;{LAZARUS} PRO P-ROLE VB 愛し P-CONN VB2 おら VB2 AXD __FN こと ___AX * P-FINAL PUR PU
            [988_bible_nt@30,1,32]
    (2.94)

    それ は 残念 です ね 。

    ___CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ NP PRO それ P-OPTR ADJN 残念 AX です __P-FINAL PU
            [163_aozora_Edogawa-1929@13,1]

    複数の終助詞が現れる文では,すべての終助詞が同じ CP のもとフラットに現れる。

    (2.95)

    「 多分 、 あなた は 食用豆類 を いく つ か 見つける こと が できる わ よ 。

    ___CP-FINAL PUL IP-SUB ADVP ADV 多分 PU PP-SBJ NP PRO あなた P-OPTR PP-OB1 NP IP-EMB PP-OB1 NP N 食用豆類 P-ROLE NP;*OB1* NUMCLP WNUM いく CL P-OPTR VB 見つける N こと P-ROLE VB できる __P-FINAL ___P-FINAL PU
            [164_fiction_DICK-1952@41,1,43]

    2.9   間投助詞(P-INTJ)

    間投助詞(P-INTJ)の分布は,呼びかけ句を導入する場合を含め,様々である。 以下に間投助詞のリストを示す。


    2.10   とりたて助詞(P-OPTR):か,しか,は,ばかり,も,等

    とりたて助詞(副助詞とも呼ばれる)は P-OPTR とラベル付けされる。 とりたて助詞はおおよそ構成素を談話領域に関係づける働きをする。 例えば,「は」は談話の中でトピックとされるものか,または談話中の他のものと対比される要素を表示する。 「も」は肯定文では限られた談話領域に付け加えられるものを表示する。 とりたて助詞の分布は比較的自由である。 NP,ADVP や IP を導く場合,とりたて助詞は PP を投射する。 助詞を主要部とする構成素(PP 或いは CP-THT が典型的)に続く場合,とりたて助詞はその主要部の助詞の横に置かれる。

        このグループに含まれる助詞は以下の通りである:

    (2.96)

    その 時 は 母 も 笑っ た 。

    IP-MAT ___PP-TMP NP D その N __P-OPTR PP-SBJ NP N P-OPTR VB 笑っ AXD PU
            [538_aozora_Natsume-1908@8,2]
    (2.97)

    子供 は 何 と も 云わ なかっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 子供 P-OPTR PP-OB1 NP ___WPRO ___P-COMP __P-OPTR VB 云わ NEG なかっ AXD PU
            [535_aozora_Natsume-1908@14,12,10]
    (2.98)

    解決策 は 当事者 しか 導き出せ ない 。

    IP-MAT ___PP-OB1 NP N 解決策 __P-OPTR ___PP-SBJ NP N 当事者 ___P-OPTR しか VB 導き出せ NEG ない PU
            [86_news_KAHOKU_65@6,2,8,12]

    2.10.1   主題助詞句(PP-TPC)

    「は」によって表示された助詞句で,文中での機能が不明なものは通常 PP-TPC とラベル付けされる。

    (2.99)

    自分 も 確 に これ は 死ぬ な と 思っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 自分 P-OPTR CP-THT-OB1 CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *pro* ADVP ADJN AX ___PP-TPC NP PRO これ __P-OPTR VB 死ぬ P-FINAL P-COMP VB 思っ AXD PU
            [10_aozora_Natsume-1908@22,18]
    (2.100)

    帰り は 私 が 先生 を お送り し ます 。

    IP-MAT ___PP-TPC NP N 帰り __P-OPTR PP-SBJ NP PRO P-ROLE PP-OB1 NP N 先生 P-ROLE VB お送り VB0 AX ます PU
            [773_textbook_purple_intermediate@6,2]

    ただし,「は」表示の名詞句の文法役割が明確にできる場合には,-SBJ や -TMP のような曖昧性解消のための拡張タグが付加され,TPC が付加されることはない。

    (2.101)

    今 は 国産的 な もの は 安い 。

    IP-MAT ___PP-TMP NP N __P-OPTR ___PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 国産的 AX N もの ___P-OPTR ADJI 安い PU
            [188_aozora_Nomura-19-1950@6,2,19,8]

        また,二重主語構文における1つ目の主語はしばしば助詞「は」を伴うが,これに対しても -TPC タグを与えずに,-SBJ タグを与える。2つ目の主語(しばしば助詞「が」を伴う)に対しては -SBJ2 を与える。

    (2.102)

    彼 は 財布 が すっからかん だ

    IP-MAT ___PP-SBJ NP PRO ___P-OPTR ___PP-SBJ2 NP N 財布 __P-ROLE ADJN すっからかん AX
            [230_dict_pth_q@12,2,6,8]

    2.11   助詞が節に直接支配される場合

    助詞(P)は助詞句(PP)を投射せず,節(IP)に直接支配されることがある。 以下,基本的なケースについて述べる。

    2.11.1   副詞節(IP-ADV)の終末部に置かれる接続助詞(P-CONN)

    2.6.1節,2.6.2節で述べたとおり,接続助詞(P-CONN)に分類される助詞の中でも,実際は形態的に接尾辞に相当するものは,副詞節(IP-ADV)の外ではなくその終末部に置かれる。 以下は,そのような接続助詞のリストである。

    接続助詞「つつ」「たって/だって」「たり/だり」の例を以下に示す。

    (2.103)

    太郎 が 新聞 を 読み つつ ご飯 を 食べ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 太郎 P-ROLE ___IP-ADV-SCON PP-OB1 NP N 新聞 P-ROLE VB 読み __P-CONN つつ PP-OB1 NP N ご飯 P-ROLE VB 食べ P-CONN VB2 いる PU
            [2_misc_TOPTEN@17,8]
    (2.104)

    あの 人 に は 話し たって 分かり ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ___NP-OB1 *pro* IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* PP-OB2 NP D あの N P-ROLE P-OPTR __VB 話し P-CONN たって VB 分かり AX ませ NEG PU
            [315_textbook_djg_basic@21,4]
    (2.105)

    彼女 は そわそわ と 行っ たり 来 たり し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR ADVP ADV そわそわ AX ___IP-ADV-CONJ VB 行っ __P-CONN たり VB P-CONN たり VB2 AXD PU
            [120_fiction_DICK-1952@16,13]

    2.11.2   複雑な述部に含まれる接続助詞・とりたて助詞・格助詞(P-CONN,P-OPTR,P-ROLE)

    「VB て/でいる・ある・おく」「VB て/であげる・やる」「VB て/でいく・くる」等,ヴォイスやアスペクトに関係する述部の中に含まれる接続助詞の「て/で」は節(IP)に直接支配され,フラットな構造としてアノテーションされる。 「て/で」の後の補助動詞は VB2 とラベル付けされる(VB2 については, 4.5 節を参照)。

    (2.106)

    あいつ は きっと デート を し て いる ん だ 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP;{TANAKA_654} PRO あいつ P-OPTR ADVP ADV きっと PP-OB1 NP N デート P-ROLE VB __P-CONN ___VB2 いる FN AX PU
            [655_textbook_kisonihongo@19,1,21]

        「VB たり/だりする」における接続助詞「たり/だり」も,後続の「する」(補助動詞 VB2 とラベル付けされる)と姉妹の関係をなすフラットな構造としてアノテーションされる。 「たり/だり」は「VB1 たり/だり,VB2 たり/だりする」のように連続して現れることが多いが,前の「たり/だり」は副詞節(IP-ADV)の終端部に置かれ,後ろの「たり/だり」は補助動詞と共に述部を構成することに注意されたい(例 (2.105) も参照)。

    (2.107)

    うち の スタッフ が 殴ら れ たり 、 罵倒 さ れ たり する こと も あり ます 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB NP-LGS *pro* PP-SBJ NP PP NP N うち P-ROLE N スタッフ P-ROLE IP-ADV-CONJ VB 殴ら PASS __P-CONN たり PU VB 罵倒 VB0 PASS ___P-CONN たり ___VB2 する N こと P-OPTR VB あり AX ます PU
            [102_news_KAHOKU_37@24,34,36,1]

    「VB などする」におけるとりたて助詞「など」と後続する「する」についても上記と同様のアノテーションがなされる。 「VB なりする」の接続助詞「なり」と「する」も同様である。

    (2.108)

    暑い 日 は 帽子 を かぶる など し なさい

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-TMP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 暑い N P-OPTR PP-OB1 NP N 帽子 P-ROLE VB かぶる __P-OPTR など ___VB2 VB2 なさい
            [28_misc_EXAMPLE2@24,26]
    (2.109)

    読め ない 漢字 は 辞書 を 引く なり 、 日本人 に 聞く なり し なさい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-TPC NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *hearer* VB 読め NEG ない N 漢字 P-OPTR PP-CONJ IP-ADV PP-OB1 NP N 辞書 P-ROLE VB 引く __P-CONN なり PU NP-OB1 *pro* PP-OB2 NP N 日本人 P-ROLE VB 聞く ___P-CONN なり ___VB2 VB2 なさい PU
            [215_textbook_djg_intermediate@30,44,46]

        否定文では,とりたて助詞「は」が NEG と共起することが多い。

    (2.110)

    岩 で は ない 、

    IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-PRD N AX __P-OPTR ___NEG ない PU
            [59_fiction_DICK-1952@9,11]

        また,上記の接続助詞「て・で」やコピュラ「だ」の連用形「で」の直後等,述語部分の内部に現れたとりたて助詞「は」「も」「しか」「ばかり」「さえ」等もまた,IP に直接支配されるものとする。

    (2.111)

    女子 は 遊ん で ばかり い ます 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP N 女子 P-OPTR VB 遊ん ___P-CONN __P-OPTR ばかり VB2 AX ます PU
            [14_textbook_djg_basic@12,1,10]
    (2.112)

    さっき まで の 絶対的 な 自信 は やや ゆらい だ よう で は あっ た が 。

    FRAG PP-CONJ ___IP-ADV PP-SBJ NP PP NP N さっき P-ROLE まで P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 絶対的 AX N 自信 P-OPTR NP-PRD IP-EMB ADVP ADV やや VB ゆらい AXD N よう ___AX __P-OPTR VB2 あっ AXD P-CONN PU
            [297_aozora_Doyle-1905@38,3,36]

        述部を構成する「〜ざるを得ない」「〜に違いない」「〜わけに(も/は)いかない」「〜がいい・〜がよい」に現れる格助詞(P-ROLE)「を」「に」「が」,「〜といい」「〜といけない」「〜なければならない」に現れる接続助詞(P-CONN)「と」「ば」についても,IP に直接支配されるものとする。

    (2.113)

    結果 、 江戸幕府 は 院政 の 存在 を 黙認 せ ざる を え なく なる 。

    IP-MAT NP-ADV N 結果 PU PP-SBJ NP NPR 江戸幕府 P-OPTR ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP PP NP N 院政 P-ROLE N 存在 P-ROLE VB 黙認 ___VB0 ___NEG ざる __P-ROLE ___VB2 ___NEG なく VB なる PU
            [59_wikipedia_KYOTO_17@32,13,28,30,34,36]
    (4.51)

    その 国 は たいへん 美しい に 違いない 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP D その N P-OPTR ADVP ADJN たいへん ADJI 美しい __P-ROLE ___MD 違いない PU
            [210_textbook_TANAKA@15,17,1]
    (2.115)

    この 機会 を 逃がす わけ に 行か ない の だ 。

    ___IP-MAT NP-SBJ;{IZAWA} *speaker* PP-OB1 NP D この N 機会 P-ROLE VB 逃がす FN わけ __P-ROLE ___VB2 行か ___NEG ない FN AX PU
            [337_aozora_Sakaguchi-1947@16,1,18,20]
    (2.116)

    その 身代り を 呼ぶ が よい 。

    CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ;{MELOS} *hearer* PP-OB1 NP;{SELINUNTIUS} D その N 身代り P-ROLE VB 呼ぶ __P-ROLE ___ADJI-MD よい PU
            [113_aozora_Dazai-2-1940@15,2,17]
    (2.117)

    ▼ 埋蔵資源 が ある と いい 。

    ___IP-MAT SYM PP-SBJ NP N 埋蔵資源 __P-ROLE VB ある ___P-CONN ___ADJI-MD いい PU
            [10_news_KAHOKU_8795@8,1,12,14]
    (2.118)

    明日 の 朝 は 6 時 に 起き ない と いけ ない 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-TMP NP PP NP N 明日 P-ROLE N P-OPTR PP-TMP NP NUMCLP NUM 6 CL P-ROLE VB 起き NEG ない __P-CONN ___VB2 いけ ___NEG ない PU
            [562_textbook_kisonihongo@29,31,33,1]
    (2.119)

    生活費 は かせが なけれ ば なら ない 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 生活費 P-OPTR VB かせが ___NEG なけれ __P-CONN ___VB2 なら ___NEG ない PU
            [603_aozora_Harada-1960@14,1,12,16,18]

    2.11.3   動作名詞に「を」が付く場合

    動作名詞 (VB)に「を」が付く例がいくつか見られる。 このような場合には,(P-ROLE を) が VB と姉妹関係に IP のすぐ下に置かれる。

    (2.120)

    そして 、 ある 定め られ た 日 に は 床の間 で 彼ら を 供養 を する の です 」

    ___IP-MAT NP-SBJ *pro* CONJ そして PU PP NP D ある IP-REL NP-SBJ *T* NP-LGS *pro* VB 定め PASS られ AXD N P-ROLE P-OPTR PP NP N 床の間 P-ROLE PP NP PRO 彼ら P-ROLE ___VB 供養 __P-ROLE VB0 する FN AX です PUR
            [259_aozora_Hayashida-2015@43,41,1]

    2.12   助詞を名詞句の下に置く場合

    名詞句が並列されるとき,「とか」「と」「やら」「か」「も」等の接続助詞が最後の並列句の後に現れるとき,それは並列句をまとめた NP の下に置かれる。

    (2.121)

    この 近く に は 温泉 とか 野球場 とか が あっ て 、 とても 楽しい です 。

    IP-MAT PP NP;{VICINITY_884} D この N 近く P-ROLE P-OPTR IP-ADV-CONJ PP-SBJ ___NP CONJP NP N 温泉 __P-CONN とか NP N 野球場 ___P-CONN とか P-ROLE VB あっ P-CONN PU NP-SBJ *speaker* ADVP ADV とても ADJI 楽しい AX です PU
            [884_textbook_kisonihongo@19,14,24]

    また,「か」「も」等のとりたて助詞が疑問詞と結びついて不定性を示す場合にも,これらを NP の下に置く(詳しくは 3.3.1.3 を参照)。

    (2.122)

    誰 か が 助ける だろう 。

    IP-MAT NP-OB1;{MAN_67} *pro* PP-SBJ ___NP WPRO __P-OPTR P-ROLE VB 助ける MD だろう PU
            [67_textbook_kisonihongo@8,5]
    (2.123)

    誰 も その 問題 を 解け なかっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ___NP;*SBJ* WPRO __P-OPTR PP-OB1 NP;{PROBLEM_737} D その N 問題 P-ROLE VB 解け NEG なかっ AXD PU
            [737_textbook_kisonihongo@7,4]

    2.13   助詞が続く場合

    助詞句(PP)が積み重なることは基本的にはない。 すなわち,助詞句(PP)は通常,助詞(P)の補部とはならない。 複数の助詞が続く場合は,同じ助詞句(PP)や補部節(CP-THT)下に複数の助詞(P)がフラットに配置される。

  • 2つの格助詞が隣接する場合(へ+と):
  • (2.124)

    その カート は 都市 へ と 方向転換 し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D その N カート P-OPTR ___PP NP N 都市 __P-ROLE ___P-ROLE VB 方向転換 VB0 AXD PU
            [714_fiction_DICK-1952@14,16,10]
    (3.10)

    この 点 は どの 作物 について も 言える こと で あり ます 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N P-OPTR NP-PRD IP-EMB NP-SBJ *pro* ___PP NP WD どの N 作物 __P-ROLE について ___P-OPTR VB 言える N こと AX VB2 あり AX ます PU
            [36_diet_kaigiroku-7@20,14,22]
    (2.126)

    脇役 が 良い から こそ 、 主役 が 引き立つ .

    IP-MAT ___PP-SCON IP-ADV PP-SBJ NP N 脇役 P-ROLE ADJI 良い __P-CONN から ___P-OPTR こそ PU PP-SBJ NP N 主役 P-ROLE VB 引き立つ PU
            [2569_dict_vv-lexicon@12,14,2]
    (2.127)

    そんな に 頼ま れ て は いや と は 言え ない ね 。

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-SCON-CND IP-ADV NP-LGS *pro* ADVP ADJN そんな AX VB 頼ま PASS P-CONN P-OPTR ___CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* __ADJN いや ___P-COMP P-OPTR VB 言え NEG ない P-FINAL PU
            [994_textbook_particles@28,30,22]

        この方針に関する唯一の例外となるのが,助詞句(PP)の等位構造である(詳しくは 2.5 節,3.5 節を参照)。

    (2.128)

    「 …… 卑猥 に も 不潔 に も なじむ こと が ない 。

    IP-MAT PUL PU …… PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *hearer* ___PP CONJP ___PP NP N 卑猥 __P-ROLE ___P-CONN ___PP NP N 不潔 ___P-ROLE ___P-CONN VB なじむ N こと P-ROLE ADJI ない PU
            [553_aozora_Hisao-1939@17,13,19,25,21,27,11]

    2.14   助詞の省略

    文法役割を表す「が,を,へ,に」等の格助詞が,会話や新聞記事の見出し等で省略されることがしばしばある。 このような裸の名詞句が文の左端に現れる場合,主題としての談話的役割を帯びることが多い。 しかし,述語に対する裸の名詞句が果たす文法機能(主語なのか第一目的語なのか等)が分かる場合には, 名詞句(NP)のタグに文法機能を示す拡張タグを直接付けるか, あるいはその機能を表示すると考えられる助詞を書き入れ,それが投射する助詞句(PP)のタグに拡張タグを付ける。 このような助詞を便宜上,「省略された助詞」と呼ぶことにする。 基本的に,裸の名詞句が主要文法役割を担う項である場合,省略された助詞についての言及はなされず,当該の項は NP-SBJ,NP-OB1 等のラベルを貼られる。 例えば,下の (2.129) の例では「掲示板のポスター」という名詞句につくはずの「を」が省略されているが,この場合は「を」を補うことはなく,単にその名詞句が直接 NP-OB1 とラベル付けされ,述語「見た」の目的語であることが示される。

    (2.129)

    なんか 、 美奈子 、 掲示板 の ポスター 、 見 た ?

    CP-QUE IP-SUB ADVP ADV なんか PU NP-VOC;{ADDRESSEE} NPR 美奈子 NP-SBJ;{ADDRESSEE} *hearer* PU __NP-OB1 PP NP N 掲示板 P-ROLE N ポスター PU ___VB ___AXD PU
            [28_spoken_JF6@15,26,28]

        一方,裸名詞句が付加詞である(つまり,任意文法役割を示す)場合は,PP 投射が作りだされ,省略された助詞が補完される。 この際,終端ノードとして,* に挟まれた形で本来の助詞が挿入される。 例えば,以下の(2.130)では, 裸名詞句「炊き出し準備」が,省略された助詞 *で* の補部として扱われている。

    (2.130)

    炊き出し準備 、 高台避難後 に 自宅 に 戻る ( 宮城県七ケ浜町 )

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP ___NP N 炊き出し準備 __P-ROLE *で* PU PP NP N 高台避難後 P-ROLE PP NP N 自宅 P-ROLE VB 戻る PRN PUL NP NPR 宮城県七ケ浜町 PUR
            [77_news_KAHOKU_34@8,5]



    Chapter 3
    句のレイヤー


    3.1   はじめに

    句は語と節の間の中間的なレベルの構造である。 句は外的な機能と内的な形によって性格づけることができる。 本章では句の形式について記述するが,その機能についても参照先の節と共に言及することがある。 「形式」とは句の構造がより小さな要素からどのようにつくられるかという方法を意味する。 それぞれの句は「主要部」と「従属部」から作られる。 主要部とは,句がその存在のために要求する語である。 句は主要部のみから作られることもある。 句の名称は主要部の品詞に基づいて与えられる。 日本語の記述において必要な句には, 名詞句(第 3.2 節), 助数詞句(第 section 3.3 節), 副詞句(第 section 3.4 節)がある。 本節ではまた,句の並列のアノテーションについても 第 3.5 節 において扱う。


    3.2   名詞句(NP)

    名詞句(NP)は名詞的な要素を主要部(名詞(N),固有名詞(NPR),代名詞(PRO),疑問代名詞(WPRO),等)とする。 量化詞(Q),数量詞句(NUMCLP)も名詞句の主要部となる。

    3.2.1   Noun phrase roles

    IP によって直接支配される NP はすべて何らかの機能をラベル付けされる。 そのような NP に関する議論は 1.6.2 および 1.7.2 を参照されたい。 述語となった NP については 4.16 節を参照されたい。

    3.2.1.1   所有名詞句(NP-POS)

    所有名詞句(NP-POS)は代名詞「わが(我が)」の投射する NP である。 「わが(我が)」は後続する名詞と助詞を介さずに直接に結びつくため,(NP-POS (PRO わが)) が後続の名詞と姉妹の関係を作るものとする。

    (3.1)

    母親 は 我が 子 に 駆け寄っ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP N 母親 P-OPTR PP ___NP __NP-POS PRO 我が N P-ROLE VB 駆け寄っ AXD PU
            [736_dict_vv-lexicon@10,9]

    3.2.1.2   呼格名詞句(NP-VOC)

    呼格(呼び掛け)は NP-VOC とラベル付けされる。

    (3.2)

    「 先生 、 もう お忘れ です か ? 」

    CP-QUE PUL IP-SUB __NP-VOC;{ADDRESSEE} N 先生 NP-SBJ;{ADDRESSEE} *hearer* PU NP-OB1 *pro* ADVP ADV もう VB お忘れ AX です P-FINAL PU PUR
            [92_aozora_Hayashida-2015@5]
    (3.3)

    『 芳一 ! 』

    FRAG PUL __NP-VOC NPR 芳一 PU PUR
            [42_aozora_Togawa-1937-1@4]
    (3.4)

    …… 芳一 、 まア 喜べ !――

    CP-IMP PU …… IP-SUB __NP-VOC;{HOICHI} NPR 芳一 NP-SBJ;{HOICHI} *hearer* PU INTJ まア VB 喜べ PU !――
            [227_aozora_Togawa-1937-1@5]

    上記 (3.4) のように,命令文における呼格 NP は,空要素との関連付けを必要とする。詳細は,5.2.3 を参照されたい。

    3.2.2   名詞句の主要部

    明示的な主要部を伴わない NP は,空の名詞的主要部を持つと考えられる。 これは,いわゆる N-bar 削除(あるいは,所有者句の短縮)に見られる( 6.3 節を参照)。 この空の主要部はアノテーション中に明示的に表記されることはないが,それが投射する NP の中に潜在的に存在する。

    (3.5)

    三 番目 の に も 仁王 は い なかっ た 。

    IP-MAT PP ___NP IP-REL __NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM CL 番目 AX P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP NPR 仁王 P-OPTR VB NEG なかっ AXD PU
            [388_aozora_Natsume-1908@5,3]

        名詞(N)は言語の中で最大のクラスである。 以下はコーパス中で最も頻度の高い名詞のいくつかを挙げたリストだが,形式名詞や関係名詞が多く含まれることに注意。

  • こと, の, よう, もと, 人, 中, ため, 方, 今, ところ, 前, ほう, 時, 家, 後, 子供, とが, 上, 部屋, 先生, うち, 父
  • なお,形式名詞は述語本体に後続し,述語拡張系を作ることがあるが,この場合の形式名詞には,N ではなく,FN というラベルが与えられること注意されたい(4.3 節および 4.21 を参照)。

        固有名詞(NPR)は2番目に大きなクラスである。 以下にコーパス中で最も多く現れる固有名詞のいくつかを挙げる。

  • 日本, 太郎, ヘプバーン, ヨーロッパ, グレゴール, イエス, 花子, スミス, 東京, ジョン, アメリカ, 大阪, 政宗, 中国, ジョーンズ, 仙台, 京都, 東北
  •     代名詞(PRO)および空要素(*pro*)を主要部とする NP にはソート情報が付与されることがある。 ソート情報については 1.8 節を参照。 使用頻度の高い代名詞(PRO)は以下のとおり。

  • ここ, そこ, あそこ, こちら, そちら, あちら, こっち, そっち, あっち, これ, それ, あれ, これら, それら, あれら 私, 私たち, おれ, 我々, 僕, うち, あなた, 君, おまえ, 彼, 彼ら, あいつ,
  •     再帰代名詞は,本アノテーションでは他の代名詞と同様に PRO のラベルを与えられる。 以下に見るように,再帰代名詞のリストはそれほど大きくはない。 また,「彼ら自身」のように再帰代名詞が他の名詞や代名詞に対して同格的に現れた場合には,再帰代名詞(PRO)の投射する NP を 括弧挿入句(PRN)の下に置き, PRN が名詞あるいは代名詞と共に名詞句を構成するものとしてアノテーションされる(PRN については 1.3.8 節を参照)。 また,代名詞の「わが(我が)」のアノテーションについては 3.2.1.1 節を参照。

  • 己, おのれ, 自分, ご自分, 自身, ご自身, 自ら, みずから, 自体, そのもの, その物
  • (3.6)

    「 彼ら 自身 の 民族 。

    FRAG PUL NP PP NP ___PRO 彼ら ___PRN NP __PRO 自身 P-ROLE N 民族 PU
            [415_fiction_DICK-1952@11,7,9]

        疑問代名詞(WPRO)は典型的には疑問節で用いられる。 使用頻度の高い疑問代名詞(WPRO)は以下のとおりである。

  • いくつ, いくら, いずれ, いつ, おいくら, だれ, どこ, どちら, どちら様, どっち, どなた, どれ, なに, なん, 何, 何れ, 誰
  • 疑問代名詞にとりたて助詞「か」「も」あるいは「でも」等が後接すると,量化された意味を持つ構成素が作られる。 これには,例えば,「だれか」のように不定の意味を持つもの,「どれも」のように全称量化の意味を持つもの,また「いつでも」のように認容の意味を持つものがある(詳しくは 3.3.1.3 節を参照)。 一般に,WPRO を主要部とする NP と同様に,疑問を表す語 WPRO, WD, WADV, WNUM のいずれかを含む句は,疑問の焦点を受けたり,量化がなされたりする。

    (3.7)

    誰 が 買っ た チョコレート も おいしい 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-OB1 *T* PP-SBJ NP __WPRO P-ROLE VB 買っ AXD N チョコレート P-OPTR ADJI おいしい PU
            [6_misc_BUFFALO@9]

        量化詞(Q)は補部の役割を持つ名詞,浮遊量化子,指示表現等の主要部となることができる。 出現頻度の高い量化詞(Q)の例をいくつか以下に挙げる。 量化表現に関しては,3.3 節を参照のこと。

  • いっぱい, いろいろ, 大勢, 多く, 数多く, かなり, 十分, 少し, すべて, 全(員) , 全体, 全部, それぞれ, たくさん, 多少, 多数, 一人一人, 複数, ほとんど, みんな, 毎日, 全国, 全員, 両手, 各地, 毎年, 各々, 毎朝, 全体, 各号
  •     数詞(NUM)または疑問数詞(WNUM)を伴う量化表現を NUMCLP(助数詞句)とラベル付けする。 NUMCLP は典型的には「三人」「4台」のように  NUM または WNUM と助数詞(CL)から成るが, NUM または WNUM のみから成ることもある。 詳細は3.3.1.2節を参照のこと。

    3.2.3   中間名詞節(NML)

    節以外の構成素の等位接続(詳細は 3.5 節を参照)を除き, 本アノテーション体系においては NP が積み上がることは基本的にはない。 どうしても中間的な名詞句が必要な場合は,NML が使われる。 これが起きるのは, (i) 並列された要素を修飾する語句が存在する場合,または (ii) 並列された要素に同格的な量化句が後続する場合である。 前者の例を挙げる。

    (3.8)

    / 意思表示 の 時期 ・ 方法 探る

    IP-MAT NP-SBJ;{REGION} *pro* PU NP-OB1 PP NP N 意思表示 P-ROLE __NML CONJP ___NP N 時期 PU ___NP N 方法 VB 探る
            [11_news_KAHOKU_89@13,15,20]

    後者の例は以下のとおり。

    (3.9)

    中立的 な 立場 の 素粒子物理学者 や 経済学者 ら 10 人 程度 で 構成 し 計画 を 検証 する 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 中立的 AX N 立場 P-ROLE __NML CONJP NP N 素粒子物理学者 P-CONN NP N 経済学者 N PRN ___NP;* NUMCLP NUM 10 CL N 程度 P-ROLE IP-ADV-CONJ NP-OB1;{WORKINGGROUP} *pro* VB 構成 VB0 PP-OB1 NP N 計画 P-ROLE VB 検証 VB0 する PU
            [24_news_KAHOKU_89@17,30]

    3.2.4   限定詞(D)と疑問限定詞(WD)

    NP を談話領域に関係づけることによって,その NP の指示対象を規定する表現は限定詞と呼ばれる。 限定詞は D と,疑問限定詞は WD とラベル付けされる。 限定詞は通常は句を投射せず、それが修飾する名詞に隣接して現れる。 主な限定詞(D)のリストを以下に示す。

  • この, その, あの, こんな, そんな, あんな, こういう, そういう, ああいう, こういった, そういった, ああいった, こうした, そうした, ある, いわゆる, あらゆる, さらなる, 例の
  • 疑問限定詞(WD)には次のようなものがある。

  • どの, どんな, どういう, どういった, どのような, いかなる
  •     限定詞(D)も疑問限定詞(WD)も通常,句の主要部となることはなく,名詞(N)に対する単一の単語から成る修飾部として名詞句(NP)の直下に現れる。

    (3.10)

    この 点 は どの 作物 について も 言える こと で あり ます 。

    IP-MAT PP-SBJ ___NP ___D この N P-OPTR NP-PRD IP-EMB NP-SBJ *pro* PP ___NP __WD どの N 作物 P-ROLE について P-OPTR VB 言える N こと AX VB2 あり AX ます PU
            [36_diet_kaigiroku-7@16,15,4,3]

        ただし,例外的に D ないし WD が NP の主要部としてアノテートされることがある。 そのような例のひとつとして,「この・くらい,その・くらい,あの・くらい,どの・ぐらい」における「この,その,あの,どの」が挙げられる。以下の (3.11) に見るように,このとき「この,その,あの,どの」は NP の主要部となり,そこに P-OPTR 「くらい,ぐらい」が付加されて,PP を作る。

    (3.11)

    ロンドン で は どの くらい 雪 が 降り ます か 。

    CP-QUE IP-SUB PP NP NPR ロンドン P-ROLE P-OPTR PP-MSR ___NP __WD どの ___P-OPTR くらい PP-SBJ NP N P-ROLE VB 降り AX ます P-FINAL PU
            [464_textbook_purple_basic@13,12,15]

        また,以下の (__Kainoki_18_law_h15A119__) の「その」は NP の主要部となり,それが VB「取り扱う」の主語として機能している。

    (3.12)

    ___その 取り扱う 個人情報 の 量 及び 利用方法 から

    PP NP ___PP NP IP-REL NP-OB1 *T* __NP-SBJ D ___その VB 取り扱う N 個人情報 P-ROLE NML CONJP NP N CONJ 及び NP N 利用方法 P-ROLE から
            [20#18_law_h15A119@8,3,10]

    疑問の焦点や数量化に関しては WD を含む構成素は WPRO を含む構成素と似たような振る舞いをする。

    3.2.5   連体詞(PNL)

    PNL は,伝統文法で連体詞とされるもののうち,限定詞として機能する語を除いたものである。 通常,句の主要部となることはなく,名詞(N)に対する修飾部として名詞句(NP)の直下に現れる。 通常見られる PNL のリストを以下に挙げる。本コーパスに出現する語を含む。

  • ただの, ずぶの, まったくの, まるっきりの, たいした, とんだ, れっきとした, ふとした, だいそれた, いろんな, ひょんな, いわゆる, たんなる, なだたる, あらぬ, よからぬ, おもわぬ, みちならぬ, あるまじき, きたるべき, あしき, よき, くしき, はずべき, おおきな, ちいさな, おかしな, ちょっとした
  • 上に挙げた語のうちどれも,主節や従属節の中で述語として使用されることはほぼない。 しかしながら,いくつかの語(特に,おおきな,ちいさな,おかしな)は,副詞的句に修飾されたり、或いは「目が大きな子犬」のように, 二重主語構文の NP-SBJ に相当する主名詞を修飾する関係節の主要部となることができる。 こういった場合は PNL は IP-REL の直下に置かれる。

    (3.13)

    自分 で も 驚く ほど 大きな 声 が 出 まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP ___IP-REL NP-SBJ *T* PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP NP PRO 自分 P-ROLE P-OPTR VB 驚く P-OPTR ほど __PNL 大きな N P-ROLE VB AX まし AXD PU
            [104_news_KAHOKU_34@23,4]

        句カテゴリー PNLP については 3.2.6.6 節を参照のこと。

    3.2.6   名詞修飾節

    名詞修飾節とは,述語の連体形が主要部となり,後続する N,PRO,WPRO,Q,または NPR を修飾する節である。 いくつかのコピュラの短縮形や化石化した形式を除いて,述語の連体形は過去終止形や非過去終止形と区別することはできない。 名詞修飾節は,空所のある節,空所の無い節,および補文の3つのタイプに分けられる。

    以下では,これら3つの種類の名詞修飾節を見てゆく。 加えて,第 3.2.6.4 節と第 3.2.6.6 節において,さらなる名詞修飾節のタイプについても触れる。

    3.2.6.1   関係節(IP-REL)

    関係節構造では,主要部の関係節における文法機能を特定するための情報を伴ったトレースが節の先頭に置かれる(1.5.5 節を参照)。 (3.14) では,(NP-SBJ *T*) のようにトレースが関係節における主語であることが示されている。

    (3.14)

    彼 は 紙 で あふれ た 机 に もたれ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP NP __IP-REL ___NP-SBJ *T* PP NP N P-ROLE VB あふれ AX N P-ROLE VB もたれ P-CONN VB2 いる PU
            [173_aozora_Yuki-1-2000@10,11]

    以下は,トレースが第一目的語の文法役割を果たす例である。

    (3.15)

    何 か 欲しい もの は ない の ? 」

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP;*OB1* WPRO P-OPTR PP-OB1 NP __IP-REL ___NP-OB1 *T* NP-SBJ *hearer* ADJI 欲しい N もの P-OPTR ADJI ない FN PU PUR
            [93_aozora_Harada-1960@12,13]

    次に長距離依存の例を示す。 関係節の中にさらに節が埋め込まれており,トレースはその埋め込まれた節における第一目的語の文法役割を果たしている。 INCORRECT HIGHLIGHT

    (3.16)

    おばあさん に 作っ て もらっ た 「 きび団子 」 を 持っ て 出発 し まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MOMOTARO} *pro* IP-ADV-SCON PP-OB1 NP;{KIBIDANGO_TEN_MADE_BY_GRANDMOTHER} __IP-REL ___NP-SBJ;{MOMOTARO} *pro* PP-DOB1 NP;{GRANDMOTHER} N おばあさん P-ROLE IP-SMC-OB1 NP-OB1 *T* VB 作っ P-CONN VB もらっ AXD PUL NPR きび団子 PUR P-ROLE VB 持っ P-CONN VB 出発 VB0 AX まし AXD PU
            [12_fiction_momotaro@7,8]

    次の例では,関係節の中にさらに別の関係節が,その中にさらにまた別の関係節が埋め込まれている。

    (3.17)

    これ は 、 ジャック が 建て た 家 に 置か れ た 麦芽 を 食べ た ねずみ です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{REF3} PRO これ P-OPTR PU NP-PRD;{RAT} __IP-REL ___NP-SBJ *T* PP-OB1 NP;{MALT} ___IP-REL ___NP-SBJ *T* NP-LGS *pro* PP NP;{HOUSE} ___IP-REL ___NP-OB1 *T* PP-SBJ NP;{JACK} NPR ジャック P-ROLE VB 建て AXD N P-ROLE VB 置か PASS AXD N 麦芽 P-ROLE VB 食べ AXD N ねずみ AX です PU
            [4_misc_CALDECOTT-1878@11,16,23,12,17,24]

    次の例では,2つの関係節が1つの主名詞を共有している。

    (3.18)

    最も 貧しい 10億 人 を 表し た 向こう に ある 箱 が 見え ます か ?

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-OB1 NP __IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADV 最も ADJI 貧しい NUMCLP NUM 10億 CL P-ROLE VB 表し AX ___IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 向こう P-ROLE VB ある ___N P-ROLE VB 見え AX ます P-FINAL PU
            [101_ted_talk_7@7,31,42]

    次の例では主名詞が2つの等位接続された節によって修飾されている。 このような場合,本アノテーションでは関係節のうちの主節(IP-REL)にトレースを置き,等位された節(CONJ の拡張タグが与えられる)が ATB 抽出によってそれを受け継ぐ。 INCORRECT HIGHLIGHT

    (3.19)

    彼女 は ピアノ が 弾け そして 絵 も かける 人 です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{WOMAN_27} PRO 彼女 P-OPTR NP-PRD __IP-REL NP-SBJ *T* IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N ピアノ P-ROLE VB 弾け ___CONJ そして PP-OB1 NP N P-OPTR VB かける N AX です PU
            [27_misc_EXAMPLE@9,21]

    3.2.6.2   空所なし名詞修飾節(IP-EMB)

    もうひとつの名詞修飾節はそれだけで充足した構造をなし,修飾される名詞が修飾節の中で直接的な文法役割を持つことはない。 このタイプの名詞修飾節は IP-EMB とラベル付けされる。

        よく見られるタイプの空所なし名詞修飾節構造は,非飽和名詞を修飾するものである。 多くの非飽和名詞(「こと」「ため」「の」「よう」等)はほとんどの場合に修飾要素を伴って現れ, また修飾要素がない場合は,慣用的な表現である(「為になる話」「事が運ばない」「モノを言うのは金だ」等)。 これらの要素は修飾節の項として復元することができないので,それを修飾する節は IP-EMB(空所なし名詞修飾節)なのである。

    (3.20)

    かけぶとん を はねのける の は 、 まったく 簡単 だっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N かけぶとん P-ROLE VB はねのける ___N P-OPTR PU ADVP ADV まったく ADJN 簡単 AX だっ AXD PU
            [107_aozora_Harada-1960@4,15]
    (3.21)

    沿線 に は 大学 が 多い ため 学生利用 が 多い 。

    IP-MAT NP-ADV __IP-EMB PP NP N 沿線 P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP N 大学 P-ROLE ADJI 多い ___N ため PP-SBJ NP N 学生利用 P-ROLE ADJI 多い PU
            [7_wikipedia_KYOTO_19@3,20]
    (3.22)

    私 が する よう に やっ て み て ください 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP NP __IP-EMB PP-SBJ NP;{SPEAKER_1168} PRO P-ROLE VB する ___N よう P-ROLE VB やっ P-CONN VB2 P-CONN VB2 ください PU
            [1168_textbook_kisonihongo@7,16]

        言語表現,思考,知覚,感覚,出来事,動作,性質,原因,結果,様態,描写等の命題的な内容を持つ名詞に対して,その内容を補充する名詞修飾節も,IP-EMB としてはラベル付けされる。 このような名詞の中には絵画名詞(picture nouns)も含まれる。

    (6.33)

    子供 が 笑っ て いる 写真 が 置い て あっ た 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* PP-SBJ NP __IP-EMB PP-SBJ NP N 子供 P-ROLE VB 笑っ P-CONN VB2 いる ___N 写真 P-ROLE VB 置い P-CONN PASS * VB2 あっ AXD PU
            [1218_textbook_kisonihongo@6,19]

        また,「時」「間」「前」「後」等の,いわゆる「相対名詞」(Teramura 1984, Nihongo02 2009)の項として, 名詞修飾節が何らかの基準を与えるような場合も,そのような節はIP-EMB としてラベル付けされる。

    (3.24)

    画面 が 見え なく なる 前 に

    FRAG PP NP __IP-EMB NP-SBJ *pro* IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP N 画面 P-ROLE VB 見え NEG なく ___VB なる N P-ROLE
            [37_blog_KNB@4,18]

        「以来」「以降」に先行し,これを修飾する節の述語動詞は決まって「テ形」となるが,このような名詞修飾節も IP-EMB としてラベル付けする。

    (3.25)

    肝臓 を 患っ て 以来 、 酒 は やめ て いる 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-TMP __IP-EMB PP-OB1 NP N 肝臓 P-ROLE VB 患っ ___P-CONN ___N 以来 PU PP-OB1 NP N P-OPTR VB やめ P-CONN VB2 いる PU
            [142_textbook_djg_advanced@5,14,16]

        「とき(時)」「際」「場合」等の名詞が名詞修飾節を伴う場合は,これらが修飾節中で任意文法役割を持つと見なせることから,関係節(IP-REL)とする考え方もありうる。 しかし,本アノテーションでは「前」「後」等の相対名詞との連続を重視して,原則としてIP-EMB として扱う。

    (3.26)

    今度 彼 に 会っ た とき に これ を 渡し て 下さい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-TMP NP __IP-EMB NP-TMP N 今度 PP-OB1 NP;{MAN_1273} PRO P-ROLE VB 会っ AXD ___N とき P-ROLE NP-OB2;{MAN_1273} *pro* PP-OB1 NP;{STUFF_1273} PRO これ P-ROLE VB 渡し P-CONN VB2 下さい PU
            [1273_textbook_kisonihongo@7,21]

        勿論,文法役割がはっきりしている場合は関係節(IP-REL)を採用する:

    (3.27)

    そして 意外 な 時 に 出 て 来 て 外界 を のぞく 事 が ある 。

    IP-MAT CONJ そして PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ PP-TMP NP __IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 意外 AX ___N P-ROLE VB P-CONN VB2 P-CONN PP-OB1 NP N 外界 P-ROLE VB のぞく N P-ROLE VB ある PU
            [67_aozora_Terada-1921@12,19]

        これとは逆に,名詞修飾節と主名詞との間に明確な文法関係が成り立っていない場合,その節は IP-EMB として扱われる。

    (3.28)

    魚 が 焼ける におい が する 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __IP-EMB PP-SBJ NP N P-ROLE VB 焼ける ___N におい P-ROLE VB する PU
            [1216_textbook_kisonihongo@4,13]

    3.2.6.3   名詞を修飾する補部節(CP-THT)

    補文助詞(P-COMP)「という」あるいは「との」の投射する補部節(CP-THT)が名詞を修飾することがある。

    (3.29)

    外国人 に 日本語 を 教える という 仕事 は 容易 な 仕事 で は ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __CP-THT IP-SUB NP-SBJ *arb* PP-OB2 NP N 外国人 P-ROLE PP-OB1 NP N 日本語 P-ROLE VB 教える ___P-COMP という N 仕事 P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 容易 AX N 仕事 AX P-OPTR NEG ない PU
            [1221_textbook_kisonihongo@4,22]
    (3.30)

    この 計画 の 狙い は 何 か との 質問 が あっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __CP-THT CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP PP NP;{PLAN_1210} D この N 計画 P-ROLE N 狙い P-OPTR NP-PRD WPRO AX * P-FINAL ___P-COMP との N 質問 P-ROLE VB あっ AXD PU
            [1210_textbook_kisonihongo@4,28]

    3.2.6.4   主要部内在型関係節

    主要部内在型関係節の例はコーパス内でそれほど多くはないが,一定数存在する。 主要部内在型関係節では,主要部「の」と同一指示と見なされる構成素 (NP または PP) の直前に (PP (NP *T*) (P-ROLE *.e*)) を置く。

    (3.31)

    財布 が 落ち て いる の を 拾っ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_34} *speaker* PP-OB1 NP IP-REL ___PP NP *T* __P-ROLE *.e* PP-SBJ NP N 財布 P-ROLE VB 落ち P-CONN VB2 いる N P-ROLE VB 拾っ AXD PU
            [34_misc_EXAMPLE@10,7]
    (3.32)

    それから 星 の 破片 の 落ち た の を 拾っ て 来 て 、 かろく 土 の 上 へ 乗せ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* CONJ それから PP-OB1 NP IP-REL ___PP NP *T* __P-ROLE *.e* PP-SBJ NP PP NP N P-ROLE N 破片 P-ROLE VB 落ち AXD N P-ROLE IP-ADV-CONJ VB 拾っ P-CONN VB2 P-CONN PU ADVP ADJI かろく PP NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE VB 乗せ AXD PU
            [50_aozora_Natsume-1908@12,9]

    3.2.6.5   残留代名詞

    被修飾の主名詞と同一指示となる指示代名詞,または指示的表現が名詞修飾節の中に現れることがある。 これは関係節(IP-REL)の特別なタイプであり,主名詞が関係節の中で任意文法役割を持つか, あるいは文法役割を帯びた名詞句を修飾する構成素(所有格PP や関係節等)の内部からの「移動」である時に見られることがある。 このときトレースは (P-ROLE ***) の投射する PP の下に置かれる。 同時に,同一指示の要素にはソート情報が与えられる。

    (3.33)

    有間皇子 が どう し て も そこ から 逃れる こと の でき なかっ た 悲運

    FRAG NP;{MISFORTUNE} ___IP-REL PP-SBJ NP NPR 有間皇子 P-ROLE PP-SCON-CND IP-ADV ADVP-CMPL WADV どう VB P-CONN P-OPTR PP-OB1 NP IP-EMB ___PP NP *T* __P-ROLE *** PP NP;{MISFORTUNE} PRO そこ P-ROLE から VB 逃れる N こと P-ROLE VB でき NEG なかっ AXD N 悲運
            [7_misc_EXAMPLE2@27,24,3]
    (3.34)

    自分 の 兄弟 だけ が その 中 で 苦しん で いる 壕 の なか

    FRAG NP PP NP;{FOXHOLE_45} ___IP-REL ___PP NP *T* __P-ROLE *** PP-SBJ NP PP NP;{SELF} PRO 自分 P-ROLE N 兄弟 P-OPTR だけ P-ROLE PP NP D;{FOXHOLE_45} その N P-ROLE VB 苦しん P-CONN VB2 いる N P-ROLE N なか
            [8_misc_EXAMPLE2@9,6,5]

    3.2.6.6   連体句(PNLP)

    PNLP のカテゴリーは下記の図式によっては適切に表すことができない名詞修飾を指すのに用いられる。

    例えば,名詞修飾を行うイ形容詞の中には,修飾先の主名詞がいかなる直接的な意味でもその形容詞の主語ではなく, 修飾要素が主名詞の命題的内容を表すこともないものが存在する。

    (3.35)

    昨晩 古い 友人 が 訪ね て 来 た

    IP-MAT NP-TMP N 昨晩 PP-SBJ ___NP __PNLP ADJI 古い ___N 友人 P-ROLE VB 訪ね P-CONN VB2 AXD
            [2_misc_EXAMPLE2@7,6,10]

    連体句(PNLP)は連体詞(PNL)を主要部とするものではないことに注意されたい。 PNL はそれ自体修飾されることはなく,主節でも副詞節でも述語の位置に現れることはなく, いくつかの例外的な場合を除いて,N を修飾し,その N の投射する NP の元に置かれる(3.2.5 節を参照)。


    3.3   量化表現

    本節では量化に用いられる要素を主要部とする様々な表現について見る。 これらの要素は, (i) 数詞を含まず,それ独自で量化の機能を果たすもの, (ii) 数詞を含むもの, (iii) 不定性を表す疑問詞で,助詞「も」「か」と結びついて量化表現となるものの3つに分類することができる。 これらの要素を,これから「量化作用素」と呼ぶことにする。 量化作用素は,修飾要素を含んで,直ちにNPを投射する。 このNP投射を「量化的NP」と呼ぶことにする。 量化的NPは,独立した構成素として振る舞うこともあれば, 量化の領域を表現する「ホスト名詞」と結合することもある。

    3.3.1   3種類の量化作用素

    3.3.1.1   量化詞(Q)

    数詞(NUM)あるいは疑問数詞(WNUM)なしで, 独立して量化作用素となる語をQ(量化詞)とラベル付けする。 Q は常に名詞句(NP)を投射する。

    (3.36)

    泥棒 は 店 から 宝石 を すべて 奪い去っ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP N 泥棒 P-OPTR PP-OB2 NP N P-ROLE から PP-OB1 NP N 宝石 P-ROLE ___NP;*OB1* __Q すべて VB 奪い去っ AXD PU
            [338_dict_vv-lexicon@21,20]

        本コーパスにおいて比較的頻度の高い Q を以下に示す。

    3.3.1.2   助数詞句(NUMCLP)

    数詞(NUM)または疑問数詞(WNUM)を伴う量化表現を, 序数的か基数的かに関わらず, NUMCLP(助数詞句)とラベル付けする。

    (3.37)

    青春時代 、 友達 が デート __に 明け暮れる の をよそに 、 僕 は 家 に 一人 こもっ て SF を 読ん で い た 。

    IP-MAT PP NP IP-EMB NP-TMP N 青春時代 PU PP-SBJ NP N 友達 P-ROLE PP NP N デート P-ROLE __に VB 明け暮れる N P-ROLE をよそに PU PP-SBJ NP PRO P-OPTR IP-ADV-SCON PP NP N P-ROLE NP-ADV NUMCLP NUM 一人 VB こもっ P-CONN PP-OB1 NP N SF P-ROLE VB 読ん P-CONN VB2 AXD PU
            [454_textbook_djg_advanced@21]
    (3.38)

    この アート は 何百 年 も 続い て いる の です

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N アート P-OPTR PP-MSR NP __NUMCLP WNUM 何百 CL P-OPTR VB 続い P-CONN VB2 いる FN AX です
            [18_ted_talk_1@12]
    (3.39)

    第一 章 総則

    FRAG NP __NUMCLP NUM 第一 CL N 総則
            [2_law_h15A119@3]

        NUMCLP は典型的には NUM または WNUM と助数詞(CL)から成るが, NUM または WNUM だけで,CL を伴うことなく NUMCLP を作ることもある。 これには2つの場合があり,1つはCLが本当にない場合である。

    (3.40)

    私 は まだ 十八 です わ 。

    CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ NP PRO P-OPTR ADVP ADV まだ NP-PRD ___NUMCLP __NUM 十八 AX です P-FINAL PU
            [213_textbook_djg_gram_terms@14,13]
    (3.41)

    もう 六 時 半 で 、 針 は 落ちつき払っ て 進ん で いく 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ NP-SBJ *pro* ADVP ADV もう NP-PRD __NUMCLP NUM CL ___NUMCLP ___NUM AX PU PP-SBJ NP N P-OPTR IP-ADV-SCON VB 落ちつき払っ P-CONN VB 進ん P-CONN VB2 いく PU
            [51_aozora_Harada-1960@9,14,15]

    もう1つは,「一人」(ひとり)「二人」(ふたり)のように, 熟字訓で読まれる場合である。

    (3.42)

    第2テノール の 一人 は パヴァロッティ だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N 第2テノール P-ROLE __NUMCLP ___NUM 一人 P-OPTR NP-PRD NPR パヴァロッティ AX PU
            [229_misc_JSeM_beta_150530@10,11]

    ここから分かることとして, NUMCLP の主要部となる必須要素は NUM のほうである。

        CL(助数詞)は基本的に名詞的な性質を持つ。 典型的な CL には次のようなものがある。

    しかし,CL はこれらだけに限らない。 以下の例 (3.43) のように, 一般名詞であっても,柔軟にCLの役割を果たすことがある (「特別委員会」が一般名詞であることは,項位置への出現可能性から明らかである。 「*個が開かれた」と「特別委員会が開かれた」を比較のこと)。

    (3.43)

    次 に 、 ただいま 決定 いたし まし た 特別委員会 を 除く 四 特別委員会 につきまして は 、 理事会 で 合意 いたし まし た とおり 設置 する こと と し 、 本日 の 本会議 において 議決 する に 御異議 あり ませ ん か 。

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP NP N P-ROLE PU PP IP-NMZ IP-ADV-CONJ PP NP IP-EMB NP-ADV IP-EMB PP NP IP-EMB NP-SBJ *exp* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-TMP N ただいま VB 決定 VB0 いたし AX まし AXD N 特別委員会 P-ROLE VB 除く NML __NUMCLP NUM ___CL 特別委員会 P-ROLE につきまして P-OPTR PU PP NP N 理事会 P-ROLE VB 合意 VB0 いたし AX まし AXD N とおり VB 設置 VB0 する N こと P-ROLE VB PU PP NP PP NP N 本日 P-ROLE N 本会議 P-ROLE において VB 議決 VB0 する P-ROLE NP-OB1 N 御異議 VB あり AX ませ NEG P-FINAL PU
            [28_diet_kaigiroku-14@49,52]

        NUMCLP はその複合的な成り立ちにも拘わらず, あたかも1語かのように,Nとして振る舞う。 NUMCLPは,Q と同様に,常に NP を投射する。 数量表現への修飾は,NUMCLP投射とそのさらに上のNP投射の間で行われる。

    (3.44)

    この 店 は 朝 7 時 から 営業 し て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SHOP_219} D この N P-OPTR PP-MSR ___NP N __NUMCLP NUM 7 CL P-ROLE から VB 営業 VB0 P-CONN VB2 いる PU
            [219_textbook_kisonihongo@14,11]
    (3.45)

    この 3 年間 は 消費 が 冷え込ん で いる .

    IP-MAT PP-TMP ___NP D この __NUMCLP NUM CL 年間 P-OPTR PP-SBJ NP N 消費 P-ROLE VB 冷え込ん P-CONN VB2 いる PU
            [2499_dict_vv-lexicon@6,3]
    (3.46)

    がらんと し た 旅館 の 一 室 。

    FRAG ___NP;{ROOM_20} IP-REL NP-SBJ *T* ADVP-CMPL ADV がらんと VB AX PP NP N 旅館 P-ROLE __NUMCLP NUM CL PU
            [20_aozora_Kajii-1925@19,2]
    (3.47)

    各店 も 対策 に 追わ れる 1 年 に なる だろう 。

    IP-MAT NP-SBJ *exp* IP-SMC-OB1 ___NP-PRD IP-EMB PP-SBJ NP Q 各店 P-OPTR PP-LGS NP N 対策 P-ROLE VB 追わ PASS れる __NUMCLP NUM CL AX VB なる MD だろう PU
            [62_news_KAHOKU_113@23,5]

    3.3.1.3   疑問詞を伴う量化表現(W表現)

    疑問詞(すなわち,疑問代名詞(WPRO), 疑問限定詞(WD),疑問副詞(WADV),および疑問数詞(WNUM))を含む表現は, 助詞「か」または「も」を伴って,量化作用素をつくる。 便宜的にこれらを「W表現」と呼ぶことにする。

        W 表現が「も」を伴う場合,表現全体は譲歩(自由選択)という量化の働きを持つ。

    (3.48)

    試験 に 通り さえ すれ ば 、 何 も 問題 は ない 。

    IP-MAT IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ;{MAN_830} *pro* PP NP N 試験 P-ROLE VB 通り P-OPTR さえ VB2 すれ P-CONN PU NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR PP-SBJ NP N 問題 P-OPTR ADJI ない PU
            [830_textbook_kisonihongo@22,24]
    (3.49)

    会計士 は 誰 も 会議 に 出席 し なかっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 会計士 P-OPTR NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR PP NP N 会議 P-ROLE VB 出席 VB0 NEG なかっ AXD PU
            [1024_misc_JSeM_beta_150530@9,11]
    (3.50)

    津波 は 誰 に も 止め られ ない 。

    IP-MAT PP-OB1 NP N 津波 P-OPTR PP-SBJ NP __WPRO P-ROLE ___P-OPTR VB 止め VB2 られ NEG ない PU
            [57_news_KAHOKU_63@10,14]

        W 表現が「か」を伴う場合,表現全体で不定指示の存在量化的な働きをする。

    (3.51)

    社員 が 誰 か 移動 を 希望 し て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 社員 P-ROLE NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR PP-OB1 NP N 移動 P-ROLE VB 希望 VB0 P-CONN VB2 いる PU
            [27_misc_JSeM_beta_150530@9,11]

        また,複合的な助詞「もかも」が W表現に付く例があり,自由選択としての解釈を受ける。 本コーパスではこのような表現は全体で一語として扱われ,Qとアノテートされる。

    (3.52)

    「 何もかも が 失敗 だ 、 ワトスン

    IP-MAT PUL PP-SBJ NP __Q 何もかも P-ROLE NP-PRD N 失敗 AX PU NP-VOC;{WATSON} NPR ワトスン
            [329_aozora_Doyle-1905@6]

    3.3.2   量化的NPの真正な等位接続と,見せかけの等位接続

    量化作用素は,(NPを投射しながら)並列句(CONJP) ( 3.5 節を参照)を構成することがある。 以下の例では 選言的な接続助詞(P-CONN)「か」が2つの数量表現NPを等位接続する。

    (3.53)

    たとえば この あいだ も 二 晩 か 三 晩 かかっ て 小さな 額ぶち を つくり まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{GREGOR} *pro* ADVP ADV たとえば PP-TMP NP D この N あいだ P-OPTR IP-ADV-SCON NP-SBJ *exp* NP-OB1 *pro* NP-MSR ___CONJP ___NP NUMCLP NUM CL __P-CONN ___NP NUMCLP NUM CL VB かかっ P-CONN PP-OB1 NP;{FRAME} PNL 小さな N 額ぶち P-ROLE VB つくり AX まし AXD PU
            [196_aozora_Harada-1960@28,21,22,30]

    また,次の例では NUMCLP が投射する複数の NP が, 対応する,音形のあるような P-CONN なしで等位接続されている。

    (3.54)

    つづい て 和尚 は 、 第二 、 第三 、 第四 の 抽斗 を 開け た

    IP-MAT IP-ADV-SCON NP-SBJ *exp* VB つづい P-CONN PP-SBJ NP N 和尚 P-OPTR PU PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD CONJP __NP ___NUMCLP NUM 第二 PU CONJP ___NP ___NUMCLP NUM 第三 PU ___NP ___NUMCLP NUM 第四 AX N 抽斗 P-ROLE VB 開け AXD
            [45_aozora_Togawa-1937-3@24,25,31,32,37,38]

    以上は,意味の観点から考えても真正の等位接続である。

        一方で,連続した量化作用素が真正の等位接続として分析できない場合は, それぞれの量化作用素にNPを投射させることをせず, 同一の NP 投射を共有し,その下で並置されるものとする。 日付や時刻などが典型例である。

    (3.55)

    さわやか な 九 月 一日 の 朝 でし た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN さわやか AX PP __NP ___NUMCLP NUM CL ___NUMCLP NUM 一日 P-ROLE N AX でし AXD PU
            [16_aozora_Miyazawa-1934@13,14,19]
    (3.56)

    六 時 半 に W君 が 来 た 。

    IP-MAT PP-TMP __NP ___NUMCLP NUM CL ___NUMCLP NUM P-ROLE PP-SBJ NP NPR W君 P-ROLE VB AXD PU
            [111_aozora_Dazai-1-1940@3,4,9]

    もう1つの真正でない例は,NUMCLPの重畳で,分配性と全体性を強調するような構文である。

    (3.57)

    「 それ を 一 枚 一 枚 はがし て 、 貧しい 人 に あげ なさい 。

    CP-IMP PUL IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-OB1 NP PRO それ P-ROLE IP-ADV-CONJ __NP;*OB1* ___NUMCLP NUM CL ___NUMCLP NUM CL VB はがし P-CONN PU PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 貧しい N P-ROLE VB あげ VB2 なさい PU
            [271_aozora_Yuki-1-2000@14,15,20]

    3.3.3   量化的NPとホスト名詞との関連付け

    量化的NPがある別のNPと量化的な関係にあるとは, 当該の量化的NPが,もう一方のNPの数量または割合を特定しているとき(すなわち,もう一方のNPが量化的NPの量化域になっているとき)にいう。 このとき,量化的NPではないほうのNPは,「ホストNP」と呼ばれる。 例えば,(3.58)では,量化的NP「多く」があり, そのホストNPは「人」である。 「多く」は,「人」の数量が一定以上あることを示している。

    (3.58)

    多く の 人 が その 本 を 褒めちぎっ て いる .

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL;* NP-SBJ *T* __NP-PRD Q 多く AX ___N P-ROLE PP-OB1 NP D その N P-ROLE VB 褒めちぎっ P-CONN VB2 いる PU
            [2898_dict_vv-lexicon@7,12]

        量化的NPと,それが隣接するNPとの間の関係は,いつも量化的であるとは限らない。 (__Kainoki_414_aozora_Harada_1960__)は明らかな非量化的な関係の例である (「両腕」は「父親」の数量を示しているわけではない):

    (3.59)

    かけ て いっ た 父親 の 両腕 の なか に

    PP NP PP NP PP NP;{FATHER} IP-REL NP-SBJ *T* VB かけ P-CONN VB2 いっ AXD __N 父親 P-ROLE ___Q 両腕 P-ROLE N なか P-ROLE
            [46#414_aozora_Harada-1960@18,22]

    しかも, 3.3.5.3 節で見るように, これらの関係が量化的か否かについて,統語的配置から一意的に決まるとも限らない。 このため,量化的NPともう1つのNPとの関係が確かに量化的である場合, ソート情報( 1.8 節を参照)を追加することで 量化的関係を明示する。 大まかな方針としては,

    (3.60)

    すべて の 日本人研究者 が ノーベル賞 を 欲し がっ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{PERSON} __IP-REL;* NP-SBJ *T* ___NP-PRD Q すべて AX N 日本人研究者 P-ROLE PP-OB1 NP NPR ノーベル賞 P-ROLE ADJI 欲し AX がっ P-CONN VB2 いる PU
            [44_misc_JSeM_beta_150530@4,7]
    (3.61)

    ステーキ用 の 肉 が たくさん 冷凍庫 に 入っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N ステーキ用 P-ROLE N P-ROLE __NP;*SBJ* Q たくさん PP NP N 冷凍庫 P-ROLE VB 入っ P-CONN VB2 いる PU
            [155_misc_JSeM_beta_150530@14]
    (3.62)

    集合 は 半分 が 駄目 だ

    IP-MAT PP NP;{WHOLE_47} N 集合 P-OPTR P-ROLE *** PP-SBJ NP PP __NP;{WHOLE_47} *pro* P-ROLE *の* ___Q 半分 P-ROLE ADJN 駄目 AX
            [10_misc_EXAMPLE2@13,17]
    (3.63)

    人間 の 体 は 60 % が 水 、 魚 は 75 % 、 くらげ にいたって は 96 % が 水 だ 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ PP-TPC NP;{BODY} PP NP N 人間 P-ROLE N P-OPTR P-ROLE *** PP-SBJ __NP PP NP;{BODY} *pro* ___P-ROLE *の* NUMCLP NUM 60 CL P-ROLE NP-PRD N AX * PU PP-TPC NP;{FISH} N P-OPTR P-ROLE *** NP-SBJ PP NP;{FISH} *pro* P-ROLE *の* NUMCLP NUM 75 CL % PU PP-TPC NP;{JELLYFISH} N くらげ P-ROLE にいたって P-OPTR P-ROLE *** PP-SBJ NP PP NP;{JELLYFISH} *pro* P-ROLE *の* NUMCLP NUM 96 CL % P-ROLE NP-PRD N AX PU
            [332_textbook_djg_advanced@19,23]

    3.3.4   連体修飾するW表現のためのフラットなアノテーション

    W表現による量化的NPには,「だれ+も」「何+か」のように,W表現+P からなるもの (3.64) があり, また,「どの+人+も」のように,W表現+N+P からなるものもある (3.65)。

    (3.64)

    振り返っ て 後ろ を 見 た が 、 誰 も い なかっ た .

    IP-MAT PP-CONJ IP-ADV NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ VB 振り返っ P-CONN PP-OB1 NP N 後ろ P-ROLE VB AXD P-CONN PU NP-SBJ *pro* NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR VB NEG なかっ AXD PU
            [2817_dict_vv-lexicon@28,30]
    (3.65)

    どの 社員 も 異動 を 希望 し て い ない 。

    IP-MAT NP-SBJ __WD どの ___N 社員 ___P-OPTR PP-OB1 NP N 異動 P-ROLE VB 希望 VB0 P-CONN VB2 NEG ない PU
            [127_misc_JSeM_beta_150530@3,5,7]

    W表現+P(例:「だれも」)は,それ全体で量化的NPとなり,さらにホストNPを外部に持つことがある。 例えば,(3.66) では, 「誰も」のホストNPは,主語NP「会計士たち」である。

    (3.66)

    会計士たち は 誰 も 会議 に 出席 し なかっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ ___NP N 会計士たち P-OPTR ___NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR PP NP N 会議 P-ROLE VB 出席 VB0 NEG なかっ AXD PU
            [1020_misc_JSeM_beta_150530@9,11,8,3]

    一方で,W表現+N+P (例:「何の+N+P」「どの+N+P」)については, その中のNはいつも量化的NPの量化域となるのであり, 意味的な観点からは,NはW表現のホスト名詞と呼ばれてしかるべきものである。 しかし,本ツリーバンクにおける構文の検索の便宜のことを考慮し, この構文に対して,特別に,フラットなアノテーションを行う。 ソート情報は使われない。

    (3.67)

    私たち に は 何 の 問題 も ない わ 。

    CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ NP PRO 私たち P-ROLE P-OPTR NP-OB1 PP NP __WPRO ___P-ROLE ___N 問題 P-OPTR ADJI ない P-FINAL PU
            [608_fiction_DICK-1952@14,16,18]
    (3.68)

    どの 取引先 から も 注文 が 来 まし た 。

    IP-MAT PP NP __WD どの ___N 取引先 P-ROLE から P-OPTR PP-SBJ NP N 注文 P-ROLE VB AX まし AXD PU
            [4_textbook_purple_intermediate@4,6]

    W表現の「ホスト名詞」は,実質的には, (3.66)のように W表現から遊離している名詞句ばかりである。

    3.3.5   量化的NPの様々な構文

    日本語において,量化的NPは様々な構文を取りうる。

    以下,これらの構文を一つ一つ解説する。

    3.3.5.1   主要部として働く Q / NUMCLP / W表現 で,修飾を受けるような場合:[N の] Q/NUMCLP/W

    その量化の範囲が,自らを修飾する連体修飾句(所有格PPであることが多い)で示されるような量化詞のアノテーションは, 通常のNPのアノテーションと何ら変わりはない。 ソート情報は不要である。

    (3.69)

    ヨーロッパ人 の 全員 が ヨーロッパ の 中 を 自由 に 移動 できる 。

    IP-MAT PP-SBJ __NP PP NP N ヨーロッパ人 P-ROLE ___Q 全員 P-ROLE PP-OB1 NP PP NP NPR ヨーロッパ P-ROLE N P-ROLE ADVP ADJN 自由 AX VB 移動 VB0 できる PU
            [311_misc_JSeM_beta_150530@3,10]

    3.3.5.2   同格の Q / NUMCLP:N Q/NUMCLP

    Q や NUMCLP が,何かしらの名詞の直後に現れる場合がある。 このような場合,ホストの投射する NP の下に PRN を置き, Q または NUMCLP の投射する NP をその下に配置する: (NP (N ホスト) (PRN (NP (Q/NUMCLP 量化表現))))

    (3.70)

    初 の 仙台公演 で は ビゼー の 華麗 な 音楽 に 彩ら れ た 名作 「 カルメン 」 全 4 幕 を 上演 し ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN AX N 仙台公演 P-ROLE P-OPTR PP-OB1 __NP PRN NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-LGS NP PP NP NPR ビゼー P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 華麗 AX N 音楽 P-ROLE VB 彩ら PASS AX N 名作 PUL ___NPR カルメン PUR ___PRN NP ___Q ___NUMCLP NUM CL P-ROLE VB 上演 VB0 AX ます PU
            [51_news_KAHOKU_61@20,55,59,61,63]

        Q または NUMCLP が投射する量化的NPが,直前の名詞を量化させている場合には, これらの間に量化的関係があると認め, 最小のソート情報 ;* が量化的NPに添えられる ((NP (N ホスト) (PRN (NP;* (Q/NUMCLP 量化表現)))))。 この [ホスト + Q/NUMCLP] という対の作るホスト名詞は通常,特定の指示対象を持つ。 そして,この外側のより大きなNPは,直後に助詞が続いたり,それ自身が名詞述語(NP-PRD)になったりする。

    (3.71)

    社員 全員 が 書庫 の 鍵 を 持っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ __NP ___N 社員 ___PRN ___NP;* ___Q 全員 ___P-ROLE PP-OB1 NP PP NP N 書庫 P-ROLE N P-ROLE VB 持っ P-CONN VB2 いる PU
            [320_misc_JSeM_beta_150530@3,4,6,7,8,10]
    (3.72)

    宮城県内外 の 自治体職員 や 企業 の 防災担当者 ら 40 人 が 参加 。

    IP-MAT PP-SBJ __NP PP NP N 宮城県内外 P-ROLE NML CONJP NP N 自治体職員 P-CONN NP PP NP N 企業 P-ROLE N 防災担当者 ___N ___PRN ___NP;* ___NUMCLP NUM 40 CL P-ROLE VB 参加 PU
            [12_news_KAHOKU_34@3,26,28,29,30]

    上記以外の場合はソート情報はつけない。 以下の例(3.73)は, 単なる同格であって,量化関係にはない(「僕たち」と呼ばれうるものが3つ存在しているわけではない)。

    (3.73)

    ナニー が 先頭 に なっ て 、 僕たち 三 人 は ベッド の 足元 に ひざまずい た 。

    IP-MAT IP-ADV-SCON PP-SBJ NP;{NANNIE} NPR ナニー P-ROLE IP-SMC-OB1 NP-PRD N 先頭 AX VB なっ P-CONN PU PP-SBJ __NP;{SPEAKER+AUNT+NANNIE} ___PRO 僕たち ___PRN NP ___NUMCLP NUM CL P-OPTR PP NP PP NP N ベッド P-ROLE N 足元 P-ROLE VB ひざまずい AXD PU
            [121_aozora_Joyce-1914@22,23,25,27]

        NUMCLP の直後に括弧で囲まれた NUMCLP があるときは,後者を投射する NP を PRN で包む。

    (3.74)

    1926 年 ( 大正 15 年 ) に 仙台市電 が 開業 し た 。

    IP-MAT PP __NP ___NUMCLP NUM 1926 CL ___PRN PUL ___NP NPR 大正 ___NUMCLP NUM 15 CL PUR P-ROLE PP-SBJ NP NPR 仙台市電 P-ROLE VB 開業 VB0 AXD PU
            [157_wikipedia_Sendai_City@3,4,9,12,15]

    3.3.5.3   Q による連体修飾:[Q の] N

    [Q + の] という形式をとる連体修飾表現には,それが指示表現か数量表現であるかに応じて, 2種類の異なる分析が可能であり, アノテーションに際してはこれらのうちの1つを選ばなくてはならない。 例えば,(3.75) に含まれる, 「両方のチーム」という表現は,それだけでは意味的に曖昧である。 「2つのチーム(例えば,巨人と阪神)の双方」という解釈が可能で,また, 「両方の個体(例えば,孫正義と王貞治)の経営する(1つの)チーム」という解釈もありうる。 前者の場合,Q を伴う表現は,ホスト名詞の数量を真正に示している。 後者の場合,Q を伴う表現は指示表現である。 どちらがアノテーションとして適切かということは, 文脈を参照することによってはじめて決定することができる。 今問題にしている例については,述語「攻め合う」により, 「両方」が「チーム」を量化していると確定するのに十分な文脈が提供されている。 そこで,この例における [Q + の] は IP-REL;* とラベル付けされる。

    (3.75)

    両方 の チーム が 攻め 合っ た .

    IP-MAT PP-SBJ ___NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD __Q 両方 ___AX N チーム P-ROLE VB 攻め VB2 合っ AXD PU
            [1413_dict_vv-lexicon@8,4,10,3]

    以下は,真正に量化的であるNPの追加の例である:

    (3.76)

    この 音楽 は 一部 の 人々 に 熱狂的 に 支持 さ れ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N 音楽 P-OPTR PP-LGS ___NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD __Q 一部 ___AX N 人々 P-ROLE ADVP ADJN 熱狂的 AX VB 支持 VB0 PASS P-CONN VB2 いる PU
            [20_misc_EXAMPLE2@16,11,12,18]
    (3.77)

    空 に は 無数 の 星 が きらめい て い た 。

    IP-MAT PP NP N P-ROLE P-OPTR PP-SBJ ___NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD __Q 無数 ___AX N P-ROLE VB きらめい P-CONN VB2 AXD PU
            [640_textbook_TANAKA@16,11,12,18]

    一方,Q を含む表現が指示表現である場合, [Q + の] はPPとして分析され, ソート情報 ;* は用いられない (例:(NP (PP (NP (Q 両方) の) (N チーム)))。 連体修飾表現のIP-REL分析と属格PP分析の選択については, 4.23 節を参照。 以下は追加の例である:

    THE FOLLOWING EXAMPLE NO LONGER WORKS! --> NOW IT SHOULD WORK!

    (3.78)

    津波 の 爪痕 を 目 に 焼き付け 、 体験談 を それぞれ の 地元 に 持ち帰る

    IP-MAT NP-SBJ *pro* IP-ADV-SCON PP-OB1 NP PP NP N 津波 P-ROLE N 爪痕 P-ROLE PP NP N P-ROLE VB 焼き付け PU PP-OB1 NP N 体験談 P-ROLE PP NP IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD Q それぞれ AX N 地元 P-ROLE VB 持ち帰る
            [65_news_KAHOKU_39]

    3.3.5.4   NUMCLP による連体修飾:[NUMCLP の] N

    NUMCLP の投射する NP が「の」を伴って連体修飾を行うときには, 量化的NPと,修飾される N との関係に従って,3つの分析が可能である。

        1つめは,NUMCLP の投射する NP が N の数量を表す場合である。 [NUMCLP + の] は IP-REL;* とラベル付けされる。

    (3.79)

    二人 の 剣豪 は お互い に 剣 を 突き返し た .

    IP-MAT PP-SBJ ___NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD __NUMCLP NUM 二人 ___AX ___N 剣豪 P-OPTR PP NP PRO お互い P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB 突き返し AXD PU
            [1660_dict_vv-lexicon@8,3,4,11,13]

    次の例 (3.80) も数量表現の一種であるが, NUMCLP の投射する NP が個数ではなく, 割合を示している。 このときも,IP-REL にはソート情報 ;* が添えられる。

    (3.80)

    この 1956 年 に アメリカ で 行わ れ た 調査 で は 30 % の 人 が 人生 が 非常 に 幸せ だ と 答え て い ます

    IP-MAT PP NP D この IP-REL NP-SBJ *T* NP-LGS *pro* PP NP NUMCLP NUM 1956 CL P-ROLE PP NP NPR アメリカ P-ROLE VB 行わ PASS AXD N 調査 P-ROLE P-OPTR PP-SBJ ___NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD __NUMCLP NUM 30 CL ___AX ___N P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SUB PP-SBJ NP N 人生 P-ROLE ADVP ADJN 非常 AX ADJN 幸せ AX P-COMP VB 答え P-CONN VB2 AX ます
            [21_ted_talk_3@44,39,40,49,51]

        2つめの場合は,NUMCLP の投射する NP が N の大きさ,順序等何らかの属性を表す場合である。 このとき,[NUMCLP + の] は IP-REL または IP-EMB とラベル付けされるが, ソート情報  ;* を添えることはない。

    (3.81)

    すべて の 四 本 足 の 哺乳類 は 四 本 足 の 動物 だ 。

    IP-MAT PP-SBJ ___NP IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD Q すべて AX ___IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD __NUMCLP NUM CL N ___AX ___N 哺乳類 P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM CL N AX N 動物 AX PU
            [1323_misc_JSeM_beta_150530@16,3,12,23,25]
    (3.82)

    不意 に 第二 の アイディア が 起こっ た 。

    IP-MAT ADVP ADJN 不意 AX PP-SBJ ___NP ___IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD __NUMCLP NUM 第二 ___AX ___N アイディア P-ROLE VB 起こっ AXD PU
            [134_aozora_Kajii-1925@13,8,9,16,18]
    (3.83)

    「 ハイ 、 あれ が 二十五 歳 の 時 の お話 で ござい ます よ 」

    CP-FINAL PUL IP-SUB NP-SBJ *pro* INTJ ハイ PU NP-PRD PP ___NP ___IP-EMB PP-SBJ NP PRO あれ P-ROLE NP-PRD __NUMCLP NUM 二十五 CL ___AX ___N P-ROLE N お話 AX VB2 ござい AX ます P-FINAL PUR
            [146_aozora_Edogawa-1929@22,13,14,27,29]

        3つめの分析は,NUMCLP の投射する NP が何らかの指示対象を持つ場合である。 このとき,[NUMCLP + の] は PP としてラベル付けされる。 PP にソート情報 ;* を添えることはない。

    (3.84)

    運命 が 二人 の 仲 を 引き裂い た .

    IP-MAT PP-SBJ NP N 運命 P-ROLE PP-OB1 ___NP ___PP NP __NUMCLP NUM 二人 ___P-ROLE ___N P-ROLE VB 引き裂い AXD PU
            [2537_dict_vv-lexicon@12,9,10,15,17]
    (3.85)

    二 月 十七 日 の 晩 で あっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ___NP-PRD ___PP NP __NUMCLP NUM CL ___NUMCLP NUM 十七 CL ___P-ROLE ___N AX VB2 あっ AXD PU
            [28_aozora_Mori-1912@7,12,4,5,17,19]

    3.3.5.5   遊離量化表現の Q / NUMCLP / W表現

    量化詞の遊離とは,それ自体で独立した節レベルの構成素を作ると同時に, 節レベルのホスト名詞を量化することからそう呼ばれる。 この場合の量化詞NPは必ずホスト名詞を量化する。 そのために,どの名詞句がホストなのかを示すために, ;*SBJ*, ;*OB1* 等のように 文法役割を伴ったソート情報が明記される。 遊離量化詞は,基本的に,何かしらの項をそのホスト名詞とし,自身は格助詞を伴わない。

    (3.86)

    店 に は 、 人 が いっぱい いる 。

    IP-MAT PP NP N P-ROLE P-OPTR PU PP-SBJ NP N P-ROLE ___NP;*SBJ* __Q いっぱい VB いる PU
            [103_textbook_kisonihongo@19,18]
    (3.87)

    彼女 は 夫 の 欠点 を ひと つ ひと つ 言い立て た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N 欠点 P-ROLE ___NP;*OB1* __NUMCLP NUM ひと CL ___NUMCLP NUM ひと CL VB 言い立て AXD PU
            [93_dict_vv-lexicon@21,20,26]

    ホスト名詞が文中に明示されていない場合,その存在はゼロ代名詞によって示される。 格標識を伴わない量化子に対しては,それが単独で項としてのNPをなすアノテーションも考えられるが, 本コーパスではゼロ代名詞からの遊離というアノテーションを優先的に行う。

    (3.88)

    部長 が 、 すべて うまく 行く よう に 取り計らっ て くれ た .

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP N 部長 P-ROLE PU PP NP IP-EMB NP-SBJ *pro* ___NP;*SBJ* __Q すべて ADVP ADJI うまく VB 行く N よう P-ROLE VB 取り計らっ P-CONN VB2 くれ AXD PU
            [1977_dict_vv-lexicon@18,17]
    (3.89)

    『 みな 私 の 手落ち だ !――

    IP-MAT PUL NP-SBJ *pro* ___NP;*SBJ* __Q みな NP-PRD PP NP PRO P-ROLE N 手落ち AX PU !――
            [220_aozora_Togawa-1937-1@7,6]

        NUMCLP も遊離して現れることがある。

    (3.90)

    台所 に お酒 が 二 升 あっ た 。

    IP-MAT PP NP N 台所 P-ROLE PP-SBJ NP;{DAZAI_LIQUOR_2_SHO} N お酒 P-ROLE ___NP;*SBJ* __NUMCLP NUM CL VB あっ AXD PU
            [103_aozora_Dazai-1-1940@15,14]
    (3.91)

    彼女 は ブーツ を 一 足 買っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR PP-OB1 NP N ブーツ P-ROLE ___NP;*OB1* __NUMCLP NUM CL VB 買っ AXD PU
            [789_textbook_TANAKA@15,14]

    以下は,NUMCLP による量化的 NP のホスト名詞がゼロ代名詞である例である。

    (3.92)

    すると また 一 匹 あらわれ た 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *pro* CONJ すると ADVP ADV また ___NP;*SBJ* __NUMCLP NUM CL VB あらわれ AXD PU
            [620_aozora_Natsume-1908@10,9,2]

        W表現も遊離しうる。

    (3.93)

    「 ここ に は 、 生き て いる もの は だれ も い ない よ 、

    CP-FINAL PUL IP-SUB PP NP PRO ここ P-ROLE P-OPTR PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* VB 生き P-CONN VB2 いる N もの P-OPTR ___NP;*SBJ* __WPRO だれ ___P-OPTR VB NEG ない P-FINAL PU
            [405_fiction_DICK-1952@31,30,33]

    以下は,遊離したW表現のホスト名詞がゼロ代名詞である例である。

    (3.94)

    巴里 の 有名 な 貿易商 、 山田和市氏 の 夫人 と 令嬢 で 、 どちら も 相当 に 日本語 を 話す 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ NP-PRD PP NP PRN NP PP NP NPR 巴里 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 有名 AX N 貿易商 PU NPR 山田和市氏 P-ROLE NML CONJP NP N 夫人 P-CONN NP N 令嬢 AX PU ___NP;*SBJ* __WPRO どちら ___P-OPTR ADVP ADJN 相当 AX PP-OB1 NP N 日本語 P-ROLE VB 話す PU
            [11_aozora_Hisao-1939@46,45,48,2]

        遊離した Q / NUMCLP / W表現はホスト名詞よりも後に現れる例が多いが, ホスト名詞に先行して現れる例もある。

    (3.95)

    しかし その 海岸 一帯 に は 、 たくさん 不思議 な 事 が 見聞き さ れる 。

    IP-MAT NP-LGS *arb* CONJ しかし PP NP D その N 海岸 PRN NP;* Q 一帯 P-ROLE P-OPTR PU ___NP;*SBJ* __Q たくさん PP-SBJ ___NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 不思議 AX N P-ROLE VB 見聞き VB0 PASS れる PU
            [9_aozora_Togawa-1937-1@23,22,26]
    (3.96)

    「 もう 一 つ ルビー を 持っ て いき ましょ う か 」

    CP-QUE PUL IP-SUB NP-SBJ *speaker* ___NP;*OB1* ADVP ADV もう __NUMCLP NUM CL PP-OB1 ___NP N ルビー P-ROLE VB 持っ P-CONN VB2 いき AX ましょ AX P-FINAL PUR
            [181_aozora_Yuki-1-2000@11,7,17]
    (3.97)

    彼ら 三 人 しか 客 が 乗っ て い ない 電車 に は 、 暖かい 陽 が ふり注い で い た 。

    IP-MAT PP NP IP-REL PP NP *T* P-ROLE *に* ___PP;*SBJ* NP;{FATHER+MOTHER+GRETE} PRO 彼ら PRN NP __NUMCLP NUM CL P-OPTR しか PP-SBJ ___NP N P-ROLE VB 乗っ P-CONN VB2 NEG ない N 電車 P-ROLE P-OPTR PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 暖かい N P-ROLE VB ふり注い P-CONN VB2 AXD PU
            [1224_aozora_Harada-1960@16,10,24]
    (3.98)

    誰 も 消火 に 手伝う 者 は い なかっ た 。

    IP-MAT ___NP;*SBJ* __WPRO ___P-OPTR PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP ___NP N 消火 P-ROLE VB 手伝う N P-OPTR VB NEG なかっ AXD PU
            [442_aozora_Sakaguchi-1947@3,2,5,13]

    3.3.5.6   Q による指示表現,NUMCLP による指示表現

    量化表現 Q あるいは NUMCLP が主要文法役割を表す助詞でマークされ (従って, 3.3.5.5 節のもののように遊離しているわけではない), そのホストが特定性を持つ時, ホストと量化表現は「全体-部分」の関係を持つが,このような量化表現は項として,つまり,指示的な表現として扱われる。 ホストNPは,(P-ROLE ***) の補部となり,さらにソート情報を付与される。 加えてこれと同じソート情報をもつゼロ代名詞が,(NP (PP (NP;{WHOLE} *pro*) (P *の*)) (Q ...)) のような形で, Q あるいは NUMCLP の補部として導入される。

    (3.99)

    自分たち は ほとんど が 次男坊 ばかり です から 」

    FRAG PP-SCON IP-ADV PP-TPC NP;{WHOLE} PRO 自分たち P-OPTR ___P-ROLE *** PP-SBJ ___NP ___PP ___NP;{WHOLE} *pro* ___P-ROLE *の* __Q ほとんど P-ROLE PP-PRD NP N 次男坊 P-OPTR ばかり AX です P-CONN から PUR
            [247_aozora_Hayashida-2015@19,13,14,15,17,10]
    (3.100)

    県内 で 48 店舗 を 持つ 同生協 は 、 被害 が 大きかっ た 2 店 が 閉店 し た 。

    IP-MAT PP-TPC NP;{COOP} IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 県内 P-ROLE PP-OB1 NP NUMCLP NUM 48 CL 店舗 P-ROLE VB 持つ N 同生協 P-OPTR ___P-ROLE *** PU PP-SBJ ___NP ___PP ___NP;{COOP} *pro* ___P-ROLE *の* IP-REL NP-SBJ *T* PP-SBJ2 NP N 被害 P-ROLE ADJI 大きかっ AXD __NUMCLP NUM CL P-ROLE VB 閉店 VB0 AXD PU
            [19_news_KAHOKU_39@52,28,33,34,35,37]
    (3.101)

    製造業 は 14 業種 の うち 11 業種 、 非製造業 は 12 業種 の うち 9 業種 が 上向い た 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ PP-TPC NP;{MANUFACTURING_INDUSTRY} N 製造業 P-OPTR ___P-ROLE *** NP-ADV PP ___NP ___PP ___NP;{MANUFACTURING_INDUSTRY} *pro* ___P-ROLE *の* __NUMCLP NUM 14 CL 業種 P-ROLE N うち NP-SBJ NUMCLP NUM 11 CL 業種 PU PP-TPC NP;{NON_MANUFACTURING_INDUSTRY} N 非製造業 P-OPTR P-ROLE *** NP-ADV PP NP PP NP;{NON_MANUFACTURING_INDUSTRY} *pro* P-ROLE *の* NUMCLP NUM 12 CL 業種 P-ROLE N うち PP-SBJ NP NUMCLP NUM CL 業種 P-ROLE VB 上向い AXD PU
            [15_news_KAHOKU_113@19,9,13,14,15,17]

        3.3.5.3 節で簡単に述べたように, 文脈さえあれば,量化表現を数量表現でなく独立した指示表現として扱うのに十分な根拠が与えられる。 しかし一方で,量化表現の中には,それ自体が含む要素のおかげで指示表現としての解釈を受けるものがある。 例えば,Q や NUMCLP が節構成素の主要部となり, 限定詞(D)または定名詞句によって修飾されて定指示となる場合である(3.3.1.2 節を参照)。 このような量化表現は指示表現として取り扱うことができ, 3.3.5.1 節で述べられているように, ソート情報によって明示的要素あるいは空要素にリンクされることはない。 例えば,以下の(3.102)において, 量化詞「すべて」は「の」が付加された名詞句によって修飾されており,これが量化表現全体を定としている。 このような指示的な量化表現は,必須項として助詞のマーキングを受ける強い傾向がある。

    (3.102)

    国内企業 の すべて が 週休二日制 を 導入 し て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ ___NP PP NP N 国内企業 ___P-ROLE __Q すべて P-ROLE PP-OB1 NP N 週休二日制 P-ROLE VB 導入 VB0 P-CONN VB2 いる PU
            [48_misc_JSeM_beta_150530@10,8,3]
    (3.103)

    アンケート は 県内 の 沿岸自治体 15 市町 の 245 校 を 対象 に 実施 し た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N アンケート P-OPTR IP-ADV2-SCON PP-DOB1 NP PP NP PP NP N 県内 P-ROLE N 沿岸自治体 PRN NP;* __NUMCLP NUM 15 CL 市町 ___P-ROLE ___NUMCLP NUM 245 CL P-ROLE IP-SMC-OB1 NP-PRD N 対象 AX VB 実施 VB0 AXD PU
            [24_news_KAHOKU_2275@25,30,32]
    (3.104)

    本年度 は 2 月 1日 から ___3 月 ___10日 まで 計 約1800 ___人 が 参加 し た 。

    IP-MAT PP-TMP NP N 本年度 P-OPTR PP NP __NUMCLP NUM CL ___NUMCLP NUM 1日 P-ROLE から PP NP NUMCLP NUM ___3 CL NUMCLP NUM ___10日 P-ROLE まで PP-SBJ NP N NUMCLP NUM 約1800 CL ___人 P-ROLE VB 参加 VB0 AXD PU
            [64_news_KAHOKU_39@10,15,24,29,40]

    3.3.5.7   ホストなしの副詞的な Q または NUMCLP

    Q あるいは NUMCLPに由来する,節の構成素としての NP は,ホスト名詞を量化するのではなく, それ単体で副詞的に機能することがある。 最も典型的なのは,時間や,期間,距離,度合いを示す場合である。 このような場合,Q あるいは NUMCLP の投射する NP は ソート情報を与えられることなく, NP-TMP,NP-ADV あるいは NP-MSR としてラベル付けされる (拡張タグ -TMP,-ADV,-MSR については 1.7.2 節を参照)。 THE STRUCTURE HAS CHANGED FOR ID@Kainoki_86_ted_talk_9

    (3.105)

    尿道 を つくる 工程 と 似 て い ます が もう 少し 複雑 です

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-CONJ IP-ADV PP-OB1 NP IP-EMB NP-SBJ *speaker+pro* PP-OB1 NP N 尿道 P-ROLE VB つくる N 工程 P-ROLE VB P-CONN VB2 AX ます P-CONN ADVP ADVP ADV もう ADV 少し ADJN 複雑 AX です
            [86_ted_talk_9]
    (3.106)

    全国平均 を 5.3 ポイント 下回っ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 全国平均 P-ROLE ___NP-ADV __NUMCLP NUM 5.3 CL ポイント VB 下回っ AXD PU
            [22_news_KAHOKU_113@11,10]
    (3.107)

    私 は 、 もう 少し ここ で 待と う 、 と 考え て い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SPEAKER_1088} PRO P-OPTR PU CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ *speaker* __ADVP ADVP ADV もう ADV 少し PP NP;{CURRENT_PLACE_1088} PRO ここ P-ROLE VB 待と AX PU P-COMP VB 考え P-CONN VB2 AXD PU
            [1088_textbook_kisonihongo@14]
    (3.108)

    スミス は 2 年間 バーミンガム に 住ん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR スミス P-OPTR __NP-MSR ___NUMCLP NUM 2 CL 年間 PP NP NPR バーミンガム P-ROLE VB 住ん AXD PU
            [1724_misc_JSeM_beta_150530@8,9]

    3.4   副詞句(ADVP)

    副詞句(ADVP)は通常,述語を意味的に修飾する。 ADVP はまた,名詞を修飾し,量,度合,程度等を表すこともある。

    (3.109)

    けれども 耕助 の いかり は なかなか 解け ませ ん でし た 。

    IP-MAT CONJ けれども PP-SBJ NP PP NP NPR 耕助 P-ROLE N いかり P-OPTR __ADVP ADV なかなか ___VB 解け AX ませ NEG AX でし AXD PU
            [674_aozora_Miyazawa-1934@16,19]
    (3.110)

    学校 の 最も 近く に 住ん で いる の は 佐藤さん です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP PP NP N 学校 P-ROLE __ADVP ADV 最も ___N 近く P-ROLE VB 住ん P-CONN VB2 いる N P-OPTR NP-PRD NPR 佐藤さん AX です PU
            [18_misc_EXAMPLE2@15,18]

    ADVP の主要部は多くの場合,副詞(ADV)あるいは疑問副詞(WADV)である。 場合によっては修飾部や補部を伴うこともある。 本コーパスにおいて比較的頻度の高い ADV には次のようなものがある。 このリストに見るように,動詞の「テ形」から派生したものも多い。

  • もう, そう, ちょっと, まだ, また, すぐ, とても, 少し, まず, もし, やはり, 一番, こう, ただ, あまり, 特に, もっと きわめて, 次いで, 追って, 初めて, 総じて, 改めて, 時として, etc.
  • 疑問副詞(WADV) には次のようなものがある。

  • いかが, いかに, いくら, どう, どうして, どのように, どんなに, なぜ, 何故, なんて
  • ADV は格助詞(P-ROLE)と共に用いられることもある。 このような P-ROLE の代表的なものは,「に」「の」である(コーパス中には「として」「という」「で」等の例も見られる)。 この P-ROLE は,ADV の投射する ADVP の姉妹であり,かつ助詞句(PP)を投射するものとしてアノテートされる。

    (3.111)

    すぐ に 決着 する わ 。 」

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *pro* ___PP ___ADVP __ADV すぐ ___P-ROLE VB 決着 VB0 する P-FINAL PU PUR
            [402_fiction_DICK-1952@7,6,5,9]
    (3.112)

    彼 は あまり の 悲しみ に 泣き叫ん だ .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR ___PP NP IP-REL NP-SBJ *T* __ADJN あまり AX N 悲しみ ___P-ROLE VB 泣き叫ん AXD PU
            [2029_dict_vv-lexicon@13,8,19]

    なお,副詞的表現の中には「と」や「に」で終わるものもある。 これらのうち,「と」や「に」を除外すると語として成立しないものは, 一語の ADV として扱われる。

    一方で,随意的に省くことのできるような「と」で終わる副詞的表現も存在する。 このようなケースでは,「と」は独立した一語として扱われ,AX とラベル付けされる。 ただし最大投射が ADVP であることには変わりない。

    (3.113)

    ドール は ゆっくり と 携帯武器 を はずし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ドール P-OPTR __ADVP ADV ゆっくり ___AX PP-OB1 NP N 携帯武器 P-ROLE VB はずし AXD PU
            [351_fiction_DICK-1952@8,11]
    (3.114)

    息切れ が 早く も はっきり と 表われ 始め た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 息切れ P-ROLE PP ADVP ADJI 早く P-OPTR __ADVP ADV はっきり ___AX VB 表われ VB2 始め AXD PU
            [814_aozora_Harada-1960@14,17]

        ADV に加えて,イ形容詞(ADJI)の連用形も ADVP を投射できる(優しく,早く,しかたなく,大きく,小さく,等)。

    (3.115)

    僕 の 友だち は 優しく 、 寛大 に 微笑ん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{PRINCE} PP NP;{BOKU} PRO P-ROLE N 友だち P-OPTR __ADVP ___ADJI 優しく PU ADVP ADJN 寛大 AX VB 微笑ん AXD PU
            [97_fiction_SAINT-EXUPERY-1943@14,15]

    また,コピュラの連用形(AX)の「に」あるいは「と」は,ナ形容詞(ADJN)に後続した場合に ADVP を投射できる(不機嫌に,きれいに,しずかに,やわらかに,茫然と,公然と,等;上記 (3.115) の「寛大に」も参照)。

    (3.116)

    ドール は 不機嫌 に 言っ た 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP NPR ドール P-OPTR __ADVP ___ADJN 不機嫌 ___AX VB 言っ AXD PU
            [179_fiction_DICK-1952@10,11,13]
    (3.117)

    彼 は 茫然 と 、 立ちすくん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{MELOS} PRO P-OPTR __ADVP ___ADJN 茫然 ___AX PU VB 立ちすくん AXD PU
            [204_aozora_Dazai-2-1940@8,9,11]

        ADVP はとりたて助詞を伴うことができる。

    (3.118)

    たまに は おごれ よ 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP __ADVP ADV たまに ___P-OPTR VB おごれ P-FINAL PU
            [288_textbook_purple_intermediate@6,9]

        ADVP は並列構造の中に現れることがある。 多くの場合,並列される副詞句は「そして」「かつ」「あるいは」といった接続詞で結ばれる。

    (3.119)

    彼ら は 狙い を うまく 、 そして 完全 に 定め た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼ら P-OPTR PP-OB1 NP N 狙い P-ROLE ADVP CONJP __ADVP ADJI うまく PU ___CONJ そして ADVP ___ADJN 完全 AX VB 定め AXD PU
            [138_fiction_DICK-1952@16,21,24]

    3.5   副詞節でない要素の並列(CONJP)

    この節では副詞節(IP-ADV)ではない要素の並列を扱う。 このような真の並列は2つ以上の副詞句(ADVP)の間,助詞句(PP)の間,名詞句(NP)の間,疑問節(CP-QUE)の間などで生じうる。

        これらが接続助詞や等位接続詞によって結び付けられる時,最後を除く全ての並列句は CONJP とラベル付けされる。 CONJP の主要部は CONJ あるいは P-CONN となる。 これらは最後の並列句と結びつけられ,句を構成する。 次のスキーマを参照のこと。

    (3.120)
    (XP (CONJP (XP 並列句)
               (CONJ/P-CONN 助詞/接続詞))
        (CONJP (XP 並列句)
               (CONJ/P-CONN 助詞/接続詞))
        (XP 最後の並列句))

        句の並列の際に現れる接続助詞には様々なものがある。 詳しくは 2.5 節を参照。

        また,次に示すように,並列を示すために使われる決まった構造がいくつかある。

    3.5.1   名詞句(NP)の並列

    接続助詞(P-CONN)あるいは等位接続詞(CONJ)は,非終端の NP を支配する CONJP の主要部となることができる。

    (3.121)

    昔々 、 ある 所 に おじいさん と おばあさん が おり まし た 。

    IP-MAT NP-TMP N 昔々 PU PP NP;{GRANDPARENT_INHABITANCE} D ある N P-ROLE PP-SBJ ___NP ___CONJP ___NP;{GRANDFATHER} N おじいさん __P-CONN ___NP;{GRANDMOTHER} N おばあさん P-ROLE VB おり AX まし AXD PU
            [2_fiction_momotaro@21,16,17,18,23]
    (3.122)

    まず 、 租税 及び 印紙収入 について 申し上げ ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* ADVP ADV まず PU PP ___NP ___CONJP ___NP N 租税 __CONJ 及び ___NP N 印紙収入 P-ROLE について VB 申し上げ AX ます PU
            [38_diet_kaigiroku-13@15,10,11,12,17]

        P-CONN と CONJ はひとつの CONJP の下で共起することもある。

    (3.123)

    この 申込書 は 本人 か 、 もしくは 保証人 が 記入 し なけれ ば なら ない 。

    IP-MAT PP-OB1 NP D この N 申込書 P-OPTR PP-SBJ NP ___CONJP NP N 本人 __P-CONN PU ___CONJ もしくは NP N 保証人 P-ROLE VB 記入 VB0 NEG なけれ P-CONN VB2 なら NEG ない PU
            [249_textbook_djg_advanced@16,12,20]

        いくつかの接続助詞は同じ助詞と対で用いられることがある。 この時,後ろの接続助詞が並列構造全体をマークして前節で示したようなタイプの構造を作る。 並列構造全体をマークする助詞は,並列が総記的なものか,そうでないかを示す。 これらの並列リストを閉じる助詞は,並列句をまとめた NPの下に置かれる(詳細は,2.12 節を参照)。

    (3.124)

    こうして 天 と 地 と 、 その 万象 と が 完成 し た 。

    IP-MAT CONJ こうして PP-SBJ ___NP CONJP ___NP N __P-CONN CONJP ___NP N ___P-CONN PU ___NP D その N 万象 ___P-CONN P-ROLE VB 完成 VB0 AXD PU
            [72_bible_ot@10,5,7,13,16,25,20]
    (3.125)

    私 は 電車 か バス か で 行き ます 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP ___NP CONJP ___NP N 電車 __P-CONN ___NP N バス ___P-CONN P-ROLE VB 行き AX ます PU
            [74_textbook_djg_basic@14,9,11,16,19]

    3.5.2   助詞句(PP)の並列

    助詞句(PP)もまた,非節的等位接続構造をなすことがある。 上で述べたような対で用いる助詞については, (3.124)や(3.127)が示すように,それ自体としてPPを投射しないことに注意。

    (3.126)

    終日 近鉄線内 のみ 、 もしくは 地下鉄烏丸線内 のみ の 運用 も ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-MSR N 終日 PP-PRD CONJP ___PP NP N 近鉄線内 P-OPTR のみ PU __CONJ もしくは ___PP NP N 地下鉄烏丸線内 P-OPTR のみ AX N 運用 P-OPTR VB ある PU
            [33_wikipedia_KYOTO_19@20,12,22]
    (3.127)

    捕り方衆 の 叫び声 が あっち から も こっち から も 聞こえ て 来る 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N 捕り方衆 P-ROLE N 叫び声 P-ROLE PP CONJP PP NP PRO あっち ___P-ROLE から __P-CONN ___PP NP PRO こっち P-ROLE から P-CONN VB 聞こえ P-CONN VB2 来る PU
            [5_aozora_Kunieda-1925@22,20,24]

    3.5.3   副詞句(ADVP)の並列

    副詞句(ADVP)の並列は通常,「また」「かつ」「しかも」「しかし」等の等位接続詞を伴う。

    (3.128)

    涼しさ の 生じる ため に は 、 どう も 時間的 に また 空間的 に 温度 の 短週期的変化 の ある こと が 必要条件 で ある らしい 。

    IP-MAT PP NP IP-EMB PP-SBJ NP N 涼しさ P-ROLE VB 生じる N ため P-ROLE P-OPTR PU ADVP WADV どう P-OPTR PP-SBJ NP IP-EMB ADVP CONJP ___ADVP ADJN 時間的 AX __CONJ また ___ADVP ADJN 空間的 AX PP-SBJ NP PP NP N 温度 P-ROLE N 短週期的変化 P-ROLE VB ある N こと P-ROLE NP-PRD N 必要条件 AX VB2 ある MD らしい PU
            [14_aozora_Terada-1929@36,31,38]
    (3.129)

    そんな 服 を 着 た まま 、 この 老人 は ひどく 窮屈 に 、 しかし 安らか に 眠っ て いる の だっ た 。

    IP-MAT NP-ADV IP-EMB PP-OB1 NP D そんな N P-ROLE VB AXD N まま PU PP-SBJ NP;{FATHER} D この N 老人 P-OPTR ADVP CONJP ___ADVP ADVP ___ADJI ひどく ADJN 窮屈 AX PU __CONJ しかし ADVP ADJN 安らか AX VB 眠っ P-CONN VB2 いる FN AX だっ AXD PU
            [855_aozora_Harada-1960@40,30,32]

    3.5.4   疑問節(CP-QUE)の並列

    疑問節(CP-QUE)が並列されることがあり,その際明示的な接続詞を伴うこともあれば伴わないこともある。 それぞれの並列要素に「か」のような同じ助詞が後続する場合,2種類のアノテーションが考えられる。 一つは,「か」を P-FINAL とし,CP-QUE を投射させる方法であり, もう一つは,「か」を P-CONNとし,3.5.1 節のような構造を作る方法である。 このうちのどちらを選択すべきかは,並列の性質によって決まる。 疑問節が単に等位接続されている場合は,(3.130)のように前者の方法が採られ, 疑問節が互いに排他的な選択肢(オルタナティヴ)となっている場合は,(3.131)のように後者が採用される。

    (3.130)

    それ は 、 わたし が どこ から き た の か 、 また 、 どこ へ 行く の か を 知っ て いる から で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO それ P-OPTR PU PP-PRD IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP-OB1 CP-QUE CONJP ___CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP;{JESUS} PRO わたし P-ROLE PP NP WPRO どこ P-ROLE から VB AXD FN __P-FINAL PU CONJ また PU ___CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP NP WPRO どこ P-ROLE VB 行く FN ___P-FINAL P-ROLE VB 知っ P-CONN VB2 いる P-CONN から AX VB2 ある PU
            [635_bible_nt@37,17,59,45]
    (3.131)

    傘 を 駅 に 置き忘れ た の か 事務所 に 忘れ た の か 、 はっきり 覚え て い ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* CP-QUE-OB1 CONJP ___CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP;{UMBRELLA} N P-ROLE PP NP N P-ROLE VB 置き忘れ AXD FN __P-CONN ___CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* NP-OB1;{UMBRELLA} *pro* PP NP N 事務所 P-ROLE VB 忘れ AXD FN ___P-CONN PU ADVP ADV はっきり VB 覚え P-CONN VB2 AX ませ NEG PU
            [87_textbook_djg_intermediate@28,6,48,30]

    ただし,疑問文の発話が複数引用されていると考えられる場合には, multi-sentenceというタグを用いることに注意(詳しくは 6.6 節参照)。

    (3.132)

    え ? どの 医者 が そんな 便利 な 診断書 を くれる ん です か 、 と 伊沢 が 仰天 し て 訊ねる と 、 仕立屋 の 方 が 呆気にとられ た 面持 で 、 なん です か 、 よそ じゃ 、 そう じゃ ない ん です か 、 と 訊い た 。

    IP-MAT PP-SCON IP-ADV CP-THT-OB1 ___multi-sentence INTJP INTJ PU ___CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP WD どの N 医者 P-ROLE PP-OB1 NP D そんな IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 便利 AX N 診断書 P-ROLE VB くれる FN AX です __P-FINAL PU P-COMP PP-SBJ NP NPR 伊沢 P-ROLE IP-ADV-CONJ VB 仰天 VB0 P-CONN VB 訊ねる P-CONN PU PP-SBJ NP PP NP N 仕立屋 P-ROLE N P-ROLE PP NP IP-EMB VB 呆気にとられ AXD N 面持 P-ROLE PU CP-THT-OB1 ___multi-sentence ___CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* NP-PRD WPRO なん AX です ___P-FINAL PU ___CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* PP NP N よそ P-ROLE じゃ PU ADVP-PRD ADV そう AX じゃ NEG ない FN AX です ___P-FINAL PU P-COMP VB 訊い AXD PU
            [19_aozora_Sakaguchi-1947@42,5,11,94,103,93,130,107]



    Chapter 4
    述語


    4.1   はじめに

    述語は節の中でもっとも重要な統語上の単位であり,他のほとんどすべての構成素はこれと結びついた機能を果たしている。 日本語の述語は,ボイス,アスペクト,極性,モダリティ,証拠性等を示す要素によって拡張される。 以下,述語をなす基本的な要素について論じていく。


    4.2   動詞(VB)

    動詞(VB)を中心として形成された述語は,主語と共に現れて節を投射する。 以下は,「覚った」が主節(IP-MAT)を,「達したのだ」が準主節(IP-SUB)を投射した例である。

    (4.1)

    芳一 は 大きな 門口 に 達し た の だ と 覚っ た ――

    __IP-MAT PP-SBJ NP NPR 芳一 P-OPTR CP-THT-OB1 ___IP-SUB NP-SBJ *pro* PP NP PNL 大きな N 門口 P-ROLE ___VB 達し ___AXD ___FN ___AX P-COMP ___VB 覚っ ___AXD PU ――
            [59_aozora_Togawa-1937-1@1,30,32,20,22,24,26,9]
    (7.33)

    家事 一切 に 関わら ず 、 のんびり と 心 の ぜいたく を する 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *speaker* ___IP-ADV-CONJ PP NP N 家事 PRN NP;* Q 一切 P-ROLE __VB 関わら NEG PU ADVP ADV のんびり AX PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N ぜいたく P-ROLE VB する PU
            [15_news_KAHOKU_10414@15,1,4]
    (4.3)

    冷蔵庫 に 入れ て も 硬く なら ない 不思議 な 「 バター餅 」 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *pro* PP NP N 冷蔵庫 P-ROLE VB 入れ P-CONN P-OPTR ___IP-SMC-OB1 ADJI 硬く __VB なら NEG ない IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 不思議 AX PUL N バター餅 PUR AX * PU
            [40_news_KAHOKU_457@27,24,1]
    (4.4)

    邦彦 は いったん やめ た たばこ を また 吸い出し た 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP NPR 邦彦 P-OPTR PP-OB1 NP ___IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *pro* ADVP ADV いったん __VB やめ AXD N たばこ P-ROLE ADVP ADV また VB 吸い出し AXD PU
            [148_textbook_djg_advanced@18,10,1]
    (4.5)

    ただ 餅 を 搗く 音 だけ する 。

    ___IP-MAT ADVP ADV ただ PP-SBJ NP ___IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N P-ROLE __VB 搗く N P-OPTR だけ VB する PU
            [505_aozora_Natsume-1908@16,7,1]

        本アノテーションでは,BCCWJ および CSJ で語彙的複合動詞として扱われている表現(例えば「かきわける」「そぎとる」「とりいれる」「はりつける」等)を単一のセグメントとして扱う。 その一方で,BCCWJ および CSJ で長単位としてチャンクされている様々なタイプの補助動詞は本コーパスでは構成素に分割され,大抵VB2 とラベル付けされる。 補助動詞は伝統的な定義では,ある文脈では主要な語彙的動詞として現れるが, 二次的な動詞としての位置に現れて,ダイクシス,アスペクト,極性等の文法カテゴリーの値を表すこともある形式とされる。


    4.3   述語の拡張

    倒置法(6.21.4 節)を除けば,節中の述語本体には次のような要素が後続し,述語拡張形を作る。

    1.3.6 節で述べたように, 上記の要素は IP に直接支配され,フラットな構造を作る。 要素のラベル付けに関しては,次のような特別なケースを設ける。


    4.4   軽動詞(VB0)

    軽動詞(VB0)として,まず,「する」「いたす(致す)」「なさる」「申し上げる」「下さる」「できる」等の動詞が挙げられる。 VB0は「移動,チェック」のような「動作名詞」と呼ばれる VB に後続して現れる。 また,補助動詞(VB2), 受動(PASS), 否定(NEG)等の要素を後続させることがある。 さらに,VB0 に先行する動作名詞 VB がとりたて助詞(P-OPTR)の「は」「も」等を伴うことがある。

    (4.6)

    「 やあ 耕助君 、 失敬 し た ねえ 。 」

    CP-FINAL PUL IP-SUB INTJ やあ NP-SBJ NPR 耕助君 PU ___VB 失敬 __VB0 AXD P-FINAL ねえ PU PUR
            [669_aozora_Miyazawa-1934@14,12]
    (4.7)

    誰 も 殺害 に対する 責任 を 主張 し なかっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* NP;*SBJ* WPRO P-OPTR PP-OB1 NP PP NP N 殺害 P-ROLE に対する N 責任 P-ROLE ___VB 主張 __VB0 ___NEG なかっ AXD PU
            [54_news_Voice_of_America@23,21,25]
    (4.8)

    軍隊 は 一般的 な 職業 で 、 また 軍人 は 名誉 で あり 、 尊敬 も さ れる 。 」

    IP-MAT IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP N 軍隊 P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 一般的 AX N 職業 AX PU CONJ また PP-SBJ NP N 軍人 P-OPTR ADJN 名誉 AX VB2 あり PU NP-SBJ *pro* ___NP-LGS *arb* ___VB 尊敬 __P-OPTR ___VB0 PASS れる PU PUR
            [431_fiction_DICK-1952@46,42,44,48]

    VB0 を後続させる動作名詞(VB)は,接頭辞「お」または「ご(御)」を伴い尊敬語や謙譲語を作ることがある。

    (4.9)

    花子 は 鈴木先生 に 結果 を ご報告 し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{HANAKO_1311} NPR 花子 P-OPTR PP-OB2 NP;{SUZUKI_1311} NPR 鈴木先生 P-ROLE PP-OB1 NP N 結果 P-ROLE ___VB ご報告 __VB0 AXD PU
            [1311_textbook_kisonihongo@22,20]

    また,VB0が「なさる」や「下さる」のような敬語形をとることもある。 これは後述する補助動詞(VB2)の用法とは区別しなければならない。 判断の基準として,動作名詞に接頭辞「お・ご(御)」がある場合はそれをとり,さらにVB0候補を「する」に置き換えることができれば, そのような候補は実際にVB0の敬語形であると見なすことができる(例:(4.10) において「御安心なさい」は「安心する」に置き換え可能)。 そうでない場合はVB2である(例:(4.11) において「置きなさい」は「*置きする」に置き換え不可能)。

    (4.10)

    もう 大丈夫 です から 、 御安心 なさい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-SCON IP-ADV ADVP ADV もう ADJN 大丈夫 AX です P-CONN から PU ___VB 御安心 __VB0 なさい PU
            [254_aozora_Akutagawa-1921@20,18]
    (4.11)

    「 鉛筆 を 置き なさい ! 」

    CP-IMP PUL IP-SUB NP-SBJ;{SHAKESPEARE} *hearer* PP-OB1 NP N 鉛筆 P-ROLE ___VB 置き __VB2 なさい PU PUR
            [105_ted_talk_11@15,13]

    4.5   補助動詞(VB2)

        補助動詞(VB2)は,活用可能な動詞や形容詞に続いて現れる動詞のことである。 以下,補助動詞として分類される要素を示す。 動詞(連用形)の直後に現れる VB2 には次のようなものがある。

    (4.12)

    やがて 光 は 消え 始め た 。

    IP-MAT ADVP ADV やがて PP-SBJ NP N P-OPTR ___VB 消え __VB2 始め AXD PU
            [513_fiction_DICK-1952@13,11]

        動詞の「て形」の後に現れる VB2 には次のようなものがある。 「て・で」は接続助詞(P-CONN)とラベル付けされることに注意されたい。

    (4.13)

    今 、 調べ て い ます 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MAN_478} *pro* NP-OB1;{MATTER_478} *pro* NP-TMP N PU ___VB 調べ ___P-CONN __VB2 AX ます PU
            [478_textbook_kisonihongo@15,11,13]
    (4.14)

    震災 は 人々 の 記憶 から 薄れ 始め て いる の か 。

    CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP N 震災 P-OPTR PP NP PP NP N 人々 P-ROLE N 記憶 P-ROLE から ___VB 薄れ ___VB2 始め ___P-CONN __VB2 いる FN P-FINAL PU
            [6_news_KAHOKU_39@27,25,21,23]

        イ形容詞(ADJI)・ナ形容詞(ADJN)の直後に現れる次のような要素も VB2 として扱われる。

    (4.15)

    逆 に 階段 の 段差 は 小学生 に は 高 すぎる 。

    IP-MAT ADVP ADJN AX PP-SBJ NP PP NP N 階段 P-ROLE N 段差 P-OPTR PP NP N 小学生 P-ROLE P-OPTR ___ADJI __VB2 すぎる PU
            [83_news_KAHOKU_37@29,27]

        助動詞(AX)「だ」の連用形に続く「ある」,イ形容詞の連用形に続く「ある」も VB2 として扱われる。

    (4.16)

    彼 は いと 高き 神 の 祭司 で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{MELCHIZEDEK} PRO P-OPTR NP-PRD PP NP PNLP ADVP ADV いと ADJI 高き N P-ROLE N 祭司 ___AX __VB2 ある PU
            [368_bible_ot@25,23]
    (4.17)

    この 本 は あまり よく あり ませ ん 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N P-OPTR ADVP ADV あまり ADJI よく __VB2 あり ___AX ませ NEG PU
            [6_textbook_djg_basic@15,17]

        義務的モダリティを表す複雑な表現中に現れる動詞は VB2 として扱われる。

    (4.18)

    それら は 雄 と 雌 と で なけれ ば なら ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{PAIR} PRO それら P-OPTR NP-PRD CONJP NP N P-CONN NP N P-CONN AX ___NEG なけれ ___P-CONN __VB2 なら ___NEG ない PU
            [186_bible_ot@26,22,24,28]
    (4.19)

    「 もちろん 他 の 像 を 立て なくて は なら ない 」 と 市長 は 言い まし た 。

    IP-MAT CP-THT-OB1 IP-SUB PUL NP-SBJ *speaker+pro* ADVP ADV もちろん PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE VB 立て ___NEG なくて ___P-OPTR __VB2 なら ___NEG ない PUR P-COMP PP-SBJ NP N 市長 P-OPTR VB 言い AX まし AXD PU
            [318_aozora_Yuki-1-2000@29,25,27,31]
    (4.20)

    学校 で は 携帯 を 使っ て は いけ ない 。

    IP-MAT NP-SBJ *hearer* PP NP N 学校 P-ROLE P-OPTR PP-OB1 NP N 携帯 P-ROLE VB 使っ ___P-CONN ___P-OPTR __VB2 いけ ___NEG ない PU
            [610_textbook_purple_basic@24,20,22,26]

        「する」は以下のような環境で VB2 として扱われる。

    (4.21)

    「 それ は 鉄 と まぜ たり 、 薬 を つくっ たり する の だ そう です 。 」

    IP-MAT PUL NP-SBJ *pro* PP-TPC NP PRO それ P-OPTR IP-ADV-CONJ NP-OB1 *pro* PP NP N P-ROLE VB まぜ P-CONN たり PU PP-OB1 NP N P-ROLE VB つくっ ___P-CONN たり __VB2 する FN AX MD そう AX です PU PUR
            [192_aozora_Miyazawa-1934@37,35]
    (4.22)

    国 が 所有者 から 土地 を 一時的 に 借り上げる など し 、 復興 を 加速 さ せる べき だっ た 」

    IP-MAT PP-SBJ NP N P-ROLE IP-ADV-CONJ PP-OB2 NP N 所有者 P-ROLE から PP-OB1 NP N 土地 P-ROLE ADVP ADJN 一時的 AX VB 借り上げる ___P-OPTR など __VB2 PU PP-CZZ NP N 復興 P-ROLE VB 加速 VB0 VB2 せる MD べき AX だっ AXD PUR
            [105_news_KAHOKU_51@30,28]
    (4.23)

    早く すれ ば する だけ 有利 だ 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-SCON IP-ADV NP-OB1 *pro* ADVP ___ADJI 早く VB すれ __P-CONN ___VB2 する P-OPTR だけ ADJN 有利 AX PU
            [58_textbook_particles@13,9,1,15]
    (4.24)

    あの 男 に は 説明 し て も 分かり は し ない 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP D あの N P-ROLE P-OPTR PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* VB 説明 VB0 P-CONN P-OPTR VB 分かり ___P-OPTR __VB2 NEG ない PU
            [493_textbook_djg_intermediate@32,30]
    (4.25)

    努力 なく し て は この 事業 は でき ない 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP-SCON-CND ___IP-ADV NP-SBJ N 努力 ___ADJI なく __VB2 ___P-CONN P-OPTR PP-OB1 NP D この N 事業 P-OPTR VB でき NEG ない PU
            [271_textbook_djg_advanced@11,9,13,5]
    (4.26)

    シカゴ に は ___親しい 友人 が 何 人 か いる ので 、 ホテル に 泊まら ず とも よい 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-SCON IP-ADV PP ___NP NPR シカゴ P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP ___IP-REL NP-SBJ __*T* ADJI ___親しい N 友人 P-ROLE NP;*SBJ* NUMCLP WNUM CL P-OPTR VB いる P-CONN ので PU PP NP N ホテル P-ROLE VB 泊まら NEG P-OPTR とも ADJI-MD よい PU
            [648_textbook_djg_advanced@18,7,16,20]

        敬語形をつくる接頭辞「お」または「ご(御)」を伴った動詞が助詞「に」を後続させ, それに動詞「なる」が続く場合, 「なる」は VB2 として扱われる。

    (4.27)

    鈴木先生 は 本 を お書き に なっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SUZUKI_1295} NPR 鈴木先生 P-OPTR PP-OB1 NP N P-ROLE ___VB お書き ___AX __VB2 なっ AXD PU
            [1295_textbook_kisonihongo@18,14,16]

    4.6   動詞「する」「なる」に関して

    動詞「する」(および類似の動詞「いたす」「なさる」等も)および「なる」の前に「イ形容詞の連用形」,「ナ形容詞の語幹+に」または「名詞述語+に/と」があるとき,これらはしばしば小節(IP-SMC)を投射し,このとき「する」「なる」は動詞述部の最初の要素,すなわち VB のラベルを与えられる。 次の3つの条件が全て満たされていれば,「イ形容詞の連用形」,「ナ形容詞の語幹+に」,「名詞述語+に/と」は小節を投射すると判断できると考えられる: (i) 小節の主要部はイベントでなく属性を表す, (ii) 「する」のとる第一目的語(-OB1)あるいは「なる」の主語(-SBJ)が小節(IP-SMC)の主語と解釈できる, (iii) 「する」のとる第一目的語(-OB1)あるいは「なる」の主語(-SBJ)が小節(IP-SMC)に先行する(ただし,小節にとりたて助詞(P-OPTR)が付く場合を除く)。

        上記の構文における,「する」に先行する IP-SMC は拡張タグ -CNT (連用形)を与えられる。 次の例の「細帯を長くして」において「長い」は「細帯」の属性であると解釈できる。 また,「言語学者(だ)」は「息子」の属性であると解釈できる。 したがって,「長く」「言語学者に」は IP-SMC-CNT を投射すると判断される。

    (4.28)

    そうして 細帯 を 長く し て 、 子供 を 縛っ て おい て 、 その 片端 を 拝殿 の 欄干 に 括りつける 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* CONJ そうして IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N 細帯 P-ROLE ___IP-SMC-CNT ADJI 長く __VB P-CONN PU PP-OB1 NP N 子供 P-ROLE VB 縛っ P-CONN VB2 おい P-CONN PU PP-OB1 NP D その N 片端 P-ROLE PP NP PP NP N 拝殿 P-ROLE N 欄干 P-ROLE VB 括りつける PU
            [566_aozora_Natsume-1908@17,14]
    (4.29)

    息子 を 言語学者 に し たい なんて 。

    CP-EXL FRAG CP-THT IP-SUB NP-SBJ;{MAN_349} *pro* PP-OB1 NP N 息子 P-ROLE ___IP-SMC-CNT NP-PRD N 言語学者 AX __VB AX たい P-OPTR なんて PU
            [349_textbook_kisonihongo@19,13]

        このような分析は「形容詞+する」を含む他の構文には適用されないことに注意。 「する」が第一目的語(OB1)をもたず,「する」の主語が形容詞の主語として解釈可能な場合, そのような形容詞はIP-SMC-OB1を投射する。

    (4.30)

    花子 は その 時 おとなしく し て い た らしい 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{HANAKO_356} NPR 花子 P-OPTR NP-TMP D その N ___IP-SMC-OB1 ADJI おとなしく __VB P-CONN VB2 AXD MD らしい PU
            [356_textbook_kisonihongo@16,13]

        一方,「なる」に先行する IP-SMC は拡張タグ -OB1 を与えられる。 下の例では,「路はだんだん暗くなる」,「花子はきれいになった」の表す事象が実現した際には, 「路」について属性「暗い」が当てはまることを,「花子」については属性「きれい(だ)」が当てはまることが含意される。 そのため,「暗く」「きれいに」は IP-SMC-OB1 を投射する。

    (4.31)

    路 は だんだん 暗く なる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N P-OPTR ADVP ADV だんだん ___IP-SMC-OB1 ADJI 暗く __VB なる PU
            [209_aozora_Natsume-1908@14,11]
    (4.32)

    花子 は きれい に なっ た

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 花子 P-OPTR ___IP-SMC-OB1 ADJN きれい AX __VB なっ AXD
            [25_misc_EXAMPLE2@13,8]

    時には,第二主語名詞句(-SBJ2)が小節にコントロールを及ぼすこともある。

    (4.33)

    気 が 変 に なり そう な ん です 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MCFARLANE} *speaker* ___PP-SBJ2 NP PP NP;{MCFARLANE} *pro* P-ROLE *の* N P-ROLE ___IP-SMC-OB1 ADJN AX __VB なり AX そう AX FN AX です PU
            [40_aozora_Doyle-1905@20,15,4]

    「なる」の前のイ形容詞,ナ形容詞が2つの項を必要とするものであれば,2つ目の項,つまり第一目的語(-OB1)は形容詞の投射する IP-SMC-OB1 の中に含まれる。

    (4.34)

    おかあさん が 恋しく なっ た わけ で は ない 、

    IP-MAT NP-SBJ;{HARU} *speaker* ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP;{OKASAN} N おかあさん P-ROLE ___ADJI 恋しく __VB なっ AXD FN わけ AX P-OPTR NEG ない PU
            [7_book_excerpt-22@13,4,11]
    (4.35)

    私 は また あの 花火 という やつ が 好き に なっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR CONJ また ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP D あの PP NP N 花火 P-ROLE という N やつ P-ROLE ___ADJN 好き AX __VB なっ AXD PU
            [28_aozora_Kajii-1925@29,10,25]

    この小節としての分析は,上記のような主述関係が成り立たず(主語が構造のより深い部分をコントロールすることはありうるが), また属性の解釈もできないような例には適用されない。

    (4.36)

    新しい 機種 も 気 に なる し 。

    FRAG PP-CONJ IP-ADV NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 新しい N 機種 P-OPTR PP-CMPL NP N P-ROLE __VB なる P-CONN PU
            [80_blog_KNB@23]
    (4.37)

    今後 の 医療運営 は 被災地 の 人口流出 に も 向き合う こと に なる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N 今後 P-ROLE N 医療運営 P-OPTR PP NP IP-EMB PP NP PP NP N 被災地 P-ROLE N 人口流出 P-ROLE P-OPTR VB 向き合う N こと P-ROLE __VB なる PU
            [25_news_KAHOKU_93@37]

    4.7   イ形容詞(ADJI)

    「大きい」「うつくしい」等のイ形容詞(ADJI)は,例えば命令形を持たない等の独特な活用パラダイムを持っている。 ADJI は修飾句や述語拡張形との共起関係に関して制限を有し,文脈によっては焦点について助詞との間に特別な相互作用を見せる。 しかし投射に関しては,他の述語と同様の振舞いをする。 名詞句の範囲外で主語と共に出現する場合,イ形容詞は主節,CP の下の IP-SUB,IP-ADV,または IP-SMC を投射し, 文法機能に関しても文法表示に関しても基本的に動詞や他の述語と同一の制約を持つ。

    (4.38)

    新市 を 軌道 に 乗せる 意欲 は 強い 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 新市 P-ROLE PP NP N 軌道 P-ROLE VB 乗せる N 意欲 P-OPTR __ADJI 強い PU
            [160_news_KAHOKU_28@25]
    (4.39)

    そんな こと も ない です か ?

    CP-QUE ___IP-SUB PP-SBJ NP D そんな N こと P-OPTR __ADJI ない AX です P-FINAL PU
            [21_news_KAHOKU_10414@11,2]
    (4.40)

    人間 で 言え ば 80 歳 近い のに 、 まだ やんちゃ です よ 」

    CP-FINAL ___IP-SUB NP-SBJ *pro* PP-SCON ___IP-ADV IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* PP NP N 人間 P-ROLE VB 言え P-CONN PP NP NUMCLP NUM 80 CL P-ROLE *に* __ADJI 近い P-CONN のに PU ADVP ADV まだ ADJN やんちゃ AX です P-FINAL PUR
            [8_news_KAHOKU_13153@31,6,2]
    (4.41)

    家族愛 の 深さ は 尊い が 、 互い を 心配 する あまり 、 津波避難 が 遅れる 場合 も ある 。

    IP-MAT PP-CONJ ___IP-ADV PP-SBJ NP PP NP N 家族愛 P-ROLE N 深さ P-OPTR __ADJI 尊い P-CONN PU NP-ADV IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP PRO 互い P-ROLE VB 心配 VB0 する N あまり PU PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP N 津波避難 P-ROLE VB 遅れる N 場合 P-OPTR VB ある PU
            [45_news_KAHOKU_63@16,3]
    (4.42)

    この いちご は 甘く て おいしい です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D;{STRAWBERRY_27} この N いちご P-OPTR ___IP-ADV-CONJ __ADJI 甘く P-CONN ADJI おいしい AX です PU
            [27_misc_BUFFALO@11,10]
    (4.43)

    阪神大震災 で も 心 の 問題 は 3 年目 に 多く なっ た 。

    IP-MAT PP NP NPR 阪神大震災 P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP PP NP N P-ROLE N 問題 P-OPTR PP NP NUMCLP NUM CL 年目 P-ROLE ___IP-SMC-OB1 __ADJI 多く VB なっ AXD PU
            [25_news_KAHOKU_616@32,31]

    イ形容詞が主語(空要素も含む)を伴って名詞を修飾する場合, それがイ形容詞単独の修飾であっても,イ形容詞が目的語や副詞句を伴う場合であっても区別は行わない。その多くは関係節(IP-REL)を投射するもとのして扱われる。また,主名詞との関係によっては,空所なし名詞修飾節(IP-EMB)を投射するものとして扱われることもある。

    (4.44)

    ジョン は 赤い 車 を 持っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ジョン P-OPTR PP-OB1 NP ___IP-REL NP-SBJ *T* __ADJI 赤い N P-ROLE VB 持っ P-CONN VB2 いる PU
            [1191_misc_JSeM_beta_150530@13,10]
    (4.45)

    おそらく すでに 春 が 近い しるし だろう

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ADVP ADV おそらく NP-PRD ___IP-EMB ADVP ADV すでに PP-SBJ NP N P-ROLE __ADJI 近い N しるし AX * MD だろう
            [919_aozora_Harada-1960@18,8]

        2番目の項を必要とする特別な意味を持つ形容詞が多数存在する。 このような,2つの項を持つイ形容詞のリスト(網羅的ではない)を,第一目的語を表示する典型的な助詞と共に以下に挙げておく。

        「欲しい」のように両方の項の名詞句が「が」により表示されるものもあることに注意が必要である。 この種の文と,二重主語文とは注意深く区別しなければならない。 「が」で表示された名詞句のうちの片方のみを述語と組み合わせ, 文脈を用いて適切な文の意味を得ることができるならば, そのような名詞句は同じ述語の主語あるいは第一目的語である。 例えば,「私がチョコレートが欲しい」という文が与えられたとして, 以下に示すどちらの文も,文脈を与えれば適切である。

    この場合は,「私」は NP-SBJ であり,「チョコレート」は NP-OB1 となる。

        一方,「象が鼻が長い」のような文では,「象」は -SBJ ,「鼻」は -SBJ2 の二重主語文である。なぜなら「象が長い」は「象が鼻が長い」という文の意味を念頭に置かなければ「長い」の主語が「象」とは解釈できないからである。


    4.8   特別な場合(イ形容詞と関連して)

    助動詞的な働きをするイ形容詞「ほしい」は IP-SMC-OB1 を補部としてとり,この補部は常に主語ではない要素からコントロールを受ける。この IP-SMC は (VB ...) (P-CONN て) あるいは (VB0 ...) (P-CONN て) と分析される。

    (4.46)

    私 に 何 を し て ほしい の ?

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-DOB1 NP PRO P-ROLE ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP WPRO P-ROLE ___VB ___P-CONN __ADJI ほしい FN PU
            [329_textbook_purple_intermediate@22,11,18,20]

    4.9   テンス標識(AXD)

        過去テンスおよび完了アスペクトの「た・だ」はテンス標識(AXD)とラベル付けされる。 動詞連用形に接続し,終止・連体形として使用される。 AXDのラベルは古語の「き・し,たり,り」にも与えられる。

    (4.47)

    本当 に 喜べる 日 は もう 少し 先 と なっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* ADVP ADJN 本当 AX VB 喜べる N P-OPTR IP-SMC-OB1 ADVP ADVP ADV もう ADV 少し NP-PRD N AX VB なっ __AXD PU
            [9_news_KAHOKU_117@32]

    4.10   助動詞(AX)

        助動詞(AX)は次のような要素に対するラベルとして用いられる。以下に主な助動詞を挙げる。このうち,最後の「コピュラ」については, 4.13でより詳しく見る。

        なお,イ形容詞と同じ活用形を持つ派生接尾辞の中でも「づらい」(しづらい,分かりづらい,見えづらい,等)については,先行する動詞語幹と合わせて単一の形容詞(ADJI) として扱われる。


    4.11   「た・だ」の特別な場合

        動詞によっては助動詞「た・だ」を伴って名詞を修飾する際に,過去や完了の意味をもたず,単に被修飾名詞の状態を叙述することがある。 このような「た・だ」は,言い切りの形としては「ている・でいる」で意味を変えることなく置き換えられるのが特徴である。 そのような場合,「た・だ」は AXD ではなく AX としてラベル付けされる。

    以下に AX としての「た」を伴う例を挙げる:


    4.12   モーダル要素(MD, ADJI-MD, ADJN-MD)

    MD, ADJI-MD, ADJN-MDは,文のモダリティを指定するのに寄与する語を支配する特別なカテゴリーである(以下MDで代表する)。そのような語をMDノードの下に分離しておくことの利点として,以下が挙げられる:

        モーダル(MD)に属する要素の大部分は用言の終止・連体形に接続する。以下が典型例である:

        以下に注意を要する例を挙げる:

    (4.48)

    彼 は 飲み物 を 勧める かもしれません 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-OB1 NP N 飲み物 P-ROLE VB 勧める __MD かもしれません PU
            [359_textbook_djg_intermediate@16]
    (4.49)

    大昔 、 火星 に 水 が あっ た そう だ 。

    IP-MAT NP-TMP N 大昔 PU PP NP N 火星 P-ROLE PP-SBJ NP N P-ROLE VB あっ ___AXD __MD そう AX PU
            [600_textbook_particles@23,21]
    (4.50)

    先生 でも わから ない でしょう 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP N 先生 P-OPTR でも VB わから __NEG ない MD でしょう PU
            [132_textbook_particles@12]
    (4.51)

    その 国 は たいへん 美しい に 違いない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D その N P-OPTR ADVP ADJN たいへん ADJI 美しい P-ROLE __MD 違いない PU
            [210_textbook_TANAKA@17]

        上記から示唆されるように,モダリティと関係がある(そして独立の単位をなすと見なされることもある)一方で, MDというラベルをもたない表現も存在する。 「なければならない」および「はず」が代表的な例である。 NPCMJにおいて,前者は元の条件文的な構造を維持されており,V「なら」を支配するVB2によって特徴づけられる。 後者はFNというタグをもつ。詳しくは,それぞれ4.5節および4.21節を参照。

        ADJI-MDは2種類のモダリティ構文で用いられるイ形容詞を支配するカテゴリーである。 1つは「良い」を含む,許可や望ましさを表す構文(「ても良い」「たら良い」「ば良い」「と良い」等)であり, もう1つは不必要性を表す構文(「までもない」等)である。 合成的構造を維持することにより, これらの構文のバリエーションを捉えることが可能となる。

    (4.52)

    窓 を 開け て も いい ?

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP N P-ROLE VB 開け ___P-CONN ___P-OPTR __ADJI-MD いい PU
            [594_textbook_purple_basic@17,13,15]
    (4.53)

    どう し たら いい です か 。

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* ADVP-CMPL WADV どう VB ___P-CONN たら __ADJI-MD いい AX です P-FINAL PU
            [556_textbook_purple_basic@12,10]
    (4.54)

    歴史 は 歴史家 に 任せ て 、 小説家 は 小説 を 書け ば よい の だ 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 歴史 P-OPTR PP NP N 歴史家 P-ROLE VB 任せ P-CONN PU PP-SBJ NP N 小説家 P-OPTR PP-OB1 NP N 小説 P-ROLE VB 書け ___P-CONN __ADJI-MD よい FN AX PU
            [53_aozora_Nomura-13-1954@39,37]
    (4.55)

    南十字星 が 見える と いい な 。

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP N 南十字星 P-ROLE ___VB 見える __P-CONN ADJI-MD いい P-FINAL PU
            [535_textbook_particles@13,11]
    (4.56)

    すし が 日本 の 代表的 な 料理 で ある こと は 言う までも ない 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP IP-EMB PP-SBJ NP N すし P-ROLE NP-PRD PP NP NPR 日本 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 代表的 AX N 料理 AX VB2 ある N こと P-OPTR VB 言う ___P-OPTR までも __ADJI-MD ない PU
            [152_textbook_djg_advanced@41,39]

        ADJN-MDは許可あるいは禁止を表す構文(「て結構だ」「てはだめだ」等)で用いられるナ形容詞を支配するカテゴリーである。これらの構文を分析的に扱うことの根拠はADJI-MDの場合と同様である。

    (4.57)

    大臣 は 退席 を さ れ て 結構 で ござい ます 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 大臣 P-OPTR PP-OB1 NP N 退席 P-ROLE VB VB2 ___P-CONN __ADJN-MD 結構 ___AX VB2 ござい AX ます PU
            [17_diet_kaigiroku-8@20,18,22]
    (4.58)

    ここ で 止め て は 駄目 だ

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP PRO ここ P-ROLE VB 止め ___P-CONN ___P-OPTR __ADJN-MD 駄目 ___AX
            [127_dict_pth_r@16,12,14,18]

    4.13   コピュラ表現

    コピュラは多くの場合ナ形容詞(ADJN)や名詞句(NP)に後続するが,副詞句(ADVP)や助詞句(PP)等に後続することもある。コピュラの機能は,主語名詞句を他の名詞句等と関連付けることであり,それには次の3つの基本的な意味的タイプがある。

    4.13.1   コピュラおよびコピュラの脱落

    この節ではコピュラの形式と分布について記述する。 コピュラ「だ」とそれに類する要素は,AX とラベル付けされる。 複合的形式の「である」もまたコピュラの機能を果たす。この形式は以下のように分析される。

      (... (AX で)
           (VB2 ある))

        コピュラの否定形もまた複合的形式によって表される。多くの場合,コピュラと否定の「ない」の間にはとりたて助詞が挿入される。

      (... (AX で)
           (P-OPTR は)
           (NEG ない))

        「だ」とそれに類する要素は,名詞述語(NP-PRD)やナ形容詞(ADJN)に後続する他に,形式名詞(例えば, (FN の))やモーダル要素((MD みたい)(MD べき) (MD そう))の後にも現れる。

        単純な(肯定・非過去・非意志形の)コピュラ「だ」は,「らしい,みたい,かもしれない,にちがいない」等のモーダル要素や,助詞「なら」等の前では生起不可能だが,「である」はこの位置に出現することができる。 前者の場合,コピュラのゼロ形式 (AX *)がモーダルや「なら」の前に挿入される。

    (4.59)

    札 は 十 円 札 らしい 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N P-OPTR ___NP-PRD NUMCLP NUM CL N ___AX * __MD らしい PU
            [509_aozora_Natsume-1908@18,8,16]

        意志/推量形(未然形)の表現では,コピュラのゼロ形式 (AX *)にモーダル助動詞の「だろう」「でしょう」「であろう」が後続する。

    (4.60)

    これ は あなたがた にとって 、 小さい こと であろう か 。

    CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP PRO これ P-OPTR PP NP PRO あなたがた P-ROLE にとって PU ___NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 小さい N こと ___AX * __MD であろう P-FINAL PU
            [551_bible_ot@27,25,17]

        終助詞(P-FINAL)「か」「さ」等の直前で,「だ」は省略される。 埋め込まれた間接疑問節においても「だ」は省略されることが多い(ただし,「だか」という連続が出現することもある)。

    (4.61)

    「 私 は 涙 という もの が どんな もの か を 知ら なかっ た 。

    IP-MAT PUL PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-OB1 CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP PP NP N P-ROLE という N もの P-ROLE NP-PRD WD どんな N もの ___AX * __P-FINAL P-ROLE VB 知ら NEG なかっ AXD PU
            [78_aozora_Yuki-1-2000@32,30]
    (4.62)

    なぜ だ か は 分かり ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-OB1 CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* ADVP-PRD WADV なぜ ___AX __P-FINAL P-OPTR VB 分かり AX ませ NEG PU
            [303_aozora_Hayashida-2015@14,12]

    また,とりたて助詞(P-OPTR)「なら」の前でも「だ」は省略される。

    (4.63)

    「 ハンドガン なら 持っ てる よ 」

    CP-FINAL PUL IP-SUB NP-SBJ *speaker+pro* PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *pro* NP-PRD;{HANDGUN} N ハンドガン ___AX * __P-CONN なら NP-OB1;{HANDGUN} *pro* VB 持っ VB2 てる P-FINAL PUR
            [268_fiction_DICK-1952@16,14]

        「ね」「よ」等いくつかの終助詞の前では「だ」は任意的である。これらの「だ」が省略されるすべての場合のアノテーションにおいて,コピュラのゼロ形式を補充する必要はない。

    (4.64)

    あなた は 女 よ 。

    CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ NP;{HEARER_1312} PRO あなた P-OPTR NP-PRD N __P-FINAL PU
            [1313_textbook_kisonihongo@12]

        他方,終助詞の中にも「ぞ,ぜ,わ,な」のように,直前の「だ」を省略できないものもある。また,伝聞を表すモーダル助動詞「そう」の後では「だ」は省略できない。さらに,従属節を導く助詞「けれど,とも,から,し,が」等の直前でも「だ」は省略することができない。

        述語の拡張形である (FN の) (AX だ) の場合にも,「だ」の省略に関して以上と同じようなことが言える。例えば,終助詞「か」の前で単純な語形「だ」は通常省略されるが,丁寧形等の複合的な語形は省略されない。

    4.13.2   コピュラの形

    コピュラは以下に見るように,様々な活用形を持つ。

    このような活用形のうち,コピュラ「だ」の連用形「で」は,「ある,いる,ござる」を従えて複合的なコピュラを作るほか, 単独で従属節の終末部を構成するコピュラとして出現することができる。

    (4.65)

    < SL銀河 > 客車 は 4 両 編成 で 、 定員 180 人 を 予定 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRN PUL NP NPR SL銀河 PUR N 客車 P-OPTR IP-ADV-CONJ NP-PRD NUMCLP NUM CL N 編成 __AX PU PP-OB1 NP N 定員 NUMCLP NUM 180 CL P-ROLE VB 予定 PU
            [30_news_KAHOKU_1917@25]
    (4.75)

    仙台 は 静か で とても きれい でし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 仙台 P-OPTR IP-ADV-CONJ ADJN 静か __AX ADVP ADV とても ADJN きれい ___AX でし AXD PU
            [9_misc_EXAMPLE@11,18]

    上記の例における (AX で) は「であって」と交替可能である。

        古いコピュラ「なり」の変化形のひとつ「なら」は,同形の「なら」が接続助詞およびとりたて助詞にもあることに注意されたい。

        「に」と「と」はコピュラの連用形が期待されるとき現れる。 「に」は特に,ナ形容詞(ADJN)の後に現れるが, 小節(IP-SMC)では述語名詞句の後(NP-PRD)に現れることもある。 「と」も同じような状況で現れる。 このような「に」や「と」は (AX に)(AX と) のように分析される(詳細については,7.2.1節--7.2.3節を参照)。

    (4.67)

    子供 は 一生懸命 に 手拭 を 見 て い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 子供 P-OPTR ___ADVP ADJN 一生懸命 __AX PP-OB1 NP N 手拭 P-ROLE VB P-CONN VB2 AXD PU
            [262_aozora_Natsume-1908@11,8]
    (4.68)

    全学級 の 大騒ぎ に なっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{AKUN_AGITATING} *pro* IP-SMC-OB1 ___NP-PRD PP NP Q 全学級 P-ROLE N 大騒ぎ __AX VB なっ AXD PU
            [60_aozora_Dazai-1-1940@14,5]
    (4.69)

    急 に 室 の 中 が 暗く 陰気 と なっ た 。

    IP-MAT ___ADVP ADJN __AX PP-SBJ NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE IP-SMC-OB1 IP-ADV-CONJ ADJI 暗く ___ADJN 陰気 ___AX VB なっ AXD PU
            [52_aozora_Ogawa-1909@5,2,25,23]

        「に」または「と」が「ある」と縮約した「なる」「たる」はコピュラの連体形として用いられる。

    (4.70)

    あれ は 無意味 なる 沈鬱 で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO あれ P-OPTR NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ___ADJN 無意味 __AX なる N 沈鬱 AX VB2 ある PU
            [13_aozora_Terada-1929@14,12]
    (4.71)

    彼 に は 確固 たる 考え が ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-ROLE P-OPTR PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ___ADJN 確固 __AX たる N 考え P-ROLE VB ある PU
            [17_misc_EXAMPLE2@17,15]

    4.14   ナ形容詞(ADJN)

    ナ形容詞(ADJN)に含まれるのは,いわゆる「形容動詞」と「タル・ト型活用の形容動詞」(例:鬱々たる/と,閑散たる/と,決然たる/と,騒然たる/と,漠然たる/と,呆然と,満々たる/と,黙々たる/と,隆々たる/と),「文語形容動詞」(速やか-なる,確固-たる)である。 「ナ形容詞の語幹」は ADJN と,「活用語尾」は AX(コピュラ)とラベル付けされる。 ADJN と AX が述語を構成し,主語と共起する場合には IP を投射する。 これらの表現が述語的性質を持つということに疑いの余地は無く, またこれらを節として分析することを指示する統語論的事実が多数存在する。 ナ形容詞が単独の品詞と認められるのは,(1)コピュラの連体形としての特別な形式として「な」を持つこと,(2)連体修飾を拒むこと,(3)「か」や補文助詞「と」「という」「といった」等以外の助詞が直接付加されることがないことによる。

        ナ形容詞は,動詞やイ形容詞と同様に節を投射する。

    (4.72)

    父 は 娘 が 心配 だ

    ___IP-MAT PP-SBJ NP N P-OPTR PP-SBJ2 NP N P-ROLE __ADJN 心配 ___AX
            [103_dict_pth_q@14,16,1]
    (4.73)

    太郎 と 花子 で は 、 どちら が 歌 が 上手 です か 。

    CP-QUE ___IP-SUB PP-SBJ NP PP NP CONJP NP;{TARO_335} NPR 太郎 P-CONN NP;{HANAKO_335} NPR 花子 P-ROLE P-OPTR PU WPRO どちら ___P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE __ADJN 上手 AX です P-FINAL PU
            [335_textbook_kisonihongo@32,24,2]
    (4.74)

    家庭 が 不安定 だ と 子ども の 状態 は 良く なら ない 。

    IP-MAT PP-SCON-CND ___IP-ADV PP-SBJ NP N 家庭 P-ROLE __ADJN 不安定 ___AX P-CONN PP-SBJ NP PP NP N 子ども P-ROLE N 状態 P-OPTR IP-SMC-OB1 ADJI 良く VB なら NEG ない PU
            [39_news_KAHOKU_616@10,12,3]
    (4.75)

    仙台 は 静か で とても きれい でし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 仙台 P-OPTR ___IP-ADV-CONJ __ADJN 静か ___AX ADVP ADV とても ADJN きれい AX でし AXD PU
            [9_misc_EXAMPLE@9,11,8]
    (4.76)

    また も 不思議 に 思っ て 彼 を 見つめ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* IP-ADV-CONJ NP-DOB1 *pro* PP ADVP ADV また P-OPTR ___IP-SMC-OB1 __ADJN 不思議 ___AX VB 思っ P-CONN PP-OB1 NP PRO P-ROLE VB 見つめ AXD PU
            [93_aozora_Hayashida-2015@14,16,13]
    (4.77)

    『 可哀そう な 男 だ 。

    IP-MAT PUL NP-SBJ *hearer* NP-PRD ___IP-REL NP-SBJ *T* __ADJN 可哀そう ___AX N AX PU
            [156_aozora_Togawa-1937-1@10,12,7]
    (4.78)

    大衆 が 静か な こと は 日本人 の 特徴 で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP ___IP-EMB PP-SBJ NP N 大衆 P-ROLE __ADJN 静か ___AX N こと P-OPTR NP-PRD PP NP N 日本人 P-ROLE N 特徴 AX VB2 ある PU
            [40_aozora_Hayashida-2015@11,13,4]

        イ形容詞の場合と同じく,ナ形容詞にコピュラの連用形の「に」「と」が続き,副詞的に使用される場合,これは副詞句(ADVP)を投射する。

    (4.79)

    カメラ付き携帯電話 の 普及 など で 、 一般 の 人々 が 写真 や 映像 を 撮影 し 提供 する 機会 が 飛躍的 に 増え た 。

    IP-MAT PP NP PP NP N カメラ付き携帯電話 P-ROLE N 普及 P-OPTR など P-ROLE PU PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 一般 AX N 人々 P-ROLE IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP CONJP NP N 写真 P-CONN NP N 映像 P-ROLE VB 撮影 VB0 NP-OB1 *pro* VB 提供 VB0 する N 機会 P-ROLE ___ADVP __ADJN 飛躍的 ___AX VB 増え AXD PU
            [24_news_KAHOKU_39@63,65,62]
    (4.80)

    彼 は 公然 と 語っ て いる のに 、 人々 は これ に対して 何 も 言わ ない 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SCON IP-ADV NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP PRO P-OPTR ___ADVP __ADJN 公然 ___AX VB 語っ P-CONN VB2 いる P-CONN のに PU PP-SBJ NP N 人々 P-OPTR PP NP PRO これ P-ROLE に対して NP;*OB1* WPRO P-OPTR VB 言わ NEG ない PU
            [560_bible_nt@15,17,14]

        「好きだ」「嫌いだ」「上手だ」のようなナ形容詞は「が」が付加された名詞句を2つ持つが,そのうちの1つだけが主語(-SBJ)の役割を持つものとして分析される。 2つめの名詞句は第一目的語(OB1)の役割を与えられる。

    (4.81)

    鈴木さん が 一番 英語 が 上手 です 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP NPR 鈴木さん P-ROLE ADVP ADV 一番 ___PP-OB1 NP N 英語 P-ROLE __ADJN 上手 ___AX です PU
            [493_textbook_purple_basic@17,19,11,2]

    この種の形容詞を伴う文といわゆる二重主語文とは細心の注意を払って区別する必要がある。 「が」あるいは「は」が後接する名詞句の片方を取り出しても,残りの名詞句が(文脈が与えられれば)述語と共に文として自立した意味をもち,述語に対する項としての役割を果たしている場合,それは述語の主語(-SBJ)または第一目的語(OB1)であり二重主語文ではない。 以下の例において「必要だ」は二項述語であり,「専用アプリのインストール」は第一目的語(OB1)である一方で, 「簡単」は「スマホやタブレット端末」と「操作」を主語とする二重主語文の述語である。

    (4.82)

    スマホ や タブレット端末 は 専用アプリ の インストール が 必要 だ が 、 操作 は 簡単 。

    IP-MAT PP-SBJ NP CONJP NP N スマホ P-CONN NP N タブレット端末 P-OPTR PP-CONJ IP-ADV ___PP-OB1 NP PP NP N 専用アプリ P-ROLE N インストール P-ROLE __ADJN 必要 ___AX P-CONN PU PP-SBJ2 NP N 操作 P-OPTR ___ADJN 簡単 PU
            [74_news_KAHOKU_97@29,31,17,43]

        また,形態としてはナ形容詞に類似しているが,名詞修飾の位置にしか出現しないために,伝統文法で「連体詞」として分類されている「大きな」「小さな」「可笑しな」のような語がある。 これらは単独の用法では PNL とラベル付けされる(3.2.5 節を参照)。


    4.15   ナ形容詞分析の特例と例外

    通常のナ形容詞が存在すると同時に,まったく同じ語幹に対して「な」の代りに「の」が後接された形式が存在することがある(例:不思議な/の,当たり前な/の,キレイ好きな/の,等)。 「別な食べ物・別の食べ物」「特別な措置・特別の措置」のように語の中には,名詞修飾の際に意味を変えることなしに,コピュラ連体形の「な」と「の」を許容する。 違う分析をする理由が特にない限りは,これらもまた ADJN と分析する。

        ただし,「元気な子供」「元気の源」のように,「な」と「の」によって属性叙述かそうでないかが表現しわけられることがある。 このような場合には,前者の「元気」を ADJN と,後者の「元気」を N とラベル付けする。 また,「鮮やかなピンクの花・鮮やかなピンクな花」のように,「な・の交代」が認められる要素が名詞修飾を受ける場合は N とラベル付けする。

        ただし,「よう」「はず」「ふう」のように,通常の名詞と同様に修飾を受け,また格助詞が付加できるにもかかわらず,名詞を修飾する際に,「の」ではなく「な」を後接させる語が存在する。 これらは FN(名詞)として分析する(4.21 節を参照)。


    4.16   名詞句述語(NP-PRD)

    名詞句述語は,主要部としてN(名詞),NPR(固有名詞),Q(量化詞),PRO(代名詞),WPRO(疑問代名詞)等をもち,NP-PRD とラベル付けされる。 名詞句述語はコピュラと結合し, (1) 主語名詞句の属性の指示, (2) 主語名詞句との同一関係の叙述,あるいは (3) 集団を指示する名詞のメンバーの特定,もしくは属性を指示する名詞の値の特定,のいずれかを行う。

        NP-PRD により構成された述語は,他の種類の述語と同様に,主語と共起して節を投射する。

    (4.83)

    暗黒エネルギー の 正体 を 探る こと が 現代宇宙論 の 最大 の テーマ です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP PP NP N 暗黒エネルギー P-ROLE N 正体 P-ROLE VB 探る N こと P-ROLE __NP-PRD PP NP N 現代宇宙論 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ___ADJN 最大 ___AX N テーマ AX です PU
            [14_news_KAHOKU_11382@25,35,37]
    (4.84)

    - 審査委員長一押し の 提案 は 何 です か 。

    CP-QUE IP-SUB SYM PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ___NP-PRD ___N 審査委員長一押し ___AX N 提案 P-OPTR __NP-PRD ___WPRO ___AX です P-FINAL PU
            [101_news_KAHOKU_52@19,20,22,10,11,13]
    (4.85)

    自分 は 虜 だ から 、 腰 を かける 訳 に 行か ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 自分 P-OPTR PP-SCON ___IP-ADV __NP-PRD ___N ___AX P-CONN から PU PP-OB1 NP N P-ROLE VB かける FN P-ROLE VB2 行か NEG ない PU
            [297_aozora_Natsume-1908@10,13,11,9]
    (4.86)

    藤原氏 は 小保内氏 の 側近 で 、 昨年 3 月 に 退任 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 藤原氏 P-OPTR ___IP-ADV-CONJ __NP-PRD PP NP;{PERSON} NPR 小保内氏 P-ROLE ___N 側近 ___AX PU PP-TMP NP N 昨年 NUMCLP NUM CL P-ROLE VB 退任 PU
            [127_news_KAHOKU_28@9,8,18,16]
    (6.90)

    その 間 が 、 たっぷり 一 時間 は あっ た 様 に 思わ れ ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-DOB1 NP D その N P-ROLE PU ___IP-SMC-OB1 __NP-PRD IP-EMB PP;*SBJ* NP ADVP ADV たっぷり NUMCLP NUM CL 時間 P-OPTR VB あっ AXD N AX VB 思わ VB2 AX ます PU
            [249_aozora_Edogawa-1929@15,14]
    (4.112)

    国際学術コンペ の 審査委員長 で 、 フロリダ大西洋大教授 の フランク・シュニッドマンさん に 聞い た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* PP NP;{PERSON} ___IP-REL NP-SBJ *T* IP-ADV-CONJ NP-PRD PP NP N 国際学術コンペ P-ROLE N 審査委員長 AX PU __NP-PRD N フロリダ大西洋大教授 AX NPR フランク・シュニッドマンさん P-ROLE VB 聞い AXD PU
            [82_news_KAHOKU_52@25,8]
    (4.89)

    だとすると 、 彼 が 犯人 で ある 可能性 は 低い 。

    IP-MAT CONJ だとすると PU PP-SBJ NP ___IP-EMB PP-SBJ NP;{TANAKA_175} PRO P-ROLE __NP-PRD N 犯人 AX VB2 ある N 可能性 P-OPTR ADJI 低い PU
            [176_textbook_kisonihongo@15,8]
    (4.90)

    「 先生 、 この 人 が 生れつき 盲人 な の は 、 だれ が 罪 を 犯し た ため です か 。

    CP-QUE PUL IP-SUB NP-VOC N 先生 PU PP-SBJ NP ___IP-EMB PP-SBJ NP D この N P-ROLE NP-ADV N 生れつき __NP-PRD N 盲人 AX N P-OPTR PU NP-PRD IP-EMB PP-SBJ NP WPRO だれ P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB 犯し AXD N ため AX です P-FINAL PU
            [749_bible_nt@24,12]

    4.17   助詞句述語(PP-PRD)

    名詞句(NP)や副詞(ADV)等に格助詞(P-ROLE)やとりたて助詞(P-OPTR)が後続し,そこにさらにコピュラが後続することがある(擬似分裂文が典型的である)。 この場合,助詞の投射した助詞句(PP)に述語としての拡張タグを付け,PP-PRD とする。

    (4.91)

    第二 は 、 本法改正 の 遡及適用 について で あり ます 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NUMCLP NUM 第二 P-OPTR PU __PP-PRD ___NP PP NP N 本法改正 P-ROLE N 遡及適用 ___P-ROLE について AX VB2 あり AX ます PU
            [19_diet_kaigiroku-4@11,12,21]
    (4.92)

    私 が 持っ て いる の は 本 だけ です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-OB1 *T* PP-SBJ NP PRO P-ROLE VB 持っ P-CONN VB2 いる N P-OPTR __PP-PRD ___NP N ___P-OPTR だけ AX です PU
            [420_textbook_TANAKA@23,24,27]

    4.18   副詞句述語(ADVP-PRD)

    副詞(ADV)を主要部とする副詞句(ADVP)が,後続するコピュラを伴って述語となることがある。 この場合,副詞の投射した副詞句に述語としての拡張タグを付け,ADVP-PRD とする。 この種の構文には典型的には「そう」のような指示的な副詞が含まれる。

    (4.93)

    ルール は こう だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N ルール P-OPTR __ADVP-PRD ADV こう AX PU
            [40_news_KAHOKU_179@8]

    4.19   IPが述語となるケース(IP-ADV-PRD)

    少数ながら,IP-ADVが後続するコピュラを伴って述語となることがある。 この場合も拡張タグ-PRDを用いて,IP-ADV-PRDとする。

    (4.94)

    視覚的 だっ たり 聴覚 から で あっ たり 、 感触 から で あっ たり 抽象的 な 捉え方 も し ます し 、 動き ながら だっ たり

    FRAG IP-ADV-CONJ PP-CONJ IP-ADV IP-ADV-CONJ NP-SBJ;{THINK_ABOUT_WORLD} *pro* IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ ADJN 視覚的 AX だっ P-CONN たり PP-PRD NP N 聴覚 P-ROLE から AX VB2 あっ P-CONN たり PU PP-PRD NP N 感触 P-ROLE から AX VB2 あっ P-CONN たり NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 抽象的 AX N 捉え方 P-OPTR VB AX ます P-CONN PU __IP-ADV-PRD VB 動き P-CONN ながら AX だっ P-CONN たり
            [196_ted_talk_11@65]

    4.20   CPが述語となるケース(CP-THT-PRD, CP-QUE-PRD)

    CP-THTあるいはCP-QUEがコピュラを伴って述語となることがある。 それぞれ6.18.6 節,6.17.4 節を参照。


    4.21   形式名詞(FN)+コピュラ(AX)

    「形式名詞+コピュラ」は次のような文法機能を持つ。 主節の終末部に現れる場合,アスペクト,情報構造,モダリティ,証拠性等,様々な役割を果たす。 この種の語のうち基本的なものには,「はず」(見込み),「わけ」(根拠,結論),「もの」(習慣,不可避性)がある。 この他に,多様な文脈で現れる以下の語を付け加えることができる:「ふう」(様態),「つもり,気,魂胆」(意図),「ところ」(始動,完了,仮定),「ため」(理由,原因),「せい,おかげ」(原因),「ほう」(選択肢),「まま」(現状維持),等。 これらの語のほとんどは名詞修飾節内部の主語表示における「が/の交替」を許さない(これらを含むコピュラ文自体が名詞を修飾する場合を除く)。 これらの語の品詞タグは本コーパスでは FN とする。 主節の終末部に現れる場合,直接 IP に支配されるものとしてアノテーションされる。

    (4.95)

    こう 感じ て いる 酔客 は 多い はず だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADV こう VB 感じ P-CONN VB2 いる N 酔客 P-OPTR ADJI 多い __FN はず ___AX PU
            [52_news_KAHOKU_107@22,24]

        形式名詞の一部(例えば,「はず」や「わけ」)は,名詞述語に係る場合,その述語のコピュラが「な」形連体形になる場合がある。

    (4.96)

    この 計画 は 、 実現不可能 な わけ で も ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N 計画 P-OPTR PU ADJN 実現不可能 ___AX __FN わけ AX P-OPTR NEG ない PU
            [142_textbook_particles@16,14]

    4.22   のだ構文

    文末の「のだ」を構成する「の」も FN(形式名詞)とラベル付けされ,動詞等の文構成素と同レベルに置かれて,直接 IP に支配されるものとしてアノテーションされる。 このようなフラットなアノテーションを行うのは,(1)形式名詞「の」の前の節が文に埋め込まれていると解釈した場合に生じる,スコープを決定するという困難を避ける;(2)名詞修飾節に見られるような「が/の交替」が認められない,という理由がある。

    (4.97)

    田中 が 会い に 来 た の で は ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{TANAKA_730} NPR 田中 P-ROLE PP-PRP IP-NMZ NP-OB1 *pro* VB 会い P-ROLE VB AXD __FN AX P-OPTR NEG ない PU
            [730_textbook_kisonihongo@20]

        「のだ」構文の主要部として現在形の名詞述語が現われる場合,「な」形連体形のコピュラが使用されることに注意。

    (4.98)

    この 猫 は 、 いわば 、 我が家 の 一員 な ___の __です ___。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N P-OPTR PU ADVP ADV いわば PU NP-PRD PP NP N 我が家 P-ROLE N 一員 AX FN ___の AX __です PU ___。
            [713_textbook_TANAKA@31,29,33]

    4.23   「の」をコピュラの連体形と見なす際の基準

    「の」はコピュラとして AX とラベル付けされるのか助詞(P-ROLE)としてラベル付けされるのか判断が難しいことがある。 本アノテーションでは原則として,「NP1 の N2」を「[NP N2] は NP1 である」や 「NP1 である N2」と言い換えることに問題がなく, また,NP1 と N2 が同格関係にある場合には,「の」をコピュラと見なし,AX とラベル付けする。 この際の修飾句は関係節(IP-REL)(または,空所なし名詞修飾節(IP-EMB))とされる。

    (4.99)

    「 そこ に 小さな マッチ売り の 少女 が いる 。

    IP-MAT PUL PP NP PRO そこ P-ROLE PP-SBJ NP PNL 小さな ___IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N マッチ売り __AX N 少女 P-ROLE VB いる PU
            [225_aozora_Yuki-1-2000@20,14]

        ただし,上記の原則だけでは「の」の扱いに迷いが生じる可能性がある。 以下では,このように迷いが生じる可能性のあるケースにおける本アノテーションでの方針を述べる。

    (4.100)

    被災地 で は まだ 、 保護者 が 大変 な 時期 の ため 、 子ども が うまく 甘え られ ない 面 も ある 。

    IP-MAT PP NP N 被災地 P-ROLE P-OPTR NP-ADV ___IP-EMB ADVP ADV まだ PU PP-SBJ NP N 保護者 P-ROLE NP-PRD IP-EMB ADJN 大変 AX N 時期 __AX ___N ため PU PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP N 子ども P-ROLE ADVP ADJI うまく VB 甘え VB2 られ NEG ない N P-OPTR VB ある PU
            [99_news_KAHOKU_55@31,11,33]
    (4.101)

    彼女 は 彼 の ため に 口添え し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR PP NP PP NP PRO __P-ROLE ___N ため P-ROLE VB 口添え VB0 AXD PU
            [532_textbook_TANAKA@14,16]
    (4.102)

    この 「 毒殺未遂事件 」 の 正体 は 、 反政宗派一掃 の ため の 自作自演 説 も ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP;{MASAMUNE_ASSASSINATE_THEORY} D この PUL N 毒殺未遂事件 PUR P-ROLE N 正体 P-OPTR PU PP-OB1 NP NML PP NP PP NP N 反政宗派一掃 __P-ROLE ___N ため P-ROLE N 自作自演 N P-OPTR VB ある PU
            [46_wikipedia_Datemasamune@31,33]
    (4.103)

    彼女 は ガン の せい で 死ん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR PP NP PP NP N ガン __P-ROLE ___N せい P-ROLE VB 死ん AXD PU
            [443_textbook_TANAKA@14,16]
    (4.104)

    あなた の せい で 、 こんな こと に なっ た ん です 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SITUATION_87} *pro* PP NP PP NP;{HEARER_87} PRO あなた __P-ROLE ___N せい P-ROLE PU ADVP-CMPL NP-PRD;{AFTERMATH_87} D こんな N こと AX VB なっ AXD FN AX です PU
            [87_textbook_kisonihongo@10,12]
    (4.105)

    旦那さん が 本当 の こと を 言わ ない ん です か 。

    CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP N 旦那さん P-ROLE PP-OB1 NP ___IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 本当 __AX ___N こと P-ROLE VB 言わ NEG ない FN AX です P-FINAL PU
            [688_textbook_kisonihongo@16,11,18]
    (4.106)

    どうやら 全員 ご賛成 の よう です ので 、 その よう に 決め させ て いただき ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-DOB1 *hearer* PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *exp* NP-PRD ___IP-EMB NP-OB1;{SOLUTION_613} *pro* ADVP ADV どうやら NP-SBJ Q 全員 VB ご賛成 __AX ___N よう AX です P-CONN ので PU IP-SMC-OB1 NP-CZZ *speaker* NP-OB1;{ISSUE_613} *pro* PP NP;{SOLUTION_613} D その N よう P-ROLE VB 決め VB2 させ P-CONN VB いただき AX ます PU
            [614_textbook_kisonihongo@22,24,11]
    (4.107)

    ブラウンさん は 日本人 の よう な 考え方 を する 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ブラウンさん P-OPTR PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PP NP N 日本人 __P-ROLE ___N よう AX N 考え方 P-ROLE VB する PU
            [104_textbook_djg_intermediate@18,20]
    (4.108)

    ジャック は どう し て も 私 の 手紙 に 返事 を 書こ う と し ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR ジャック P-OPTR PP-SCON-CND IP-ADV ADVP-CMPL WADV どう VB P-CONN P-OPTR PP NP PP ___NP PRO __P-ROLE ___N 手紙 P-ROLE PP-OB1 NP N 返事 P-ROLE VB 書こ AX AX VB2 NEG ない PU
            [873_textbook_TANAKA@25,22,27]
    (4.109)

    近代的 な 官僚制 の 誕生 と 産業革命 の 開始 とともに 始まっ た の です

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP CONJP NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 近代的 AX N 官僚制 __P-ROLE N 誕生 P-CONN NP PP NP N 産業革命 ___P-ROLE N 開始 P-ROLE とともに VB 始まっ AXD FN AX です
            [83_ted_talk_8@19,30]
    (4.110)

    洪水 で 3 人 の 人 が 行方不明 だ 。

    IP-MAT PP NP N 洪水 P-ROLE PP-SBJ NP ___IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD ___NUMCLP NUM CL __AX ___N P-ROLE ADJN 行方不明 AX PU
            [470_textbook_TANAKA@19,10,14,21]

    ただし,「NP1 の」が NP2 の数量も属性も表していない場合は, 他の名詞句と同じような扱いを受け,「の」が P-ROLE として分析されることに注意されたい。

    (4.111)

    彼 は 二人 の 結婚 に 立ち会っ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP NP PP ___NP NUMCLP NUM 二人 __P-ROLE ___N 結婚 P-ROLE VB 立ち会っ AXD PU
            [1529_dict_vv-lexicon@15,11,17]

    4.23.1   連体形「の」の等位節テスト

    「である」の置き換えだけでは「の」が連体形のコピュラである場合をすべて識別できるわけではない。 例えば,「昔、子供の頃」にこのテストを適用すると,*「昔、子供である頃」が得られ,不合格である。 しかし「である」ではなく「であった」で置き換えた,「昔、子供であった頃」は可能である。 したがって,この例はコピュラ分析が適切である。 別のテストとして,等位節を利用するものが挙げられる。 コピュラは等位節の前件では連用形の「で」となる。 もし,問題となっている表現からコピュラ節と等位関係にある節を作ると, 前の節では「まだ子供でウブだった頃」,後ろの節では「まだウブで子供の頃」となるため,「の」がコピュラとして分析できることが分かる。 以下の(4.112)はその実例のひとつである。

    (4.112)

    国際学術コンペ の 審査委員長 で 、 フロリダ大西洋大教授 の フランク・シュニッドマンさん に 聞い た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* PP NP;{PERSON} IP-REL NP-SBJ *T* IP-ADV-CONJ NP-PRD PP NP N 国際学術コンペ P-ROLE ___N 審査委員長 __AX PU NP-PRD ___N フロリダ大西洋大教授 AX NPR フランク・シュニッドマンさん P-ROLE VB 聞い AXD PU
            [82_news_KAHOKU_52@21,19,26]



    Chapter 5
    Clause layers


    5.1   はじめに

    IP節とは,述語が投射する節であり,述語と項との関係を表現する。 述語が何であるのかに関しては, 1.3.6 節と sectionref:[__predicates__] 節で定めてある。 この節では,様々なIP節の下位分類について説明する。 IPは,その統語的環境と機能によって,拡張タグが必ず付与される。 以下その一覧である。

    Table 5.1: IPの下位分類

    統語タグ解説
    IP-MAT主節
    IP-SUB(CPに埋め込まれる)準主節
    IP-REL関係節
    IP-EMB(2)空所なし名詞修飾節
    IP-ADV-CONJ等位接続節
    IP-ADV(2)-SCON(-CND)従属節・条件節
    IP-NMZ(2)名詞化節
    IP-SMC(2)小節

    5.1.1   主節(IP-MAT)と準主節(IP-SUB)

    主節(IP-MAT)は,トップレベルに位置するような節である。 基本的に,IP-MATは他のIP節やCP節の中に埋め込まれることはない。

        IP-MATが等位接続することは,原則的にはない。 なぜなら,2つのIP-MATの連なりは2つの発話の単位であり, 別々の木としてコーパスの中で保存されるはずだからである。 ある文の中に補部節があり,そこで複数の発話が同時に引用されるような場合は, IP-MATが並置され, multi-sentence を通じてCP-THTに埋め込まれる。 multi-sentence には,IP-MATのほか, 独立した発話を形成しているCP,FRAGおよびINTJPが置かれることもある (詳しくは 6.6 節を参照)。

    (5.1)

    さつき町内会長 の 亀卦川正一さん ( 79 ) は 「 3 月 なら 釧路 の 最低気温 は マイナス 20 度 前後 、 昼 でも プラス に なる かどうか 。 屋外 で は 凍死 し て しまう 」 など と 話し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N さつき町内会長 AX NPR 亀卦川正一さん PRN PUL NP NUMCLP NUM 79 PUR P-OPTR ___CP-THT-OB1 ___multi-sentence PUL __IP-MAT PP-TMP NP NUMCLP NUM CL P-OPTR なら PP-SBJ NP PP NP NPR 釧路 P-ROLE N 最低気温 P-OPTR NP-PRD N マイナス NUMCLP NUM 20 CL N 前後 AX * PU CP-QUE IP-SUB NP-SBJ;{DAYTIME_TEMPERATURE} *pro* PP-TMP NP N P-OPTR でも IP-SMC-OB1 NP-PRD N プラス AX VB なる P-FINAL かどうか PU ___IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP N 屋外 P-ROLE P-OPTR VB 凍死 VB0 P-CONN VB2 しまう PUR P-OPTR など P-COMP VB 話し AXD PU
            [10_news_KAHOKU_95@29,87,26,25]
    (5.2)

    谷藤裕明市長 は 2 月 27 日 の 定例記者会見 で 「 予定 し て い た 事業 が なかなか 進ま ない 。 何とか 工夫 を 凝らし 打開 し なけれ ば なら ない 」 と 懸念 し た 。

    IP-MAT NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP NPR 谷藤裕明市長 P-OPTR PP NP PP NP NUMCLP NUM CL NUMCLP NUM 27 CL P-ROLE N 定例記者会見 P-ROLE ___CP-THT-ADV ___multi-sentence PUL __IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *speaker+pro* VB 予定 VB0 P-CONN VB2 AXD N 事業 P-ROLE ADVP ADV なかなか VB 進ま NEG ない PU ___IP-MAT NP-SBJ *speaker+pro* ADVP ADV 何とか IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N 工夫 P-ROLE VB 凝らし NP-OB1 *pro* VB 打開 VB0 NEG なけれ P-CONN VB2 なら NEG ない PUR P-COMP VB 懸念 VB0 AXD PU
            [66_news_KAHOKU_51@34,30,31,65]
    (5.3)

    気迫 が 通じ た もの か 、 「 __よろしい 。 わかり まし た 」 と 相手側 の 代表者 が 意外 な 柔軟さ を みせ て いっ た 。

    IP-MAT CP-QUE-ADV IP-SUB PP-SBJ NP N 気迫 P-ROLE VB 通じ AXD FN もの AX * P-FINAL PU CP-THT-OB1 multi-sentence PUL ___IP-MAT ___NP-SBJ;{REDO} *pro* ADJI __よろしい PU IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-OB1;{REDO} ___*pro* VB わかり AX まし AXD PUR P-COMP PP-SBJ NP;{PARTNER_COMPANY_DELEGATE} PP NP;{PARTNER_COMPANY} N 相手側 P-ROLE N 代表者 P-ROLE IP-ADV-SCON PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 意外 AX N 柔軟さ P-ROLE VB みせ P-CONN VB いっ AXD PU
            [24_misc_1709kytext2@30,26,27,37]

        準主節(IP-SUB)は,CPレベルの下でのトップレベルのIPである。 これもまた,様々なCPの中に埋め込まれる ( 5.2 節を参照)ものの, IP-MATと同様,他のIP節の中に埋め込まれることはなく,IPに関して常にトップレベルに位置する。

        主節と準主節は,どちらも,コントロール( 5.3 節)や ATB抽出( 5.4 節)に関与しない。

    5.1.2   関係節(IP-REL)と空所なし連体節(IP-EMB)

    空所あり名詞修飾節はIP-RELとアノテートされ,修飾する名詞の姉妹位置に置かれる。 IP-RELの内部には,トレース *T* が少なくとも1つ以上なければならない。

        同じ名詞を修飾する複数のIP-RELは,名詞句の下で単に並置される。

    (5.4)

    イギリス人 の 偉大 な テノール歌手 が いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP ___IP-REL NP-SBJ __*T* NP-PRD N イギリス人 AX ___IP-REL NP-SBJ ___*T* ADJN 偉大 AX N テノール歌手 P-ROLE VB いる PU
            [162_misc_JSeM_beta_150530@6,4,14,12]
    (5.5)

    とはいっても 、 壁 は ぎざぎざ や とがっ た ところ が たくさん ある 念入り に 彫刻 さ れ た 家具 で さえぎら れ て い た 。

    IP-MAT CONJ とはいっても PU PP-SBJ NP N P-OPTR PP-LGS NP ___IP-REL NP-SBJ __*T* PP-OB1 NP CONJP NP N ぎざぎざ P-CONN NP IP-REL NP-SBJ *T* VB とがっ AX N ところ P-ROLE NP;*OB1* Q たくさん VB ある ___IP-REL NP-SBJ ___*T* NP-LGS *pro* ADVP ADJN 念入り AX VB 彫刻 VB0 PASS AX N 家具 P-ROLE VB さえぎら PASS P-CONN VB2 AXD PU
            [819_aozora_Harada-1960@16,14,44,42]

    IP-RELは,コントロール( 5.3 節)や ATB抽出( 5.4 節)に関与しない。

        被修飾主名詞に相当する空要素をもたない名詞修飾節は, IP-EMBとタグ付けされる。 IP-EMBは典型的には絵画名詞(走る姿),内容名詞(新病棟のベッドを減らす計画), 事態名詞(長男を失った経験,持ち直す可能性), 相対名詞(食べたあと,回復するはず), 機能名詞(チーターの走る速度)等に帰せられる命題内容を表す。

        同じ名詞を修飾する複数のIP-EMBは,IP-RELと同様,名詞句NPの下で単に並置される。

    (5.6)

    いかに も 立派 な 邸 で は ある が 、 なんとなく 様式離れ の し た 、 趣味 の 無い 、 そして 陰気 な 構造 の よう に 感ぜ られる 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-CONJ IP-ADV ADVP WADV いかに P-OPTR NP-PRD;{MANSION} IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 立派 AX N AX P-OPTR VB2 ある P-CONN PU NP-DOB1;{MANSION} *pro* IP-SMC-OB1 NP-PRD PP ___NP __IP-EMB ADVP ADV なんとなく PP-SBJ NP N 様式離れ P-ROLE VB AX PU ___IP-EMB PP-SBJ NP N 趣味 P-ROLE ADJI 無い PU ___IP-REL NP-SBJ *T* CONJ そして ADJN 陰気 AX N 構造 P-ROLE N よう AX VB 感ぜ VB2 られる PU
            [25_aozora_Mori-1912@37,53,64,36]

    IP-EMBは,IP-RELとは異なり, 後述するコントロール環境をなす( 5.3 節)。

        IP-RELおよびIP-EMBの,名詞修飾節としての詳細は 3.2.6.1 節 および 3.2.6.2 節を参照。

    5.1.3   名詞化節(IP-NMZ)

    IPの中には,修飾すべき名詞や名詞化接辞がないのにもかかわらず,名詞的な環境に現れるような,特殊なものがある。 このような IP には IP-NMZ(名詞化節)のタグが与えられる。

    (5.7)

    弟子たち は 食物 を 買い に 町 に 行っ て い た の で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 弟子たち P-OPTR PP-PRP __IP-NMZ PP-OB1 NP N 食物 P-ROLE VB 買い P-ROLE PP NP N P-ROLE VB 行っ P-CONN VB2 AXD FN AX VB2 ある PU
            [217_bible_nt@9]
    (5.8)

    しかし 幹細胞治療 を 臨床応用 する に は 長い 道のり が あり ます

    IP-MAT CONJ しかし PP __IP-NMZ NP-SBJ *speaker+pro* PP-OB1 NP N 幹細胞治療 P-ROLE VB 臨床応用 VB0 する P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 長い N 道のり P-ROLE VB あり AX ます
            [24_ted_talk_9@5]

        上に挙げたような例は,節が事態全体,あるいは動作を示す事態名詞化(event nominalization)の例と考えることができる。 この意味的な特徴を踏まえると, IP-NMZ は,以下のような,単なる修飾先なしの関係節(targetless relative clauses)とは区別されなければならない。

    (5.9)

    残る は 勾坂甚内 だけ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* VB 残る P-OPTR PP-PRD NP;{KOSAKA_JINNAI} NPR 勾坂甚内 P-OPTR だけ __AX * PU
            [280_aozora_Kunieda-1925@17]

        IP-NMZの等位接続は,その名詞的な性質に従い,NPに準じることとする。 NPの等位接続は, 3.5 節にあるように,CONJPを通して行われる。

    (5.10)

    性格 が 明るい か 、 あるいは 暗い か によって 、 人生 は 非常 に 変わっ て くる 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP CP-QUE __CONJP CP-QUE IP-SUB PP-SBJ2 NP N 性格 P-ROLE ADJI 明るい P-CONN PU CONJ あるいは CP-QUE IP-SUB NP-SBJ2 *pro* ADJI 暗い P-CONN P-ROLE によって PU PP-SBJ2 NP N 人生 P-OPTR ADVP ADJN 非常 AX VB 変わっ P-CONN VB2 くる PU
            [14_textbook_djg_advanced@6]

    IP-NMZはコントロール環境をなす( 5.3 節)。

    5.1.4   小節(IP-SMC)

    本コーパスにおける小節(IP-SMC)は,一般的な言語学の用法よりも広い意味で使われ, 何かしらの述語が選択する(この点で,後述するIP-ADVとは異なる), 格が付与されない(この点で,IP-NMZとは異なる)補文であり, 時制または項について何かしらの欠陥がある(この点で,IP-SUBとは異なる)ようなものである。 IP-SMCは,特定の述語によって要求される。 特定の述語が何であるかについては, 1.6.3 節, 4.6 節, 4.8 節, 6.19 節, 6.20 節, 7.2.2 節, 7.2.3 節, 7.4 節を参照。

        IP-SMCは,「と」,「という」などの補文標識を伴うことがある。 この場合,IP-SMCはCP-THTの下に直接置かれる。

    (6.87)

    温度 を 一定 だ と する

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_30} *speaker* PP-DOB1 NP N 温度 P-ROLE ___CP-THT-OB1 __IP-SMC ADJN 一定 AX P-COMP VB する
            [30_misc_EXAMPLE@11,10]

        IPに直接支配されるIP-SMCに対しては,文法的な役割を拡張タグとして明示する (4.6 節, 6.10 節, 6.12節, および 1.6.3 節)。

        IP-SMCの等位接続は,もしあるとすれば,述語の右方節点繰り上げ ( 6.4 節)の例として扱われる。 IP-SMCはコントロール環境をなす( 5.3 節)。

    5.1.5   副詞節(IP-ADV)

    5.1.5.1   節の連結

    以上で挙げられたものに分類されないような節(以後,節1と呼ぶ)として, 述語の連用形,接続助詞,あるいは接続副詞で終わり, もう1つの節(節2)に後続されるようなものが存在する。

        さらに,この種の節の配置を,「節の連結」と呼ぶことにする。 本コーパスでは,2つの節の間の意味関係に拘わらず, 節1が節2によって支配されるようにアノテーションを行う。

        「節の連結」における節1は,従属節と等位節に二分される。 いずれの場合も,節1は IP-ADV としてアノテートされる。 IP-ADV は,どちらの場合であっても,後続する節2の直下に置かれるか, 接続助詞(P-CONN)による投射PPを介して節2の下に置かれる。 IP-ADV(接続助詞による投射PPがあれば,それ)は,必ず追加の拡張タグが付与される。 -SCON は従属節であり, -SCON-CND は,従属節の中でも,条件節を表す。 -CONJ は等位節のことである。

        IP-ADV-SCON(-CND)(またはPP-SCON(-CND))は, コントロール環境をなす( 5.3 節)。 一方で,IP-ADV-CONJ (またはPP-CONJ)は, ATB抽出( 5.4 節)を許す。

        複数のIP-ADV-SCON(-CND)(またはPP-SCON(-CND))同士が並置されるかどうかは, これらの節がそれぞれ自らを支配する節と「節の連結」の関係にあるかどうかで判断される。

        以下は並置ではない例:

    (5.12)

    鶏 が 鳴い て も 女 が 来 なけれ ば 、 自分 は 逢わ ずに 殺さ れ て しまう 。

    IP-MAT __IP-ADV-SCON-CND ___PP-SCON-CND IP-ADV PP-SBJ NP N P-ROLE VB 鳴い ___P-CONN P-OPTR PP-SBJ NP N P-ROLE VB NEG なけれ ___P-CONN PU PP-SBJ NP PRO 自分 P-OPTR IP-ADV-SCON NP-OB1 *pro* VB 逢わ NEG ずに NP-LGS *pro* VB 殺さ PASS P-CONN VB2 しまう PU
            [316_aozora_Natsume-1908@2,3,13,27]

    以下は2つの IP-ADV2-SCON が並置である例:

    (5.13)

    盗ん だ 金 だけに 糸目 を つけ ず 惜し気 なく パッパッ と 使う ので どこ へ 行っ て も モテル の で あっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{KOSAKA_JINNAI} *pro* __PP-SCON IP-ADV PP-SCON IP-ADV NP-SBJ;{GOLD} *pro* NP-PRD IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ;{KOSAKA_JINNAI} *pro* VB 盗ん AXD N AX * P-CONN だけに IP-ADV-SCON PP-OB1 NP N 糸目 P-ROLE VB つけ NEG IP-ADV-SCON NP-OB1 N 惜し気 ADJI なく ADVP ADV パッパッ AX VB 使う ___P-CONN ので PP-SCON-CND IP-ADV PP NP WPRO どこ P-ROLE VB 行っ P-CONN P-OPTR VB モテル FN AX VB2 あっ AXD PU
            [198_aozora_Kunieda-1925@4,50]

        一方で,IP-ADV-CONJ (またはPP-CONJ)は,その名の通り, (節2との)等位接続の関係を表現する「節の連結」である。 これらが置かれる位置については,その解説を次節に譲る。

    5.1.5.2   平板な構造を保つための等位節へのアノテーション

    等位接続とは,普通,「カテゴリー Xn に支配された X1,2...n-1 が姉妹の関係にあること(X は IP のこともあれば,VP のような中間的な節のこともある)」 を指すものとされる。 これは,意味計算を行うため,そして,構造を捉えるための一般的なやり方ではあるが,しかし, このツリーバンクにおいて,Xn の層を加えると, (i) Xn に支配される等位節 X1,2...n-1 の文法的機能,および (ii) Xn が自らを支配するカテゴリー(つまり,上位の節)に対してもつ機能 が不明瞭になってしまう。 本ツリーバンクは,すべての構成素の文法的機能を明示的に示そうとしており, そのおかげで,文法現象が常に最小限の構造によって定義され, そして予測不能でアドホックなツリー構造に頼らずに,その現象を検索することが可能になるものである。 この方針のために,節の並列を,CONJ を伴った節の付加として捉えるための特別の戦略をとることにする。

        方針として,節1と節2の並列は,節1が節2によって支配されるものとしてアノテーションし, 節1に -CONJ 拡張タグを加える。 節1の具体的な形としては,節2の直下にあるような IP-ADV-CONJ か, 接続助詞の投射する PP-CONJ の下に置かれる IP-ADV (全体として,(PP-CONJ (IP-ADV ...) (P ...))) かのいずれかである。 (接続助詞については 2.6.3 節を参照のこと。) 等位接続の関係にある節が3つ以上ある場合には,すべての節が積み上げられているものとする。 つまり,節1が節2の下に,節2が節1と共に節3の下に置かれる。 詳しくは 5.4.2節を参照。

    5.1.5.3   従属節と等位節の区別

    従属節 IP-ADV-SCON(-CND) と等位節 IP-ADV-CONJ は当然,何かしらの基準に基づくものでなければ,その区別には意味がない。

        述語の不定形の活用で終わる節(すなわち,述語連用形の節およびテ節)に関しては,現時点では,基準を, Nihongo08 2008 の 282–287ページに掲げられたものを利用して定めている。 すなわち,「並列」「対比」「継起」用法は等位節 IP-ADV-CONJ,順接条件は IP-ADV-SCON-CND,その他の用法は IP-ADV-SCONとする。

    それ以外の節,すなわち,接続助詞もしくは接続副詞で終わる節は,それらの助詞または副詞に従って決まる。 以下,主なものを挙げる。

    5.1.5.4   IP-ADVの他の用法

    定形節全体に対して,程度や限定を表す「だけ」「ばかり」「くらい」がつくことがある。 この場合,IP-ADV が用いられる。

    (5.14)

    やれる だけ やっ て み よう 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *speaker+hearer* PP __IP-ADV VB やれる ___P-OPTR だけ VB やっ P-CONN VB2 AX よう PU
            [56_textbook_particles@6,9]
    (5.15)

    だが 、 それ を 見届ける だけ の 生命 が 私 に ある かどうか の 自信 は なかっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{AUTHOR} *speaker* CONJ だが PU PP-OB1 NP PP CP-QUE IP-SUB PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-PRD __IP-ADV NP-SBJ;{AUTHOR} *pro* PP-OB1 NP;{FUTURE_FOR_MASAKO+MIGIFUMI} PRO それ P-ROLE VB 見届ける ___P-OPTR だけ AX N 生命 P-ROLE PP-SBJ NP;{AUTHOR} PRO P-ROLE VB ある P-FINAL かどうか P-ROLE N 自信 P-OPTR ADJI なかっ AXD PU
            [97_aozora_Tsuboi-1968@19,30]
    (5.16)

    どの 演奏 も 若さ と 情熱 が あふれん ばかり に 満ち て い た 。

    IP-MAT NP-LOC WD どの N 演奏 P-OPTR PP-SBJ NP CONJP NP N 若さ P-CONN NP N 情熱 P-ROLE PP-SCON __IP-ADV VB あふれん ___P-OPTR ばかり P-ROLE VB 満ち P-CONN VB2 AXD PU
            [325_textbook_djg_advanced@23,26]
    (5.17)

    ともかく 、 両足 を ふだん と は ちがう くらい 高く 上げ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{FATHER} *pro* ADVP ADV ともかく PU PP-OB1 NP Q 両足 P-ROLE ADVP PP __IP-ADV NP-SBJ *pro* PP NP N ふだん P-ROLE P-OPTR VB ちがう ___P-OPTR くらい ADJI 高く VB 上げ AXD PU
            [804_aozora_Harada-1960@17,30]

    テ形節に直接「の」が付き,連体修飾を行うような構文もある。

    (5.18)

    生まれつい て の 芸術家

    FRAG NP PP __IP-ADV VB 生まれつい ___P-CONN ___P-ROLE N 芸術家
            [346_dict_vv-lexicon@4,7,9]
    (5.19)

    見 て の とおり 、 道 から 部屋 の 中 を 覗きこめる ん だ 。

    IP-MAT;{LOOK_FROM_OUTSIDE} NP-SBJ *arb* NP-ADV PP __IP-ADV NP-SBJ *arb* VB ___P-CONN ___P-ROLE N とおり PU PP NP N P-ROLE から PP-OB1 NP PP NP;{OLDACRE_HOUSE_BEDROOM} N 部屋 P-ROLE N P-ROLE VB 覗きこめる FN AX PU
            [374_aozora_Doyle-1905@6,11,13]

    5.2   CP タグを持つ節

    CP節とは,終助詞(引用の助詞を含む)が, 文の残りの要素を自身の補部(IP,CP,FRAG)としながら投射するものである。 CP節の中に含まれるものとして以下がある:

        CPの下位分類として,疑問節(CP-QUE), 感嘆節(CP-EXL), 命令節(CP-IMP), 終助詞節(CP-FINAL), 補部節(CP-THT)の5つがある。 この節では,CP-THTを除いた4つを解説する。 CP-THTについては 6.18 節を参照のこと。

    5.2.1   疑問節(CP-QUE)

    疑問の内容を表す節(IP-SUB や FRAG 等)はCP-QUEの直下に, 疑問の終助詞(P-FINAL)があるならばそれとともに,置かれる。 一般的に,終助詞(P-FINAL)は,疑問節に伴うこともあれば,伴わないこともある。

        疑問には直接疑問と間接疑問の2種類があるが,ラベル(CP-QUE)によってそれらを区別することはしない。 以下直接疑問と間接疑問のそれぞれの場合について解説する。

        直接疑問文については, 文全体が CP-QUE とラベル付けされ, その下に 疑問の内容を表す節(IP-SUB や FRAG 等)が置かれる。

    (5.20)

    目ざまし が 鳴ら なかっ た の だろう か 。

    __CP-QUE ___IP-SUB PP-SBJ NP;{ALARM_CLOCK} N 目ざまし P-ROLE VB 鳴ら NEG なかっ AXD FN MD だろう ___P-FINAL PU
            [53_aozora_Harada-1960@1,2,19]
    (5.21)

    あなた 、 明日 の 会議 お出 に なる 。

    __CP-QUE ___IP-SUB NP-SBJ;{HEARER_691} PRO あなた PU PP NP PP NP N 明日 P-ROLE N 会議 P-ROLE *に* VB お出 AX VB2 なる PU
            [691_textbook_kisonihongo@1,2]
    (5.22)

    「 それから ?

    __CP-QUE PUL ___FRAG CONJ それから PU
            [696_aozora_Miyazawa-1934@1,4]
    (5.23)

    頭痛 が ひどい って ?

    __CP-QUE ___FRAG CP-THT IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-SBJ2 NP N 頭痛 P-ROLE ADJI ひどい P-COMP って PU
            [883_textbook_particles@1,2]

        間接疑問については,一つの場合として, まず,疑問節(CP-QUE)に補文助詞(P-COMP)が続き, 全体として補部節(CP-THT)を作るものが挙げられる。

    (5.24)

    最後 に 自分 に 神 を 信仰 する か と 尋ね た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP N 最後 P-ROLE PP NP PRO 自分 P-ROLE ___CP-THT-OB1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP N P-ROLE VB 信仰 VB0 する P-FINAL ___P-COMP VB 尋ね AXD PU
            [434_aozora_Natsume-1908@17,16,33]

        また,補文助詞を伴わない間接疑問もある。 このような場合には,疑問節(CP-QUE)を,適切な拡張タグをつけた上で,上位の節(IP)の直下に置く。 なお,間接疑問における CP-QUE への拡張タグについては, 6.17 節を参照されたい。

    (5.25)

    新聞紙面 の 中 で 、 スポーツ面 が どれ だけ 、 復興 の 力 に なる の か 、 正直 分から ない 。

    ___IP-MAT NP-SBJ;{SATO} *speaker* __CP-QUE-OB1 IP-SUB PP NP PP NP N 新聞紙面 P-ROLE N P-ROLE PU PP-SBJ NP N スポーツ面 P-ROLE PP-ADV NP WPRO どれ P-OPTR だけ PU IP-SMC-OB1 NP-PRD PP NP N 復興 P-ROLE N AX VB なる FN P-FINAL PU ADVP ADV 正直 VB 分から NEG ない PU
            [61_news_KAHOKU_206@,4,1]

        さらに,本コーパスでは,並列された疑問節に「か」のような同じ助詞が後続する場合には,「か」をP-FINALとする分析と,「か」を P-CONN とする分析の2種類を設ける。この2種類の分析については,3.5.4 節を参照されたい。

    5.2.2   感嘆節(CP-EXL)

    感嘆節は CP-EXL とラベル付けされる。 このコーパスでは,現在のところ,以下のような構文を CP-EXL として扱っている。

    (5.26)

    なんて 奇妙 な 状況 な の だろう !

    __CP-EXL IP-SUB NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADVP WADV なんて ADJN 奇妙 AX N 状況 AX FN MD だろう PU
            [143_fiction_DICK-1952@1]
    (5.27)

    「 ああ 、 なんと 彼 を 愛し て おら れ た こと か 」 。

    __CP-EXL PUL IP-SUB NP-SBJ *pro* INTJ ああ PU ADVP WADV なんと PP-OB1 NP;{LAZARUS} PRO P-ROLE VB 愛し P-CONN VB2 おら VB2 AXD FN こと AX * P-FINAL PUR PU
            [988_bible_nt@1]

    ただし,感嘆符がついていても,その発話が名詞句のみから構成されている文は,CP-EXL とラベル付けはしない。

    (5.28)

    「 うわぁ 、 おいし そう な ケーキ ! 」

    IP-MAT PUL NP-SBJ *pro* INTJ うわぁ PU __NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJI おいし AX そう AX N ケーキ AX * PU PUR
            [1089_textbook_particles@10]
    (5.29)

    こんな に うれしい こと が ある なんて !

    __CP-EXL ___FRAG ___CP-THT IP-SUB PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN こんな AX ADJI うれしい N こと P-ROLE VB ある ___P-OPTR なんて PU
            [3_misc_EXAMPLE2@1,2,3,23]

    5.2.3   命令節(CP-IMP)

    命令文は CP-IMP とラベル付けされる。 命令形やテ形の動詞を主たる述語として伴うCP-IMP は IP-SUBを直接支配する一方で, 他の CP-IMP は FRAG を支配することもある。 現在のところ,述語が次のような形をとるものを命令文として扱っている。

    (5.30)

    「 こっち に 来い よ 。 」

    __CP-IMP PUL ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP NP PRO こっち P-ROLE ___VB 来い P-FINAL PU PUR
            [314_fiction_DICK-1952@1,4,13]
    (5.31)

    これ に お名前 を ご記入 の 上 ご提出 ください

    __CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP-ADV PP IP-ADV PP NP PRO これ P-ROLE PP-OB1 NP N お名前 P-ROLE VB ご記入 P-ROLE N VB ご提出 ___VB2 ください
            [19_misc_EXAMPLE2@1,2,28]
    (5.32)

    投票箱 閉鎖 。

    __CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP-OB1 N 投票箱 ___VB 閉鎖 PU
            [14_diet_kaigiroku-10@1,2,8]
    (5.33)

    取り替え て ください 。

    __CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* VB 取り替え ___P-CONN ___VB2 ください PU
            [251_textbook_purple_intermediate@1,2,7,9]
    (5.34)

    「 見 て !

    __CP-IMP PUL ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP-OB1 *pro* ___VB ___P-CONN PU
            [54_fiction_DICK-1952@1,4,9,11]
    (5.35)

    こら 、 笑う な 。

    __CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* INTJ こら PU ___VB 笑う ___NEG PU
            [282_textbook_purple_intermediate@1,2,9,11]
    (5.36)

    / 福 が いっぱい あり ます ように !

    __CP-IMP PU ___IP-SUB PP-SBJ NP N P-ROLE NP;*SBJ* Q いっぱい VB あり AX ます ___P-FINAL ように PU
            [37_news_KAHOKU_105@1,4,18]
    (5.37)

    さっさと 行っ た 。

    __CP-IMP ___IP-SUB NP-SBJ *hearer* ADVP ADV さっさと ___VB 行っ ___AX PU
            [532_textbook_kisonihongo@1,2,8,10]
    (5.38)

    ( 戒名 と 道号 について は 「 戒名 」 の 項目 を 参照 の こと 。 )

    __CP-IMP ___FRAG PUL ___NP PP IP-NMZ PP NP CONJP NP N 戒名 P-CONN NP N 道号 P-ROLE について P-OPTR PP-OB1 NP PP NP PUL N 戒名 PUR P-ROLE N 項目 P-ROLE VB 参照 ___P-ROLE ___N こと PU PUR
            [11_wikipedia_KYOTO_5@1,2,5,41,43]

        命令文の主語は,それが表現されていない場合でも必ずアノテーションされる。 主語が明示されていない例では,空要素 (NP-SBJ *hearer*) を加える。

    (5.39)

    「 助け て !

    __CP-IMP PUL IP-SUB ___NP-SBJ;{GREGOR} *hearer* NP-OB1;{MOTHER} *speaker* VB 助け P-CONN PU
            [406_aozora_Harada-1960@1,5]

        聞き手を示す名詞句が格助詞(P-ROLE)またはとりたて助詞(P-OPTR)を伴って現れている場合,それは主語を示しているものと解釈し,その句に -SBJ の拡張タグを付ける。

    (5.40)

    君 が 行っ て くれ 。

    __CP-IMP IP-SUB ___PP-SBJ NP PRO ___P-ROLE VB 行っ P-CONN VB2 くれ PU
            [293_textbook_purple_intermediate@1,3,7]
    (5.41)

    君 は ここ に い なさい 。

    __CP-IMP IP-SUB ___PP-SBJ NP;{HEARER_537} PRO ___P-OPTR PP NP;{CURRENT_PLACE_537} PRO ここ P-ROLE VB VB2 なさい PU
            [537_textbook_kisonihongo@1,3,7]

        聞き手を示す名詞句が助詞なしで現れている場合,通常は,呼格の名詞句 NP-VOC としてラベル付けし,空要素との関連付けを次のような方法で行う: (i) NP-VOC にソート情報を加える。 (ii) 代替要素の直後に空要素 (NP-SBJ *hearer*) を置き,NP-VOC と共通のソート情報を付け加える。 これら3つのノードがこの順番で並んで現れることが肝要であり,空要素を節の先頭に置くという方針( 1.5.6 節)に従う必要はない。 呼格の名詞句については, 3.2.1.2 節も参照。

    (5.42)

    田中君 、 取引先 に 資料 を 送り なさい 。

    __CP-IMP IP-SUB ___NP-VOC;{TANAKA} NPR 田中君 ___NP-SBJ;{TANAKA} *hearer* PU PP-OB2 NP N 取引先 P-ROLE PP-OB1 NP N 資料 P-ROLE VB 送り VB2 なさい PU
            [312_textbook_purple_intermediate@1,3,6]

    なお,命令の受け手を示す名詞句が助詞なしで現れているが,呼格の名詞句と解釈できない場合がある。 このような場合には,名詞句を  NP-SBJ としてラベル付けするものとする。

    (5.43)

    ◎ 前向き な 姿勢 、 政府 示せ

    __CP-IMP IP-SUB SYM NP-OB1 IP-REL NP-SBJ *T* NP-OB1;{ATTRACTION} *pro* ADJN 前向き AX N 姿勢 PU ___NP-SBJ N 政府 VB 示せ
            [67_news_KAHOKU_89@1,19]

    5.2.4   終助詞節(CP-FINAL)

    終助詞(P-FINAL)を伴う文が,疑問,命令,感嘆という特定の発話行為の表現と分類されないような場合, それらは終助詞節(CP-FINAL)とラベル付けされる。 終助詞はそれに先行する準主節(IP-SUB)の姉妹として,終助詞節の直下に置かれる。 以下は,終助詞「よ」を含む終助詞節の例である(加えて, 2.8 節の用例も参照)。

    (5.44)

    私たち は 船 を 着陸 さ せ なけれ ば なら ない の だ よ 。 」

    __CP-FINAL ___IP-SUB PP-SBJ NP PRO 私たち P-OPTR PP-CZZ NP N P-ROLE VB 着陸 VB0 VB2 NEG なけれ P-CONN VB2 なら NEG ない FN AX ___P-FINAL PU PUR
            [106_fiction_DICK-1952@1,2,33]

        次の例のように,節(IP)を構成しない断片(FRAG)に終助詞が続くこともある。

    (5.45)

    行き たい ん だ けど なー 。

    __CP-FINAL ___FRAG PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* VB 行き AX たい FN AX P-CONN けど ___P-FINAL なー PU
            [89_spoken_JM9@1,2,17]

        先行する節(IP)のある構成素が,終助詞(P-FINAL)の後のところにまで後置された場合,それはその終助詞の姉妹位置に置かれる。 このような例は不連続構造の構文としての扱いを受ける。 不連続構造については,1.4 節を参照のこと。

    (5.46)

    「 文字 だ よ 、 確か に 。 」

    __CP-FINAL PUL ___IP-SUB NP-SBJ *pro* ADVP *ICH*-1 NP-PRD N 文字 AX ___P-FINAL PU ADVP-1 ADJN 確か AX PU PUR
            [321_fiction_DICK-1952@1,4,14]

        また,終助詞がない場合でも,構成素の節外への転置を適切にアノテーションするための方策として, CP-FINAL(あるいは別の種類の CP)が投射され, 節と後置される要素とが,そのCP の下に置かれる。

    (5.47)

    世界 を 動かし ます それ !

    __CP-FINAL ___IP-SUB NP-SBJ *ICH*-1 PP-OB1 NP N 世界 P-ROLE VB 動かし AX ます ___NP-1 PRO それ PU
            [91_ted_talk_7@1,2,15]

    5.2.5   IP節とCP節

    CP節は,IP節を補部として取ることが多い。 別の言い方をすれば,IP節の上に,さらにCP投射が設けられることが少なからずある。 IP投射は,述語がある限り必ず存在するが,CP投射はそうではない。 CPが投射されるのは,

    の場合だけである。これら以外の場合,CPが投射されることは決してない。

        CP投射に支配されるIPは,IP-SUB(準主節)のみである( 5.1.1)。

    5.2.6   CP節と述語

    CP節が,他の節に項,または付加的な節のいずれかとして埋め込まれていることがある。 どちらの場合であっても,-OB1,-ADV,-CMPLなどの,主節における役割を表現するような拡張タグを, CP節のスタックの一番外側につけなければならない ( 1.6.3 節)。 内側には逆につけてはならない。

    (5.48)

    「 大丈夫 ? 先生 ! 」 と 驚い た 声 で 僕ら は 聞い た 。

    IP-MAT __CP-THT-OB1 CP-QUE PUL IP-SUB NP-SBJ;{TEACHER} *pro* ADJN 大丈夫 AX * PU NP-VOC;{TEACHER} N 先生 PU PUR P-COMP PP NP IP-EMB2 VB 驚い AX N P-ROLE PP-SBJ NP;{STUDENTS} PRO 僕ら P-OPTR NP-OB2;{TEACHER} *pro* VB 聞い AXD PU
            [6_misc_discourse_1@2]

    5.2.7   CP節とコントロール・ATB

    CP投射自体は,後で述べる コントロール環境( 5.3 節), 及びATB(Across the Boad Extraction; 5.4 節) の認可に,直接的には関与はしない。 ただし,CP投射がよく取る準主節(IP-SUB)は,これらを必ず阻害する。


    5.3   コントロール環境としての従属節

        拡張タグ SCON または SCON-CND を伴う副詞的な従属節(IP-ADV), 小節(IP-SMC), 空所なし名詞修飾節(IP-EMB)あるいは名詞化節(IP-NMZ)において, 主語のゼロ代名詞が何に言及しているかが, 先行詞(antecedent)であるすぐ上位の節の項によって決まることがある。 このような状況における先行詞とゼロ主語代名詞の関係を,言語学では,コントロール(control)と呼ぶ。 このうち,ゼロ主語代名詞は普通(big)PRO と呼ばれるが, これは本コーパスでは明示的な代名詞のラベルと衝突するため, 以降,これを「(コントロールの)受け手」(controllee)と呼ぶことにする。

        インデクス付けを可能な限り避けるという, 本アノテーション体系の,大枠における目標 (例えば 1.5 節における空要素のアノテーションを参照)に従い, 下位の節の中の(big)PRO のアノテーション(*pro* を置くこと)は行わない。 したがって,コントロール関係はアノテーションでは明示されない。 それにもかかわらず,コントロールに関する情報は,アノテーション中の構造から得ることが出来る。 この節では,コントロール環境を作り出すアノテーションの統語的な配置(configurations)について述べる。 表5.2にどのタイプの節がコントロール環境を生じるかを示す。

    Table 5.2: コントロール環境の有無の一覧

    統語タグ & コントロール環境の有無
    IP-MAT(主節) & no
    IP-SUB(CPに埋め込まれる準主節)& no
    IP-REL(関係節) & no
    IP-ADV-CONJ(等位接続節)& no
    IP-ADV(2)-SCON(-CND)(従属節)& yes
    IP-EMB(空所なし名詞修飾節) & yes
    IP-NMZ(名詞化節)& yes
    IP-SMC(小節)& yes(義務的)

        表5.2にあるように, コントロール環境は関係節(IP-REL)および主節(IP-MAT)の層を挟んで成り立つことはない。 コントロール環境は IP-SUB の層( CP* が必ず直ぐ上に置かれる)の層を挟んで成り立つこともない。 ただし,CPが全てコントロール環境を阻害するわけでは必ずしもなく, 小節(IP-SMC)の層が, CP-THT の下に直接置かれていても,CPを跨いでコントロール環境が成り立つことに 注意が必要である。 また,副詞節(IP-ADVもしくはPP)の層については, 拡張タグ -SCON(-CND) を伴う場合にはコントロール環境が成り立ち,拡張タグ -CONJ では成り立たないことにも注意されたい。

        上位の節中のコントロール元(先行詞)として複数の可能性がある時, 照応関係はアクセス可能性の階層により決定される。 この階層は先行詞の文法役割に基づいており,アクセス可能性の高い順から並べると,以下のようになる。

    (5.49)
    OB2 > OB1 > SBJ2 > SBJ

        以上のコントロールのアクセス階層の例外として,先行詞として主語のみを取りうるようなコントロール節がある。 アクセス階層を無視して,特定の意味役割ものを先行詞としたい場合,節のラベルを IP-ADV2 とする。 ひとつの例として,接続詞「ながら」が後続する節が挙げられる。

        より一般的に,全てのコントロール環境(上記の表 5.3.5 参照)において, タグに「2」をつける(IP-EMB2, IP-SMC2, IP-NMZ2)ことで上位の節の主語によるコントロールを保証することが可能である。

        殆どのコントロール環境においては,主語の役割以外の先行詞は,コントロールの受け手に対して先行することが条件である。 一方で,主語先行詞の場合,副詞節 (IP-ADV-SCON(-CND)) に後続しても先行詞となりうる。 また,小節(IP-SMC),「2」節に関しては,先行するという条件はどの役割の先行詞にも課されない。

        以下,コントロールを容認する節の配置パターンを,コントロール関係と共に示す。

    5.3.1   副詞節(IP-ADV-SCON(-CND))へのコントロール

    本節では SCON または SCON-CND によって曖昧性解消を受ける IP-ADV について述べる。 IP-ADVが助詞句 PP の補部で,その PP が SCON や SCON-CND の拡張タグを持つものも該当する。 IP-ADV が SCON / SCON-CND ではなく CONJ の拡張タグを持つ場合, 上位の先行詞と(従属節中の)空要素との間の照応はコントロールとは異なる関係でなされるものと考える。 この環境については,5.4 節を参照されたい。

        IP-ADV内に SBJ が現れない場合, コントロールの受け手に対するすぐ上位の節からのコントロール継承は, 上位の節に項が存在し,アクセス可能であれば, OB2,OB1,SBJ2, SBJ の順で行われる。 ただし,SBJ は語順に関わらず常にコントロールされる側からアクセス可能なのに対し, 他の項については IP-ADV に先行するもののみがアクセス可能であると考える。

    5.3.1.1   IP-ADV-SCON(-CND) へのコントローラーとしてのOB2

    以下は -OB2 がコントロールを行っている場合を図示したものである。

    Figure 5.1: OB2 as controller

    次は,OB2 が(PP-SCONの中の)IP-ADVへのコントロールを行う例である。

    (5.50)

    ランドセル は 孫 に , 小学校 に 上がっ た ので あげ まし た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_21} *speaker* PP-OB1 NP N ランドセル P-OPTR ___PP-OB2 NP N P-ROLE PU ___PP-SCON __IP-ADV PP NP N 小学校 P-ROLE VB 上がっ AXD P-CONN ので VB あげ AX まし AXD PU
            [21_misc_EXAMPLE@19,10,18]

    5.3.1.2   IP-ADV-SCON(-CND) へのコントローラーとしてのOB1

    以下は OB1 がコントロールを行っている場合を図示したものである。

    Figure 5.2: OB1 as controller

    次は,OB1 がコントロールを行う例である。

    (5.51)

    その お菓子 は , まずかっ た ので 弟 に やっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_20} *speaker* ___PP-OB1 NP;{SWEET_20} D その N お菓子 P-OPTR PU ___PP-SCON __IP-ADV ADJI まずかっ AXD P-CONN ので PP-OB2 NP N P-ROLE VB やっ AXD PU
            [20_misc_EXAMPLE@15,14,4]
    (5.52)

    ビール は よく 冷え て い て も 飲み たく ない 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_26} *speaker* ___PP-OB1 NP N ビール P-OPTR ___PP-SCON-CND __IP-ADV ADVP ADJI よく VB 冷え P-CONN VB2 P-CONN P-OPTR VB 飲み AX たく NEG ない PU
            [26_misc_EXAMPLE@11,10,4]

    5.3.1.3   IP-ADV-SCON(-CND) へのコントローラーとしてのSBJ

    以下は SBJ がコントロールを行っている場合を図示したものである。

    Figure 5.3: SBJ as controller into IP-ADV-SCON(-CND)

    Figure 5.4: SBJ as controller into IP-ADV under PP-SCON(-CND)

    SBJ がコントロールを行っている例を以下に示す。

    (5.53)

    寂しかっ た ので 私 は 友人 を 呼ん だ 。

    IP-MAT ___PP-SCON __IP-ADV ADJI 寂しかっ AXD P-CONN ので ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_19} PRO P-OPTR PP-OB1 NP N 友人 P-ROLE VB 呼ん AXD PU
            [19_misc_EXAMPLE@3,2,10]
    (5.54)

    ギョッと し て 武士 は 足 を 早める 。

    IP-MAT __IP-ADV-SCON ADVP-CMPL ADV ギョッと VB P-CONN ___PP-SBJ NP;{KOSAKA_JINNAI} N 武士 P-OPTR PP-OB1 NP N P-ROLE VB 早める PU
            [57_aozora_Kunieda-1925@2,10]

    5.3.2   空所なし名詞修飾節(IP-EMB)へのコントロール

    (5.55)
    OB2 > OB1 > SBJ2 > SBJ

    IP-ADV におけるコントロール継承(5.3.1節を参照のこと)と同様, IP-EMB でも上位の節からのコントロール継承は, それらが存在する場合,OB2,OB1,SBJ2,SBJ の順で行われる。 IP-ADV の場合と同様に, 上位節中の IP-EMB に対する NP の位置がアクセス可能性を決める。 すなわち,主語が常にアクセス可能であることを除けば,コントロール元となる名詞句は IP-EMB よりも前に位置しなければならない。

    5.3.2.1   IP-EMBへのコントローラーとしてのOB2

    以下の図は,OB2 がコントロールを行う場合を示したものである。

    Figure 5.5: OB2 as controller into IP-EMB

    OB2 がコントロールを行う例を以下に示す:

    (5.56)

    手紙 は 太郎 に ここ へ 来 た とき に 渡し た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_24} *speaker* PP-OB1 NP N 手紙 P-OPTR ___PP-OB2 NP NPR 太郎 P-ROLE PP-TMP NP __IP-EMB PP NP;{SPEAKER_CURRENT_POS_24} PRO ここ P-ROLE VB AXD N とき P-ROLE VB 渡し AXD PU
            [24_misc_EXAMPLE@18,10]

    5.3.2.2   IP-EMBへのコントローラーとしてのOB1

    以下の図は,OB1 がコントロールを行う場合を示したものである。

    Figure 5.6: OB1 as controller into IP-EMB

    OB1 がコントロールを行う例を以下に示す:

    (5.57)

    二郎 は たこ焼 を 熱い うち に 太郎 に 渡し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 二郎 P-OPTR ___PP-OB1 NP N たこ焼 P-ROLE PP NP __IP-EMB ADJI 熱い N うち P-ROLE PP-OB2 NP NPR 太郎 P-ROLE VB 渡し AXD PU
            [23_misc_EXAMPLE@16,8]

    5.3.2.3   IP-EMBへのコントローラーとしてのSBJ

    以下の図は,SBJ がコントロールを行う場合を示したものである。

    Figure 5.7: SBJ as controller into IP-EMB

    Figure 5.8: SBJ as controller into IP-EMB

        上位節の主語が外の NP を通してその主要部の名詞を修飾する IP-EMB の中へとコントロールするためには, その NP の中に主要部の N と IP-EMB 以外に何も入っていないことが条件である。

        SBJ がコントロールを行う例を以下に示す。

    (5.58)

    試験 を 受ける 前 に 、 トイレ に 行っ た 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* PP NP __IP-EMB PP-OB1 NP N 試験 P-ROLE VB 受ける N P-ROLE PU PP NP N トイレ P-ROLE VB 行っ AXD PU
            [1111_textbook_kisonihongo@6,2]
    (5.59)

    小さかっ た ころ 私 は 犬 を 怖がっ て い た 。

    IP-MAT NP-TMP __IP-EMB ADJI 小さかっ AXD N ころ ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_22} PRO P-OPTR PP-OB1 NP N P-ROLE VB 怖がっ P-CONN VB2 AXD PU
            [22_misc_EXAMPLE@3,10]

    5.3.3   名詞化節(IP-NMZ)へのコントロール

        OB2 > OB1 > SBJ2 > SBJ

        IP-ADV-SCON(-CND) とIP-EMB におけるコントロール継承と同様, IP-NMZ でも上位の節からのコントロール継承は, それらが存在する場合,OB2,OB1,SBJ2,SBJ の順で行われる。 IP-ADV, IP-EMB の場合と同様に,上位節中の IP-EMB に対する NP の位置がアクセス可能性を決める。 すなわち,主語が常にアクセス可能であることを除けば,コントロール元となる名詞句は IP-EMB よりも前に位置しなければならない。

        SBJ がコントロールを行う例を以下に示す。

    (5.60)

    彼 の 子孫 は それ を 所有 する に いたる であろう 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP PP NP;{CALEB} PRO P-ROLE N 子孫 P-OPTR PP __IP-NMZ PP-OB1 NP;{LAND_THAT_CALEB_EXPLORED} PRO それ P-ROLE VB 所有 VB0 する P-ROLE VB いたる MD であろう PU
            [502_bible_ot@15,2]
    (5.61)

    辺 の 部分 に フラップ を 作る に は 、 円 の 2分の1 が 必要 です

    IP-MAT ___NP-SBJ *arb* PP __IP-NMZ PP NP PP NP N P-ROLE N 部分 P-ROLE PP-OB1 NP N フラップ P-ROLE VB 作る P-ROLE P-OPTR PU PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE NUMCLP NUM 2分の1 P-ROLE ADJN 必要 AX です
            [105_ted_talk_1@5,2]

    なお,現状では主語以外の項がコントロール元となる例は見つかっていない。

    5.3.4   小節(IP-SMC)へのコントロール

    IP-SMC は主語を持つ節としてアノテーションされることはなく, 従って,義務的にコントロール環境がそこで生じる。 IP-SMC は典型的には,それを直接埋め込む節の述語の補部を形作り,上位の節の中のすべての種類の項によりコントロールを受けることが出来る。 コントロール元となる優先順位は,OB2,OB1,SBJ となる。 その際,これらの名詞句の位置は、IP-ADV-SCON(-CND),IP-EMB,IP-NMZの場合とは異なり,無関係である。

    5.3.4.1   IP-SMCへのコントローラとしてのOB2

    次の2つの図は,OB2 がコントロールを行っている場合を示している。 埋め込む節の中のOB2の項が束縛を行う結果として,IP-SMC 中の SBJ が束縛されている。

    Figure 5.9: OB2 controller into IP-SMC

    Figure 5.10: OB2 controller into IP-SMC

    5.3.4.2   IP-SMCへのコントローラとしてのOB1

    次の図は,OB1 がコントロールを行っている場合である。

    Figure 5.11: OB1 controller into IP-SMC

    Figure 5.12: OB1 controller into IP-SMC

    OB1 がコントロールを行っている例を以下に示す。

    (5.62)

    私 は 弟 に 買い物 に 行っ て もらっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SPEAKER_16} PRO P-OPTR PP-DOB1 NP N P-ROLE __IP-SMC-OB1 PP-PRP NP N 買い物 P-ROLE VB 行っ P-CONN VB もらっ AXD PU
            [16_misc_EXAMPLE@14]
    (5.63)

    わたくし の 考え を 述べ させ て いただき ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-DOB1 *hearer* __IP-SMC-OB1 NP-CZZ *speaker* PP-OB1 NP PP NP;{SPEAKER_1292} PRO わたくし P-ROLE N 考え P-ROLE VB 述べ VB2 させ P-CONN VB いただき AX ます PU
            [1292_textbook_kisonihongo@6]

    5.3.4.3   IP-SMCへのコントローラとしてのSBJ

    次の図は,SBJ がコントロールを行っている場合である。

    Figure 5.13: SBJ controller intro IP-SMC

    SBJ がコントロールを行っている例を以下に示す。

    (5.64)

    死に たく 思う 。

    IP-MAT ___NP-SBJ;{DAZAI} *speaker* __IP-SMC-OB1 VB 死に AX たく VB 思う PU
            [96_aozora_Dazai-1-1940@4,2]

    5.3.5   IP-*2 へのコントローラーとしてのSBJ

    「2」と標示されたIP(すなわち,IP-ADV2-SCON(-CND),IP-EMB2,IP-NMZ2,IP-SMC2)は、 IP-SMCと同様に、義務的なコントロール環境をもたらす。 IP-SMCと異なるのは,コントロール元だけでなく,先行詞もまた主語(SBJまたはSBJ2)でなければならない,という点である。 先行詞の位置は問われない。

        以下は SBJ が IP-ADV2-SCON の内部に対してコントロールを行っている例である。

    (5.65)

    絵本 を 買っ た 子供 が 、 それ を おやつ を 食べ ながら 読ん で い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL ___NP-SBJ *T* PP-OB1 NP;{PICTBOOK} N 絵本 P-ROLE VB 買っ AXD N 子供 P-ROLE PU PP-OB1 NP;{PICTBOOK} PRO それ P-ROLE __IP-ADV2-SCON PP-OB1 NP N おやつ P-ROLE VB 食べ P-CONN ながら VB 読ん P-CONN VB2 AXD PU
            [22_misc_EXAMPLE2@29,5]

    5.3.6   空要素によるコントロールの防止

    当該の環境の上位節の項によるコントロール(これは,埋め込みIP節の種類とアクセス可能性の階層によって一意に定まる)が望まれない場合, NP-SBJ として *pro**speaker**hearer**arb*1.5節を参照のこと) の適切な空要素を付加して, コントロール継承を妨げなければならない。 これは、コントロール継承が,条件さえ満たせば(他に指定がない限り)自ずと出現するという性質によるものである。

        以下の例では,IP-EMB 内部に *arb* が付加され, その*arb*が,埋め込み節の主語が主節の SBJ により束縛されることを妨げている。

    (5.66)

    私 の 趣味 は 料理 を する こと です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP;{SPEAKER_29} PRO P-ROLE N 趣味 P-OPTR NP-PRD __IP-EMB ___NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP N 料理 P-ROLE VB する N こと AX です PU
            [29_misc_EXAMPLE@15,16]

        天候を表す述語のように,コントロール継承も ATB による束縛 ( 5.4節)も不適切な場合がある。 このような場合,人手で *exp* とアノテーションすることによって,コントロール関係を防止することが出来る。 次に示すのは,述語「寒くなる」を伴う例である。

    (5.67)

    春子 は 寒く なる と 学校 に 来 なく なる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 春子 P-OPTR PP-SCON-CND IP-ADV __NP-SBJ *exp* IP-SMC-OB1 ADJI 寒く VB なる P-CONN IP-SMC-OB1 PP NP N 学校 P-ROLE VB NEG なく VB なる PU
            [12_misc_TOPTEN@10]

        上位の項とコントロール環境中の空要素との間に同一指示関係があっても, (i) 正しい先行詞がコントロール元からアクセスできない, (ii) 空要素が主語でない(そもそもコントロールの対象外であるのだが),あるいは (iii) (i)と(ii)の両方があてはまる, のいずれかの理由でコントロール関係が適切でない場合,ゼロ代名詞 (NP-SBJ *pro*) を付加し,さらに, ゼロ代名詞と先行詞の両方に共通のソート情報を与えることで同一指示関係を確保することができる。

    (5.68)

    ダウンロード し て 印刷 すれ ば 、 学校 や 家庭 で 手軽 に 取り組める 。

    IP-MAT __NP-SBJ *pro* IP-ADV-SCON-CND ___NP-OB1;{FILE} *pro* IP-ADV-CONJ VB ダウンロード VB0 P-CONN VB 印刷 VB0 すれ P-CONN PU NP-OB1;{FILE} *pro* PP NP CONJP NP N 学校 P-CONN NP N 家庭 P-ROLE ADVP ADJN 手軽 AX VB 取り組める PU
            [55_news_KAHOKU_97@2,5]

    5.4   節の等位接続とATB抽出

    5.1.5.1 節および 5.1.5.2 節で既に述べられているように, ATB抽出の環境は, IP-ADV-CONJ(もしくは,PP-CONJに支配されているIP-ADV)でのみ起こる。 このような等位接続構造では2つめのIP-ADV から最後の IP-ADV までがそれらに先行する構成素を継承することになる。 以下 5.4.1 節では節が2つ並ぶ場合をとりあげ、 5.4.2 節では3つ以上の節が並んだ場合をとりあげる。

    5.4.1   2つの節が並ぶ場合

    ATB 環境ではコントロール環境と同様にゼロ代名詞のアノテーションは行わない。 コントロール環境と異なる点として,上述のように,ATB 環境では IP-ADV に先行する構成素の継承が IP-ADV の主語に限定されないということに注意されたい。 また,この継承は構成素の文法役割を変えることなく行われるという点でもコントロールとは異なっている。

        以下の例では等位接続の関係にある両方の節が各々充足しており, いかなる束縛も IP-ADV 中に入り込まない:

    (5.69)

    また 一方 で 、 地元マスメディア も 地元 の 人材活用 を する よう に なっ て 、 バンド ・ タレント ・ 芸能人 ・ モデル など の ローカルタレント が 増加 し て 、 隣県 の メディア に 進出 する 者 も 表れ た 。

    IP-MAT CONJ また PP NP N 一方 P-ROLE PU IP-ADV-CONJ __IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP N 地元マスメディア P-OPTR PP NP IP-EMB PP-OB1 NP PP NP N 地元 P-ROLE N 人材活用 P-ROLE VB する N よう P-ROLE VB なっ P-CONN PU PP-SBJ NP PP NP CONJP NP N バンド PU CONJP NP N タレント PU CONJP NP N 芸能人 PU NP N モデル P-OPTR など P-ROLE N ローカルタレント P-ROLE VB 増加 VB0 P-CONN PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP PP NP N 隣県 P-ROLE N メディア P-ROLE VB 進出 VB0 する N P-OPTR VB 表れ AXD PU
            [263_wikipedia_Sendai_City@13]

    Figure 5.14: Saturated conjuncts

        IP-ADV 中に NP-SBJ の束縛のみが入り込む例:

    (5.70)

    それ は 1万5千 円 の もの です が , 今 は バーゲン で 1万 円 です 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{COMMODITY_7} PRO それ P-OPTR PP-CONJ __IP-ADV NP-PRD ___IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM 1万5千 CL AX N もの AX です P-CONN PU PP-TMP NP N P-OPTR IP-ADV-SCON NP-PRD N バーゲン AX NP-PRD NUMCLP NUM 1万 CL AX です PU
            [8_misc_EXAMPLE@9,11]

    Figure 5.15: SBJ into conjunction

        次の例では上記の例と同様に NP-SBJ の束縛がある。 しかし,OB1 はそれぞれの節で別々に明示されている。 また,SBJ と並んで付加詞「昨日は」も IP-ADV に継承されている。

    (5.71)

    昨日 は 刺身 を 食べ て , お腹 を 壊し て しまい まし た 。

    IP-MAT ___NP-SBJ;{SPEAKER_13} *speaker* PP-TMP NP N 昨日 P-OPTR __IP-ADV-CONJ ___PP-OB1 NP N 刺身 P-ROLE VB 食べ P-CONN PU ___PP-OB1 NP N お腹 P-ROLE VB 壊し P-CONN VB2 しまい AX まし AXD PU
            [13_misc_EXAMPLE@10,2,11,23]

        IP-ADV 中に NP-SBJ と NP-OB1 の束縛が入り込む例:

    (5.72)

    晩ごはん を 作っ て , 食べ ます 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* ___PP-OB1 NP N 晩ごはん P-ROLE __IP-ADV-CONJ VB 作っ P-CONN PU VB 食べ AX ます PU
            [11_misc_EXAMPLE@10,2,4]

    Figure 5.16: SBJ and OB1 into conjunction

        IP-ADV中に NP-SBJ,NP-OB1,NP-OB2 すべての束縛が入り込む例はコーパス内にまだ見つかっていない。 しかし,これを図示すると次のようになる。

    Figure 5.17: SBJ, OB1 and OB2 into conjunction

        もしも接続詞(CONJ)が明示的に存在する場合は,それは上位の節の構成素,言い換えれば IP レベルの語として扱われる。

    (5.73)

    私 は 長い 間 この 動き を 観察 し て そして 参加 し て き まし た

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR NP-MSR IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 長い N __IP-ADV-CONJ ___PP-OB1 NP D この N 動き P-ROLE VB 観察 VB0 P-CONN CONJ そして VB 参加 VB0 P-CONN VB2 AX まし AXD
            [15_ted_talk_5@16,17]

    5.4.2   3つ以上の節が並ぶ場合

    5.1.5.2 節にあるように, 等位接続の関係にある節が3つ以上ある場合には,すべての節が積み上げられているものとする。 つまり,節1が節2の下に,節2が(節1と共に)節3の下に置かれる。 積み上げられる節は,そのすぐ上位の節の(それが積み上げられた節の中の最後の節である場合を除いて)最も左側に置かれる。 以下の (5.74), (5.75),および以下の図を参照。

    (5.74)

    暗く て 、 たくましく て 、 ちょっと もの悲しい リアス式海岸 は 、 僕 にとって の 東北 の 原点 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ___IP-ADV-CONJ __IP-ADV-CONJ ADJI 暗く P-CONN PU ADJI たくましく P-CONN PU ADVP ADV ちょっと ADJI もの悲しい N リアス式海岸 P-OPTR PU NP-PRD PP NP PP NP PRO P-ROLE にとって P-ROLE NPR 東北 P-ROLE N 原点 AX * PU
            [36_news_KAHOKU_303@8,7]
    (5.75)

    僕 は 集め て 集め て 集め まくっ た 。

    IP-MAT NP-OB1;{STUFF_38} *pro* PP-SBJ NP PRO P-OPTR ___IP-ADV-CONJ __IP-ADV-CONJ VB 集め P-CONN VB 集め P-CONN VB 集め VB2 まくっ AXD PU
            [1_misc_EXAMPLE2@11,10]

    Figure 5.18: Stacked conjunction

        上図の積み上げ構造に従うアノテーションを解釈する際には, 以下のような派生されたCONJP構造( 3.5 を参照)が 基礎となると考えてよい。 このような(自動的な正規化プロセスにより得られる)派生構造は,  3.5節で見る, 非節的要素の並列に与えられる明示的なCONJP構造と本質的に同じである。

    Figure 5.19: Interpretation with IML





    Chapter 6
    様々な構文


    6.1   はじめに

    この節では,様々な構文のアノテーションについて説明する。


    6.2   二重主語文

    日本語には「二重主語文」と呼ばれる構文があり,頻繁に使用される。

    (6.1)

    神戸 は 夜景 が きれい だ 。

    IP-MAT __PP-SBJ NP;{KOBE} NPR 神戸 P-OPTR ___PP-SBJ2 NP N 夜景 P-ROLE ADJN きれい AX PU
            [762_textbook_kisonihongo@2,8]

    上の例文において,助詞「は」と「が」は両方とも,それぞれ NP に対し文法上の主語であるという表示を行っている。 2番目の主語(述語に近い方)は,他の要因からは独立して,述語に対して単純に主語の役割を果たしている。 最初の(左側の)主語は,2番目の主語や述語,あるいはこれら2つが形作る叙述(詳細は以下を参照のこと)との関係に依存する。 本アノテーションの枠組みでは,最初の主語は -SBJ と,2番目の「が」の付いた主語は -SBJ2 とラベル付けされる。 これらは両方ともコントロール元の項となることができる。

        関係節を除いた節の中で最初の主語は典型的には「は」「も」「なら」「だって」等のとりたて助詞によってマークされる。 この構文のもう1つの特徴は,適切な文脈さえ与えられれば最初の主語は「が」でも表示されうることである。 これは,関係節の中でも可能である。

    また,以下のように特別な焦点を伴う場合にも現れる。

        2つの主語および述語の間にどのような関係が成り立つかによって, この種の文は少くとも3つのタイプに分けられる ( Nihongo09 2009, pp. 186-189 を参照のこと)。 これらのタイプの区別はアノテーションには記されないが, それに関する知識は,この構文を認識するに際して有用である。

        最初のタイプは,「は」が表示する最初の主語が「が」の表示する2番目の主語を意味的に修飾するものである。 そのため,「A は B が C(だ)」の文は,ほぼ意味の変更を伴わず「A の B が C(だ)」と言い換えることが出来る。以下に例を挙げる。

    第二のタイプには述語名詞が現れ,最初の主語がこの述語名詞の項として解釈できる。 すなわち,「A は B が C だ。」は「B が A の C だ」と言い換えられる。 典型的には,C は A の重要または不可欠な側面を表す。 例を以下に示す。

    第三のタイプにおいては,2つの主語や述語の間に特定の関係が成り立たない。 最初の主語は,2番目の主語と述語が形作る叙述と関係する。 例えば,

    この文においては,「この匂い」は「ガス」や「漏れている」と修飾 - 被修飾や項 - 述語の関係にない。 「ガス」と「漏れている」とが構成する叙述に対し,総体的に関係づけられている。

        二重主語文は日本語に広く見られる。 関係節のトレースや,省略によるゼロ代名詞, あるいは上位の節からのコントロールという形で, 音形をもたない空要素が二重主語文の -SBJとして解釈されることがある。 下の例文で,IP-MAT の主語は話し手であるが, 同時に二重主語文である IP-ADV へのコントロールを行っている。

    (6.2)

    実家 が 塩釜 の 海産物屋 な ので 、 浜 の におい の 中 で 育っ た 。

    IP-MAT __NP-SBJ *speaker* PP-SCON ___IP-ADV ___PP-SBJ2 NP N 実家 P-ROLE NP-PRD PP NP NPR 塩釜 P-ROLE N 海産物屋 AX P-CONN ので PU PP NP PP NP PP NP N P-ROLE N におい P-ROLE N P-ROLE VB 育っ AXD PU
            [33_news_KAHOKU_303@2,6,5]

    この種の構文と「が」によって表示される第一目的語(NP-OB1)を持つ文との区別に注意する必要がある。 4.7 節で詳細に説明したように,「が」が NP-OB1 を表示する文において, NP-OB1 が表現されない場合,NP-SBJ は依然として述語の主語としての解釈が可能である。 これに対して大多数の二重主語文では,NP-SBJ を単純に述語の主語として解釈することはできない。 さらに,「が」表示の目的語を伴う述語は数が限られているのに対し,二重主語構文に関しては,NP-SBJ の関連性が見出される限りにおいて, 述語のタイプについての制限はほぼ存在しない。

        以下の例文は,-SBJ2 が主題化されて左方移動し,-SBJ が総記の焦点化を受けて出来たと考えることが可能である。

    このような例を二重主語文として扱うべきかどうかは,明らかでない。

        また,三重主語文や四重主語文も可能であることはよく知られている。 例えば,「日本は女性は平均寿命が長い。」 1つの節の中にいくつの主語が許されるかについて,今後調査する必要がある。 本コーパスでは, -SBJ と -SBJ2 以外に主語のための拡張タグを用いない。

        さらに,第一のタイプの二重主語文の定義は,他動詞「ある」(所有の「ある」)の構文にも当てはまる。 しかし,本アノテーションではこのような構文における「が」を伴う名詞句は NP-OB1 として扱われる。


    6.3   N-bar 削除

    稀ではあるが,主要部としての名詞が削除され,「の」が導く助詞句が一般化された個体を限定するような例がある。

    (6.3)

    すごい いい デザイン の が あっ て これ に 決め た !!

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* IP-ADV-SCON __PP-SBJ NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJI すごい ADJI いい N デザイン P-ROLE P-ROLE VB あっ P-CONN PP NP PRO これ P-ROLE VB 決め AXD PU !!
            [107_blog_KNB@7,2]

    この現象は「N-バー削除」と呼ばれる。この場合,主要部は空のままにし,明示的なアノテーションを行わない。


    6.4   右方節点繰上げ構文

    等位節では,すべての節に共通の述語が最後のものをのぞいて削除されていると見なすことのできる例がある。

    (6.4)

    右 から 開く と 防災マップ 、 左 から 開く と 高齢者見守り の マップ と なる よう に デザイン し た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{AAT} *pro* NP-OB1;{AAT_MAP} *pro* PP NP IP-EMB NP-SBJ;{AAT_MAP} *pro* __IP-ADV-CONJ PP-SCON-CND IP-ADV ___NP-SBJ *arb* NP-OB1;{AAT_MAP} *pro* PP NP N P-ROLE から VB 開く P-CONN ___NP-OB1 N 防災マップ PU PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *arb* NP-OB1;{AAT_MAP} *pro* PP NP N P-ROLE から VB 開く P-CONN IP-SMC-OB1 NP-PRD PP NP N 高齢者見守り P-ROLE N マップ AX VB なる N よう P-ROLE VB デザイン VB0 AXD PU
            [13_news_KAHOKU_33@11,14,28]

    これはいわゆる「右方節点繰上げ(Right-node raising)」と呼ばれる現象である。 このような例では,非終結節でない節の述語は空のまま,つまり明示的なアノテーションを行わないことに注意されたい。

    (6.5)

    最終的 に 舞台 の アンネ役 は スーザン・ストラスバーグ が 、 映画 の アンネ役 は ミリー・パーキンス が 演じ た 。

    IP-MAT ADVP ADJN 最終的 AX __IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP PP NP N 舞台 P-ROLE N アンネ役 P-OPTR ___PP-SBJ NP NPR スーザン・ストラスバーグ P-ROLE PU PP-OB1 NP PP NP N 映画 P-ROLE N アンネ役 P-OPTR PP-SBJ NP NPR ミリー・パーキンス P-ROLE VB 演じ AXD PU
            [129_wikipedia_Audrey_Hepburn@7,20]
    (6.6)

    太郎 は 小説 が 、 花子 は 詩 が 、 好き だ 。

    IP-MAT __IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP;{TARO_1230} NPR 太郎 P-OPTR ___PP-OB1 NP N 小説 P-ROLE PU PP-SBJ NP;{HANAKO_1230} NPR 花子 P-OPTR PP-OB1 NP N P-ROLE PU ADJN 好き AX PU
            [1230_textbook_kisonihongo@2,9]

    また,この構文において,最初の述部のない節は IP-ADV-CONJ とアノテートされることに注意されたい。

        以上の右方節点繰上げと同じような方法でアノテートされる構造が他にもある。 次の例の最初の節では,述語(「寄せられた」)だけでなく,名詞修飾節に付く助詞(「など・の」)と主要部名詞(回答)も削除されている。 等位節同士の並行性は,IP-ADV-CONJ が述語を欠くことに加え, その内部で主要部を欠いたカテゴリーが明示されることで表されている。

    (6.7)

    参加者 の アンケート に は 、 過去 に 経験 の ある 人 から 「 メンバー が 変わる と 答え も 変わっ た 」 、 初めて の 人 から 「 こんな に 多様 な 意見 が ある と は 思わ なかっ た 」 など の 回答 が 寄せ られ た 。

    IP-MAT PP NP PP NP N 参加者 P-ROLE N アンケート P-ROLE P-OPTR PU __IP-ADV-CONJ PP-LGS NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 過去 P-ROLE PP-OB1 NP N 経験 P-ROLE VB ある N P-ROLE から PP-SBJ NP PP IP-NMZ PUL PP-SCON-CND IP-ADV PP-SBJ NP N メンバー P-ROLE VB 変わる P-CONN PP-SBJ NP N 答え P-OPTR VB 変わっ AXD PUR PU PP-LGS NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-OB1 *pro* ADJN 初めて AX N P-ROLE から PP-SBJ NP PP IP-NMZ PUL NP-SBJ *pro* CP-THT-OB1 IP-SUB PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN こんな AX ADJN 多様 AX N 意見 P-ROLE VB ある P-COMP P-OPTR VB 思わ NEG なかっ AXD PUR P-OPTR など P-ROLE N 回答 P-ROLE VB 寄せ PASS られ AXD PU
            [15_news_KAHOKU_34@18]

    6.5   動詞なしの付帯状況構文

    述語を欠くという点で「右方節点繰上げ(Right-node raising)」に似ているが, 後続の叙述と並行的というよりは,それに対して副詞的に働くという点で異なる構文がある。 これを付帯状況構文と呼ぶ。 この構文は [A を B に] のような形をとっており, 右方節点繰上げ構文と異なって IP-ADV-SCON 下に置かれる。 これらはさらに異なる構造を持つ2つのタイプに分けられる。

        「に」を「として」で置き換え,文意が変わらない場合,「に」はコピュラ(AX)の連用形,[B に] は小節(IP-SMC-OB1)と分析される。

    (6.8)

    __インターネット を介して 音楽 や 映画 を 配信 できる よう に なっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP NP IP-EMB PP NP N __インターネット P-ROLE を介して PP-OB1 NP CONJP NP ___N 音楽 P-CONN ___NP N 映画 P-ROLE VB 配信 VB0 できる N よう P-ROLE VB なっ AXD PU
            [415_textbook_djg_advanced@10,17,21]
    (6.9)

    親鸞 は 、 ここ を 拠点 に 精力的 な 布教活動 を 行う 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NPR 親鸞 P-OPTR PU __IP-ADV-SCON PP-DOB1 NP PRO ここ P-ROLE ___IP-SMC-OB1 NP-PRD N 拠点 ___AX PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 精力的 AX N 布教活動 P-ROLE VB 行う PU
            [77_wikipedia_KYOTO_7@10,17,21]

        「に」を「として」で置き換えられない場合,「に」は格助詞,[B に] は助詞句(PP-OB2)と分析される。

    (6.10)

    オリンピック を 前 に 、 選手たち は 泳ぎ込ん だ .

    IP-MAT __IP-ADV-SCON PP-OB1 NP NPR オリンピック P-ROLE ___PP-OB2 NP N P-ROLE PU PP-SBJ NP N 選手たち P-OPTR VB 泳ぎ込ん AXD PU
            [569_dict_vv-lexicon@2,9]
    (6.11)

    地図 を 手 に 目的地 を 探し た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* __IP-ADV-SCON PP-OB1 NP N 地図 P-ROLE ___PP-OB2 NP N P-ROLE PP-OB1 NP N 目的地 P-ROLE VB 探し AXD PU
            [1166_textbook_kisonihongo@4,11]

    6.6   複数の文から成る引用

    IP-MAT, IP-IMP や CP レベルの節が連続して引用されたり,あるいは発話・思考内容を表す補部名詞句を表示する助詞「という」「といった」等が後接する場合,これらの節は multi-sentence の下に直接置かれる。 FRAG や INTJP が独立した複数の発話をなす場合も直接 multi-sentence の下に置かれる。

    (6.12)

    「 イライラ が 募る の か 。 明らか に 震災後 の 現象 だ 」 と 校長 は 対応 に 困惑 する 。

    IP-MAT CP-THT-OB1 ___multi-sentence PUL CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP N イライラ P-ROLE VB 募る FN P-FINAL PU __IP-MAT NP-SBJ *pro* ADVP ADJN 明らか AX NP-PRD PP NP N 震災後 P-ROLE N 現象 AX PUR P-COMP PP-SBJ NP N 校長 P-OPTR PP NP N 対応 P-ROLE VB 困惑 VB0 する PU
            [21_news_KAHOKU_37@22,3] ANNOTATION HAS CHANGED FOR: Kainoki_11_news_KAHOKU_87
    (6.13)

    私的日記 に とどまら ない 、 「 誰 か の ため に なる 」 「 役 に 立つ 」 「 琴線 に 触れる 」 よう な ブログ が 、 読み手 の 共感 を 得る 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 私的日記 P-ROLE VB とどまら NEG ない PU IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD IP-EMB CONJP IP-EMB PUL IP-SMC-OB1 NP-PRD PP NP WPRO P-OPTR P-ROLE N ため AX VB なる PUR CONJP IP-EMB PUL PP NP N P-ROLE VB 立つ PUR IP-EMB PUL PP NP N 琴線 P-ROLE VB 触れる PUR N よう AX N ブログ P-ROLE PU PP-OB1 NP PP NP N 読み手 P-ROLE N 共感 P-ROLE VB 得る PU
            [11_news_KAHOKU_87]

    CP-THT 下での IP-SUBなどとは異なり, multi-sentenceタグはそれ自体が統語的な島を作り出すわけではないことに注意されたい。 島の効果が生じるのはむしろ,発話レベルのカテゴリー(つまりIP-MAT, IP-IMP, FRAG, INTJP, CP-QUE, CP-EXL, CP-FINAL)のみを multi-sentenceの下に許しているからである。


    6.7   焦点を伴う擬似分裂文

    焦点を伴う擬似分裂文はコピュラ文と分析され, 典型的には名詞「の」がトレースを持つ IP-REL に修飾されて主語となる。 この主語は擬似分裂文の前提部分を形作る。 焦点部分はコピュラによる叙述が表し,それは典型的には NP-PRD によって構成される。

    (6.14)

    太郎 が 勉強 し て いる の は 日本史 だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __IP-REL NP-OB1 *T* PP-SBJ NP;{TARO_1062} NPR 太郎 P-ROLE VB 勉強 VB0 P-CONN VB2 いる N P-OPTR ___NP-PRD N 日本史 AX PU
            [1062_textbook_kisonihongo@4,25]

    焦点部分を PP-PRD が占めることもある。

    (6.15)

    「 わたしたち が 信じる の は 、 もう あなた が 話し て くれ た から で は ない 。

    IP-MAT PUL PP-SBJ NP IP-EMB NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP;{SAMARITANS} PRO わたしたち P-ROLE VB 信じる N P-OPTR PU ADVP ADV もう __PP-PRD IP-ADV NP-OB1 *pro* PP-SBJ NP;{WOMAN} PRO あなた P-ROLE VB 話し P-CONN VB2 くれ AXD P-CONN から AX P-OPTR NEG ない PU
            [284_bible_nt@26]

        一方で,IP-RELではなく IP-EMBをもつと分析される擬似分裂文も存在する。 焦点要素が前提部分の理由を表すケースが典型的である。 このようなケースは,IP-REL分析を仮定した場合トレースとして何を置くべきかが自明ではないため,IP-EMBが置かれている。

    (6.16)

    あなたがた が 信じ ない の は 、 わたし の 羊 で ない から で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __IP-EMB NP-OB1 *speaker* PP-SBJ NP PRO あなたがた P-ROLE VB 信じ NEG ない N P-OPTR PU PP-PRD IP-ADV NP-SBJ *hearer* NP-PRD;{SHEEP} PP NP;{JESUS} PRO わたし P-ROLE N AX NEG ない P-CONN から AX VB2 ある PU
            [900_bible_nt@4]

    また,等位接続された複数の擬似分裂文の場合,そのうちの一つでも IP-EMB分析が強いられるのであれば,残りの擬似分裂文も(IP-REL分析が可能であっても) IP-EMB分析がなされる。

    (6.17)

    二人 が 知り合っ た の は 友人 を介して で あり 、 ヘプバーン と ドッティ と の 結婚生活 が 終わり を 迎え よう と し て い た 時期 だっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP NUMCLP NUM 二人 P-ROLE VB 知り合っ AXD N P-OPTR IP-ADV-CONJ PP-PRD NP N 友人 P-ROLE を介して AX VB2 あり PU NP-PRD __IP-EMB PP-SBJ NP PP NP CONJP NP NPR ヘプバーン P-CONN NP NPR ドッティ P-CONN P-ROLE N 結婚生活 P-ROLE PP-OB1 NP N 終わり P-ROLE VB 迎え AX よう AX VB2 P-CONN VB2 AXD N 時期 AX だっ AXD PU
            [304_wikipedia_Audrey_Hepburn@34]

        焦点を伴う擬似分裂文と同じ形をしているが, 分裂文に特徴的な「質問/答え」のペアが想定できない文もある。 このような文を擬似分裂文から区別する特別なアノテーションは行わない。

    (6.18)

    津波 に 対抗 し て 堤防 を 高く する の は 、 技術力 に 依存 し た 20 世紀 型 の 発想 。

    IP-MAT PP-SBJ NP __IP-EMB NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ PP NP N 津波 P-ROLE VB 対抗 VB0 P-CONN PP-OB1 NP N 堤防 P-ROLE IP-SMC-CNT ADJI 高く VB する N P-OPTR PU NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 技術力 P-ROLE VB 依存 VB0 AXD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM 20 CL 世紀 N AX N 発想 AX * PU
            [97_news_KAHOKU_78@4]

    6.8   二重ヲ格構文

    助詞「を」を伴う助詞句(PP-OB1)に, さらに「を」を伴う他動詞的な動作名詞(VB)と VB0 が続くような「二重ヲ格構文」が, 例えば国会議事録のような改まった発話状況で稀に用いられることがある。 このような場合,2つめの「を」は IP に直接支配される構成素として扱うことにする:

    (6.19)

    ただいま 議題 と なり まし た 法律案 につきまして 、 経済産業委員会 における 審査 の 経過 と 結果 を 御報告 を 申し上げ ます 。

    ___IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP NP IP-REL NP-SBJ *T* IP-SMC-OB1 NP-TMP N ただいま NP-PRD N 議題 AX VB なり AX まし AXD N 法律案 P-ROLE につきまして PU PP-OB1 __NP PP NP PP NP N 経済産業委員会 P-ROLE における N 審査 P-ROLE NML CONJP NP N 経過 P-CONN NP N 結果 ___P-ROLE VB 御報告 P-ROLE VB0 申し上げ AX ます PU
            [145_diet_kaigiroku-17@31,1,54]
    (6.20)

    また 材料 も 厳選 さ れ た もの を 素材 に応じて あくぬき など を し ながら 、 味 を ひきだす 技術 が 要求 さ れる 。

    IP-MAT NP-LGS;{CRAFTSMAN} *pro* CONJ また PP-TPC NP N 材料 P-OPTR PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ;{CRAFTSMAN} *pro* ___IP-ADV-SCON __PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-LGS;{CRAFTSMAN} *pro* VB 厳選 VB0 PASS AXD N もの ___P-ROLE PP NP N 素材 P-ROLE に応じて VB あくぬき P-OPTR など P-ROLE VB0 P-CONN ながら PU PP-OB1 NP N P-ROLE VB ひきだす N 技術 P-ROLE VB 要求 VB0 PASS れる PU
            [57_wikipedia_KYOTO_16@18,17,35]

    6.9   直接受動文

    直接受動文は,-SBJ が主要な述語の被動者あるいは受領者(Patient/Recipient)の意味役割を果たし, 主体(Agent)の意味役割を果たす名詞句が(もしあれば), 格助詞「に」「から」「によって」等を伴う文である。 これは,元来 OB1 あるいは OB2 であったものが主語の位置に昇格し, SBJ であったものが斜格の位置に降格したものと考えることができる。 主体の意味役割を持つ NP あるいは PP は LGS(論理的主語)の拡張タグを与えられる。 受動を表す助動詞は PASS とラベル付けされる。

    (6.21)

    そう すれ ば お父さん から ぶた れ ない だろう 」

    IP-MAT NP-SBJ *hearer* IP-ADV-SCON-CND ADVP-CMPL ADV そう VB すれ P-CONN __PP-LGS NP N お父さん P-ROLE から VB ぶた ___PASS NEG ない MD だろう PUR
            [231_aozora_Yuki-1-2000@12,20]

    受動構文に基づいて二重主語構文を形成することが可能である。

    (6.22)

    ジョン は 論文 が 受理 さ れ た 。

    IP-MAT ___NP-LGS *pro* ___PP-SBJ NP NPR ジョン P-OPTR ___PP-SBJ2 NP N 論文 P-ROLE VB 受理 VB0 __PASS AXD PU
            [1209_misc_JSeM_beta_150530@20,2,4,10] ANNOTATION HAS CHANGED FOR: Kainoki_397_aozora_Doyle-1905
    (6.23)

    金庫 の 中身 は 、 大部分 が テーブル の 上 に 出さ れ て い た 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* PP-TPC NP;{SAFE_INSIDE} PP NP;{SAFE} N 金庫 P-ROLE N 中身 P-OPTR PU PP-SBJ NP PP NP;{SAFE_INSIDE} *pro* P-ROLE *の* Q 大部分 P-ROLE PP NP PP NP;{OLDACRE_HOUSE_BEDROOM_TABLE} N テーブル P-ROLE N P-ROLE VB 出さ PASS P-CONN VB2 AXD PU
            [397_aozora_Doyle-1905]

    6.9.1   受動文における目的語

    目的語を2つ取る他動詞の受動文においては,OB1 と OB2 のどちらも主語の位置に昇格が可能である。残りの目的語は文法役割を変えない。

    (6.24)

    二 第三者 に 提供 ___さ れる 個人データ の 項目

    FRAG NP LST NUMCLP NUM PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-LGS __*pro* PP-OB2 NP N 第三者 P-ROLE VB 提供 VB0 ___さ PASS れる N 個人データ P-ROLE N 項目
            [125_law_h15A119@13,23]

    このことから,OB1 と PASS が同一の IP に共起するのは, 主語が OB2 の位置から昇格した場合だけである。

    (6.25)

    難しい 時代 に 直面 する 今 、 私たち は 構想力 を 問わ れ て いる 。

    IP-MAT NP-LGS * NP-TMP IP-EMB NP-SBJ *pro* PP NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 難しい N 時代 P-ROLE VB 直面 VB0 する N PU PP-SBJ NP PRO 私たち P-OPTR __PP-OB1 NP N 構想力 P-ROLE VB 問わ ___PASS P-CONN VB2 いる PU
            [12_news_KAHOKU_706@33,41]

    論理的主語が OB2 と同じ節の中に現れる場合,通常は「に」以外の「から」「によって」「により」等の助詞による表示を受ける。

    (6.26)

    その 後 、 禅宗 の 最高峰 を 極め た 臨済宗 は 、 南宋時代 の 中国 に 渡り 学ん だ 栄西ら によって 、 鎌倉時代 に 日本 に 伝え られ て いる 。

    IP-MAT NP-TMP D その N PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP PP NP NPR 禅宗 P-ROLE N 最高峰 P-ROLE VB 極め AXD NPR 臨済宗 P-OPTR PU PP-LGS NP IP-REL NP-SBJ *T* IP-ADV-CONJ PP NP PP NP NPR 南宋時代 P-ROLE NPR 中国 P-ROLE VB 渡り VB 学ん AXD NPR 栄西ら ___P-ROLE によって PU PP-TMP NP NPR 鎌倉時代 P-ROLE __PP-OB2 NP NPR 日本 P-ROLE VB 伝え ___PASS られ P-CONN VB2 いる PU
            [13_wikipedia_KYOTO_2@72,62,80]

    6.10   使役文

    使役構文は,述語の項フレームに対する新しい項(使役者 causer)が付け加えられるという点で結合価を増加させる構文である。 使役構文において,主動詞(VB),主語以外の項,主動詞の意味上の主体(被使役者 causee)および統語上の主語(使役者 causer)は すべて姉妹関係に置かれる。 被使役者 (典型的には「に」または「を」を付加される) は -CZZ と拡張ラベル付けされる。 助動詞「(さ)せる」(VB2)は述語の直後に置かれる。

    (6.27)

    私 は 弟 に ケーキ を 食べ させ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SPEAKER_15} PRO P-OPTR __PP-CZZ NP N P-ROLE PP-OB1 NP N ケーキ P-ROLE VB 食べ ___VB2 させ AXD PU
            [15_misc_EXAMPLE@8,22]
    (6.28)

    「 どこ から パン を 買っ て き て 、 この 人々 に 食べ させ よう か 」 。

    CP-QUE PUL IP-SUB NP-SBJ *speaker* IP-ADV-CONJ PP NP WPRO どこ P-ROLE から PP-OB1 NP N パン P-ROLE VB 買っ P-CONN VB2 P-CONN PU __PP-CZZ NP D この N 人々 P-ROLE NP-OB1 *pro* VB 食べ ___VB2 させ AX よう P-FINAL PUR PU
            [398_bible_nt@30,42]

    6.11   使役受動文

    使役受動文における主語は,統語的には 使役を表す VB2「(さ)せ」と受動を表す PASS「られ」とが合わさった要素の主語でありながら,意味上は主動詞の主体でもある。 また,拡張タグ LGS を付加された項は VB2「(さ)せ」が述語とともに表す使役的事象の主体に当たる。

    (6.29)

    高津さん は その 事件 を 調べ させ られ た 。

    IP-MAT ___NP-LGS *pro* PP-SBJ NP;{TAKATSU_435} NPR 高津さん P-OPTR PP-OB1 NP;{CASE_425} D その N 事件 P-ROLE VB 調べ __VB2 させ ___PASS られ AXD PU
            [435_textbook_kisonihongo@20,22,2]
    (6.30)

    そこで 妹 は 母親 の 忠告 によって 自分 の 決心 を ひるがえさ せ られ たり し て は い なかっ た 。

    IP-MAT CONJ そこで PP-SBJ NP;{GRETE} N P-OPTR ___PP-LGS NP PP NP;{MOTHER} N 母親 P-ROLE N 忠告 P-ROLE によって PP-OB1 NP PP NP PRO 自分 P-ROLE N 決心 __P-ROLE VB ひるがえさ VB2 ___PASS られ P-CONN たり VB2 P-CONN P-OPTR VB2 NEG なかっ AXD PU
            [704_aozora_Harada-1960@32,38,10]

    6.12   間接受動文

    直接受動文(6.9 節を参照)と異なり,間接受動構文における助動詞「れる・られる」は PASS2 のラベルを与えられる。 間接受動構文は,影響を受ける者を表す -SBJ が項フレームに加えられる一方で,主動詞の論理的主語が LGS に降格して「に」によって示されるという点で,結合価を増加させる構文である。 この2つの項は主動詞(VB),受動を表す PASS2「れる・られる」や主動詞の他の項と姉妹関係に置かれ, SBJ と LGS 以外の項の文法役割は主動詞に対するものがそのまま引き継がれる。

    (6.31)

    太郎 が 花子 に 泣か れ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 太郎 P-ROLE ___PP-LGS NP;{PERSON} NPR 花子 P-ROLE VB 泣か __PASS2 AXD PU
            [1822_misc_JSeM_beta_150530@16,2,8]
    (6.32)

    太郎 は 先生 に 絵 を ほめ られ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{TARO_413} NPR 太郎 P-OPTR ___PP-LGS NP N 先生 P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB ほめ __PASS2 られ AXD PU
            [413_textbook_kisonihongo@22,2,8]

    6.13   テアル構文

    テアル構文は,意図的な行為の結果について動作主性を背景化して描写するために用いられる,状態的な構文である。

        テアル構文の分析は元の動詞が他動詞か自動詞かによって2つに分かれる。 前者では,元の他動詞の目的語がテアル構文でどのような助詞をとるかという観点からさらに2つに分かれる。 元の動詞の名詞句目的語が助詞「が」をとる場合(または,名詞修飾節において「の」をとる場合), その名詞句は主語(-SBJ)としてアノテーションされ, (P-CONN て) の後にノード (PASS *) が導入される。 また,CP-THTがテアル形の伝達動詞(例:「書いてある」)の項として用いられ、 同じ節に明示的な主語が無い場合も, そのような CP-THT は拡張タグ -SBJ を与えられ(6.18.2 節も参照), 同様に(PASS *)ノードが導入される。 このような場合,元の他動詞の主語は完全に抑制され, 元の目的語が主語に昇格していると分析されるわけだが, 他の名詞句の文法的役割(特に,OB2)はテアル構文においても変わることはない。

    (6.33)

    子供 が 笑っ て いる 写真 が 置い て あっ た 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* PP-SBJ NP IP-EMB PP-SBJ NP N 子供 P-ROLE VB 笑っ P-CONN VB2 いる N 写真 P-ROLE VB 置い __P-CONN ___PASS * ___VB2 あっ AXD PU
            [1218_textbook_kisonihongo@25,27,29]
    (6.34)

    それから 鼠花火 という の は 一 つ ずつ 輪 に なっ て い て 箱 に 詰め て ある 。

    IP-MAT CONJ それから PP-SBJ NP PP NP N 鼠花火 P-ROLE という N P-OPTR PP;*SBJ* NP NUMCLP NUM CL P-OPTR ずつ IP-ADV-CONJ IP-SMC-OB1 NP-PRD N AX VB なっ P-CONN VB2 P-CONN NP-LGS *pro* PP-OB2 NP N P-ROLE VB 詰め __P-CONN ___PASS * ___VB2 ある PU
            [30_aozora_Kajii-1925@50,52,54]

        テアル構文において,元の動詞の名詞目的語がそのまま助詞「を」をとる場合, あるいは助詞なしで現れる場合,あるいはとりたて助詞をとって現れる場合, これは OB1 として扱われる。 主語がないように見える場合は,虚辞を主語として (NP-SBJ *exp*) のように補う。 元の動詞に対して項の配置,格が変わらないので,(PASS *) を導入することはない。

    (6.35)

    丁度 便所 の 坑 の 傍 に 、 実 を むしり 残し た 向日葵 の 茎 を 二三 本 縛り寄せ た の を 、 一 本 の 棒 に 結び附け て ある 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *exp* ADVP ADV 丁度 ___PP-OB1 NP IP-EMB PP-OB1 NP PP NP IP-REL NP-SBJ *pro* PP NP PP NP PP NP N 便所 P-ROLE N P-ROLE N P-ROLE PU PP-OB1 NP PP NP *T* P-ROLE *の* N P-ROLE VB むしり VB2 残し AX N 向日葵 P-ROLE N P-ROLE NP;*OB1* NUMCLP NUM 二三 CL VB 縛り寄せ AXD N P-ROLE PU PP NP IP-REL;* NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM CL AX N P-ROLE VB 結び附け __P-CONN VB2 ある PU
            [127_aozora_Mori-1912@97,2,7]
    (6.36)

    この 生け花 は なかなか 見事 に 生け て ある 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *exp* ___PP-OB1 NP D この N 生け花 P-OPTR ADVP ADVP ADV なかなか ADJN 見事 AX VB 生け __P-CONN VB2 ある PU
            [199_textbook_djg_intermediate@22,2,4]

        このような扱いは関係節におけるトレースおよび空要素一般に対しても適用される。

    (6.37)

    それから 水 に 漬け て ある 豆 だとか 慈姑 だとか 。

    FRAG CONJ それから NP CONJP NP IP-REL ___NP-OB1 *T* ___NP-SBJ *exp* PP NP N P-ROLE VB 漬け __P-CONN VB2 ある N P-CONN だとか NP N 慈姑 P-CONN だとか PU
            [59_aozora_Kajii-1925@20,8,10]

        元の動詞が自動詞(あるいは複合動詞)の場合,主語は NP-SBJ とラベル付けされ, (PASS *) は導入されない。 自動詞からのテアル構文は,その自動詞が非対格動詞または受動化された動詞であるときに可能なようである。

    (6.38)

    台所 に 、 まだ 酒 が 残っ て 在る 筈 だ 。

    IP-MAT;{DAZAI_LIQUOR_REMAINING} PP NP N 台所 P-ROLE PU ADVP ADV まだ ___PP-SBJ NP;{DAZAI_LIQUOR_REMAINDER} N P-ROLE VB 残っ __P-CONN VB2 在る FN AX PU
            [131_aozora_Dazai-1-1940@21,13]
    (6.39)

    黄色く 薄濁り し た 液体 が 一ぱい つまっ て 在る 一升瓶 は

    PP-SBJ NP IP-REL NP-OB2 *T* PP-SBJ NP IP-REL ___NP-SBJ *T* ADVP ADJI 黄色く VB 薄濁り VB0 AX N 液体 P-ROLE NP;*SBJ* Q 一ぱい VB つまっ __P-CONN VB2 在る N 一升瓶 P-OPTR
            [2#68_aozora_Dazai-1-1940@29,9]

    黄色く薄濁りした液体が一ぱいつまって在る一升瓶は、どうにも不潔な、卑猥な感じさえして、恥ずかしく、眼ざわりでならぬのである。

    (6.40)

    汚れ た すじ が 四方 の 壁 に沿って 引か れ て ある し 、 そこかしこ に は ごみ と 汚れもの と の かたまり が 横たわっ て いる 始末 だ 。

    IP-MAT PP-CONJ IP-ADV PP-SBJ NP IP-REL ___NP-SBJ *T* VB 汚れ AX N すじ P-ROLE PP NP PP NP N 四方 P-ROLE N P-ROLE に沿って NP-LGS;{GRETE} *pro* VB 引か PASS __P-CONN VB2 ある P-CONN PU NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-EMB PP-LOC NP PRO そこかしこ P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP PP NP CONJP NP N ごみ P-CONN NP N 汚れもの P-CONN P-ROLE N かたまり P-ROLE VB 横たわっ P-CONN VB2 いる N 始末 AX PU
            [894_aozora_Harada-1960@35,7]

        節同士の等位接続は,テアル構文にも見られる。

    (6.41)

    瓦斯煖炉 が 焚い て 、 電燈 が 附け て ある 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP N 瓦斯煖炉 P-ROLE VB 焚い P-CONN PASS * PU ___PP-SBJ NP N 電燈 P-ROLE VB 附け __P-CONN ___PASS * VB2 ある PU
            [220_aozora_Mori-1912@25,27,17]

    6.14   テモラウ構文とテアゲル/クレル構文

    「てもらう」「てあげる」「てくれる」は,伝統的な日本語学では一括して論じられることが多いが,本アノテーションでは「てもらう」と「てあげる」「てくれる」とで異なる扱いがなされる。 「動詞-てもらう」の「もらう」は動詞 VB とされ,小節 IP-SMC(5.1.4 節を参照のこと)を埋め込む。「に」格名詞句による IP-SMC のコントロールについては,2.3.3 節を参照のこと。

    (6.42)

    私 は 父 に カメラ を 買っ て もらい まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-DOB1 NP N P-ROLE ___IP-SMC-OB1 PP-OB1 NP N カメラ P-ROLE VB 買っ ___P-CONN __VB もらい AX まし AXD PU
            [166_textbook_djg_basic@25,14,23]

    「もらう」の謙譲語である「いただく」も同じ分析を受ける。

        これに対して,「あげる」「くれる」は補助動詞 VB2 とされ,それらが後接している動詞句は埋め込まれるのでなく,「あげる」「くれる」と同一のレベルで IP-MAT に直接支配される。

    (6.43)

    私 は 友達 に お金 を 貸し て あげ た 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-OB2 NP N 友達 P-ROLE PP-OB1 NP N お金 P-ROLE VB 貸し P-CONN __VB2 あげ AXD PU
            [15_textbook_djg_gram_terms@24,1]
    (6.44)

    道男 は 私 を なぐさめ て くれ まし た 。

    ___IP-MAT PP-SBJ NP NPR 道男 P-OPTR PP-OB1 NP PRO P-ROLE VB なぐさめ P-CONN __VB2 くれ AX まし AXD PU
            [114_textbook_djg_basic@18,1]

    「あげる」「くれる」のそれぞれ尊敬語である「さしあげる」「くださる」についても同様である。


    6.15   比較構文

    2つの活動あるいは出来事を比較する場合, 典型的には比較の基準をなす側が助詞「より」を伴う節によって表され, 主たる出来事の方は形式名詞(N)により作られる -SBJ となる。

    (6.45)

    理屈 を ひねくり回す より 、 やっ て みる こと が 大切 だ .

    IP-MAT PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N 理屈 P-ROLE VB ひねくり回す __P-CONN より PU ___PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* VB やっ P-CONN VB2 みる N こと P-ROLE ADJN 大切 AX PU
            [2663_dict_vv-lexicon@14,18]

    6.16   移動の目的を表す節

    移動動詞は,移動の目的を表す動作名詞句あるいは連用節を伴うことがある。 名詞句は動作名詞(例えば,「買い物」)——「遊び」のような動詞派生の動作名詞を含めて——を主要部とし,助詞「に」が続く。 連用節は動作動詞を主要部とした IP-NMZ に助詞「に」が続く。 この,「に」は拡張タグ -PRP を伴う PP を投射する。

    (6.46)

    彼女 の お母さん は 買い物 に 行き まし た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP PRO 彼女 P-ROLE N お母さん P-OPTR __PP-PRP NP N 買い物 ___P-ROLE VB 行き AX まし AXD PU
            [237_textbook_TANAKA@14,18]
    (6.47)

    メロス は 、 それゆえ 、 花嫁 の 衣裳 やら 祝宴 の 御馳走 やら を 買い に 、 はるばる 市 に やって来 た の だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{MELOS} NPR メロス P-OPTR PU ADVP ADV それゆえ PU __PP-PRP ___IP-NMZ PP-OB1 NP;{GOODS_WEDDING} CONJP NP PP NP N 花嫁 P-ROLE N 衣裳 P-CONN やら NP PP NP N 祝宴 P-ROLE N 御馳走 P-CONN やら P-ROLE VB 買い ___P-ROLE PU ADVP ADV はるばる PP NP;{CITY} N P-ROLE VB やって来 AXD FN AX PU
            [15_aozora_Dazai-2-1940@15,16,46]

    移動の目的を表す連用節の場合,移動動詞の主語が連用節のコントロールの先行詞となる場合が多い。 ただし,「行かせる」や「派遣する」のように移動動詞が使役述語となるときは,主語でない項が目的を表す節の主語をコントロールすることもある。

    (6.48)

    小僧 ___に ___きき ___に ___こ させる だけ で ほんとう に 十分 で は ない だろう か

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *pro* PP-CZZ NP N 小僧 P-ROLE ___に __PP-PRP IP-NMZ NP-OB1 *pro* VB ___きき P-ROLE ___に VB ___こ VB2 させる P-OPTR だけ P-ROLE ADVP ADJN ほんとう AX ADJN 十分 AX P-OPTR NEG ない MD だろう P-FINAL
            [162_aozora_Harada-1960@15,14,20,22,24]

        移動の目的を表す句が動作名詞を主要部とするとき,項構造をもつことはない。


    6.17   間接疑問文および関連する構文

    6.17.1   項としての間接疑問文

    典型的な間接疑問文では,疑問節(CP-QUE)が格助詞(P-ROLE)を後接させた形で現れ,それを受ける述語が上位の節に存在する。 疑問節が主要文法役割を果たす場合は,疑問節(CP-QUE)を支配する助詞句(PP)に適切な拡張タグが加えられる。以下にいくつかの例を挙げる。

    (6.49)

    その 日 何 を し て い た か を 詳しく 説明 し なさい 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* ___PP-OB1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* NP-TMP;{DAY_1069} D その N PP-OB1 NP WPRO P-ROLE VB P-CONN VB2 AXD P-FINAL ___P-ROLE ADVP ADJI 詳しく VB 説明 VB0 VB2 なさい PU
            [1069_textbook_kisonihongo@6,5,31]
    (6.50)

    この 仕事 は 苦労 も 多い が 、 それだけ やりがい も ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N 仕事 P-OPTR PP-CONJ IP-ADV PP-SBJ2 NP N 苦労 P-OPTR ADJI 多い P-CONN PU ADVP ADV それだけ PP-SBJ2 NP N やりがい P-OPTR VB ある PU
            [479_textbook_djg_advanced@41,40,59]
    (6.51)

    折り紙 の 最強 の ツール は 、 我々 が 部品 を どうやって 作る か に 関係 し て い ます

    IP-MAT PP-SBJ NP PP NP N 折り紙 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 最強 AX N ツール P-OPTR PU ___PP-OB1 __CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP PRO 我々 P-ROLE PP-OB1 NP N 部品 P-ROLE ADVP WADV どうやって VB 作る P-FINAL ___P-ROLE VB 関係 VB0 P-CONN VB2 AX ます
            [66_ted_talk_1@24,23,45]
    (6.52)

    どちら が 県連 の 推薦 を 受ける か で もめ 、 木村太郎 衆院議員 が 県連会長 を 辞任 する 騒動 に まで 発展 し た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ PP __CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP WPRO どちら P-ROLE PP-OB1 NP PP NP N 県連 P-ROLE N 推薦 P-ROLE VB 受ける P-FINAL ___P-ROLE VB もめ PU PP NP IP-EMB PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 木村太郎 N 衆院議員 P-ROLE PP-OB1 NP N 県連会長 P-ROLE VB 辞任 VB0 する N 騒動 P-ROLE P-ROLE まで VB 発展 VB0 AXD PU
            [90_news_KAHOKU_28@6,30]
    (6.53)

    ここ で は , 企業 が いかに CSR に 介入 し , どのような 問題 に 関心 を 持っ て いる か について 討議 し たい と 思い ます 。

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER} *speaker* PP NP PRO ここ P-ROLE P-OPTR PU CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ;{SPEAKER} *speaker* PP __CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP;{CORPORATIONS} N 企業 P-ROLE IP-ADV-CONJ ADVP WADV いかに PP NP;{CSR} N CSR P-ROLE VB 介入 VB0 PU PP NP WD どのような N 問題 P-ROLE PP-OB1 NP N 関心 P-ROLE VB 持っ P-CONN VB2 いる P-FINAL ___P-ROLE について VB 討議 VB0 AX たい P-COMP VB 思い AX ます PU
            [2_book_excerpt-31@19,65]

    格助詞がなく,とりたて助詞のみが疑問節(CP-QUE)に後続しており, そのとりたて助詞を格助詞「が」や「を」に置き換えて不自然でない例がある。 この場合,適切な拡張タグがとりたて助詞の投射する助詞句(PP)に加えられる。

    (6.54)

    鈴木さん が 大学 に 入っ た かどうか は 知り ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* ___PP-OB1 __CP-QUE IP-SUB PP-SBJ NP NPR 鈴木さん P-ROLE PP NP N 大学 P-ROLE VB 入っ AXD P-FINAL かどうか ___P-OPTR VB 知り AX ませ NEG PU
            [78_textbook_djg_basic@5,4,25]
    (6.55)

    どうして 食っ て いる か さえ 分ら なかっ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* ___PP-OB1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* NP-OB1 *pro* ADVP WADV どうして VB 食っ P-CONN VB2 いる P-FINAL ___P-OPTR さえ VB 分ら NEG なかっ AXD PU
            [28_aozora_Murou-1922@5,4,22]

    また,格助詞もとりたて助詞も伴わない裸の疑問文(CP-QUE)の中には,格助詞「が」や「を」等を補っても不自然でない例がある。 その場合,拡張タグは CP-QUE に直接加えられる。 ただし,同格的な疑問文はさらに特別のアノテーションを必要とする(次節を参照)。

    (6.56)

    自分 が 何 を 求め て いる の か 頭 の 中 で はっきり し た の です

    IP-MAT __CP-QUE-SBJ IP-SUB PP-SBJ NP PRO 自分 P-ROLE PP-OB1 NP WPRO P-ROLE VB 求め P-CONN VB2 いる FN P-FINAL PP NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE ADVP-CMPL ADV はっきり VB AXD FN AX です
            [22_ted_talk_10@2]
    (6.57)

    山 は もう 寒い か 聞い て ください 。

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* __CP-QUE-OB1 IP-SUB NP-SBJ *exp* PP-LOC NP N P-OPTR ADVP ADV もう ADJI 寒い P-FINAL VB 聞い P-CONN VB2 ください PU
            [710_textbook_purple_intermediate@5]

    6.17.2   同格的な間接疑問文

    裸の疑問節には,上位の節の述語と名詞項の両方と密接な関係を持つものがある。 このような文では,名詞項を潜伏疑問と解釈することができる。 ただし,疑問節(CP-QUE)と潜伏疑問と解釈される名詞の間に隣接性の条件はないため,両者の間の同格関係を示すために, *ICH*(Interpret Constituent Here)と PRN のタグを利用する。

        以下の例では,疑問節「芸術界で今何が起こっているか」は述語「分かる」の第一目的語であると解釈できる(「が」を補うことができる)。 同時に,その後に現れた第一目的語名詞句「動向(が)」は意味的にその前の疑問節と関係していると解釈できる。 アノテーションとしては,まず適切な番号を付けた PRN (通常は PRN-1)の下に CP-QUE を置く。 次に,名詞句(NP)の下の,該当する名詞(N)の姉妹位置に PRN を加え,その子ノードとして同じ番号を付けた *ICH*(通常は *ICH*-1)を置く。

    (6.58)

    芸術界 で 今 何 が 起こっ て いる ___か 動向 が 分かる と さ れる もの でし た

    IP-MAT NP-SBJ *pro* NP-PRD IP-EMB NP-LGS *arb* CP-THT-SBJ IP-SUB ___NP-SBJ __*pro* PRN-1 CP-QUE IP-SUB PP NP N 芸術界 P-ROLE NP-TMP N PP-SBJ NP WPRO P-ROLE VB 起こっ P-CONN VB2 いる P-FINAL ___か PP-OB1 NP ___N 動向 PRN *ICH*-1 P-ROLE VB 分かる P-COMP VB PASS れる N もの AX でし AXD
            [20_ted_talk_10@11,10,37,40]

    疑問節と結びつく名詞句の主要部が代名詞であったり,指示詞的な限定詞によって修飾されることもある。

    (6.59)

    しかし 、 どうして いま 見える よう に なっ た の か 、 それ は 知り ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker+pro* CONJ しかし PU ___PRN-1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* ADVP WADV どうして NP-TMP N いま PP NP IP-EMB NP-SBJ2 *pro* VB 見える N よう P-ROLE VB なっ AXD FN P-FINAL PU PP-OB1 ___NP PRO それ ___PRN *ICH*-1 P-OPTR VB 知り AX ませ NEG PU
            [795_bible_nt@9,8,41,44]

    また,「見当がつく」,「意見が分かれる」,「議論をする」といった表現と共に用いられた時のように, 疑問節(CP-QUE)を述語が直接受けるわけではないが, 「見当」「意見」「議論」といった名詞の内容が疑問節(CP-QUE)によって示されるような例がある。 このような場合にも,上記と同じように *ICH*, PRN のタグを利用する。

    (6.60)

    それに どっち に にげ て いっ たら いい の か けんとう も つき ませ ん 。

    IP-MAT NP-SBJ;{PETER} *pro* CONJ それに ___PRN-1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ;{PETER} *pro* PP NP;{LOC} WPRO どっち P-ROLE VB にげ P-CONN VB2 いっ P-CONN たら ADJI-MD いい FN P-FINAL PP-OB1 ___NP N けんとう ___PRN *ICH*-1 P-OPTR VB つき AX ませ NEG PU
            [44_fiction-locked_POTTER-1902@7,6,35,32]

    6.17.3   副詞的な疑問節(CP-QUE-ADV)

    典型的な間接疑問文とは異なり,それを受ける述語が上位の節に存在せず, また,格助詞もとりたて助詞も補うことのできない場合,CP-QUE には拡張タグ ADV を加える。 このような副詞的な疑問節(CP-QUE-ADV)は多くの場合,自問的である。

    (6.61)

    その 勢い に 驚い た もの か 、 捕り手 は パッと 左右 へ 開い た 。

    IP-MAT __CP-QUE-ADV IP-SUB NP-SBJ;{POLICE} *pro* PP NP D;{KOSAKA_JINNAI} その N 勢い P-ROLE VB 驚い AXD FN もの AX * P-FINAL PU PP-SBJ NP;{POLICE} N 捕り手 P-OPTR ADVP ADV パッと PP NP N 左右 P-ROLE VB 開い AXD PU
            [350_aozora_Kunieda-1925@2]
    (6.62)

    たとえば 、 紅茶 を 入れ た のに 、 どういう わけ か 、 コーヒー を 入れ た と 勘違い し て しまう 。

    IP-MAT NP-SBJ;{PERSON_8} *arb* ADVP ADV たとえば PU PP-SCON IP-ADV PP-OB1 NP N 紅茶 P-ROLE VB 入れ AXD P-CONN のに PU __CP-QUE-ADV IP-SUB NP-SBJ *exp* NP-PRD WD どういう N わけ AX * P-FINAL PU CP-THT-OB1 IP-SUB NP-SBJ;{PERSON_8} *pro* PP-OB1 NP N コーヒー P-ROLE VB 入れ AXD P-COMP VB 勘違い VB0 P-CONN VB2 しまう PU
            [8_book_excerpt-4@25]

        裸の疑問節(CP-QUE)が副詞的に用いられているのか,項なのか判断に迷う場合がある。 例えば,以下の例の疑問節は「を」を補い「間違いがないかどうかを見直してください」とすることができるので, 疑問節が第一目的語となっていると考え, CP-QUE-OB1 のラベルを与えてもいいように思われる。 しかし,この例は(「を」を伴わない)疑問節の他に,「を」を伴う明らかな第一目的語「書類(を)」を含んでおり,また,疑問節と名詞が同格的でもない。 したがって CP-QUE の方には ADV の拡張タグを与えることになる。 ただし,上で示した例とは異なり,この場合の副詞的な疑問節は必ずしも自問的なものではない。

    (6.63)

    間違い が ない かどうか 、 書類 を よく 見直し て ください .

    CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* __CP-QUE-ADV IP-SUB PP-SBJ NP N 間違い P-ROLE ADJI ない P-FINAL かどうか PU PP-OB1 NP N 書類 P-ROLE ADVP ADJI よく VB 見直し P-CONN VB2 ください PU
            [3069_dict_vv-lexicon@5]

    6.17.4   述語としての疑問節(CP-QUE-PRD)

    疑問節(CP-QUE)はコピュラ(AX)「だ」「です」等を後続させて述語として用いられることがある。 この場合は,CP-QUE のラベルに拡張タグ PRD を加える。

    (6.64)

    重要 な の は これら の シンボル が 何 を 意味 し て いる か です

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 重要 AX N P-OPTR __CP-QUE-PRD IP-SUB PP-SBJ NP PP NP PRO これら P-ROLE N シンボル P-ROLE PP-OB1 NP WPRO P-ROLE VB 意味 VB0 P-CONN VB2 いる P-FINAL ___AX です
            [69_ted_talk_1@15,45]

    6.17.5   引用された疑問節

    疑問節(CP-QUE)に補文助詞(P-COMP)「と」等が後続することがある。 このような「引用」の疑問文は,多くの場合伝達動詞や認識動詞の補部となる。

    (6.65)

    刑事 は 裏 の 窓 を 閉め た か と 聞い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 刑事 P-OPTR CP-THT-OB1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE VB 閉め AXD P-FINAL ___P-COMP VB 聞い AXD PU
            [499_textbook_purple_intermediate@9,31]
    (6.66)

    うん 、 行こ う かなー って 思っ てる 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* INTJ うん PU CP-THT-OB1 __CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* VB 行こ AX P-FINAL かなー ___P-COMP って VB 思っ VB2 てる PU
            [82_spoken_JF15@9,19]

        また,「という」「との」等の補文助詞(P-COMP)は疑問節(CP-QUE)に後続し,名詞修飾節を作る(例 (3.30) も参照)。

    (6.67)

    問題 は 誰 が 社長 を やり 、 誰 が 社長代行 を やる か という こと だっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 問題 P-OPTR NP-PRD CP-THT __CP-QUE IP-SUB IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP WPRO P-ROLE PP-OB1 NP N 社長 P-ROLE VB やり PU PP-SBJ NP WPRO P-ROLE PP-OB1 NP N 社長代行 P-ROLE VB やる P-FINAL ___P-COMP という N こと AX だっ AXD PU
            [9_book_excerpt-30@10,45]

    6.18   様々な補部節(CP-THT)

    6.18.1   伝達動詞・認識動詞の補部としての補部節

    典型的には,補部節(CP-THT)は,「と」等の補文助詞(P-COMP)を伴って, 伝達動詞(言う,伝える,等)や認識動詞(思う,考える,等)の補部となることができる。 この場合,補部節は拡張タグ OB1 を与えられる。 このような補部節は,実際の発話を直接引用したと解釈できるものもあれば,そうでないものもある。

    (6.68)

    「 私 は むしろ あなた を 気に入っ てる の 」 と 彼女 は 言っ た 。

    IP-MAT __CP-THT-OB1 IP-SUB PUL PP-SBJ NP PRO P-OPTR ADVP ADV むしろ PP-OB1 NP PRO あなた P-ROLE VB 気に入っ VB2 てる FN PUR ___P-COMP PP-SBJ NP PRO 彼女 P-OPTR VB 言っ AXD PU
            [211_fiction_DICK-1952@2,29]
    (6.69)

    彼 が そんな に 美しい 死体 に なる と は 誰 も 思わ なかっ た でしょう 。 」

    IP-MAT NP-SBJ *pro* __CP-THT-OB1 IP-SUB PP-SBJ NP;{FLYNN} PRO P-ROLE IP-SMC-OB1 NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN そんな AX ADJI 美しい N 死体 AX VB なる ___P-COMP P-OPTR NP;*SBJ* WPRO P-OPTR VB 思わ NEG なかっ AXD MD でしょう PU PUR
            [156_aozora_Joyce-1914@4,30]

    6.18.2   項としての補部節

    補部節(CP-THT)が格助詞を伴って主要文法役割を果たす項となった例も,それほど頻度は高くないものの,存在する。 以下の例ではそれぞれ,補部節に格助詞「が」と「を」が後続している。 このような場合は,格助詞の投射する助詞句(PP)に適宜,-SBJ あるいは -OB1 の拡張タグを加える。

    (6.70)

    複数回答 の 結果 、 「 家計的 に 苦しい 児童 ・ 生徒 が 増え て いる 」 が 小中学校 とも に 最多 だっ た 。

    IP-MAT NP-ADV PP NP N 複数回答 P-ROLE N 結果 PU ___PP-SBJ __CP-THT IP-SUB PUL PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN 家計的 AX ADJI 苦しい NML CONJP NP N 児童 PU NP N 生徒 P-ROLE VB 増え P-CONN VB2 いる PUR ___P-ROLE PP NP N 小中学校 PRN NP;* Q とも P-ROLE ADJN 最多 AX だっ AXD PU
            [12_news_KAHOKU_616@14,13,50]
    (6.71)

    ワニ君連 を 代表 し て 、 花束 を 持っ て お見舞い に 来 た アシ君 が 、 槇子 の ( 秋作さん 、 秋作さん ) を 聞い て しまっ て 、 これ を 『 社交室 』 へ 急報 し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* IP-ADV-SCON PP-OB1 NP NPR ワニ君連 P-ROLE VB 代表 VB0 P-CONN PU IP-ADV-SCON PP-OB1 NP N 花束 P-ROLE VB 持っ P-CONN PP NP N お見舞い P-ROLE VB AXD NPR アシ君 P-ROLE PU IP-ADV-CONJ ___PP-OB1 NP PP NP NPR 槇子 P-ROLE __CP-THT FRAG PUL NP-VOC NPR 秋作さん PU NP-VOC NPR 秋作さん PUR ___P-ROLE VB 聞い P-CONN VB2 しまっ P-CONN PU PP-OB1 NP PRO これ P-ROLE PP NP PUL N 社交室 PUR P-ROLE VB 急報 VB0 AXD PU
            [736_aozora_Hisao-1939@58,50,72]

    以下の例のように,補文助詞(P-COMP)「って」「なんて」を伴った CP-THT は,格助詞を伴わずに主語となることがある。 このとき,拡張タグは CP-THT に直接加えられる。

    (6.72)

    漢字 を 覚える って 大変 です ね 。

    CP-FINAL IP-SUB __CP-THT-SBJ IP-SUB NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP N 漢字 P-ROLE VB 覚える ___P-COMP って ADJN 大変 AX です P-FINAL PU
            [356_textbook_djg_basic@3,15]
    (6.73)

    そんな に いつ まで も しょげ て いる なんて 、 あなた らしく ない こと よ 。

    CP-FINAL IP-SUB __CP-THT-SBJ IP-SUB NP-SBJ *hearer* ADVP ADJN そんな AX PP NP WPRO いつ P-ROLE まで P-OPTR VB しょげ P-CONN VB2 いる ___P-OPTR なんて PU NP-PRD PRO あなた AX * MD らしく NEG ない P-FINAL こと P-FINAL PU
            [379_textbook_particles@3,26]

        受動の「られ・れ」を後続させた伝達動詞・認識動詞が,補部節(CP-THT)と共起している文では,主語が明示されないことが多い。 そのため,何を文の主語と考えるべきかしばしば判断に迷う。 以下の例では,補部節によって示された伝達内容の受け手が主語であると考え(「[私が]8時までに来いと言われた」), ゼロ代名詞(*speaker*)を主語として補うことができる。

    (6.74)

    8 時 まで に 来い と 言わ れ た ん だ 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* NP-LGS *pro* __CP-THT-OB1 CP-IMP IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP NP NUMCLP NUM 8 CL P-ROLE まで P-ROLE VB 来い P-COMP VB 言わ ___PASS AXD FN AX PU
            [301_textbook_purple_intermediate@6,2,28]

    しかし,以下の例では,具体的な伝達内容の受け手がいるとは考えられず,故に,これを主語とした受動文だとは考えにくい。 また,他に主語と見なすべき名詞句も存在しない。 このような場合には,補部節を主語であると考え,CP-THT に -SBJ の拡張タグを加えることにする。

    (6.75)

    運動 は 体 に いい と 言わ れ て いる 。

    IP-MAT NP-LGS *arb* __CP-THT-SBJ IP-SUB PP-SBJ NP N 運動 P-OPTR PP NP N P-ROLE ADJI いい P-COMP VB 言わ PASS P-CONN VB2 いる PU
            [251_textbook_djg_advanced@4]

    伝達動詞・認識動詞が補部節(CP-THT)と共にテアル構文で用いられた場合も,主語と見なすべき名詞句が明確に存在しない場合には,補部節を主語としてアノテーションすることにする。

    (6.76)

    なんか 、 国際交流セミナー っていう やつ 、 ある って 書い て あっ た ん だ けどー 。

    FRAG PP-SCON IP-ADV ADVP ADV なんか PU __CP-THT-SBJ IP-SUB NP-SBJ PP NP N 国際交流セミナー P-ROLE っていう N やつ PU VB ある P-COMP って VB 書い ___P-CONN ___PASS * ___VB2 あっ AXD FN AX P-CONN けどー PU
            [31_spoken_JF6@9,28,30,32]

    6.18.3   同格的な補部節

    疑問節(CP-QUE)と同様に,補部節(CP-THT)も,上位の節の述語とその項である名詞句の両方と意味的に結びつくことがある。 例えば,以下の例の補部節(CP-THT)は,述語となった認識動詞「聞きます」の補部であるが,同時に,第一目的語(OB1)となった名詞句「話(を)」の内容を表している。 このような補部節(CP-THT)と名詞句の同格関係を示すために,同格の疑問節(CP-QUE)で用いたように,*ICH* と PRN-n(n は適切な番号)を用いる。

    (6.77)

    やんちゃ で 済まさ れ ない こと が 多く 、 地域 の 方 から は 、 震災後 から 荒れる よう に なっ た と 話 を 聞き ます 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ PP-SBJ NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *pro* PP NP N やんちゃ P-ROLE VB 済まさ VB2 NEG ない N こと P-ROLE ADJI 多く PU NP-SBJ *speaker* PP NP PP NP N 地域 P-ROLE N P-ROLE から P-OPTR PU ___PRN-1 __CP-THT IP-SUB NP-SBJ *pro* PP NP N 震災後 P-ROLE から PP NP IP-EMB VB 荒れる N よう P-ROLE VB なっ AXD P-COMP PP-OB1 NP N PRN ___*ICH*-1 P-ROLE VB 聞き AX ます PU
            [103_news_KAHOKU_37@49,48,79]

        補部節と結びつく名詞句の主要部が代名詞であったり,指示詞的な限定詞によって修飾されたりすることもある。

    (6.78)

    坂本君 、 あのー 国際交流問題 とか 、 興味 ある とか 、 そういう こと 言っ て た からー

    FRAG PP-SCON IP-ADV NP-SBJ NPR 坂本君 PU INTJ あのー ___PRN-1 __CP-THT IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP-OB2 NP N 国際交流問題 P-OPTR とか PU NP-OB1 N 興味 VB ある P-OPTR とか PU NP-OB1 D そういう N こと PRN ___*ICH*-1 VB 言っ VB2 AXD P-CONN からー
            [11_spoken_JM1@12,11,39]

        また,述語が補部節(CP-THT)を直接受けるわけではないが, 補部節と述語の項となった名詞句の間に,上記と同様の同格関係が認められる例がある。 この場合にも,*ICH* と PRN-n のタグを利用する。

    (6.79)

    「 えい ! 」 と 初めて 声 を 掛け 、 右手寄り に ツツ――と 詰める 。

    IP-MAT NP-SBJ;{TOBISAWA_JINNAI} *pro* IP-ADV-CONJ ___PRN-1 __CP-THT INTJP PUL INTJ えい PU PUR P-COMP ADVP ADV 初めて PP-OB1 NP N PRN ___*ICH*-1 P-ROLE VB 掛け PU PP NP N 右手寄り P-ROLE ADVP ADV ツツ――と VB 詰める PU
            [128_aozora_Kunieda-1925@6,5,26]

    6.18.4   目的を表す補部節

    補部節(CP-THT)が同じ節の述語の項でなく,また,節中の他の名詞との意味的な結びつきもない場合がある。 こうした場合のうち,補部節に意志を表す助動詞(AX)の「よう・う」あるいは否定的意志を表す助動詞(NEG)「まい」が含まれ, かつ補部節が同じ節の述語の動作の目的を表す場合は, CP-THT に特別の拡張タグ PRP を加える(PRP は,次節で見る拡張タグ ADV の特殊なものと言える)。

    (6.80)

    僕 は 僕 を 子供 だ と ほのめかし た コター の じいさん に 腹 を 立て て い た けれども 、 彼 が 言い 終え なかっ た センテンス から 意味 を 引き出そ う と 頭 を 悩まし て い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SPEAKER} PRO P-OPTR PP-SCON IP-ADV PP NP;{COTTER} IP-REL NP-SBJ *T* PP-DOB1 NP;{SPEAKER} PRO P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SMC NP-PRD N 子供 AX P-COMP VB ほのめかし AXD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD NPR コター AX N じいさん P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB 立て P-CONN VB2 AXD P-CONN けれども PU __CP-THT-PRP IP-SUB NP-SBJ;{SPEAKER} *speaker* PP NP IP-REL NP-OB1 *T* PP-SBJ NP;{COTTER} PRO P-ROLE VB 言い VB2 終え NEG なかっ AXD N センテンス P-ROLE から PP-OB1 NP N 意味 P-ROLE VB 引き出そ ___AX P-COMP PP-OB1 NP N P-ROLE VB 悩まし P-CONN VB2 AXD PU
            [64_aozora_Joyce-1914@64,99]
    (6.81)

    マラソン は 苦しかっ た が 、 友達 に 遅れ まい と 一所懸命 走っ た 。

    IP-MAT PP-CONJ IP-ADV PP-SBJ NP N マラソン P-OPTR ADJI 苦しかっ AXD P-CONN PU NP-SBJ *speaker* __CP-THT-PRP IP-SUB NP-SBJ *speaker* PP NP N 友達 P-ROLE VB 遅れ ___NEG まい P-COMP ADVP ADV 一所懸命 VB 走っ AXD PU
            [1028_textbook_particles@20,32]

    6.18.5   副詞的な補部節(CP-THT-ADV)

    補部節(CP-THT)が上位の節の述語とも直接的に結びつかず,また,文中の名詞との意味的な結びつきもなく, また,行為の目的を表すものでもない場合,それは,副詞的な働きを持つ補部節として,ADV の拡張タグを加えられる。

    (6.82)

    警備員 は 「 ちょっと 待っ て 」 と 私たち を 引き止め た .

    IP-MAT PP-SBJ NP N 警備員 P-OPTR __CP-THT-ADV CP-IMP PUL IP-SUB NP-SBJ *hearer* ADVP ADV ちょっと VB 待っ P-CONN PUR P-COMP PP-OB1 NP PRO 私たち P-ROLE VB 引き止め AXD PU
            [2586_dict_vv-lexicon@8]

    6.18.6   述語としての補部節(CP-THT-PRD)

    補部節(CP-THT)にコピュラを含む助動詞(AX)が後続し,補部節自体が述語となっていると見なされるとき,CP-THT に拡張タグ PRD を加える。

    (6.83)

    彼女 と は ただ お茶 を 飲ん で 話 を し た という だけ だ 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP NP PRO 彼女 P-ROLE P-OPTR ADVP ADV ただ __CP-THT-PRD IP-SUB NP-SBJ *speaker* IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N お茶 P-ROLE VB 飲ん P-CONN PP-OB1 NP N P-ROLE VB AXD P-COMP という P-OPTR だけ ___AX PU
            [399_textbook_djg_intermediate@15,44]
    (6.84)

    書類 について も 、 オールデイカー の 個人的 な 仕事 も 、 まったく 知ら ない ―― だ そう だ 。

    IP-MAT NP-SBJ *exp* __CP-THT-PRD IP-SUB NP-SBJ;{MRS_LEXINGTON} *pro* NP-OB1 CONJP NP PP NP;{DOCUMENTS} N 書類 P-ROLE について P-CONN PU NP PP NP;{OLDACRE} NPR オールデイカー P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 個人的 AX N 仕事 P-CONN PU ADVP ADV まったく VB 知ら NEG ない PU ―― ___AX MD そう AX PU
            [423_aozora_Doyle-1905@4,50]

    6.19   目的語繰り上げ構文

    目的語繰り上げ構文において,補部節あるいは小節の論理的主語は助詞「を」により表示され, 主節の中で,この節を選択する述語の姉妹の位置を占める。 この論理的主語は拡張タグ DOB1 を与えられる。

    6.19.1   補部節からの繰り上げ

    この文型において,補部節は CP-THT-OB1 が支配する IP-SMCとして分析され, その中の主語位置は主節 中の DOB1 がコントロールする。

    (6.85)

    自分 は この 言葉 を 面白い と 思っ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO 自分 P-OPTR __PP-DOB1 NP D この N 言葉 ___P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SMC ADJI 面白い P-COMP VB 思っ AXD PU
            [374_aozora_Natsume-1908@8,14]
    (6.86)

    警察 は A を 犯人 だ と 断定 し た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 警察 P-OPTR __PP-DOB1 NP NPR A ___P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SMC NP-PRD N 犯人 AX P-COMP VB 断定 VB0 AXD PU
            [1095_textbook_kisonihongo@8,12]

    主節述部は「思う」や「考える」「感じる」のような態度動詞であるのが普通だが, 「する」や「扱う」のような動詞が用いられることもある。

    (6.87)

    温度 を 一定 だ と する

    IP-MAT NP-SBJ;{SPEAKER_30} *speaker* __PP-DOB1 NP N 温度 ___P-ROLE CP-THT-OB1 IP-SMC ADJN 一定 AX P-COMP ___VB する
            [30_misc_EXAMPLE@4,8,18]

    6.19.2   小節からの繰り上げ

    この構文で小節に現れる述語は,イ形容詞,形容詞的屈折を行うモーダル,あるいはコピュラに限られる。 これらはいずれも連用形で現れる。 埋め込まれた節は IP-SMC-OB1 のタグを与えられ,CP-THT をさらに投射することはない。

    (6.88)

    お手伝い でき ない の を 心苦しく 思い ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-DOB1 NP IP-EMB NP-OB1 *pro* VB お手伝い VB0 でき NEG ない N P-ROLE __IP-SMC-OB1 ADJI 心苦しく VB 思い AX ます PU
            [697_textbook_purple_basic@19]
    (6.89)

    彼ら の 出身 の 村 や 町 に は 、 戦死者 を 名誉 に 思っ て 祈念碑 が 建立 さ れる でしょう 。

    IP-MAT PP-LOC NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PP NP PRO 彼ら P-ROLE N 出身 AX NML CONJP NP N P-CONN NP N P-ROLE P-OPTR PU IP-ADV-CONJ NP-SBJ *pro* PP-DOB1 NP N 戦死者 P-ROLE __IP-SMC-OB1 ADJN 名誉 AX VB 思っ P-CONN NP-LGS *pro* PP-SBJ NP N 祈念碑 P-ROLE VB 建立 VB0 ___PASS れる MD でしょう PU
            [280_aozora_Hayashida-2015@43,64]

    これらの構文は自発・可能用法の「れる・られる」を伴う述語で頻繁に用いられる。

    (6.90)

    その 間 が 、 たっぷり 一 時間 は あっ た 様 に 思わ れ ます 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-DOB1 NP D その N P-ROLE PU __IP-SMC-OB1 NP-PRD IP-EMB PP;*SBJ* NP ADVP ADV たっぷり NUMCLP NUM CL 時間 P-OPTR VB あっ AXD N AX VB 思わ VB2 AX ます PU
            [249_aozora_Edogawa-1929@14]
    (6.91)

    親不知 の 断崖 を 通過 する 頃 、 車内 の 電燈 と 空 の 明るさ と が 同じ に 感じ られ た 程 、 夕闇 が 迫っ て 来 た 。

    IP-MAT NP-TMP IP-EMB NP-SBJ *speaker* PP-OB1 NP PP NP NPR 親不知 P-ROLE N 断崖 P-ROLE VB 通過 VB0 する N PU PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP-DOB1 NP CONJP NP PP NP N 車内 P-ROLE N 電燈 P-CONN NP PP NP N P-ROLE N 明るさ P-CONN P-ROLE __IP-SMC-OB1 ADJN 同じ AX VB 感じ VB2 られ AXD P-OPTR PU PP-SBJ NP N 夕闇 P-ROLE VB 迫っ P-CONN VB2 AXD PU
            [37_aozora_Edogawa-1929@57]

    6.20   主語繰り上げ構文

    主語繰り上げ構文は目的語繰り上げ構文を受動化したものである。 この場合も,埋め込まれた節を IP-SMC とし,コントロール関係を維持する。 繰り上げられた主語は拡張タグ DSBJ を与えられる。

    6.20.1   補部節から主語位置に至る繰り上げ

    この文型において,補部節は CP-THT-SBJ が支配する IP-SMC として分析され, その中の主語位置は主節中の DSBJ がコントロールする。

    (6.92)

    温度 は 一定 だ と さ れる

    IP-MAT NP-LGS *pro* ___PP-DSBJ NP N 温度 P-OPTR __CP-THT-SBJ ___IP-SMC ADJN 一定 AX P-COMP VB PASS れる
            [31_misc_EXAMPLE@10,4,11]
    (6.93)

    招き猫 の 置物 は 、 幸運 を 招き込む と 言わ れ ます .

    IP-MAT NP-LGS *arb* ___PP-DSBJ NP PP NP N 招き猫 P-ROLE N 置物 P-OPTR PU __CP-THT-SBJ ___IP-SMC PP-OB1 NP N 幸運 P-ROLE VB 招き込む P-COMP VB 言わ PASS AX ます PU
            [2991_dict_vv-lexicon@18,4,19]

    6.20.2   小節から主語位置に至る繰り上げ

    この構文で小節に現れる述語は,イ形容詞,形容詞的屈折を行うモーダル,あるいはコピュラに限られる。 これらはいずれも連用形で現れる。 埋め込まれた節は IP-SMC-SBJ のタグを与えられ,CP-THT をさらに投射することはない。

    (6.94)

    救心 という 薬 は 味 も 効能 も 仁丹 ぐらい に しか 思わ れ て ない が 、 べラボー に 高価 な ところ が 信仰 さ れる の かも知れない 。

    IP-MAT NP-LGS *arb* PP-CONJ IP-ADV PP-DSBJ NP PP NP NPR 救心 P-ROLE という N P-OPTR __IP-SMC-SBJ NP-SBJ2 CONJP NP N P-CONN NP N 効能 P-CONN PP-PRD NP NPR 仁丹 P-OPTR ぐらい AX P-OPTR しか VB 思わ PASS VB2 NEG ない P-CONN PU PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* ADVP ADJN べラボー AX ADJN 高価 AX N ところ P-ROLE VB 信仰 VB0 PASS れる FN MD かも知れない PU
            [31_aozora_Sakaguchi-1950@18]

    6.21   会話特有の表現

    この節では,会話に特有の表現がどのようにアノテートされているかについて説明する。

    6.21.1   間投詞句(INTJP)

    間投詞のための品詞タグは,INTJ である。

        INTJ とラベル付けされた個々の単語は, たとえ節のレベルの構成素であっても INTJP を投射することはない。

    (6.95)

    「 ああ 、 王 は 悧巧 だ 。

    IP-MAT PUL __INTJ ああ PU PP-SBJ NP;{DIONYSIUS_HEARER} N P-OPTR ADJN 悧巧 AX PU
            [84_aozora_Dazai-2-1940@4]

    INTJP のラベルは,以下のような場合に使用される。

          (INTJP (INTJ もしもし)
                 (PU 。))
          (INTJP (INTJ はい)
                 (PU 。))
    (6.96)

    すると 帽子屋さん は 、 おやおや と 思い まし た 。

    IP-MAT CONJ すると PP-SBJ NP N 帽子屋さん P-OPTR PU CP-THT-OB1 __INTJP INTJ おやおや P-COMP VB 思い AX まし AXD PU
            [55_aozora_Niimi-1943@13]       (IP-IMP (NP-SBJ *hearer*)
                  (INTJP (INTJ すみません)
                         (P が))
                  (PU ,)
                  (PP (NP (N 塩))
                      (P を))
                  (NP-OB1 *を*)
                  (VB 取っ)
                  (P て)
                  (VB2 ください)
                  (PU 。))
          (INTJP (IP-SUB (ADVP (ADV そう))
                         (AX です))
                 (P-FINAL ね))
          (INTJP (NP (PRO それ))
                 (P-CONN が))

    以下の実例では,「見えるかいって」というCP-THTが,全体として,間投句的に振る舞っている。

    (6.97)

    じゃ 、 私 の 顔 が 見える かい と 一心 に 聞く と 、 見える かい って 、 そら 、 そこ に 、 写っ てる じゃ あり ませ ん か と 、 にこりと 笑っ て 見せ た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* CP-THT-OB1 CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* CONJ じゃ PU PP-OB1 NP PP NP PRO P-ROLE N P-ROLE VB 見える P-FINAL かい P-COMP PP NP N 一心 P-ROLE VB 聞く P-CONN PU CP-THT-ADV CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *pro* __INTJP ___CP-THT CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *hearer* VB 見える P-FINAL かい P-COMP って PU INTJ そら PU PP NP PRO そこ P-ROLE PU VB 写っ VB2 てる AX じゃ VB2 あり AX ませ NEG P-FINAL P-COMP PU ADVP ADV にこりと VB 笑っ P-CONN VB2 見せ AXD PU
            [18_aozora_Natsume-1908@52,53]

        INTJ やINTJP の並列は,CONJP( 3.5 節を参照)によってなされるのではなく,単なる並置によってなされる。

    (6.98)

    あー 、 はい はい はい 、 特に ね

    CP-FINAL FRAG __INTJ あー PU ___INTJ はい ___INTJ はい ___INTJ はい PU ADVP ADV 特に P-FINAL
            [45_spoken_JM10@3,7,9,11]
    (6.99)

    ああ そうだ 、 こう やれ ば よさ そう だ な 」

    CP-FINAL IP-SUB __INTJ ああ ___INTJ そうだ PU NP-SBJ;{CONFIDENCE} *pro* IP-ADV-SCON-CND NP-SBJ;{SHERLOCK+WATSON} CONJP NP;{SHERLOCK} *speaker* NP;{WATSON} *pro* ADVP ADV こう VB やれ P-CONN ADJI よさ AX そう AX P-FINAL PUR
            [579_aozora_Doyle-1905@3,5]

    6.21.2   言い誤り(FS)

    FS は言い誤りを示し,特に発話データにおいて,繰り返しや言い直しなどが生じた場合に用いられる。

    (6.100)

    「 ひ 、 ひ 、 人殺しイ …… 」

    FRAG PUL NP __FS N PU ___FS N PU N 人殺しイ PU …… PUR
            [41_aozora_Kunieda-1925@5,10]
    (6.101)

    この 場所 ここ の アリーナ も また ギリシャ の 円形劇場 の よう に 忘我 の 状態 の ため の 場所 です

    IP-MAT __FS NP-SBJ D この N 場所 PP-SBJ NP PP NP PRO ここ P-ROLE N アリーナ P-OPTR ADVP ADV また PP NP PP NP PP NP NPR ギリシャ P-ROLE N 円形劇場 P-ROLE N よう P-ROLE NP-PRD PP NP PP NP PP NP N 忘我 P-ROLE N 状態 P-ROLE N ため P-ROLE N 場所 AX です
            [46_ted_talk_3@2]

    6.21.3   省略

    種々の省略は,会話体のテキストに(それだけに限らないのではあるが)よく見られる。 以下,これらの省略のアノテーションの仕方をまとめる。

        ゼロ代名詞,すなわち主要文法役割を果たす名詞句の省略については 1.6.4 節を参照のこと。

        NPの文法役割(主要なものであれ,そうでないものであれ)を示す助詞が省略された場合, そのようなNPには,NP-SBJ や NP-OB1 のように, 文法役割が直接タグ付けされる。

    (6.102)

    ご飯 食べ た ?

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* __NP-OB1 N ご飯 VB 食べ AXD PU
            [968_textbook_kisonihongo@5]
    (6.103)

    あれ 、 雨 降っ てる 。

    IP-MAT INTJ あれ PU __NP-SBJ N VB 降っ VB2 てる PU
            [969_textbook_kisonihongo@6]

    主要文法役割は任意文法役割に優先する。 以下の例の「あいつ」については,(PP-TPC を投射する)話題標識「は」が省略されていると考えることができる一方で, 主語 -SBJ の文法役割も果たしている。 このとき,タグ -SBJ が優先され,-TPC は付加されない。

    (6.104)

    あいつ 、 どこ 行っ た の かな 。

    CP-QUE IP-SUB __NP-SBJ;{MEN_971} PRO あいつ PU NP-LOC WPRO どこ VB 行っ AXD FN P-FINAL かな PU
            [971_textbook_kisonihongo@3]

    以下は真正な NP-TPC の例である:

    (6.105)

    ◎ 仮校舎 、 不自由 続く

    IP-MAT SYM __NP-TPC N 仮校舎 PU NP-SBJ N 不自由 VB 続く
            [50_news_KAHOKU_37@4]

        名詞句内の主要部の省略については 6.3 節を参照のこと。

        IP-ADV における主要部の省略に関する議論については 6.4 節を参照のこと。

    6.21.4   付け足し

    ある句や句の連なりが,述語クラスタの直後,あるいは文末助詞の後ろに,外置されることがある。 このとき,それらの句は,ギャップのある文を補う付け足し(afterthought)と見なされる。

        主節に対して何かしらの文法役割をもった句が外置される場合, 当該句は文本体と *ICH* を用いたインデクス付与によって関係づけられる ( 1.4 節を参照)。 すなわち,外置された句が本来あるべき場所に,インデクスを伴う*ICH*を置き, それを支配するノードのラベルとして,外置された句の主要タグと(あれば)拡張タグをともに指定し (例 (6.106) では,(PP-SBJ *ICH*-1) ), 外置された句自体に対しては、主要タグとインデクスのみを指定する (例 (6.106) では,(PP-1 神戸は))。

    (6.106)

    美しい 街 です よ 、 神戸 は 。

    CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ __*ICH*-1 NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 美しい N AX です P-FINAL PU ___PP-1 NP NPR 神戸 P-OPTR PU
            [989_textbook_kisonihongo@4,19]
    (6.107)

    来 た 、 来 た 、 バス が 。

    CP-FINAL IP-SUB PP-SBJ __*ICH*-1 IP-ADV-CONJ VB AXD PU VB AXD PU ___PP-1 NP N バス P-ROLE PU
            [990_textbook_kisonihongo@4,18]
    (6.108)

    / 生きる 、 全て を 糧 に

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *pro* PU __IP-ADV-SCON *ICH*-1 VB 生きる PU ___IP-ADV-1 PP-OB1 NP Q 全て P-ROLE PP-OB2 NP N P-ROLE
            [3_news_KAHOKU_55@7,13]

    6.21.5   縮約

    2つの形態素の間で縮約が生じる場合,当該の語形のタグ付けは,2者のうち全体の意味にとって決定的な方(典型的には2番目の要素)のタグをとる。 これにより,「てる(< ている)」,「ちゃう(< てしまう)」、「てく(< ていく)」,「とく(< ておく)」 は全て VB2 とラベル付けされる。 以下に例を挙げる。

    (6.109)

    僕 、 もう やめ ちゃう けど 、 君 は どう する の 。

    CP-QUE IP-SUB PP-SCON IP-ADV NP-SBJ;{SPEAKER_992} PRO PU ADVP ADV もう VB やめ __VB2 ちゃう P-CONN けど PU PP-SBJ NP;{HEARER_992} PRO P-OPTR ADVP-CMPL WADV どう VB する FN PU
            [992_textbook_kisonihongo@15]
    (6.110)

    ここ に 置い とく よ 。

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *speaker* NP-OB1;{SUTFF_998} *pro* PP NP;{CURRENT_POSITION_998} PRO ここ P-ROLE VB 置い __VB2 とく P-FINAL PU
            [998_textbook_kisonihongo@15]



    Chapter 7
    曖昧な語形


    7.1   はじめに

    一般的に,同形ではあるが異なる機能を持つ語を品詞ラベル,構造的位置,文法的機能の点で区別可能にする, というのが本アノテーションのポリシーである。 これは主として,助詞,コピュラ,助動詞,モーダル要素に当てはまる。


    7.2   「助詞」対「コピュラ」

    様々な機能を持つ要素にひとつの品詞を与えることは,分析が単純化される一方で,機能と意味における重要な区別を見えなくしてしまう。 基本的な機能要素に見られる多種多様な用法を選り分ける最初のステップとして, 「で」「に」「と」「の」という同一の音韻形式における助詞としての機能とコピュラとしての機能の区別を以下に示す。

    7.2.1   で

    「で」には(1)文法役割を示す助詞としての機能,(2)動詞につく接尾辞としての機能,(3)コピュラの非定形の機能がある。 (1)は NP をとって PP を投射する。 (2)は一部の子音動詞(五段動詞)の連用形に後続する。 (3)は述語名詞句に後続して IP を投射する。

        文法役割を示す助詞(P-ROLE)としての「で」には複数の用法があるが, それらの一々を品詞タグの違いとして区別することはしない。 以下の例では動作の行われる場所や機会を示している。

    (7.1)

    共通 の ルール を つくる 過程 で は 、 交渉 と 説得 が 行わ れる 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* PP NP IP-EMB NP-SBJ;{COUNTRIES+ORGANIZATIONS} *pro* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 共通 AX N ルール P-ROLE VB つくる N 過程 __P-ROLE P-OPTR PU PP-SBJ NP CONJP NP N 交渉 P-CONN NP N 説得 P-ROLE VB 行わ PASS れる PU
            [64_news_KAHOKU_33@26]
    (7.26)

    翌年 、 慶長 20 年 ( 1615 年 ) の 大坂の役 ( 夏の陣 ) 道明寺の戦い で は 後藤基次ら と 戦っ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* NP-TMP N 翌年 PU PP NP;{BATTLE_DOMYOJI} NML PP NP NPR 慶長 NUMCLP NUM 20 CL PRN PUL NP NUMCLP NUM 1615 CL PUR P-ROLE NPR 大坂の役 PRN PUL NP N 夏の陣 PUR NPR 道明寺の戦い __P-ROLE P-OPTR PP NP NPR 後藤基次ら P-ROLE VB 戦っ AXD PU
            [89_wikipedia_Datemasamune@46]
    (7.3)

    天正 12 年 ( 1584 年 ) 10 月 に 18 歳 で 家督 を 相続 し 、 伊達家 17 代 を 継承 する 。

    IP-MAT;{MASAMUNE_INHERITANCE} NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* IP-ADV-CONJ PP NP NPR 天正 NUMCLP NUM 12 CL PRN PUL NP NUMCLP NUM 1584 CL PUR NUMCLP NUM 10 CL P-ROLE PP NP NUMCLP NUM 18 CL __P-ROLE PP-OB1 NP;{DATE_FAMILY_LORD} N 家督 P-ROLE VB 相続 VB0 PU PP-OB1 NP;{DATE_FAMILY} N 伊達家 NUMCLP NUM 17 CL P-ROLE VB 継承 VB0 する PU
            [12_wikipedia_Datemasamune@39]
    (7.4)

    うん 、 後 で 返事 し て も 、 いい ?

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* INTJ うん PU PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP-TMP NP N __P-ROLE VB 返事 VB0 P-CONN P-OPTR PU ADJI いい PU
            [56_spoken_JF4@17]
    (7.5)

    その 中 の どの わざ の ため に 、 わたし を 石 で 打ち殺そ う と する の か 」 。

    CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *hearer* PP NP PP NP PP NP D その N P-ROLE WD どの N わざ P-ROLE N ため P-ROLE PU PP-OB1 NP;{JESUS} PRO わたし P-ROLE PP ___NP N __P-ROLE VB 打ち殺そ AX AX VB2 する FN P-FINAL PUR PU
            [911_bible_nt@39,36]
    (7.6)

    太郎 は 風邪 で 学校 を 休ん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{TARO_232} NPR 太郎 P-OPTR PP ___NP N 風邪 __P-ROLE PP-OB1 NP N 学校 P-ROLE VB 休ん AXD PU
            [232_textbook_kisonihongo@12,9]
    (7.7)

    取材 で 行く 西日本 は 東北 と は 食べ物 も 建造物 も 違う 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-LOC *T* NP-SBJ *speaker* PP ___NP N 取材 __P-ROLE VB 行く NPR 西日本 P-OPTR PP NP NPR 東北 P-ROLE P-OPTR NP-SBJ2 CONJP NP N 食べ物 P-CONN NP N 建造物 P-CONN VB 違う PU
            [12_news_KAHOKU_303@13,10]
    (7.8)

    この 煙突 は レンガ で 出来 て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP D この N 煙突 P-OPTR PP ___NP N レンガ __P-ROLE VB 出来 P-CONN VB2 いる PU
            [366_textbook_TANAKA@14,11]

    これらの意味の違いに対しては品詞ラベルとしての区別は行わない。 PP への拡張タグの付加による任意格役割の区別については,1.7.1 節を参照のこと。

        それに対して,接尾辞の「で」(「て」の異形態)は, 「泳ぐ」,「読む」等の語幹が有声軟口蓋あるいは鼻音で終わる動詞の音便形に後続する。 このような「で」は P-CONN (接続助詞)とラベル付けされる。

    (7.9)

    また 、 ヘプバーン は 縁起 を 担い で 自身 の ラッキーナンバー で ある 「 55 」 番 の 楽屋 を 求め た 。

    IP-MAT CONJ また PU PP-SBJ NP NPR ヘプバーン P-OPTR IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP N 縁起 P-ROLE ___VB 担い __P-CONN PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PP NP PRO 自身 P-ROLE N ラッキーナンバー AX VB2 ある NUMCLP PUL NUM 55 PUR CL AX N 楽屋 P-ROLE VB 求め AXD PU
            [175_wikipedia_Audrey_Hepburn@21,19]

        最後に,コピュラの連用形「で」は,AX とラベル付けされ,NP-PRD の後に現れ,IP-ADV を投射する。

    (7.10)

    ハリウッド黄金時代 に 活躍 し た 女優 で 、 映画界 ならびに ファッション界 の アイコン として 知ら れる 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ___IP-ADV-CONJ ___NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* PP NP NPR ハリウッド黄金時代 P-ROLE VB 活躍 VB0 AXD N 女優 __AX PU NP-LGS *arb* PP NP PP NP CONJP NP N 映画界 CONJ ならびに NP N ファッション界 P-ROLE N アイコン P-ROLE として VB 知ら PASS れる PU
            [3_wikipedia_Audrey_Hepburn@23,5,4]

    また,分析的なコピュラ (AX で) (VB2 ある) あるいは (AX で) (VB2 ござい) (AX ます) の中に現れる。

    (7.11)

    一人 は 、 W君 と いっ て 、 初対面 の 人 で ある 。

    IP-MAT PP-SBJ NP NUMCLP NUM 一人 P-OPTR PU IP-ADV-CONJ PP NP;{WKUN} NPR W君 P-ROLE VB いっ P-CONN PU NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 初対面 AX N __AX ___VB2 ある PU
            [8_aozora_Dazai-1-1940@34,36]

    コピュラ「で」と助詞「で」の区別が容易でないときがある。 以下の例のように事態を描写する際に用いられる「で」はその一例である。 このような「で」は,名詞に後続する場合 P-ROLE として分析される。

    (7.12)

    刺身 は 生 で 食べる 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* PP-OB1 NP N 刺身 P-OPTR PP ___NP N __P-ROLE VB 食べる PU
            [777_textbook_kisonihongo@14,11]

    ただし,ADJN に続く「で」は AX として分析される。

    (7.13)

    崖 を 必死 で よじ登っ た .

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N P-ROLE ADVP ___ADJN 必死 __AX VB よじ登っ AXD PU
            [3296_dict_vv-lexicon@13,11]

    さらに,IP-ADV において,そう,べき,もの,よう,わけ,ごとく,がち,みたい,そう,ところ,っぱなし,等のような,モダリティ的・アスペクト的意味を持つ形式名詞(FN),助動詞(AX),あるいはモーダル(MD)に続く「で」は AX として分析される。 このような「で」を,上記の要素を後続させる「だ」や「です」といった AX の活用形と見なしているのである。

    (7.14)

    お湯 が 煮え立っ た ところ で 、 材料 を いれる .

    IP-MAT NP-SBJ *pro* IP-ADV-SCON PP-SBJ NP N お湯 P-ROLE VB 煮え立っ AXD ___FN ところ __AX PU PP-OB1 NP N 材料 P-ROLE VB いれる PU
            [2110_dict_vv-lexicon@17,15]
    (7.15)

    至極 簡単 明瞭 な 名 だ が 、 この 名前 、 世間 に ザラ に あり そう で 、 滅多 に ない から 不思議 で ある 。

    IP-MAT PP-CONJ IP-ADV NP-SBJ;{KODO_REALNAME} *pro* ADVP ADV 至極 NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 簡単 AX * IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 明瞭 AX N AX P-CONN PU NP-SBJ *pro* PP-SCON IP-ADV NP-SBJ;{KODO_REALNAME} D この N 名前 PU IP-ADV-CONJ PP NP N 世間 P-ROLE ADVP ADJN ザラ AX VB あり ___AX そう __AX PU ADVP ADJN 滅多 AX ADJI ない P-CONN から ADJN 不思議 AX VB2 ある PU
            [9_aozora_Nomura-7-1954@59,57]
    (7.64)

    私 は 先生 の 部屋 に 行っ た が 、 入れ違っ た よう で 会え なかっ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-CONJ IP-ADV PP NP PP NP N 先生 P-ROLE N 部屋 P-ROLE VB 行っ AXD P-CONN PU IP-ADV-SCON VB 入れ違っ AXD ___MD よう __AX NP-OB1 *pro* VB 会え NEG なかっ AXD PU
            [191_dict_vv-lexicon@37,35]

    以上の「で」という音韻形式に対する扱いは多くの面で「に」「と」「の」にも当てはまる。 詳細はそれぞれ異なるが,これらの形式はすべてその構造的位置に応じてコピュラとしての機能を持つ。

    7.2.2   に

    文法役割を示す助詞「に」は,P-ROLE とラベル付けされ,必須の文法役割と任意の文法役割の両方をマークする。 必須文法役割を示す「に」は,可能の意味を持つ「できる」「難しい」,状態性の「必要だ」「無理だ」, 知覚を表す「分かる」「見える」「欲しい」等の述語の主語(-SBJ), 「似る」「勝つ」「当たる」「飽きる」等の動詞,「詳しい」「弱い」「等しい」「厳しい」等のイ形容詞,「必死だ」「反対だ」等のナ形容詞の第一目的語(OB1), 「あげる」「送る」等の三項動詞の第二目的語(-OB2), 使役動詞の被使役者(-CZZ), IP-SMC-OB1を選択する「もらう」「ほしい」等の述語の派生された目的語(-DOB1), 直接受動の論理的主語(-LGS)をマークする(詳細は2.3.3 節を参照)。

        任意文法役割の「に」は, 時間,非動作的動詞に対する空間的位置, 「行く」「着く」等の移動動詞の着点(Goal), 「借りる」「貰う」「いただく」等の動詞の起点(Source), 「捕まる」「見つかる」「教わる」「弱る」等の非対格動詞における降格された動作主(Agent), 「満ちる」「溢れる」「まみれる」等の動詞の動作主とも解される参与者をマークする。 このように「に」は様々な任意文法役割をマークするが, それらを品詞タグにより区別することはしない。

        移動の目的を表す節に用いられる「に」がある。 この場合,目的を表す節を名詞化節(IP-NMZ)とした上で,それを補部としてとり, 助詞句(PP-PRP)を投射しているものとして分析される (6.16節を参照)。

    (7.17)

    わたし は 彼 を 起し に 行く 」 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{JESUS} PRO わたし P-OPTR ___PP-PRP ___IP-NMZ PP-OB1 NP PRO P-ROLE VB 起し __P-ROLE VB 行く PUR PU
            [946_bible_nt@18,8,9]

        「に」もコピュラとして分析される場合がある。 ADJN に後続する「に」が ADVP を投射する場合,これは AX と分析される。

    (7.18)

    また 、 供養墓 が 他 の 大名 など と 同様 に 高野山奥の院 に ある 。

    IP-MAT CONJ また PU PP-SBJ NP N 供養墓 P-ROLE ADVP PP NP PP NP N P-ROLE N 大名 ___P-OPTR など __P-ROLE ADJN 同様 AX PP NP NPR 高野山奥の院 P-ROLE VB ある PU
            [242_wikipedia_Datemasamune@25,23]

    小節(IP-SMC)における「に」も AX として分析される。

    (7.19)

    私 は この 国 に 生まれ落ち た こと を 幸せ に 思う .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-DOB1 NP IP-EMB PP NP D この N P-ROLE VB 生まれ落ち AXD N こと P-ROLE IP-SMC-OB1 ___ADJN 幸せ __AX VB 思う PU
            [343_dict_vv-lexicon@30,28]
    (7.20)

    怖 そう に も 見え た 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* NP-DOB1 *pro* ___IP-SMC-OB1 ADJI AX そう __AX P-OPTR VB 見え AXD PU
            [270_aozora_Natsume-1908@11,6]

    「する」「なる」の補部となる IP-SMC に現れた「に」も同様に AX と分析される。

    (7.21)

    嗅覚 とか 味覚 を 刺激 し 、 心 を ほぐし て 豊か に し て くれる 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* IP-ADV-CONJ IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP CONJP NP N 嗅覚 P-CONN とか NP N 味覚 P-ROLE VB 刺激 VB0 PU PP-OB1 NP N P-ROLE VB ほぐし P-CONN ___NP-OB1 *pro* IP-SMC-CNT __ADJN 豊か ___AX VB P-CONN VB2 くれる PU
            [45_news_KAHOKU_303@38,35,40]
    (7.22)

    ある 日 、 オットー は 借金 の カタ として 自動車 を 回収 する 業者 = レポマン の バッド という 男 と 知り合い 、 自分 も レポマン に なる 事 を 決める 。

    IP-MAT NP-TMP D ある N PU PP-SBJ NP;{YOUTH} NPR オットー P-OPTR IP-ADV-CONJ PP-OB1 NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PRN NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP PP NP N 借金 P-ROLE N カタ P-ROLE として PP-OB1 NP N 自動車 P-ROLE VB 回収 VB0 する N 業者 SYM N レポマン AX NPR バッド P-ROLE という N P-ROLE VB 知り合い PU PP-OB1 NP IP-EMB PP-SBJ NP;{YOUTH} PRO 自分 P-OPTR ___IP-SMC-OB1 NP-PRD N レポマン __AX ___VB なる N P-ROLE VB 決める PU
            [5_wikipedia_RepoMan@84,80,86]

    「に」の場合も助詞なのかコピュラなのか決めがたい時がある。 「ご褒美に」「担保に」「しるしに」等の表現における「に」はコピュラと言えるかもしれない。 しかし,現行のアノテーションではこれらは助詞として扱われる。

    (7.23)

    メロス の 十六 の 妹 も 、 きょう は 兄 の 代り に 羊群 の 番 を し て い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{MELOS_SISTER} PP NP;{MELOS} NPR メロス P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD NUMCLP NUM 十六 AX N P-OPTR PU PP-TMP NP N きょう P-OPTR PP NP PP NP;{MELOS} N P-ROLE N 代り __P-ROLE PP-OB1 NP PP NP N 羊群 P-ROLE N P-ROLE VB P-CONN VB2 AXD PU
            [133_aozora_Dazai-2-1940@41]

    結果節も IP-SMC として分析することが可能であり,その場合は「に」はコピュラとして分析するべきである。 しかし,現行のアノテーションではこれらは助詞として扱われる。 ただし,「に」の前の要素が ADJN であれば,「に」は AX として分析される。

    (7.24)

    どう 考え 、 どう 行動 する か を 判断 する 力 、 すなわち 「 生き 抜く 力 」 を 身 に 付ける ならば 、 原発事故 の マイナス を プラス に 変え られる 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP-SCON-CND IP-ADV PP-OB1 NP IP-EMB NP-SBJ *arb* PP-OB1 CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *arb* IP-ADV-CONJ ADVP WADV どう VB 考え PU ADVP WADV どう VB 行動 VB0 する P-FINAL P-ROLE VB 判断 VB0 する N PU PRN CONJ すなわち PUL NP IP-EMB NP-SBJ *arb* VB 生き VB2 抜く N PUR P-ROLE PP NP N P-ROLE VB 付ける P-CONN ならば PU PP-OB1 NP PP NP N 原発事故 P-ROLE N マイナス __P-ROLE PP NP N プラス P-ROLE VB 変え VB2 られる PU
            [82_news_KAHOKU_55@84]

    7.2.3   と

    「と」には,助詞 --接続助詞(P-CONN),格助詞(P-ROLE),および補文助詞(P-COMP)-- としての用法とコピュラ(AX)としての用法がある。

    接続助詞(P-CONN)として,「と」は名詞を接続することができる。 等位接続の前件では「と」は CONJP の主要部となるが, 後件では「と」は上位の NP の元に置かれることに注意されたい (詳細は 3.5 節を参照)。

    (7.25)

    滝役 の 千葉治郎 は 阿部 と 内田 と で 決め た 。

    IP-MAT PP-OB1 NP PP NP N 滝役 P-ROLE NPR 千葉治郎 P-OPTR PP-SBJ NP CONJP NP NPR 阿部 P-CONN NP NPR 内田 __P-CONN P-ROLE VB 決め AXD PU
            [124_wikipedia_Kamen_Rider@25]

        格助詞(文法役割を示す)の「と」は多くの場合は共格的な意味を表す。 一部の動詞はこのような「と」を主要文法役割として要求する。

    (7.26)

    翌年 、 慶長 20 年 ( 1615 年 ) の 大坂の役 ( 夏の陣 ) 道明寺の戦い で は 後藤基次ら と 戦っ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* NP-TMP N 翌年 PU PP NP;{BATTLE_DOMYOJI} NML PP NP NPR 慶長 NUMCLP NUM 20 CL PRN PUL NP NUMCLP NUM 1615 CL PUR P-ROLE NPR 大坂の役 PRN PUL NP N 夏の陣 PUR NPR 道明寺の戦い P-ROLE P-OPTR PP NP NPR 後藤基次ら __P-ROLE VB 戦っ AXD PU
            [89_wikipedia_Datemasamune@54]
    (7.27)

    この 年 に は 『 昼下りの情事 』 に も 出演 し て おり 、 ゲーリー・クーパー や モーリス・シュヴァリエ と 共演 し た 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* PP NP D この N P-ROLE P-OPTR IP-ADV-CONJ PP NP PUL NPR 昼下りの情事 PUR P-ROLE P-OPTR VB 出演 VB0 P-CONN VB2 おり PU PP NP CONJP NP NPR ゲーリー・クーパー P-CONN NP NPR モーリス・シュヴァリエ __P-ROLE VB 共演 VB0 AXD PU
            [134_wikipedia_Audrey_Hepburn@48]

    そのほかの場合,「と」でマークされた名詞句は動詞の要求する必須項ではない。

    (7.28)

    お昼 に 、 卒業生 と 、 なんか 、 ご飯 いっしょ に 食べる ん だ けど

    FRAG PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* PP NP N お昼 P-ROLE PU PP NP N 卒業生 __P-ROLE PU ADVP ADV なんか PU NP-OB1 N ご飯 ADVP ADJN いっしょ AX VB 食べる FN AX P-CONN けど
            [47_spoken_JF4@18]

    「と」は,P-COMP(補文助詞)とラベル付けされ,思考動詞,感覚動詞,伝達動詞等の補部節をマークする。

    (7.29)

    そっか 、 ごはん 、 いっしょ に 食べ ない かなぁ と 思っ て 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* INTJ そっか PU CP-THT-OB1 CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *speaker+hearer* NP-OB1 N ごはん PU ADVP ADJN いっしょ AX VB 食べ NEG ない P-FINAL かなぁ __P-COMP ___VB 思っ P-CONN PU
            [43_spoken_JF1@29,31]

        また,P-COMP の「と」は命名動詞の項を補語(CMPL)として表示する(2.7.3 節を参照)。

    (7.30)

    日本 で は ヘップバーン と 表記 さ れる こと も 多い 。

    IP-MAT PP NP NPR 日本 P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* NP-LGS *arb* ___PP-CMPL NP NPR ヘップバーン __P-COMP VB 表記 VB0 PASS れる N こと P-OPTR ADJI 多い PU
            [2_wikipedia_Audrey_Hepburn@21,17]

    「と」はコピュラの「に」と非常によく似た位置に出現することがある。 以下の例の「と」はナ形容詞の後に現れ,全体として副詞的な表現になっている。 このような「と」は (AX と) と分析される。

    (7.31)

    しかし 、 ユダヤ人ら を 恐れ て 、 イエス の こと を 公然 と 口 に する 者 は い なかっ た 。

    IP-MAT CONJ しかし PU IP-ADV-SCON NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP N ユダヤ人ら P-ROLE VB 恐れ P-CONN PU PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP PP NP NPR イエス P-ROLE N こと P-ROLE ADVP ___ADJN 公然 __AX PP-CMPL NP N P-ROLE VB する N P-OPTR VB NEG なかっ AXD PU
            [538_bible_nt@41,39]

    ただし,普通名詞のあとの「と」は P-ROLE と分析される。

    (7.32)

    企画段階 で 紆余曲折 を 経 た 本作 は 、 放映開始 さ れ て も 順風満帆 と は 行か なかっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 企画段階 P-ROLE PP-OB1 NP N 紆余曲折 P-ROLE VB AXD N 本作 P-OPTR PU PP-SCON IP-ADV NP-LGS *pro* VB 放映開始 VB0 PASS P-CONN P-OPTR PP ___NP N 順風満帆 __P-ROLE P-OPTR VB 行か NEG なかっ AXD PU
            [81_wikipedia_Kamen_Rider@47,44]

    同様に,「と」なしで自立できる副詞(ADV)の後では, 「と」は P-ROLE と分析される。 一方で, 「と」なしで自立できないようなADV(および,ADJN)の場合については, 全体で一語として分析される(詳しくは 3.4 節参照)。

    (7.33)

    家事 一切 に 関わら ず 、 のんびり と 心 の ぜいたく を する 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* IP-ADV-CONJ PP NP N 家事 PRN NP;* Q 一切 P-ROLE VB 関わら NEG PU ADVP ___ADV のんびり __AX PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N ぜいたく P-ROLE VB する PU
            [15_news_KAHOKU_10414@24,22]
    (7.34)

    仙台 の 街 を 歩く と 、 妙 に ホッと し て しまう 。

    IP-MAT NP-SBJ *speaker* PP-SCON-CND IP-ADV PP-OB1 NP PP NP NPR 仙台 P-ROLE N P-ROLE VB 歩く P-CONN PU ADVP ADJN AX __ADVP-CMPL ADV ホッと VB P-CONN VB2 しまう PU
            [25_news_KAHOKU_102@29]

    「と」は「する」や「なる」の補部となった IP-SMC の中にも現れる。

    (7.35)

    また 、 この 頃 ヘプバーン は 、 アンネ・フランク の 『 アンネの日記 』 を 題材 と し た 舞台作品 と 映画作品 の 両方 へ の 出演依頼 を 受け た 。

    IP-MAT CONJ また PU NP-TMP D この N PP-SBJ NP NPR ヘプバーン P-OPTR PU PP-OB1 NP PP NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP PP NP NPR アンネ・フランク P-ROLE PUL NPR アンネの日記 PUR P-ROLE ___IP-SMC-CNT NP-PRD N 題材 __AX ___VB AX NML CONJP NP N 舞台作品 P-CONN NP N 映画作品 P-ROLE Q 両方 P-ROLE P-ROLE N 出演依頼 P-ROLE VB 受け AXD PU
            [127_wikipedia_Audrey_Hepburn@48,44,50]
    (7.36)

    礼 に 過ぐれ ば 諂(へつらい) と なる 。

    IP-MAT NP-SBJ *arb* IP-ADV-SCON-CND PP NP N P-ROLE VB 過ぐれ P-CONN ___IP-SMC-OB1 NP-PRD N 諂(へつらい) __AX ___VB なる PU
            [134_wikipedia_Datemasamune@19,15,21]

        「と」と ADJN あるいは NP-PRD の間にコピュラを補って意味に変化がない場合, このような「と」は CP-THT を投射する補文標識(P-COMP)として分析されることに注意。

    (7.37)

    いま 心配 な の は 、 さまざま な 無償 の 支援 を 当然 と 思う 雰囲気 が 生まれる こと だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *pro* NP-TMP N いま ADJN 心配 AX N P-OPTR PU NP-PRD IP-EMB PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ *pro* PP-DOB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN さまざま AX IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 無償 AX N 支援 P-ROLE ___CP-THT-OB1 IP-SMC ADJN 当然 __P-COMP VB 思う N 雰囲気 P-ROLE VB 生まれる N こと AX PU
            [83_news_KAHOKU_55@53,49]

    また,「と」は接続助詞(P-CONN)として IP-ADV に後続する。

    (7.38)

    太平 の 世 に なる と 美食 を 極める こと に 目的 を 変え て 料理研究 を 続け た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* PP-SCON-CND ___IP-ADV NP-SBJ *exp* IP-SMC-OB1 NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 太平 AX N AX VB なる __P-CONN IP-ADV-CONJ PP NP IP-EMB PP-OB1 NP N 美食 P-ROLE VB 極める N こと P-ROLE PP-OB1 NP N 目的 P-ROLE VB 変え P-CONN PP-OB1 NP N 料理研究 P-ROLE VB 続け AXD PU
            [208_wikipedia_Datemasamune@23,5]

    7.2.4   の

    「の」には,格助詞(P-ROLE),形式名詞(N/FN),およびコピュラ(AX)としての用法がある。

        「の」は文法役割を示す格助詞(P-ROLE)としては,名詞句に付いて,その名詞句が後続する名詞句の補部であることをマークする。 ふたつの名詞句は典型的には,所有者/所有物,全体/部分,集合/その一員の関係にある。

    (7.39)

    私 の ゼミ の 卒業生 が 集まっ て 食事会 を する ん です けどもー

    FRAG PP-SCON IP-ADV PP-SBJ NP PP NP PP NP PRO __P-ROLE N ゼミ ___P-ROLE N 卒業生 P-ROLE IP-ADV-CONJ VB 集まっ P-CONN PP-OB1 NP N 食事会 P-ROLE VB する FN AX です P-CONN けどもー
            [15_spoken_JF1@12,16]

    「の」はまた,名詞修飾節の主語をマークする。

    (7.40)

    花子 の 読ん だ 本

    FRAG NP IP-REL NP-OB1 *T* PP-SBJ ___NP NPR 花子 __P-ROLE VB 読ん AXD N
            [32_misc_EXAMPLE@10,7]
    (7.41)

    隙 の ない 印象 の 政宗 で ある が 、 酒 に は 滅法 弱く 、 酔っ て 失敗 し た 逸話 が いく つ か 残さ れ て いる 。

    IP-MAT IP-ADV-CONJ NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* PP-CONJ IP-ADV NP-PRD IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD IP-EMB PP-SBJ ___NP N __P-ROLE ADJI ない N 印象 AX NPR 政宗 AX VB2 ある P-CONN PU PP NP N P-ROLE P-OPTR ADVP ADV 滅法 ADJI 弱く PU NP-LGS * PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* IP-ADV-CONJ VB 酔っ P-CONN VB 失敗 VB0 AXD N 逸話 P-ROLE NP;*SBJ* NUMCLP WNUM いく CL P-OPTR VB 残さ PASS P-CONN VB2 いる PU
            [218_wikipedia_Datemasamune@17,14]

    「の」には伝統的な日本語学で形式名詞とされる用法があり (本アノテーションでの品詞タグは N), 節を名詞化する機能を持つ。 このような「の」は擬似分裂文で典型的に用いられる。

    (7.42)

    舞台 で イライザ を 演じ て い た の は ジュリー・アンドリュース だっ た が 、 アンドリュース に は 映画出演 の 話 は 来 なかっ た 。

    IP-MAT PP-CONJ IP-ADV PP-SBJ ___NP IP-REL NP-SBJ *T* PP NP N 舞台 P-ROLE PP-OB1 NP NPR イライザ P-ROLE VB 演じ P-CONN VB2 AXD __N P-OPTR NP-PRD NPR ジュリー・アンドリュース AX だっ AXD P-CONN PU PP NP NPR アンドリュース P-ROLE P-OPTR PP-SBJ NP PP NP N 映画出演 P-ROLE N P-OPTR VB NEG なかっ AXD PU
            [181_wikipedia_Audrey_Hepburn@29,5]

    また,「形式名詞」の「の」は事実や動作の名詞化にも用いられる。

    (7.43)

    「 あなた が 裸 で ある の を 、 だれ が 知らせ た の か 。

    CP-QUE IP-SUB PUL NP-OB2 *hearer* PP-OB1 ___NP IP-EMB PP-SBJ NP;{MAN} PRO あなた P-ROLE NP-PRD N AX VB2 ある __N P-ROLE PU PP-SBJ NP WPRO だれ P-ROLE VB 知らせ AXD FN P-FINAL PU
            [124_bible_ot@23,8]

        形式名詞としての「の」は定形の動詞とコピュラの間の,直接 IP に支配される位置に現れることがある(つまり,「のだ文」を構成する要素として現れる)。 このときの「の」は,特別に,N ではなく,FN とラベル付けされる。

    (7.44)

    分から ない の です がー

    FRAG PP-SCON ___IP-ADV NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* VB 分から NEG ない __FN AX です P-CONN がー
            [12_spoken_JF2@12,3]

        「の」は名詞句に後続し,コピュラの連体形として機能することもある。

    (7.45)

    もし よかっ たら 、 また 別 の 機会 が あれ ば ・・・ 。

    IP-MAT NP-SBJ *hearer* IP-ADV-SCON-CND ADVP ADV もし ADJI よかっ P-CONN たら PU IP-ADV-SCON-CND ADVP ADV また PP-SBJ ___NP IP-REL NP-SBJ *T* ADJN __AX N 機会 P-ROLE VB あれ P-CONN PU ・・・ PU
            [20_spoken_JF1@25,19]
    (7.46)

    この 行為 は 秀吉 の 派手好み の 性格 を 知っ て の 行い と 伝え られる 。

    IP-MAT NP-LGS *arb* CP-THT-SBJ IP-SUB PP-SBJ NP;{MASAMUNE_TEE} D この N 行為 P-OPTR NP-PRD PP IP-ADV NP-SBJ;{MASAMUNE} *pro* PP-OB1 NP PP NP;{HIDEYOSHI} NPR 秀吉 P-ROLE ___IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 派手好み __AX N 性格 P-ROLE VB 知っ P-CONN P-ROLE N 行い AX * P-COMP VB 伝え PASS られる PU
            [40_wikipedia_Datemasamune@33,27]
    (7.47)

    岩手 が 多い 傾向 は 冬期間 を 除き 、 震災発生 から 1 年 半 後 の 12 年 9 月 まで 続い た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-EMB NP-SBJ2 *pro* PP-SBJ NP NPR 岩手 P-ROLE ADJI 多い N 傾向 P-OPTR IP-ADV-SCON NP-SBJ *exp* PP-OB1 NP N 冬期間 P-ROLE VB 除き PU PP ___NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PP NP N 震災発生 P-ROLE から NML NUMCLP NUM CL NUMCLP NUM N __AX NUMCLP NUM 12 CL NUMCLP NUM CL P-ROLE まで VB 続い AXD PU
            [14_news_KAHOKU_65@55,33]

    助詞の「の」とコピュラの「の」の区別については,4.23 節を参照されたい。


    7.3   れる・られる

    動詞の「れる・られる」形は,母音語幹(上一段・下一段型)動詞および「来る」の未然形に「られる」を、子音語幹(五段型)動詞および「する」の未然形に「れる」を付加することで作られる。 動詞「れる・られる」形は,直接受動,間接受動,尊敬のほかに自発と可能の用法も持つため,5通りに曖昧である。 以下ではそれらの用法の違いとアノテーション方法について説明する。

    7.3.1   直接受動

    多くの直接受動文では, -SBJ が述語(VB)の対象の役割をもち(能動文の -OB1 あるいは OB2 に対応する), LGS が主体の役割をもつ(能動文の -SBJ に対応する)。 つまり,二項述語の場合、「A が B に VB1(ら)れる」という文が真であれば, 「B が A を VB1」という文も真となる。

        本アノテーション方式では,この用法の「れる・られる」は PASS とラベル付けされ, 「NP に/から/によって」は -LGS(論理的主語)とラベル付けされる。

    (7.48)

    太郎 は 朝早く 、 友人 に 電話 で 起こさ れ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{TARO_415} NPR 太郎 P-OPTR NP-TMP N 朝早く PU ___PP-LGS NP N 友人 P-ROLE PP NP N 電話 P-ROLE VB 起こさ __PASS AXD PU
            [415_textbook_kisonihongo@27,13]

    6.9 節における議論も参照。

    7.3.2   間接受動

    間接受動は項の数を増やす構文であり,行為の影響を受ける者が -SBJ として付け加えられる。 同時に,埋め込まれた述部の主語は -LGS に降格する。 埋め込まれた述部のその他の項はその位置と文法役割を保持され, 助動詞「れる・られる」は PASS2 というタグを与えられる。

    (7.49)

    太郎 が 雨 に 降ら れ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 太郎 P-ROLE ___PP-LGS NP N P-ROLE VB 降ら __PASS2 AXD PU
            [1824_misc_JSeM_beta_150530@16,2,8]
    (7.50)

    鈴木さん は 昨夜 、 一 晩中 子供 に 泣か れ て 困っ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{SUZUKI_407} NPR 鈴木さん P-OPTR IP-ADV-SCON NP-TMP N 昨夜 PU NP-MSR NUMCLP NUM CL 晩中 ___PP-LGS NP N 子供 P-ROLE VB 泣か __PASS2 P-CONN VB 困っ AXD PU
            [407_textbook_kisonihongo@28,2,20]

    所有者が -SBJ となり,所有物が OB1 となるような受動文(持ち主の受身)を直接受動の一種と見なす立場がある。 しかし,そのような分析によるほとんどの統語論上の議論には反証がある。 本アノテーションでは,「持ち主の受け身」は間接受動として扱われる。

    (7.51)

    太郎 が 泥棒 に 財布 を 盗ま れ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{PERSON} NPR 太郎 P-ROLE PP-LGS NP N 泥棒 P-ROLE ___PP-OB1 NP N 財布 P-ROLE VB 盗ま __PASS2 AXD PU
            [1812_misc_JSeM_beta_150530@22,2,14]
    (7.52)

    そう で ない もの は 塵塚 に 捨て られ 、 存在 を さえ 否定 さ れ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP-PRD ADV そう AX NEG ない N もの P-OPTR NP-LGS *pro* IP-ADV-CONJ PP NP N 塵塚 P-ROLE VB 捨て PASS られ PU ___PP-OB1 NP N 存在 P-ROLE P-OPTR さえ VB 否定 VB0 __PASS2 AXD PU
            [141_aozora_Terada-1921@45,33,2]

    つまり,-SBJ が被害を被るか否かということが,間接受動と判断する基準になるわけではない。 最も重要なのは,(「れる・られる」の付かない元の能動構文と比べて)項が増えているかということである。 助詞「を」をとった OB1 があるかどうかという点も判断基準とはならない。 「れる・られる」の付かない動詞が三項動詞であり, SBJ が元の能動構文における OB2 に対応する場合は,助詞「を」をとった OB1 があるとしても,直接受動である。

    7.3.3   自発

    「れる・られる」の自発用法で主動詞となるのは,知覚,思考や感情を表すものに限られる。 この用法の「れる・られる」は VB2 とラベル付けされる。

        知覚や思考,感情の経験者を表す -SBJ(「に」「は」あるいは「には」によってマークされる)は元の動詞の論理的主語である。 元の動詞の内項(OB1 あるいは DOB1)は「が」によってマークされるが,これは OB1 あるいは DOB1 のままと分析する。 助動詞「れる・られる」のタグは VB2 とする。

    (7.53)

    そういった 未来 が 予想 さ れ ます

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* ___PP-OB1 NP D そういった N 未来 P-ROLE VB 予想 VB0 __VB2 AX ます
            [59_ted_talk_7@16,2,4]
    (7.54)

    私 に は その 話 が 不思議 に 思わ れ た 。

    IP-MAT ___PP-SBJ NP;{SPEAKER_373} PRO P-ROLE P-OPTR ___PP-DOB1 NP;{STORY_373} D その N P-ROLE IP-SMC-OB1 ADJN 不思議 AX VB 思わ __VB2 AXD PU
            [373_textbook_kisonihongo@25,2,10]
    (7.55)

    そういう 事 も 今 に なっ て 考え て 見る と 、 甚だ 奇怪 に 感じ られる の で ある 。

    IP-MAT ___NP-SBJ *speaker* ___PP-DOB1 NP D そういう N P-OPTR PP-SCON IP-ADV NP-SBJ *speaker* NP-OB1 *pro* IP-ADV-SCON NP-SBJ *exp* IP-SMC-OB1 NP-PRD N AX VB なっ P-CONN VB 考え P-CONN VB2 見る P-CONN PU IP-SMC-OB1 ADVP ADV 甚だ ADJN 奇怪 AX VB 感じ __VB2 られる FN AX VB2 ある PU
            [58_aozora_Edogawa-1929@51,2,4]

        また,ここで取り上げたものの他に,自発または類似の意味を表す以下のような動詞が存在する。 いくつかは子音語幹(五段活用型動詞)から派生されたものであり,いくつかは自他対における非対格動詞である。

    これらは独立した動詞(VB)としてラベル付けされる。

    7.3.4   可能

    母音語幹(上一段・下一段動詞)と不規則動詞「来る」に「られる」を加えて作られる可能形,例えば「見られる」「食べられる」「来られる」は,直接受動,間接受動,自発,尊敬の形と同じである。 母音語幹には「られる」ではなく「れる」を加えた「見れる」「食べれる」「来れる」という口語的な形もある。 このような「られる」「れる」は VB2 とラベル付けされる。

        子音動詞(五段動詞)の場合,「走れる」のように,可能形は語幹に e を付けて作られるが, このような可能形は全体としてひとつの VB として分析される。

        「できる」は動作名詞に続く場合,VB0 とラベル付けされる。 一般的に,動詞「する」の可能形は補充法による「できる」である。

    (7.56)

    えっとー 、 そういった 感じ で も 参加 できる ん です かー ?

    CP-FINAL IP-SUB NP-SBJ *speaker* INTJ えっとー PU PP NP D そういった N 感じ P-ROLE P-OPTR VB 参加 __VB0 できる FN AX です P-FINAL かー PU
            [14_spoken_JF2@21]

        OB1 が助詞「を」をとる二項動詞の可能形では,必須項に対する助詞のマーキングのパターンは次の3つのうちのいずれかになる。

    (7.57)

    むしろ 、 自分 が これ まで 実際 に この かぼそい 脚 で 身体 を ひきずっ て こ られ た こと が 不自然 に 思わ れ た 。

    IP-MAT NP-SBJ;{GREGOR} *pro* ADVP ADV むしろ PU PP-DOB1 NP IP-EMB ___PP-SBJ NP;{GREGOR} PRO 自分 P-ROLE PP-MSR NP PRO これ P-ROLE まで PP ADVP ADV 実際 P-ROLE PP NP D この IP-REL NP-SBJ *T* ADJI かぼそい N P-ROLE ___PP-OB1 NP N 身体 P-ROLE VB ひきずっ P-CONN ___VB2 __VB2 られ AXD N こと P-ROLE IP-SMC-OB1 ADJN 不自然 AX VB 思わ VB2 AXD PU
            [1121_aozora_Harada-1960@55,53,12,43]
    (7.58)

    どうして こんな 妹 が かせぐ こと が できる だろう か 。

    CP-QUE IP-SUB ADVP WADV どうして ___PP-SBJ NP;{GRETE} D こんな N P-ROLE ___PP-OB1 NP IP-EMB NP-OB1 *pro* VB かせぐ N こと P-ROLE __VB できる MD だろう P-FINAL PU
            [609_aozora_Harada-1960@25,6,14]
    (7.59)

    では 私たち に 何 が できる の でしょう か ?

    CP-QUE IP-SUB CONJ では ___PP-SBJ NP PRO 私たち P-ROLE ___PP-OB1 NP WPRO P-ROLE __VB できる FN MD でしょう P-FINAL PU
            [21_ted_talk_9@17,5,11]

    可能形を述語とする構文における主語の扱いは少々複雑である。 典型的な主語は生物,感覚を持つもの,人間であり, 例えば「一回目で自転車にうまく乗れないのは誰だって一緒だ」のような例では,主語を(NP-SBJ *arb*) とアノテーションすることが極めて自然である。 また,(7.60) のように,主語を文脈から補うことができる場合もある。

    (7.60)

    この 山 が 登れ ない 。

    IP-MAT ___NP-SBJ;{MAN_36} *pro* ___PP-OB1 NP;{MOUNTAIN_36} D この N P-ROLE __VB 登れ NEG ない PU
            [36_misc_EXAMPLE@12,2,4]

    7.3.5   尊敬

    尊敬用法の「れる・られる」は VB2 とラベル付けされる。 尊敬形を述語とする文では,元の動詞の必須文法役割とそのラベルが保持される。

    (7.61)

    鈴木先生 は その 問題 を 詳しく 調べ られ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{SUZUKI_1302} NPR 鈴木先生 P-OPTR PP-OB1 NP;{PROBLEM_1302} D その N 問題 P-ROLE ADVP ADJI 詳しく VB 調べ __VB2 られ AXD PU
            [1302_textbook_kisonihongo@21]

    「れる・られる」からの派生ではない尊敬形については,4.6節を参照。


    7.4   よう

    「よう」に対するラベル付けは次の3つに大別される。

        以下では、MD あるいは N とラベル付けされる「よう」のアノテーションについて説明する。

    7.4.1   証拠性を表す「よう」

    動詞やイ形容詞の非過去形・過去形,「ナ形容詞の語幹+な/だった」,「名詞+だった」に接続する証拠性(evidentiality),つまり,‘It seems that...’ の意味を持つ「よう(だ)」の「よう」は MD とラベル付けされる。

    (7.62)

    この 事実 から 判断 する と 、 あなた の 見方 は 正しく ない よう だ 。

    IP-MAT PP-SCON-CND IP-ADV NP-SBJ;{MAN_221} *pro* NP-OB1;{CONCLUSION_221} *pro* PP NP D この N 事実 P-ROLE から VB 判断 VB0 する P-CONN PU PP-SBJ NP PP NP;{HEARER_221} PRO あなた P-ROLE N 見方 P-OPTR ___ADJI 正しく NEG ない __MD よう ___AX PU
            [221_textbook_kisonihongo@40,36,42]

        本コーパスでは証拠的用法の「よう」は後述の直喩的用法の「よう」と区別されるが, 「どうやら」「どうも」のような推量に関する副詞句を用いて前者を検出することができる: もしそのような副詞句が節全体の意味を大きく変えることなく挿入することができるならば, 問題の「ようだ」は証拠的である。

    (7.63)

    どう も 太郎 は この こと を 知っ て いる よう だ 。

    IP-MAT ___ADVP WADV どう P-OPTR PP-SBJ NP;{TARO_119} NPR 太郎 P-OPTR PP-OB1 NP;{FACT_119} D この N こと P-ROLE VB 知っ P-CONN VB2 いる __MD よう ___AX PU
            [119_textbook_kisonihongo@27,2,29]

        等位節における非終結節に現れた「よう(で)」が証拠性の用法で使われることもある(この場合の「で」はコピュラの連用形である)。

    (7.64)

    私 は 先生 の 部屋 に 行っ た が 、 入れ違っ た よう で 会え なかっ た .

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR PP-CONJ IP-ADV PP NP PP NP N 先生 P-ROLE N 部屋 P-ROLE VB 行っ AXD P-CONN PU IP-ADV-SCON VB 入れ違っ AXD __MD よう ___AX NP-OB1 *pro* VB 会え NEG なかっ AXD PU
            [191_dict_vv-lexicon@35,37]

    7.4.2   直喩的な「よう」

    直喩的な表現の「よう(だ)」の場合,「よう」は埋め込み節(IP-EMB)をとる N として扱う。 「まるで」「あたかも」のような副詞句は「ようだ」の直喩的用法を示す典型的な語である (これらの副詞句がコピュラと同じ節内に置かれることに注意。 この分析は,これらの副詞が「よう」を欠いたコピュラとも共起することから支持される)。

    (7.65)

    頬冠り に 尻端折り 、 草履 は 懐中 へ 忍ばせ た もの か 、 そこ だけ ピクリ と 脹れ て いる の が 蛇 が 蛙 を 呑ん だ よう だ 。

    IP-MAT NP-ADV CONJP NP N 頬冠り P-CONN NP N 尻端折り PU PP-SBJ NP IP-EMB CP-QUE-ADV IP-SUB NP-SBJ;{TOBISAWA_JINNAI} *pro* PP-OB1 NP N 草履 P-OPTR PP NP;{TOBISAWA_JINNAI_BOSOM} PP NP;{TOBISAWA_JINNAI} *pro* P-ROLE *の* N 懐中 P-ROLE VB 忍ばせ AXD FN もの AX * P-FINAL PU PP-SBJ NP;{TOBISAWA_JINNAI_BOSOM} PRO そこ P-OPTR だけ ADVP ADV ピクリ AX VB 脹れ P-CONN VB2 いる N P-ROLE NP-PRD ___IP-EMB PP-SBJ NP N P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB 呑ん AXD __N よう AX PU
            [60_aozora_Kunieda-1925@89,72]
    (7.66)

    まるで 酔っ て いる よう だ 。

    IP-MAT NP-SBJ *pro* ADVP ADV まるで NP-PRD ___IP-EMB VB 酔っ P-CONN VB2 いる __N よう AX PU
            [537_textbook_TANAKA@15,8]

        IP-EMB を補部にとる「よう(な)」の場合も,「よう」を N とする。

    (7.67)

    あいつ は 俺 に 感謝 する どころか 、 おれ の 顔 に 泥 を ぬる よう な こと ばかり し て くれる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO あいつ P-OPTR PP-SCON IP-ADV PP-OB1 NP;{SPEAKER_1197} PRO P-ROLE VB 感謝 VB0 する P-CONN どころか PU PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD ___IP-EMB PP NP PP NP;{SPEAKER_1197} PRO おれ P-ROLE N P-ROLE PP-OB1 NP N P-ROLE VB ぬる __N よう ___AX N こと P-OPTR ばかり VB P-CONN VB2 くれる PU
            [1197_textbook_kisonihongo@51,30,53]

        知覚動詞の補部となる場合,「ように」の「よう」は N, 「に」は IP-SMC-SBJ あるいは IP-SMC-OB1 を投射する AX とする。

    (7.68)

    あたかも 日本 の 製造業 全体 の 競争力 は 強い か の よう に 思わ れ て き た 。

    IP-MAT NP-LGS *pro* ADVP-1 ADV あたかも PP-DSBJ NP;{COMPETITIVENESS} PP NP PP NP NPR 日本 P-ROLE N 製造業 PRN NP;* Q 全体 P-ROLE N 競争力 ___P-OPTR IP-SMC-SBJ ADVP *ICH*-1 NP-PRD PP CP-QUE IP-SMC NP-SBJ;{COMPETITIVENESS} *pro* ADJI 強い P-FINAL __P-ROLE ___N よう AX VB 思わ PASS P-CONN VB2 AXD PU
            [172_textbook_djg_advanced@42,44,27]
    (7.69)

    部屋 の 闇 の 中 で 僕 は 今 また 麻痺 し た 人 の 重たい 灰色 の 顔 を 見 た よう に 思っ た 。

    IP-MAT PP NP PP NP PP NP N 部屋 P-ROLE N P-ROLE N P-ROLE PP-SBJ NP;{SPEAKER} PRO P-OPTR ___IP-SMC-OB1 NP-PRD IP-EMB NP-TMP N ADVP ADV また PP-OB1 NP;{VISAGE} PP NP;{FLYNN} IP-REL NP-SBJ *T* VB 麻痺 VB0 AX N P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJI 重たい IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD N 灰色 AX N P-ROLE VB AXD __N よう ___AX VB 思っ AXD PU
            [65_aozora_Joyce-1914@73,26,75]

    さらに,「ように」によって補部がマークされる「振る舞う」のような動詞も存在する。 知覚動詞とこれらの動詞の共通点は, 直喩を示唆する副詞「まるで」「あたかも」が「ように」を修飾できることである。 したがって,ここでも同様のアノテーションが適切である。 これらの副詞による修飾を許すような「ようにする」「ようになる」の用法もまた, 同じようにアノテートされるべきである。

    (7.70)

    彼 は あたかも 責任者 の よう に 振る舞っ て いる 。

    IP-MAT PP-SBJ NP PRO P-OPTR IP-ADV-SCON ___ADVP ADV あたかも NP-PRD PP NP N 責任者 P-ROLE __N よう ___AX ___VB 振る舞っ P-CONN VB2 いる PU
            [16_textbook_djg_advanced@19,9,21,23]
    (7.71)

    背中 が 棒 の よう に なっ た 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N 背中 P-ROLE PP NP PP NP N P-ROLE __N よう ___P-ROLE ___VB なっ AXD PU
            [134_aozora_Natsume-1908@16,18,20]

    また,「ように」によって導かれ,かつ「まるで」「あたかも」の挿入が可能な節が, 動詞の項としてではなく,動詞の様態を修飾したり,文全体の表す状況を修飾したりするために用いられることもある。 この際は「よう」は N, 「に」は IP-ADV-SCON を作る AX とする。 ここでいう「様態の修飾」は,上述のそれとは異なる用法であることに注意。 あくまで「まるで」「あたかも」による挿入可能性がこの用法の判断基準である。

    (7.72)

    リニアモーターカー は あたかも 氷 の 上 を すべる か の よう に 走る 。

    IP-MAT PP-SBJ NP N リニアモーターカー P-OPTR ___IP-ADV-SCON ___ADVP ADV あたかも NP-PRD PP CP-QUE IP-SUB NP-SBJ *pro* PP-OB1 NP PP NP N P-ROLE N P-ROLE VB すべる P-FINAL P-ROLE __N よう ___AX VB 走る PU
            [17_textbook_djg_advanced@36,9,8,38]
    (7.73)

    ザムザ夫人 と グレーテ と は また 書き つづけ よう と する か の よう に 手紙 に かがみこん だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP CONJP NP;{MOTHER} NPR ザムザ夫人 P-CONN NP;{GRETE} NPR グレーテ P-CONN P-OPTR ___IP-ADV-SCON NP-PRD PP CP-QUE IP-SUB NP-SBJ;{MOTHER+GRETE} *pro* NP-OB1;{NOTIFICATION} *pro* ADVP ADV また VB 書き VB2 つづけ AX よう AX VB2 する P-FINAL P-ROLE __N よう ___AX PP NP;{NOTIFICATION} N 手紙 P-ROLE VB かがみこん AXD PU
            [1209_aozora_Harada-1960@43,45,17]

    IP-SMC分析の帰結として,「よう」の埋め込むIP-EMBと, 「に」によって導かれるIP-SMCという2つの節が存在することになるが, これにより印象を与えるものと(IP-SMCのコントローラー), IP-EMBの主語が必ずしも一致しないケースを捉えることが可能となる。 例えば以下の文は直感的に「丸善」(IP-SMCのコントローラー)についての印象を述べている一方で, その印象の内実は「[丸善ではなく]話者(IP-EMBの主語)がやすやすと入れる」ということにある。

    (7.74)

    平常 あんな に 避け て い た 丸善 が その 時 の 私 に は やすやす と 入れる よう に 思え た 。

    IP-MAT PP-DOB1 NP IP-REL NP-OB1 *T* NP-SBJ *speaker* ADVP ADV 平常 ADVP ADJN あんな AX VB 避け P-CONN VB2 AXD NPR 丸善 P-ROLE PP-SBJ NP PP NP D その N P-ROLE PRO P-ROLE P-OPTR ___IP-SMC-OB1 NP-PRD ___IP-EMB NP-SBJ *speaker* ADVP ADV やすやす AX VB 入れる __N よう ___AX VB 思え AXD PU
            [98_aozora_Kajii-1925@57,59,45,47]

    しかしこのことは同時に,IP-SMCのコントローラーが何であるかについて常に気を配らなければならないことを意味する。 例えば以下の文においてはそれはあまり明確でない (matrixの「私には」がコントローラーでないことは明らか)。 この例ではコントローラーとして*pro*をあてているが, 特定の先行詞があるわけでもなさそうなので, *exp*を用いるのが良いかもしれない。 ただし,NP-OB1が*exp*を支配している既存の例はない。

    (7.75)

    しかし 、 私 に は 、 庶民 の ごく 素朴 な 想像力 において は 、 神道 の 原始的 な 概念 と 、 仏教 の 教え で ある 魂 の 裁き という はるか に 明白 な 教義 と の 間 に は 、 真 に 合致 する もの は 明らか に ない よう に 思える の で ある 。

    IP-MAT CONJ しかし PU PP-SBJ NP PRO P-ROLE P-OPTR PU PP NP PP NP N 庶民 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADV ごく ADJN 素朴 AX N 想像力 P-ROLE において P-OPTR PU PP NP PP NP CONJP NP PP NP N 神道 P-ROLE IP-REL NP-SBJ *T* ADJN 原始的 AX N 概念 P-CONN PU NP PP NP PP NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD PP NP N 仏教 P-ROLE N 教え AX VB2 ある N P-ROLE N 裁き P-ROLE という IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN はるか AX ADJN 明白 AX N 教義 P-CONN P-ROLE N P-ROLE P-OPTR PU PP-DOB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* ADVP ADJN AX VB 合致 VB0 する N もの P-OPTR ___IP-SMC-OB1 NP-PRD IP-EMB ADVP ADJN 明らか AX ADJI ない __N よう ___AX VB 思える FN AX VB2 ある PU
            [216_aozora_Hayashida-2015@150,152,140]
    (7.76)
    私はこのプロジェクトのうちの誰かが必要なように思う(が,このプロジェクトのメンバーであれば誰でも良いとも思う)。 (intended scope: 思う > 必要 > 誰か)
    (7.77)
    社会保険労務士を必要と思ったきっかけは何ですか? (plausible scope: 必要 > 社会保険労務士)

    7.4.2   「NP+の」に続く「よう(だ)」

    「NP+の」に続く「よう(だ)」は,それが証拠性の「よう(だ)」であっても直喩の「よう(だ)」であっても,常に N とラベル付けされる。

    (7.78)

    太郎 は まだ 子供 の よう だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{TARO_62} NPR 太郎 P-OPTR ADVP ADV まだ NP-PRD PP ___NP N 子供 ___P-ROLE __N よう ___AX PU
            [62_textbook_kisonihongo@18,20,16,13]
    (7.79)

    この 絵 は 写実的 で 、 写真 の よう だ 。

    IP-MAT PP-SBJ NP;{PICTURE_676} D この N P-OPTR IP-ADV-CONJ ADJN 写実的 AX PU NP-PRD PP ___NP N 写真 ___P-ROLE __N よう ___AX PU
            [676_textbook_kisonihongo@24,26,19,22]

        「この・その・あの・どの」のような限定詞に続いた「よう(だ)」についても同様である。

    (7.80)

    この よう な こと を 知っ て いる 人 は 、 もはや い ない 。

    IP-MAT PP-SBJ NP IP-REL NP-SBJ *T* PP-OB1 NP IP-REL NP-SBJ *T* NP-PRD;{FACT_111} ___D この __N よう ___AX N こと P-ROLE VB 知っ P-CONN VB2 いる N P-OPTR PU ADVP ADV もはや VB NEG ない PU
            [111_textbook_kisonihongo@15,13,17]